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トップエッセイ(リスト)第290:元祖「トゥイジー」? ここにあり! イタリア式 HOTする高齢者向けモビリティー (13.04.05)
エッセイ

マッキナ、アラモーダ!
愛車のコックピットに座り、満面の笑みを浮かべるトメア。
燃料キャップからの雨水の侵入を防ぐため、切断した空き缶やペットボトルをかぶせておくのは、イタリア人アピスタ(アペ乗り)の常識。
畑でとれたカボチャとともに。
 トメアの愛車
もうひとつ、アペの使用法で忘れてはならないのは、お年寄りのモビテリティーである。ボクの知人であるミーノは84歳の年金生活者だ。町の人たちからは「ミーノ」ではなく「トメア」と呼ばれている。Tomeaとは、いにしえのイタリア人著名美術家の名前だ。現役時代に町の土木課員として毎日石畳を刻んでいるうち、いつの間にかつけられたニックネームらしい。

トメアの住まいは、遠く1958年をもって廃線になった鉄道の切り替え小屋だ。今も所有者であるイタリア国鉄から借りて暮らしている。2人の娘はそれぞれ結婚して巣立ってしまったので、夫人のマリア(81歳)と2人暮らしである。マリアのほうが背高なのが、見ていてユーモラスである。

トメアがアペ50購入に至るまでの経緯を記そう。
ボクが知り合った16年前、彼の“自家用車”は、まだモスグリーンのスクーター「ベスパPX」で、マス釣りの足にと活用していた。ところがある日突然、トメアはベスパPXの代わりに、最新のスクーターを買ってきたのだ。
ボクは「よッ、おじいさん、イカすの買ったね!」と祝福したのだが、マリアには大不評だった。高齢者では持て余す性能が心配であったこと以上に、購入前、ろくに相談がなかったことが、アタマにきたらしい。

身内の抗議によほど懲りたのだろう、トメアは新型スクーターを買ってあまり経過しないうちにそれを手放した。そして代わりに購入したのが、アペ50の排ガス対策済み仕様「キャタライズド」だった。スクーターとほぼ同じ安い税金・保険料で維持できるうえ、屋根付きなのでスクーターよりも快適だ。何よりマリアも一緒に乗せられる。

かくして、トメアはアペ50オーナーとなった。ボクは彼が購入直後、その小さな回転半径を見せつけるべく、「ほら見ろ!」といって、家の前で何回もぐるぐると回ってみせてくれたのを覚えている。
2006年5月、町役場からは結婚50年(金婚式)の表彰状が。
大矢アキオ
コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』編集記者を経てイタリア在住。現在、雑誌、webのほか、ラジオ、テレビでも活躍中。特にNHK『ラジオ深夜便』における、0時過ぎの公共放送にふさわしくないにぎやかな語り口は、ヘビーリスナーの間でつとに有名。主な著書に『Hotするイタリア』(二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(いずれも光人社)がある。近刊は電子書籍『イタリア式クルマ生活術』 (NRMパブリッシング)。最新刊は『イタリア発シアワセの秘密 — 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(二玄社)。

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