旅限無(りょげむ)

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北京五輪の内と外 その四拾四

2008-03-20 18:34:51 | チベットもの
ロイター通信によると、アバ県では、チベット人約200人が警察署や店を襲撃、店や警察車両、トラックに放火、警察官数人も大けがを負った。デモ隊らは火炎瓶や石を投げつけ、これに対し、100人を超える武装警察部隊らは催涙弾などで鎮圧、5人を逮捕したと伝えられる。同団体などによると、甘粛省夏河県でも15日、チベット寺院やその周辺で数百人規模の抗議行動が発生、同じように治安当局は催涙弾などで解散させた。

■前述した通り四川省アバ県には元気なお坊さん、優秀なお坊さんがたくさんおられるので、ラサ市よりも早く事件が起こっていた可能性さえあります。現地を訪ねた印象から推測すると、物騒な状況になると完全な少数派になってしまう警察官は心底恐怖したはずです。県政府や公安警察が置かれている町中でさえもチベット人が圧倒的に多く、町の周囲は大きな寺院に取り囲まれているのですから、鎮圧する側とされる側とが入れ替わる可能性さえありそうです。


チベット自治区のラサは16日も引き続き武装警察部隊が市内の交差点や寺院など要所を銃を手に警戒し、封鎖区域は昨日より拡大しているようだ。ラサ在住のビジネスマンはフランス通信(AFP)に対し、「町は死んだように静まりかえっている。わずかに子供や人々が出歩きはじめたくらいだ」と話した。中国政府は現在、外国人のチベット自治区入りを事実上制限、ラサでは市民も外出できない状況が続いている。外部から電話をかけても「故障」との理由で電話回線が切られる場合があるなど、情報の統制は続いている。

■戒厳令下に置かれてしまったラサ市内の現状がよく分かる情報です。電話の「故障」は傍受能力の限界を越えているか、予め警戒リストに掲載されていた回線が切断されてるのでしょうが、何とも芸の無い伝統墨守の体制ですなあ。こんな事をやっている国が近代五輪大会など開催できるわけはないのですが……。


ラサ在住で比較的正確に情報を知る立場にあるチベット人女性が、インターネットのチャット形式を使って情報を提供してきた。……抗議活動はチベット第2の都市シガツェなどにも拡大。5人の回族を除くとすべてチベット人市民と僧侶らだという。「ラサの街は武装警官隊であふれている。私たちは大丈夫だが、バルコ(ジョカン寺近くの土産物街)エリアの人たちは外に出られず食料が不足している」また、僧侶の抗議活動の目的について「中国政府は漢族・回族のラサ移民計画を進めているが、僧侶らはこれをやめるように要求していた」と説明。ダライ・ラマ独立分子の策動だとの中国当局の説明は、欺瞞に満ちているとした。
2008年3月17日 産経ニュース

■イスラム教徒の「回族」も抗議デモに参加していたというのは新しい情報です。民族対立の膿が噴き出したようです。既に爆破事件が何度も起こっているウイグル自治区も五輪大会に反対する意思表明をし始めたら収拾がつかなくなるでしょう。チベット仏教徒が漢化に加えてイスラム化を警戒するのは、チベットが受容した仏教の基盤が、イスラム教徒に襲われたインドのビクラマシーラ僧院から脱出した高僧達から直接伝授されたものだからでもありますが、それ以前からウイグル族と吐蕃チベット王国との軍事衝突が繰り返された歴史も有ります。唐末には吐蕃・ウイグルとの『三国志』状態でした。チャイナの中で同じ苦難に耐えているはずの両民族は、残念ながら?共闘するほど仲が良くないのは当然でしょう。

■日本には伝わらなかった密教の最終経典とも言われる『時輪タントラ』には、明確に西から迫るイスラム勢力に対する警戒を呼びかける文言が含まれているほどですから、ポタラ宮殿を中心に仏教の名刹が集まっているラサ周辺に、イスラム教のモスクが増えるのは決して喜ばしいことではないのでしょう。民族間の対立は複雑になる一方です。


ダラムサラに拠点を置く非政府組織(NGO)「チベット人権民主化センター」は17日、中国四川省のアバ・チベット族チャン族自治州で16日行われた抗議デモ中、治安部隊に射殺されたチベット人の遺体だとする写真を公表した。別のチベット独立支援組織系のウェブサイトも、左胸を銃で撃たれたように見える遺体の写真を掲載……同センターによると、アバではチベット仏教僧侶ら数千人がデモ行進した後に治安当局と衝突し、8人が射殺されたという。

■ラサ市は周囲に公安警察や軍隊が配置されていますが、四川省アバ県の場合は公安警察が寺院軍に包囲されているようなものですから、鎮圧する側が恐怖に駆られて過剰反応するのは有り得るでしょう。ちょっと離れたところからも集まれば数千人どころではない騒動になりますからなあ。
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チベット人 チベット仏教 イスラム教徒 イスラム教 ダラムサラ 非政府組織 チベット族 ポタラ宮殿 ウイグル族 フランス通信
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