【レポート】
コンピュータ将棋の最強ソフトを決める戦いである「第16回世界コンピュータ将棋選手権」(コンピュータ将棋協会主催)が、今年も3日から5日まで千葉県木更津市のかずさアークにて開かれた。ここ数年はゴールデンウィーク中の開催が定着しているこのイベントだが、今年も日本を始めアメリカ・イギリス・カナダ・北朝鮮など各国から計40チーム(+招待1チーム)が集まった。
今年のコンピュータ将棋選手権は、ここ数年決勝トーナメントの常連であり過去4回の優勝を飾っている「IS将棋」(商品版は「最強 東大将棋」)が「思考ルーチンを1から作り直したが、バグが取りきれなかった」との理由で欠場(なおIS将棋は本来前年3位の資格で決勝シードとなるのだが、自主的にシードを返上しており1次予選から出場の予定だった)。このことが決勝の常連である他のソフトの力関係にどのように影響を及ぼすかが注目された。
また、昨年彗星のようにコンピュータ将棋界にその姿を現し、その強さが関係者の間で評判となっていたフリーソフト「Bonanza」が、今回本選手権に初エントリー。これまで(第1回を除き)本選手権で初出場・初優勝を遂げたソフトはないだけに、果たして「Bonanza」が1次予選・2次予選を勝ち抜きどこまで上位に食い込んでくるかにも注目が集まった。
5日に行われた決勝には、昨年の成績で決勝シードされていた「激指」「KCC将棋」(商品名は「銀星将棋」)「YSS」(商品名は「AI将棋」)の3ソフトを始めとする8ソフトが登場。注目の「Bonanza」も1次予選を全勝、2次予選は7勝2敗で4位通過と、順当に決勝に駒を進めてきた。
ところが昨年のチャンピオンソフトである「激指」が、今年は思わぬ不調を見せる。まず緒戦の対「柿木将棋」戦がいきなり千日手(同一局面を4回繰り返すこと)となり、大会規定により引き分け。続く対「TACOS」戦には勝利するものの、3戦目となった注目の対「Bonanza」戦では、終盤で「激指」側に詰みの局面があったにもかかわらずこれを見逃し、「Bonanza」に逆転負けを喫してしまう。5戦目の対「YSS」戦でも、終盤で持ち時間がほとんどなくなり疑問手を連発する「YSS」を一時は逆転したかと見られたが、結局「YSS」が勝利した。どうも今回「激指」は終盤の読みの部分にバグを抱えていた模様で、それが肝心のところで露呈してしまったようだ。
結局第5戦を終了したところで、「激指」は2勝2敗1分となり優勝争いから事実上脱落。「Bonanza」「YSS」「KCC将棋」の3ソフトが4勝1敗で並び、優勝争いはこの3ソフトに絞られたと思われたのだが、続く6回戦・「YSS」対「KCC将棋」戦がまたもや千日手で引き分けに。ちなみに同対局は両ソフトとも中盤以降意味不明の指し手が続き、解説の勝又清和五段らも「理解不能」とのコメントを残している。この結果6回戦で「TACOS」に勝利した「Bonanza」が一歩抜け出し、最終戦の対「竜の卵」戦で勝利すれば自力で優勝という状態となる。「Bonanza」はこの最終戦も危なげない形で勝利し、初出場・初優勝を飾った。
本戦終了後には、勝又五段が「Bonanza」開発者の保木邦仁氏に電話でインタビューを行い、ソフトの開発に関する様々な話を伺っていた。実は保木氏はカナダ在住で、本職は化学の研究者。あくまで将棋ソフトの開発は趣味の一環として行っている上、当たり前の話だがカナダにゴールデンウィークは存在しないため、「休暇を取ってまで趣味のために日本に向かうことはできない」ということで、今回は代理人による参加となっていたのだ。
この電話インタビューが、これまでの将棋ソフトの常識を覆すような驚きの内容の連続だった。まず、これまで将棋ソフトの開発者といえば、開発者自身もある程度の棋力を持つというのが常識だったが(一例として、「激指」開発チームの鶴岡慶雅氏がアマ初段程度の実力だとか)、保木氏は何と「やっと最近矢倉囲い(将棋の序盤における基本的な駒の配置の一つ)を覚えました」という程度の棋力しかないという。しかも「Bonanza」の開発に当たっては、これまで学会等で発表されてきたコンピュータ将棋関連の論文等は「ほとんど読んでいない」とのこと。
ではどうやって「Bonanza」を開発したかというと、ベースとしてコンピュータチェスに関する英語の論文を参考にしたうえで、ネット上で入手したという約6万局の棋譜データを元に、現在の局面の評価や次に指すべき手の優劣の比較に使用する「評価関数」を自動生成するという手法を取ったとのこと。また指し手の探索手法は基本的に「時間の許す限り全数探索」となっており、多くの将棋ソフトが用いる「定跡データベースとの比較によるポイント化」や「不利になる可能性が高い選択肢については読みを途中で打ち切る」といった機能はない。終盤における詰みを探すための「詰め将棋ルーチン」も搭載されていないという(「チェスのソフトにはそんなものはないので付けていない」とのこと)。
「Bonanza」の概要を語る勝又清和五段 |
このように、従来の多くの将棋ソフトの常識を打ち破るような開発手法で開発された「Bonanza」だが、逆にそのような手法からか、通常人間は絶対指さないような手筋を見せることも少なくない。例えば決勝の第6戦・対「TACOS」戦では、31手目にいきなり自分の角を相手の銀と交換するという普通なら悪手としか思えないような手を打ち、その後おもむろに玉を穴熊(玉を将棋版の角に置き、周囲を味方の駒で完全に囲んでしまう囲い方)に囲いだすといった手を指し、解説のプロ棋士達も苦笑いしていた。また第2戦の対「KCC将棋」戦でも、詰め将棋ルーチンがないためか、終盤では相手の駒を取りまくり「血も涙もない寄せ」(勝又五段)を見せていた。
正直なところ「Bonanza」は3戦目では「激指」の詰みの見逃しに助けられたりもしているので、本当の意味で「Bonanza」が最強の将棋ソフトかというと、多くの異論が出ることが予想される。ただ少なくとも「Bonanza」が強豪ソフトの一つであることが証明されたのは間違いないだろう。
なお大会直前の4月24日には、マグノリアが「Bonanza」と提携することが発表されており、近いうちに「Bonanza」をベースとした商用版のソフトが登場するものと見られているが、マグノリアからは「フリーウェア版の思考エンジンの提供及びバージョンアップも継続する予定」とのアナウンスがなされている。
コンピュータ将棋選手権といえば、基本的に「参加者が自らハードウェアを持ち込む」ことがルールとなっているため、各参加者がどのようなマシンを持ち込んでくるかも注目の一つなのだが、今回目立ったのがマルチCPUマシンの増加。
まず北朝鮮より参加の「KCC将棋」チームがデュアルコアOpteron 2.4GHz×4CPUのサーバを持ち込んだのに加え、「激指」「YSS」「TACOS」と計4チームがOpteron 4CPUのマシンを使用。コレに加え「竜の卵」「柿木将棋」「大槻将棋」もAMD64のマシンを使用し、決勝進出8チーム中7チームがAMDのCPUを使用するという結果となった。会場内には各マシンのファンの轟音が鳴り響いただけでなく、対戦に応じてマシンを移動させる際には、担当者が会場の電源容量と各マシンの消費電力を計算しながらマシンの位置を指示する作業に追われていた。
ところが優勝した「Bonanza」チームは、決勝進出チーム中唯一インテルのCPUを使用(CoreDuo T2600を搭載したVAIOで参戦)していたのだから、勝負は面白いもの。元々コンピュータ将棋では整数演算を多用するという特性から、整数演算性能に優れるとされるAMD製CPUの優位がここ数年続いてきたが、果たしてこの結果を受けて来年はインテル製CPUのユーザが増加するのかどうかにも注目する必要がありそうだ。
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