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これまでの放送

No.3329
2013年4月4日(木)放送
国境の海で魚が消える
~追跡 中国虎網漁船~

真冬の東シナ海。
停戦命令を無視して逃走する中国漁船。
この水域で急増する最新鋭の虎網(とらあみ)漁船です。

「だめだめだめだめ!
だめ!
だめ!」

今年(2013年)2月、密漁の疑いで日本で初めて摘発されました。
豊かな資源を求めて、東シナ海に押し寄せる中国漁船。

「この塊が全部そうですね。」

中国では、虎網漁船が一獲千金を狙う手段となっていました。

虎網漁船 船長
「(魚は)多ければ多いほどいい。」

一方、漁場を追われ急速に減少する日本の漁船。

まき網漁船 漁労長
「彼ら(中国船)が密集している海域には入らない。
いや、もう勝てん。」

漁船が担ってきた国境の監視機能も低下しています。

「中国船らしき漁船ですね。
密漁じゃないかと思って。」

国境の海で繰り広げられる魚を巡る攻防。
現場からの報告です。

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国境の海で何が 密着 水産庁取締船

密漁の監視に当たる水産庁の漁業取締船、白鴎丸です。

「立検用意、立検用意。
総員配置につけ!
立検用意、総員配置につけ!」

この日長崎県対馬沖の日本の水域で韓国漁船に立ち入り検査しました。
日本の許可を受けた外国漁船であっても漁獲量を偽る違反が後を絶ちません。

「ちょっと差が大きいのでもう一回ね。」

「もう一度計算をして下さい。
誤差があるかもしれないので。
私は隠していることは何もない。」

この漁船は、申告を偽って250キロ余り多く魚を取っていたため、船長を警告処分にしました。

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緊迫する国境の海 追跡 中国虎網漁船

今、東シナ海で水産庁が特に監視を強める外国漁船があります。
中国の最新鋭の大型船、『虎網漁船』です。

虎網漁船の特徴は、魚を集めるための強力なライト。
日本の水域では認められていない明るさです。
まず、船上と水中の強力な光で魚を集めます。
その後、小型ボートを降ろしその光で魚を誘導。
そして長さ1キロ以上の巨大な網で、一網打尽に。
取った魚はポンプで吸い上げます。
短時間で一気に取り尽くす、効率的な漁法です。
ここ数年急増し、東シナ海だけで300隻以上いると見られています。

宇宙から地球上の夜の光を撮影した画像です。
東シナ海でひときわ明るく輝いているのが中国漁船の集団です。
ここに、日中の共同の水域を重ねます。
日本側の境界線上に一直線に並ぶ光の帯これが、虎網漁船です。
日本の水域では漁が認められていないため境界線ぎりぎりに陣取っています。
より多くの魚を求めて日本に近づいていると見られます。
2月20日、午前6時過ぎ。
警戒中の取締船に緊張が走りました。

「操業現認。」

境界線を越えて日本の水域で密漁をしていた虎網漁船を発見したのです。

「中国漁船、停船せよ。
私たちは日本の水産庁。
中国漁船、すぐに停船してください。」

虎網漁船は停船命令を無視して逃走。
追跡中、カメラは証拠隠滅を図る瞬間を捉えていました。
密漁した魚を海に投げ捨てていたのです。
激しく蛇行し、全速力で取締船を振り切ろうとする虎網漁船。
虎網漁船がスピードを落とした隙に、小型ボートで接近します。

「よし、乗り込んだ。」

しかし、その直後想定外の事態が。
虎網漁船が、捜査班を乗せたまま再び逃走したのです。
取締船は体当たりで停船させるという最終手段に出ました。

「だめだめだめだめ!
だめ!
だめ!」

密漁の発見から14時間。
船長を逮捕。
虎網漁船、初めての摘発でした。

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なぜ急増 中国虎網漁船

NHKが入手した中国人船長の供述内容をまとめたメモです。
漁業者以外が一獲千金を狙い次々と参入している実態が分かってきました。

“虎網漁船を始めたのは、かなりもうかると聞いたからだ。
十数人で共同出資して700万元で虎網漁船を買った。
あくまでも投資だ。”



水産庁漁業取締船 橋本高明船長
「出資者の中には全然漁業に関係のない山の人もいたりとか、とにかく取れればいい、もうかればいい、というような感覚で入ってきているようにも感じます。」


虎網漁船の拠点中国・浙江省舟山市。
中国政府は虎網漁船が増えすぎているとして、去年(2012年)から新たな建造を禁止しています。

「虎網漁船はたくさんあるよ。
ほら見て、全部虎網漁船だ。」

虎網漁船に乗って7年になるという船長に話を聞くことができました。
最近、漁場で異変が起きているといいます。

虎網漁船 船長
「虎網漁船が増えて、去年は漁獲量が少なかった。
東シナ海一帯は魚がいなくなった。」

船長は、すでに次の水域に狙いを定めていました。

「もっと遠い場所へ行くつもりですか?」

虎網漁船 船長
「私たちは尖閣諸島の北の漁場へ行きます。
あと4~5日したらまた出港します。」

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国境の海で魚が消える
ゲスト岩間宏毅記者(長崎局)

●中国漁船の勢いをどう感じたか

やはりすごい勢いを感じました。
漁法を見ても、漁獲能力の高さがうかがえるんです。
具体的にこちらをご覧いただきたいんですけれども、虎網漁船の大量のいさり火が確認されたこの辺りですね。


日中共同の水域中でも、日本側の境界線のぎりぎりの所なんです。
さらに、今回初めて摘発された中国の虎網漁船というのは、この境界線上を越えた、この辺りの日本の水域で密漁を行っていたんです。
中国の虎網漁船というのはこの数年で急増して、今は300隻以上に上ると見られているんです。

●日中の共同水域内での資源管理のルールについて

2つございまして、日中共同の水域の中でも、この北側の中間水域のほうは資源管理についての取り決めというのはないんです。
一方の南側なんですけれども、こちらの暫定措置水域では、漁獲量の努力目標ですとか、入漁の隻数ですとか、そういった一定の取り決めはあるんですけれども、実効性を伴っているとはいえないというのが実情なんですね。
今回ご覧いただいたとおり、多数の虎網漁船が日本の水域まで迫ってきていることを見ると、これまでにもこの日中の共同の水域では、過当競争と魚の乱獲が進行してしまって、すでに資源が枯渇している状況になっているのではないかと、漁業の関係者は話しているんです。

●中国政府の姿勢は

毎年の日中の話し合いの場では、日本側はこの水域でより進んだ資源管理ですとか、資源評価をしましょうというふうに持ちかけてはいるんですけれども、中国側としてみれば、そこはもう応じず、話し合いというのはほとんど進んでいないというのが現状です。

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国境の海で何が 衰退する漁業の島

長崎県・五島(ごとう)列島沖を基地とする、まき網漁船です。
船団を率いる吉本洋一郎さん。
東シナ海で50年にわたって漁をしてきました。
しかし、ここ数年急増する中国漁船に押され、苦境に立たされています。
漁をしようとしたポイントで、強引に中国漁船に割り込まれることもあります。

第二十八野村丸 吉本洋一郎漁労長
「東シナ海、我々の操業海域では妨害もされる被害も出ている。
彼ら(中国船)が密集している海域には入らない。
結局は泣き寝入りですよ、我々は。」


吉本さんが暮らす国境の離島、五島列島の奈良尾地区です。
かつては日本屈指のまき網漁船の基地として栄え、ここから100隻以上が東シナ海に繰り出していました。
最盛期、地区の人口は1万を超え、まき網漁船に3年乗れば家が建つといわれていました。

第二十八野村丸 吉本洋一郎漁労長
「もうほとんど今はもう辞めとるですもんね。」

今、まき網漁船は僅か10隻。
漁船が1隻減るたびに人が去り、商店もほとんどが廃業。
人口は5分の1にまで減りました。

「不景気不景気と言う時もあったでしょ。
奈良尾は魚さえ取れればという感じだった。」

第二十八野村丸 吉本洋一郎漁労長
「オイルショックの時も、まき網業界は、不況知らずのまき網業界と言われていた。」

「まさかこんなになるとは思ってなかった。」

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衰退する漁業の島 弱まる監視の役割

この日、沖縄県の近海で漁をしていた吉本さん。

第二十八野村丸 吉本洋一郎漁労長
「あの船、中国船か台湾船か。
中国船はいままで見たことがない。
この近辺では。」

この辺りは、これまで中国漁船と競合することのなかった水域です。
密漁の疑いもあると見て、所属する組合に報告しました。

「中国船らしき漁船ですね。
これが2、4、6隻ほどおるんですよね。」

漁船からの通報は、取締りに当たる水産庁などの貴重な情報源です。
しかし日本の漁船が減ったことで、監視の目が行き届かなくなる事態が懸念されています。

第二十八野村丸 吉本洋一郎漁労長
「外国漁船を見たら、位置からその船の隻数、トン数は百何トンぐらい、漁種は何かということは、極力報告するわけですよ。
(日本の漁船が減ると)密漁しやすい状態になる。」

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中国漁船急増 国境の海で何が
ゲスト山田吉彦さん(東海大学教授)

●この現状をどう見るか

中国は、まず沿岸部の魚をほぼ取り尽くしてしまうような状態になっている。
そして今、日中共同の水域でも、だんだん魚が減り始めている。
そして、また新たな漁場を求めて拡大していくとなりますと、紛争、あるいはトラブルの原因になりかねないと考えてます。

●共同水域でのルールを変える時期に来ているのではないか

まず、どれだけの水産資源の量があるのか、総量があるのか。
そして、魚種ごとにどれだけの漁獲が可能なのかということが今、不透明なんですね。
まずそれを調査していかなければいけない。
どれだけの魚がいるのか、そしてどのような形で漁業をやっていいのかということを今、すぐにでも調べなきゃいけない状況になっていると思います。

●交渉の場に中国側をどう呼び寄せられるのか

まずは今この状況がどうなっているかということを、日本国内でも十分に把握しなければいけないと思います。
そのためには、漁業の実態というものを漁師さんの目で報告をしていただく。
漁師さんたちに、わざわざここの海域、なかなか今、燃料費も高いこともあって支給できないのですが、それをなんらかの補助、あるいは支援策を取る形で、漁師の目で現状というものを報告してもらう必要があると思います。
いずれは中国にも返ってくること。
中国国内にも、虎網に対する規制の声というのが今上がっておりますので、まずしっかりと漁場管理をしていくことで、将来の中国の漁業も安定していくんだということを理解してもらう。
そして初めて、交渉のテーブルというのができてくると思います。

●監視の目になっていた漁業者の存在

まず何よりも島に人が生きる、それが何よりも安全保障、島を守る。
そして漁師さんたちの目というのは、海洋の監視、不法操業の監視であったり、あるいは海洋汚染の監視というものを、漁師の目で行ってきたわけなんですね。
その監視をする漁師が減ってしまった。
今では魚が少ないために、息子さんが漁業を継ぎたいといっても、親がかえって心配してしまってやめさせるという状況になっておりますので、この漁場を継続できるようなシステムというのが必要になってきます。
離島では、魚を取っても購買人口が少ないために魚が売れない。
そのために今、もっと新鮮な魚をどうやって輸送するか。
総合力ですね。
地域力として、漁業を考えていく。
そしてそれに公共政策として、後押しをしていくということが重要になってきます。

●輸送の仕組みや付加価値をどうやってつけるのか

まずは日本の得意である部分の、衛生管理をしっかりしていく。
そして、新しいマーケットの作り方、直売も含めまして、あるいはネット社会に適応した商品の流通というのを考えていく必要があると思います。
これはもう地域、そして都市も、地方・離島と同じような視点からものを見ていくということが重要になってきます。

●離島の衰退を止めるという意味をどう捉えたらいいのか

離島に人が生きることこそが、安全保障なんですね。
そして水産資源の保護、海洋環境の保全ということが、離島で人が生きていく重要なファクターになっていく。
となると、水産資源の保護、海洋環境の保全というのが何よりも安全保障だと私は考えます。

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