'13/4/6
嘉手納以南の返還 「頭越し」では済まない
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を名護市辺野古に移設する道筋を付けたい―。そんな安倍晋三首相の思惑が伝わる。
日米両政府はきのう、沖縄本島中南部の嘉手納基地より南にある米軍の5施設・区域の返還計画に最終合意した。首相はルース駐日大使と会談し、「目に見える形で沖縄の負担軽減ができる」と述べた。
計画には、嘉手納以南の施設などの返還時期とともに、普天間飛行場については辺野古への移設を前提として2022年度以降に返還可能と明記した。
5施設などの返還はよいとして、普天間の県内移設には多くの県民が反対している。沖縄の負担を軽くするというのなら、あくまで県民の思いに寄り添ったものでなければならない。
嘉手納以南の施設や区域の返還は、06年時点の日米合意で既に決まっていたことである。今回の計画は、決定が先延ばしになっていた返還時期を示したにすぎない。
施設や区域の返還が具体化すること自体は意味がある。嘉手納以南は県庁所在地の那覇市と近く、跡地を再開発できれば経済的な効果も見込まれる。基地に依存しない地域振興を考えれば、前進だろう。
ただ多くの施設などの返還には、県内の代替施設の提供といった条件が付いており、時期も10年以上先になる。条件はできるだけ外し、もっと時期を早めるべきではないか。
懸念されるのは、今回の計画では普天間と他の施設などが一体的に取り上げられていることである。
確かに06年時点ではこれらの返還はパッケージとなっていたが、県内移設が難航する普天間を切り離すことで昨年4月に日米で合意したはずだ。これまでの経緯を踏まえれば、嘉手納以南の5施設などの返還は別個に進めるのが筋だろう。
むろん市街地の中にあり「世界一危険」といわれる普天間飛行場が固定化することがあってはならない。辺野古に移そうとしても、県民感情からすれば実現は極めて難しかろう。仲井真弘多知事も繰り返し、そう語っている。
県民の思いを振り切り、安倍政権は先月、移設先として辺野古沿岸部の埋め立てを承認するよう県に申請した。さらに今回の返還計画をまとめた。
米国との関係を強めたい一心で、普天間の県内移設に突き進んでいるようにみえる。尖閣諸島をめぐり中国との緊張が高まっていることも背景にあろう。
とはいえ、日米同盟のためなら、全てやむを得ないということにはなるまい。菅義偉官房長官が先日、沖縄県を訪れた際、県民からは「地元の頭越しに日米合意がなされている」との声が相次いだ。政府は重く受け止める必要があろう。
普天間の移設は県内にこだわり続けなくても、国外という選択肢を柔軟に考えてもよいのではないか。米国内でも、辺野古移転は困難との見方があり、ハワイ州は沖縄の海兵隊の誘致に乗り出しているという。
こうした動きを見逃してはなるまい。まずは政府内で俎上(そじょう)に載せてみてはどうか。地元の反発が収まらない普天間の県内移設を頭越しに進めるのではなく、国外移設について真剣に検討すべきだ。