「オーダーメイド自転車」

交通安全 福祉・介護

東京都

2011年11月18日(金)

 「足が不自由な人は自転車に乗れないと思うのはもったいない。乗れる自転車がないだけ。」乗ることができる可能性を実現するのが自分の仕事だと、障がいがある人のために自転車を作り続けて33年の職人がいます。手足が不自由な女の子のための、小さなペダルの自転車づくりを取材しました。

「希都菜の感想」

 オーダーメイド自転車を手にしたあやかちゃんや障がいがある方の笑顔と、それに負けない嬉しそうな堀田健一さんの表情にジ~ンときました。何より驚いたのが、納品された自転車はあやかちゃんが大好きなピンク色だったこと。カバーを外した瞬間、私も一緒に「ピンクだー!!」と叫びました。前日の夜、堀田さんの作業場を取材していた時は、自転車の色は黒だったのです。とても嬉しいサプライズでした。自転車に乗る人の喜ぶ顔を見たくて作っているとおっしゃった堀田さんのあたたかい人柄が表れていました。

「阪本あやかちゃん」

「あやかちゃんのオーダーメイド自転車。

 あやかちゃんとご家族は、ご自宅の裏がサイクリングロードなので、自転車に乗る練習をして、家族4人で走りたいとおっしゃっていました。紅葉を楽しみながら、サイクリングできるといいですね。

「希都菜のギモン?」~特注は違法じゃないの?~

 自転車として一般道を走るためには、ライト、ベル、鍵、反射板、ブレーキ2系統(前後)などの装備がついていなければなりません。サイズは幅60センチメートル、長さ190センチメートルまでという規定があります。車いすなどの福祉機器は、幅70センチメートル、長さは120センチメートル以内です。

 しかし、堀田さんが作る自転車は、両手を失いハンドルを握ることができない人には、関節を曲げられずペダルをこぐことができない人には、軽く踏み込むだけで車輪が回転するようになっているなど、障がいの内容と度合に応じているため、規定におさまらないことも多いそうです。従って、その場合は、その都度、最寄りの警察署に申請、確認を受けて、利用を認めてもらっています。

「希都菜のギモン?」~金額は?~

「掘田健一さん。市販されていない部品は作る。」

 特別な機能がついていない自転車であれば、最近は1万円以内で買うことができます。しかし、堀田さんが作る自転車は、電動アシストをつけるタイプから、あやかちゃんの自転車のように特殊なペダルやブレーキなどを作るものまでと、部品、機能、装備の多くが手作りで、販売価格は、6万円程度から70万円近くまで、幅があるそうです。

 それでも堀田さんのところには全国各地からお客さんがやってきます。現在は20台近くの注文がきていて3カ月待ちです。これまで1900台あまりの自転車を作ってこられました。高額でも、製作に何カ月かかっても、堀田さんが作る自転車であれば自分でこげるかもしれないという、お金には代えられない希望があるのです。

「きょうのキズナ」~自力のススメ~

 あやかちゃんの自転車製作をしているところに、1人の男性が訪ねてきました。藤嶋慎一郎さんです。15年前にバイクの事故で右足が不自由になりました。ブログで堀田製作所のことを知り、自分も自転車に乗れるかもしれないという希望を持たれたそうです。

「15年ぶりに自転車に乗って嬉しそうな藤嶋慎一郎さん。」

「風邪を切るってこんな感じだった!と大喜び。」

 自転車に試乗した藤嶋さんは、少年のような満面の笑顔で、「自転車に乗ったのは15年ぶりです。風を切る感覚が気持ちよくて快感です。」と興奮気味でした。

 藤嶋さんは右足が曲げられないので、最初は踏み込み式の自転車の購入を考えておられたのですが、堀田さんは左足だけのペダル式を薦められました。30代半ばで若く、脚力もあるので、自分でこげる人は自力で走るのが良いという考えからです。自力でこいで、風を切って走ることに喜びを感じるお客さんが多いと、堀田さんはこれまでの経験から感じておられます。

「希都菜の発見」~可能性に気づいてほしい~

 「体に不自由があって歩けなければ、移動手段は車いすだけという発想がもったいない。自分でこぐ自転車があるじゃないですか。」と堀田さんはおっしゃいます。自転車に乗ることができるという可能性を知ってほしいと心から願っておられるのです。

 堀田さんの自転車によって、再び就職し、社会復帰できた人がいます。大島孝仁さんは、8年前に交通事故で右半身まひになりました。テレビで堀田さんのことを知り、「この自転車なら生活を変えられるかもしれない。」と思い、1年前に購入されました。大島さんは、この自転車のおかげで宅配便の配達の仕事につくことができました。子どもの保育園へのお迎えもしておられます。

 

「大島孝仁さんの自転車の旅。記事。」

 大島さん一家は、東京都小平市から三重県四日市市まで、22日間の自転車家族旅行もしました。道中、「かっこいいね。」「がんばって。」と声をかけてくれる人たちと出会って、自転車が結ぶ人との絆を強く感じておられるのです。

 大島さんのお話をうかがって、自転車1台がこんなにも人生を充実させてくれるのだと、感動しました。オーダーメイド自転車は、社会につながる扉なのですね。

 堀田さんは、あと3年で70歳を迎えられます。70歳の時に、2000台を達成していたいという目標を心に秘めておられます。つまり、2000人の障がい者が堀田さんの自転車によって社会とのつながりを得ているということです。ちいきのきずなスタッフ一同、目標達成に向けてお元気で頑張っていただきたいと応援しています。

今回の取材協力先

堀田製作所 電話:03-3890-8666

投稿者:平川 希都菜 |  投稿日時:2011年11月18日(金) 00:00

コメント

あやかちゃんは、自転車をこいで風を感じたとき、きっと新しい世界に出会ったように思ったんではないでしょうか。子供のころ、父に助けてもらって自転車に乗れるようになったとき、好きなところに好きなときに行けるようになって、嬉しくて一日中、夢中で乗り続けたことを思い出しました。
堀田さんの仕事は夢を与えてくれる素晴らしいものです。仕事を受け継いでくれる後継者が日本、いや世界中に現れることを期待したいです。きっと弟子入り希望者が現れるのでは?

投稿者:コウサク |  投稿日時:2011年11月20日(日) 12:21

>コウサクさん
あやかちゃんは、とても活発な女の子です。自転車の試乗がうまくいって、皆が心から喜んでいました。
堀田さんの後継者はいまのところいないんです。量産ができないから、従業員を雇うことは難しいとおっしゃっていましたが、堀田さんの心を受け継ぎたいという人が現れるといいなと私も思います。

投稿者:希都菜 |  投稿日時:2011年11月22日(火) 19:52

あやかちゃん家族、紅葉狩りサイクリング行けたかな。
嫌な言葉だけど、障害と健常、どちらかが正しいとかスタンダードというものなのか。単に数の多い少ないだけのような気がする。それぞれ自分から見ればまわりは異質だし、いろいろな自分がいていいと思う。

投稿者:すぴか |  投稿日時:2011年11月23日(水) 18:02

>すぴかさん
いろいろな自分がいていいと思う・・・というコメントに賛成です。
あやかちゃんは、周りのことを気にせず、とても明るく元気な芯の強い女の子です。
だからこそ彼女の周りには人が集まり、手を差し伸べてくれるのだと、短い時間でしたが
彼女を取材していて思いました。

投稿者:希都菜 |  投稿日時:2011年11月27日(日) 19:40

あやかちゃんの笑顔は、まるで“ひまわり”のようでしたね。明るく、力強く、まわりの人たちも笑顔にしてくれる。だから彼女にまわりには自然と人が集まる…ステキです。オーダーメイド自転車にのって、あやかちゃんのお友達も笑顔にして下さいね。

投稿者:地行弘憲 |  投稿日時:2011年11月28日(月) 23:58

あやかちゃん、いろんなところに行っているかな。オーダーメイド自転車のおかげで世界が広がったような感じがします。心温まる話もっともっと紹介してほしいな。

投稿者:車出 郷 |  投稿日時:2011年12月22日(木) 15:58

>車出君
ちいきのきずなの取材をしていると、応援したくなる人を紹介しているはずが、いつも私の方が励まされたり勇気をもらったりしていることが多い気がします。“本物”の気持ちや願いは必ず人に伝わるのだなと毎回実感しています。

投稿者:希都菜 |  投稿日時:2012年1月3日(火) 23:17

あやかちゃん自転車で遊べて本当に良かった。
あやかちゃんだって笑顔の時だけじゃなくて、悲しかったり悔しかったり困っちゃたり、しているよね。だって普通に女の子だもん。
あやかちゃんが笑顔でいられるのは、お父さんお母さんが本当に素晴らしいから!
「できること、やりたいことをそのままさせてあげたい」と実際に堀田製作所さんを探して、自転車をプレゼントされてました。その愛があやかちゃんを明るくし、周りをも明るくされてるんですね

投稿者:まるちび |  投稿日時:2012年2月19日(日) 17:01

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