今年1月、東京・赤坂。取材の合間、ぶらりとランチに入った某すし店にこんな貼り紙がしてあった。「初セリの大間産本マグロ、入荷しました」
■水揚げから11日たった本マグロ、品質は…
史上最高値の1億5千万円超を付けた例の1本ではない。だが、初セリにかかった青森・大間産クロマグロは4本しかなかった。最高値の1キロ70万円は異次元として、他の3本もセリ値はすべてキロ2万8千円以上したはずだ。日ごろはまず口にできない最高級マグロを1貫198円からという庶民価格で味わえるまたとない機会。新年早々なんたる幸運! こみ上げてくる興奮を抑えながら、赤身を2貫、中トロと大トロを1貫ずつ頼んだのだった。
期待が膨らむ一方、一抹の不安があった。初セリのマグロの水揚げは昨年の12月29日。逆算すると11日もたっている。冬場の津軽海峡産というマグロの最高峰とはいえ、これほど時間がたって品質が劣化していることはないのか。「腐ってもタイ」との言葉もあるが、腐ったタイよりも腐っていない大衆魚を食べたいのが人情だ。
出てきたマグロを食べた瞬間、不安はあっさり吹き飛んだ。赤々とした身は独特の濃厚な酸味を口内に充満させ、トロは綿菓子のようにとろけていった。「おいしいですねぇ」。幸福な余韻に浸る私に板前さんはこう言った。「明日はさらにいい感じになるんじゃないですか」
■すしの名店、マグロ・ヒラメ・サバは「寝かしてから」が基本
魚の取材をしていると時々聞く言葉がある。新鮮な魚ほどおいしいというわけではない――。
いけすで泳いでいる魚を目の前で出してさばいてくれる生け作り。いかにも食欲をそそるが、江戸前の高級すし店の大半にいけすはない。むしろ、高級店は魚を寝かせてから出すのを基本としている。
例えば名店の代名詞的存在の「すきやばし次郎」。店主の小野二郎さんのネタへのこだわりや仕込みの手法を紹介した『すきやばし次郎 旬を握る』(文春文庫)をめくってみる。
小野さんは大型のヒラメについて「締めた日の夜は、いきが良すぎて握れません。コリコリするだけで持ち味が生きないから、握れるのは、翌日の昼です」と話す。すしネタの王様マグロはどうか。「買ってきたマグロが若ければ、何日か氷漬けにして熟成を待たなければなりません。(中略)味と香りがピークに達するのは、熟成が進んで、はつらつとした身の赤さが少しクスみ加減になる頃で、特に大トロや中トロはそうです。酸化する一歩手前が味わい深い」。「生き腐れ」の言葉があるほど劣化が早いサバでも一晩寝かしてから握るのが基本だという。
マグロ、マルハニチロホールディングス、中島水産、築地市場
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