【特集 本格化する電子出版】座談会 いま電子出版に 必要なものはなにか【後編】 1/2

スタジオジブリ

2012年10月26日 10:03

今回の特集にあたり、今、日本の電子出版の世界で注目を集めている、井之上達矢氏、川上量生氏、杉原光徳氏、津田大介氏の4人に集まっていただき、座談会をしてもらうことにした。話題先行ばかりでいまひとつ大きな勢いにならない電子出版、いったいその原因はどこにあるのか。どんな電子書籍がいま読まれているのか、そして電子書籍はこれからどうなっていくのか。この座談会ではとくに"メルマガ"という分野にクローズアップして、その変遷から人気の秘密、そして問題点までを語ってもらっている。メルマガを理解することで電子書籍が見えてくる。今まで触れられなかった本質を鋭く突いた電子書籍論を紹介したい。

既存の出版社では電子書籍で勝てない理由

川上 電子書籍は作家と編集者が1対1の立場で「どっちが偉いんだ」となったときに、編集者の地位が相対的に上がるような気がするんですよね。

津田 おっしゃる通りだと思います。だから僕はフィフティ・フィフティでいいと思っているんです。僕は元々雑誌ライタ ー出身で編集者の仕事もやってたから、津田マガつくるときに原稿も編集もどっちもできる。でもメルマガに仕事のリソースを100%割いたらほかの仕事ができなくなるし、インプットもなくなってネタ枯れする。だから編集はほかの人に任せているんです。そこで得られる利益というのが50: 50で、例えばスタンドに30取られるんだったら、35: 35でシェアする。もし、前面に出る人のキャラがめちゃくちゃ立ってるのだったら、そこの割合は50:20にしてもいいかもしれない。

そこらへんは、お互いの編集と著者との個別交渉で割合を決めればいい。僕はフィフティ・フィフティがわかりやすくていいと思ってますけどね。

川上 究極の形は多分そうなるだろうと思うんだけれども、世の中の常識がまだ追いついてないと思いますね。「作家の ほうがやっぱり偉いんじゃないか」って世間的にも作家自身も思っている人が多いんじゃないかと。

津田 いや、それはそんなことないですよ。だって夜間飛行って、もう既にそれを実現していますよね。

井之上 そうですね。夜間飛行は、出版社的に編集作業から販促まですべてを手がけて、著者に印税を渡す方式と、配信 業+著者へ一言アドバイスを出す方式の2種類があるのですが、前者の方式は、「一緒に作っている」感覚でやらせてもらっています。

津田 利益は著者と編集側が半々ぐらいの割合ですか。

井之上 そうですね、半々のイメージです。

川上 その場合に著作権は?

井之上 著作権も半々です。だから夜間飛行が編集まで手がけているコンテンツに関しては、例えば、著者の方がメルマ ガのコンテンツをまとめて他の出版社さんから紙の本で出版したい場合は、夜間飛行に相談してくださいね、ということになっています。著者を縛るつもりはまったくなく、どんどん他の出版社からメルマガが本になっていいと思っています。ただ、夜間飛行も著作権を持つものとして、何%分か印税をもらう交渉をするかもしれない、という契約です。

川上 そこすごく新しい話ですよね。

津田 相当新しいですよね。だから川上さんがさっき指摘した編集の力がもう既に相対的に上がっているし、今後は杉原さんや井之上さんみたいな人がすごいスターになっていかなきゃいけないんです。でも入口から出口まできちんと面倒みて編集できる人が圧倒的に少ないんですよね……。

川上 そうでしょうね。

井之上 夜間飛行には、コンテンツ制作の力量もあるし、著者付き合いの面でも信頼のできる編集者が何人かいるんです けれども、じゃあ「メルマガ100本を編集できるのか」と言われると、現状は厳しいです。やっぱり、そんなに人がいないんですよね。コンテンツづくりからマーケティングまですべてを任せられる人が。ですから、夜間飛行としては編集者・ライターの養成は急務だと考えています。おかげさまで、夜間飛行では、堀江さんメルマガと津田さんメルマガという日本で1、2位のメルマガを配信させてもらっていますから、他の著者に対して、「津田さんのメルマガではこういう工夫をしています。ここについては、応用できるかもしれません」といったことをどんどん伝えて、メルマガというメディア全体のクオリティがあがるようにしています。もちろんただ右から左に事実を伝えても意味がないので、そこで編集者は「それぞれのメルマガの特徴」をしっかり把握した上で、流用できる話なのかそうでないのかを判断しなくてはいけません。

まあ、つまり、杉原さんのような「ツボ」を心得た編集者をたくさん育てないとマズいという考えなんですね。

津田 でも、本当にいないですよ。

杉原 今日は僕を持ち上げる日なんですか?(笑)

津田 おもしろいコンテンツをまとめて編集ができる、編集・構成ができる能力のある編集者は出版社にはごまんといるん です。でも問題は、その人が今の安定した生活を捨ててこっちに来てくれるのかというところ。まずそこのリスクを取れるかというと、そのできる編集者の8割はおそらくそのリスクを取れない。そして、残りの2割は編集はできてもソーシャルが分からない。いまだにガラケー使ってる編集者多いですよ。

川上 ネットの世界が分からない。

津田 ネットの世界でネットに受けるものはどうなのかというのが分かって、さらにオールドな紙の世界で鍛えられた編 集や構成力を持っている人は皆無に等しい。だから、杉原さんみたいな人がすごい重宝されるわけですよ。

杉原 僕、最初にEPUBの打ち合わせで版元に言われたのが「難しい漢字どうするの?」ってこと。「開きゃいいじゃ ないですか」って言うと「いやいや、ルビは必要だ」とか言う。バカなんじゃないかと。ルビがあって縦書きじゃなきゃ駄目とか、1ページに40文字×15ラインがどうのこうの。本当そういうことばっかり言っているから電子書籍がつくれないし、その考えでメルマガつくったって、絶対売れないと思う。

津田 売れるわけがない。

杉原 なので、そういうことを言っている時点でもう出版社って電子書籍では勝てないと思うんです。

津田 1個の能力だけが突出していても駄目なんです。もっとプロデューサー的視点を持った編集が必要。でも、出版社は昔からそういう編集者の育て方をしていないし、そういう素養を持った人がいても、その人がネットに詳しいかというと、そうでもないっていう。

ボリュームが多すぎることのメリット!

津田 先ほどの話にもどります。僕が分量を多くしている大きな理由は、時事ネタって半年とか1年後に読まれることを想定しているからですね。「あれ、そういえば津田マガであったよな」って読者が思ったときにGメールで検索して見つけてくれればいいやっていう。

川上 「あとで読もう」ですね。

井之上 その話、すごく大事だと思うんです。僕はメルマガに限らず、文章コンテンツって、情報を売っているのではな くて、「読書体験」を売っていると思っているんです。そういう視点から考えると、コンテンツが有料か無料かで言えば、有料であるほうが、実は作品の送り手がやりやすいんですね。

つまり、無料だとどうしてもコンテンツの中身を読んでもらうしかなくなる。でも有料であれば、例えば津田さんのメルマガを買うためにアルバイトをした人がいたとして、そのアルバイト体験自体に重要な意味があるという可能性が出てきます。その人にとって、アルバイトでお金を稼いで、メルマガ購読の登録した時点でその人の読書体験の半分は終わっているということもありえます。

でもそれを演出するのも、送り手の重要な役割だと思います。著者自身やその人のコンテンツに魅力を感じなければ、そもそもアルバイトをしないわけですから。実際、紙の本はそうした演出が素晴らしく上手かったんですね。僕の勤めていた出版社は昔、全集で大儲けしたんですけど、全集というのは、それを端から読んでいく人は少数です。そうではなくて、全集を買うために仕事を頑張って、ある時点でそれが買えるようになる。

そして全集が本棚に並んだ時点でその役割の大半を終えるものなんですよね。ほとんどの人は中身なんて読まない。もちろん著者は中身を読んでほしいと思うのは当然ですし、読まれたときに満足してもらうように一生懸命書くわけですけど、少なくとも編集者は、単純に中身を読む以上に「読書体験」のイメージを拡張して考えておかないと、「読書」が貧弱なものになってしまう。「やられた、買わされた(笑)」と(笑)付きでツイッターにつぶやかれたら、それは素晴らしい「読書」を提供したことになると思うんです。でも、インターネットの無料コンテンツではその「読書体験の幅」がちょっと狭まっているなと。内容は大事なのですが、内容がいいか悪いかだけになっているのは、問題だなと思っているんです。

川上 そうですね。買うというのもいろんな体験の中の一つであって。

井之上 そうなんですよ。

津田 自分がお金を払った情報で損したと思いたくないから、一生懸命読みますよね。「この情報に有料でアクセスし た俺偉い」みたいな。

井之上 そう。

川上 だから、やっぱりネットのコンテンツの有料化っていうのの1個のポイントというのは、人間はお金を払ったほうが真剣にそのコンテンツ読むんですよ。だからコンテンツをちゃんと見てもらおうと思うんだったら、絶対お金を取ったほうがいいんですね。それは、利益のためじゃなくて。

津田 でも、それはさっきのニコ動がプレミアムをやったことともすごくリンクしている話ですね。

杉原 ユーザーは意外と分かりやすかったりしますからね。文字数多いほうが好きなんですよ。

津田 なんか、得した気になる。

杉原 僕、最初のころ堀江さんと「どうしようか、ボリューム増やすか」と話したんです。あるとき、マックスで8万5000文字あったんですよ、1号が。8万5000文字って、200ページの新書と同じくらいなんですよ。1号が新書1冊分なんですよ!?

津田 津田マガは1号で最高12万5000字というのがありますね。

杉原 「そんな文章量を毎週毎週、読めないだろう」と。でも「ボリュームがあっていいコンテンツだ」みたいなことを言われたりする。書いてあることって、今も変わってないんです、圧縮率がすごく高くなっているだけで。で、情報って津田さんも言ってましたけど、僕も10ある情報を1分で聞けるのが好きなタイプで。「10の情報を10分で聞かなきゃいけない」となったら、即効で飽きるんですよ。だから「いかに1分で読ますか」ということを今考えてつくっているんですけど、それを読者にまだまだ分かってもらえないというのと、「文章量が多いほうがいい」という良くない前例を正直言うと僕はつくってしまった。これはもう僕と堀江さんが反省しているとこなんです。それは、もう絶対にいけないことで。

津田 そう思ってたら僕がメルマガ始めて、それにとどめを刺してしまったと(笑)。

杉原 そう。とどめを刺して。そうすると、僕のところに「津田さんに比べてボリュームが少ないです」と。

川上 クレームが(笑)。

杉原 ただ、書いてあることのクオリティは変えてないし、コンテンツの数も増えているんですけど、何て言うんですか ね、読み手に納得してもらえない。

津田 正直な話をすると、僕のメルマガは、コンテンツとしてはオープニングのニュースの解説コーナーとQ&Aだけ読んでもらえばいいんですよね。そうだけど「そうではないおまけコンテンツもあるから、読みたい人は楽しんでね」というつくりにしてます。

杉原 読者満足度を優先してますね。

津田 メルマガを出すようになっていろいろな編集者から、「津田マガは量が多すぎる、適正な量は、今の半分ぐらいじ ゃないか」って言われたんです。実際ツイッターの反応見てても「多すぎて読めない」という感想はたくさん来る。でも、僕は、それは不満じゃなくて、「うれしい悲鳴」だと思っているんですよね。要するに、本当の不満ではないと。

川上 それはちょっと思っていて、量が多すぎて読めないことのメリットというのは、量が適正ということは全部読んじ ゃうということですよ。全部読んじゃうというのはどういうことかというと「これは良かった悪かった」ということを自信を持って言えてしまうと(笑)。

杉原 悪い言い方をすると騙すことができない。

津田 その発想はなかった! なるほど! いやー、僕にとってそれはすごい気づきです。やっぱり川上さんは天才です ね(笑)。

川上 全部読んでないものは、それが価値あるかないかを言う資格は(購読者に)ないんです。否定できないから。

津田 なるほど。でも、これ読んだ人でこれからメルマガをやる人に伝えておきたいのは、圧縮率高めたうえで量増やすっ てかなり作業が大変なので、覚悟は必要ですよと。全員が堀江さんや僕のやり方を真似できるわけではないと思います。

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