審査要求書(全文)
審査要求書
2013年(平成25年)4月4日
会計検査院御中
審査要求人代理人弁護士 堀敏明
同 山下幸夫
同 倉地智広
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
審査要求の趣旨
国会記者会が「国会記者事務所の使用について」と題する書面(甲第12号証)に基づき衆議院から管理を委ねられている国会記者会館(東京都千代田区永田町1丁目6-2所在。以下「本件会館」という。)について,国会記者会による本件会館全体の無償使用が,財政法9条1項及び「国の庁舎等の使用又は収益を許可する場合の取扱の基準について」(昭和33年1月7日蔵管第1号。以下「本件通達」という。)に違反しており,貴院が主務官庁である衆議院その他の責任者に対し,その是正をはかるよう通知することを求める。
審査要求の理由
第1 はじめに
国会記者会は,本件会館全体を無償使用しており,財政法9条1項(「国の財産は,法律に基く場合を除く外,これを交換しその他支払手段として使用し,又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない。」)に違反する。
また,本件会館全体の無償使用は,本件通達第1節の「第2 使用収益とみなさない場合」第2項「新聞記者室」の範囲を超えて使用するものであり,本件通達に違反する。
衆議院が国会記者会に対して,国有財産たる本件会館の無償使用の承認をした行為は,会計検査院法22条2号に規定する必要的検査事項である「国有財産の受払」に該当し「会計経理の取扱」(同法35条1項)である。
そして,審査要求人らは,国会記者会による本件会館の独占的な無償使用に基づく妨害行為により,国有財産である本件会館の使用ができなかったものであり,直接の「利害関係」(同35条1項)を有するものである。
第2 当事者について
1 審査要求人ら
(1)審査要求人らは,2010年(平成22年)10月に,政府と東京電力の共同記者会見に参加を認められたフリーランスで結成された「政府・東京電力統合対策室共同記者会見フリーランス連絡会」(以下「フリーランス連絡会」という。甲1)に所属するフリーランスであり,フリーランス連絡会の事務取り扱いを担当している者である。
(2)審査要求人寺澤有(以下「審査要求人寺澤」という。)は,警察や検察,裁判所の裏面等を主な取材分野とし,最近は原発関連についても取材対象としており,近著として「本当にワルイのは警察~国家権力の知られざる裏の顔~」(宝島社)など多数の著作があるフリージャーナリストである(甲18)。
(3)審査要求人佐藤裕一(以下「審査要求人佐藤」という。)は,若者の過労死・過労自殺と鉄道の人身事故を取材分野とする者であり,「鉄道人身事故データブック2002-2009」(つげ書房新社)の著作があるフリー記者である(甲19)。
(4) 審査要求人畠山理仁(以下「審査要求人畠山」という。)は,政治に関する取材・記事執筆を行っている者であり,「記者会見ゲリラ戦記」(扶桑社)の著作物及び『領土問題,私はこう考える!』(集英社,構成者)があるフリーランス・ライターである(甲20)。
(5)審査要求人らについては,審査要求人寺澤をその総代と定める。
2 国会記者会
(1)国会記者会は,全国153社のテレビ・新聞等のマスコミが所属する記者クラブである。
国会記者会の中には,その運営方針を決定する常任幹事社があり,数ヶ月単位の持ち回りで幹事社の中から4社の常任幹事社が選ばれることになっている。
(2)国会記者会は,東京都千代田区永田町1丁目6-2(地番:東京都千代田区永田町1丁目52-1)所在の本件会館について,衆議院からその管理を許されている。
なお,本件会館は未登記であるが,その敷地は衆議院(国)の所有であり(甲2),本件会館の所有者も衆議院(国)である。
(3)本件会館の管理の方針は,本件会館の管理業務を担当する事務局(事務局長は佐賀年之。以下「佐賀事務局長」という。)が常任幹事社の会議に諮り,その議を経て決定されている。
本件会館の管理については,衆議院と国会記者会との取り決めで,常駐の管理者を1人置くことになっており,佐賀事務局長が本件会館の常駐の管理責任者である。
第3 審査要求人らの本件会館使用許可申入れと国会記者会の拒否について(利害関係)
1 審査要求人らが本件会館の使用許可を求めるに至った経緯
(1)福島第1原発事故が発生した後,毎週金曜日に首相官邸前において反原発の抗議活動が行われるようになり,大飯原発の再稼働が迫った2012年(平成24年)6月ころには,数千人から数万人もの市民が首相官邸前に集まるようになった。
(2)フリーランス連絡会の会員は,その多くが首相官邸前での抗議活動を取材していたが,「毎週金曜日に首相官邸前に反原発の抗議活動に集まった大勢の人々を,高い場所から俯瞰的に撮影したい」と考えるようになった。
なお,国会記者会に所属している記者らは,本件会館の屋上から上記状況を撮影し,その写真や映像は大きく報道されていた(甲3)。
(3)本件会館は,通常は,一般の市民であっても自由に出入りすることかできている(甲4)。本件会館からの撮影も自由である。
ところが,フリーランス連絡会に所属する何人かの会員が,毎週金曜日の首相官邸前における反原発の抗議活動の状況を本件会館の屋上から撮影すべく国会記者会に問い合わせたところ,「国会記者クラブ加盟社以外は,撮影を許可できない」と断られ,毎週金曜日の夕方になると本件会館には国会記者会所属の記者以外の立入りが認められなくなった(甲5)。
(4)そこで,審査要求人寺澤が,2012年(平成24年)7月10日,佐賀事務局長と面談し,どうして国会記者会の加盟社以外の者は毎週金曜日に本件会館で取材や本件会館屋上からの撮影ができないのか説明を求めたところ,佐賀事務局長は,「イギリスのBBCテレビとタイアップしているジャーナリストが,福島第1原発事故に関するドキュメンタリーを制作するのに,国会記者会館の屋上から首相官邸を撮影したいというので,私が許可した」と言いながら,他方で,「我々は商売マスコミ。既得権を守りながら,報道の役目を果たす。反原発の抗議活動の撮影で国会記者会館を使用するのはダメだという判断もある」,「我々の意識として既得権を守ろうとしている。商売上の既得権ももちろんある」などと説明した。
2 本件会館使用許可申入れに対する国会記者会の拒否
そこで,フリーランス連絡会は,正式に本件会館の使用許可を求めることにし,以下のとおり国会記者会に対して本件会館の使用許可の申し入れをしたが,いずれも拒否された。
(1)2012年(平成24年)7月17日付申入書による申入れ
審査要求人らは,2012年(平成24年)7月17日付申入書(甲6)により,フリーランス連絡会所属の記者2名及びカメラマン2名が本件会館の土地や建物に立ち入り,反原発の抗議活動を取材することの許可を求めた。
これに対して,国会記者会は「アワプラネット社が仮処分を申し立て係争中なので,国会記者会館の屋上に国会記者会以外を立ち入らせないという方針を変えることはできない」との理由で上記申し入れを拒否した(なお,同月17日,非営利法人OurPlanet-TVを債権者,国会記者会等を債務者とする仮処分が申し立てられていた)。
(2)同年8月16日付申入書による申入れ
上記の拒否理由を踏まえ,審査要求人らは,同年8月16日付申入書(甲7)により,本件会館の屋上から10分間取材することの許可を求めた。
これに対して,国会記者会は「先日の申し入れのありました記者会館屋上での写真撮影について常任幹事社で協議したところ,以下の理由により認められないこととなりました。7月17日にアワプラネット社から出された屋上立ち入り要望に対し,記者会は非会員の屋上立ち入りを原則として認めておらず,記者会の意向に反してアワプラ社が屋上に立ち入る権利を認めていないことを理由にお断りしました。その後もこの事情に変わりはありません。」との佐賀事務局長名義の電子メールをフリーランス連絡会に送信し,上記申し入れを拒否した(甲8)。
(3)同年10月10日付申入書による申入れ
上記の拒否理由を踏まえ,審査要求人らは,同年10月10日付申入書(甲9)により,本件会館4階の廊下の窓越しに反原発の抗議活動を取材することの許可を求めた。
これに対して,佐賀事務局長は,「通常,国会記者会館の2階以上は立ち入らせていない。これまで,あなた(審査要求人寺澤のこと)が立ち入ったとすれば違法。そのようなことをする人間が事務取り扱いの団体とは話をしない。申入書に対する回答もしない。」と述べて,上記申し入れも拒否した。
3 本件会館立入に対する国会記者会の妨害行為
以上のような国会記者会の頑なな姿勢に接し,審査要求人らは,書面のやりとりでは全く埒があかないと判断し,本件会館に直接取材に赴くことにした。
2012年(平成24年)10月12日(金曜日)午後5時15分ころ,審査要求人らが本件会館の敷地に入ると,佐賀事務局長は,「ダメです。中での撮影は遠慮して下さい」と述べ,審査要求人寺澤が「上へ行きますよ」と述べて本件会館への立ち入りの許可を求めると,佐賀事務局長は「ダメです」と述べてこれを拒否した。
審査要求人寺澤が「我々が取材しようとしているのを妨害しないで下さい」と要請すると,佐賀事務局長は「妨害します」と明言し,「(敷地から)出て下さい。」と述べた。そこで,審査要求人寺澤が「(我々の取材の)妨害を中止して下さい」と繰り返し言うと,佐賀事務局長も「妨害します」との発言を繰り返した。
さらに,審査要求人寺澤が「4階の窓から(写真を)撮ってきて,いいですか」と質問すると,佐賀事務局長は「ダメです」と拒否した。これに対し,審査要求人寺澤が「誰でも,いつでも入っている。今日に限って何でダメなんですか」と質問すると,佐賀事務局長は「いつもダメです」と虚偽の事実を述べたので,審査要求人寺澤が「いつもダメだってどこに書いてあるの」と質問すると,佐賀事務局長は「そんなものはどこにも書いてありません」などと開き直った。
その後,佐賀事務局長は,審査要求人佐藤からの要請や審査要求人畠山からの質問に対してもきちんと対応せず,「(国会)記者会はともかく,私はNoと言ったんです」と言ったので,審査請求人寺澤が「記者会が邪魔してんじゃないの」と質問すると,佐賀事務局長は「それはそうだけど,その前に(自分が)管理人としてNoと言ったんです」と答えた。
審査要求人らは佐賀事務局長と話をしても「ダメだ」の一点張りで埒があかないので,佐賀事務局長を無視して本件会館の門の中に入ろうとした。ところが佐賀事務局長は両手を広げ,その左手で審査要求人寺澤が本件会館の敷地に入ろうとするのを制止し,時には左手を審査要求人寺澤の体に当てて妨害するなど,審査要求人寺澤が本件会館の門の中に入ることを物理的に阻止した。
以上のように,審査要求人らの取材をしようとする行為に対して,国会記者会及び佐賀事務局長は一貫してこれを妨害した(甲10,甲11)。
第4 本件会館の使用目的と国会記者会による本件会館使用の根拠・条件について
1 衆議院は,1969年(昭和44年)3月15日付「国会記者事務所の使用について」(衆庶発第99号。甲12)において,国会記者会に条件を付して本件会館の使用を承認した。
2 その使用条件の主なものは以下のとおりである。
(1)使用目的(使用条件の第一項)
国会関係取材のための新聞,通信,放送等の記者事務用室。
(2)使用範囲(同第二項)
別紙図面のとおり。但し,国会記者会は審査要求人ら及び裁判所(審査要求人らを債権者,国会記者会及び佐賀事務局長を債務者とする東京地方裁判所平成24年(ヨ)第3878号(国会記者会館4階廊下に立ち入っての取材活動)妨害禁止仮処分命令申立事件の担当裁判所)の要求にもかかわらず同図面の提出を拒否してきたため,審査要求人らには国会記者会が衆議院から本件会館のどの部分の使用を認められているのか不明である。
なお,佐賀事務局長は,上記仮処分命令申立事件において,国会記者会の使用範囲について,食堂・喫茶店・理髪店の営業スペース及び自動販売機設置部分を除く本件会館全部であると陳述し,国会記者会は,この陳述の使用範囲(以下「本件使用範囲」という。)を根拠に,審査要求人らに対し前記第3の第2項及び第3項記載の妨害行為(以下「本件妨害行為」という。)を繰り返している。
(3)使用料(同第四項)
無料。
(4)建物等の管理
ア 建物及び構内の平常の管理は国会記者会において行い,国会警備上その他必要がある場合は衆議院の指示に従う(同第六項の4)。
イ 国会記者会は,国会記者事務所の管理につき,常勤の責任者を定め,衆議院に対して管理上の連絡を行わせる(同第七項の1)。
ウ 管理責任者は,衆議院担当者の指示により常に建物の維持・保存に留意し,異状のあるときは直ちに衆議院に連絡し,外来者の出入りについては十分に注意を払う(同第七項の2・3)。
(5)国会記者会加盟社以外の使用(同第8項の2)
建物の使用目的に鑑み,国会記者会加盟社以外についても衆議院が必要と認めるものは使用できるものとし,国会記者会が運営管理する。
第5 国会記者会加盟社以外の審査要求人らメディア等に対する本件妨害行為の違法性について
1 衆議院事務局の見解
衆議院事務局は,前記第3の第2項(5)の国会記者会加盟社以外の使用について,「衆議院としては,フリーランスやネットメディアであることのみをもって,国会記者事務所の使用適格がないとは考えておりません」(甲13の2),あるいは「衆議院としましては,国会記者事務所の使用に関しまして,国会記者会とフリーランス,ネットメディア等とを差別的に取り扱う目的は一切ございません」(甲14の2)との見解を表明している。
2 日本新聞協会の「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」
(1)国会記者会の役員(幹事及び常任幹事)は,日本新聞協会の会員である新聞社及び放送局(NHK,民放)から選任されている(甲15)。
(2)その日本新聞協会は,「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」(2002年〔平成14年〕1月17日作成,2006年(平成18年)3月9日一部 改定。甲16)において,以下の見解を公表している。
ア 記者クラブは,「取材・報道のための自主的な組織」であり,それを構成する者はまず,報道という公共的な目的を共有していなければならない。
イ 国民の「知る権利」と密接にかかわる記者クラブの目的は,現代においても変わりはない。
ウ 記者クラブは,「開かれた存在」であるべきで,公権力の行使を監視するとともに,公的機関に真の情報公開を求めていく社会的責務を負っている。
エ 取材・報道のための組織である記者クラブとスペースとしての記者室は,別個のもので,記者室を記者クラブ加盟社のみが使う理由はなく,適正な利用を図っていく必要がある。
3 記者クラブに関する財務省の見解(甲21)
(1)「行政財産を使用又は収益させる場合の取扱いの基準について」(通達)にある「新聞記者室」は,フリーランスやネットメディアの記者も利用できる。
(2)国会記者会が行っている本件会館の「管理」は,国有財産法でいう管理とは違い,本件会館を好き勝手にしてもいいという「管理」ではなく,「ちゃんとカギを閉めてください」というような一般的,日常的意味の「管理」である。
(3)「新聞記者室」を誰が利用できるのかの判断をするのは所管庁である。本件会館についても,「建物の使用目的に鑑み,国会記者会加盟社以外についても衆議院が必要と認めるものは使用できるものとし,この場合においても国会記者会が運営管理に当るものとする」という使用条件がある。
4 国会記者会加盟社以外のジャーナリストの対する国会会館使用許可の存在
(1)佐賀事務局長は,「イギリスのBBCテレビとタイアップしているジャーナリストが,福島第1原発事故に関するドキュメンタリーを制作するのに,国会記者会館の屋上から首相官邸を撮影したいというので,私が許可した」と述べ(前記第2,1,(4)),国会記者会に所属していないジャーナリストに対して本件会館の屋上から首相官邸の撮影を許可した前例があることを認めている。
(2)この対応は,上記2の見解に従うもので,記者クラブである国会記者会としては当然の対応である。また,上記1の衆議院事務局の見解にも沿うものである。
(3)この事実は,審査要求人らに対する本件妨害行為が明確に上1及び2の見解に反するものであることを示している。
5 「国の庁舎等の使用又は収益を許可する場合の取扱の基準について」(通達)
(1)本件通達,すなわち,「国の庁舎等の使用又は収益を許可する場合の取扱の基準について」(甲17)は,第1節の「第2 使用収益とみなさない場合」として,「国の事務,事業の遂行のため,国が当該施設を提供するものであるから」という理由で,「この基準における使用収益とはみなさないことができる」施設について列挙しており(傍点は審査要求人ら代理人による),その第2項に「新聞記者室」が掲げられている。
「国会記者事務所の使用について」(甲12)に記載されている「国会記者事務所」あるいは「記者事務用室」が甲17の「新聞記者室」に該当することは明らかである。
(2)甲12によれば,国会記者会が使用を許されている「新聞記者室」の範囲は,「別紙図面のとおり」とされており,佐賀事務局長によれば,それは,本件使用 範囲,すなわち「食堂・喫茶店・理髪店の営業スペース及び自動販売機設置部 分を除く本件会館全部」である(前記第3の第2項(2))。
前記のとおり,国会記者会は,「新聞記者室」の範囲が本件建物全体であることを前提として審査要求人らに対する本件妨害行為を繰り返してきた。
しかし,国会記者会に「新聞記者室」として本件会館の使用が承認され,その使用範囲を示す図面が存在する以上,佐賀事務局長がいうように一部を除き本件会館全部に対する使用が包括的に承認されているとは考えられない。
佐賀事務局長すなわち国会記者会がいう本件使用範囲は,「新聞記者室」(広辞苑によれば,「室」とは,座敷,部屋,居間のことである。)の概念と矛盾し,また「室」外の廊下部分も含むことになるなど「新聞記者室」の範囲を完全に超えるものである。
また,審査要求人らや裁判所の要請にもかかわらず国会記者会が頑なに「別紙図面」を提示しない事実(前記第3,2,(2))は,本件使用範囲と「別紙図面」における国会記者会の「新聞記者室」の使用範囲が一致しないものであることを示している。けだし,両者が一致するのであれば国会記者会は審査要求人らや裁判所に「別紙図面」を提示すれば足りることだからである。
さらに,本件使用範囲と「別紙図面」における国会記者会の「新聞記者室」の使用範囲が一致しないことは,裁判所内の記者クラブを見れば明らかである。たとえば,東京高等・地方裁判所の建物は国有財産(東京高等・地方・簡易裁判所合同庁舎)であり,その2階に「新聞記者室」としての司法記者クラブ専用のスペースがある。しかし,「新聞記者室」としての使用が承認された範囲が司法記者クラブ専用のスペースに限定されていることは明らかである。司法記者クラブ加盟社以外の誰もが通行・使用する裁判所の2階の廊下部分まで「新聞記者室」であるとすると,司法記者クラブは司法記者クラブ加盟社以外の者の通行も拒否できることになるからである。
加えて,財政法9条1項は,「国の財産は,法律に基く場合を除く外,これを交換しその他支払手段として使用し,又は適正な対価なくしてこれを譲渡し若しくは貸し付けてはならない。」と定めている。本件通達は,この例外として,「新聞記者室」は,「国の事務,事業の遂行のため,国が当該施設(新聞記者室)を提供するものであるから」使用収益とはみなさず,その無償使用を認めているのである。
したがって,その無償使用の範囲は,「国の事務,事業の遂行のため」に必要な最小限のものでなければならず,甲12が定める「国会関係取材のための新聞,通信,放送等の記者事務用室」という使用目的の範囲すなわち「記者事務用」のための「室」(部屋)に限定されていなければならない。
この範囲を超えるときは,本件通達が定める「新聞記者室」には該当せず,本件会館の「食堂・喫茶店・理髪店の営業スペース及び自動販売機設置部分」と同様に「行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度において,その使用又は収益を許可することができる」との国有財産法18条6項の規定に基づき,衆議院に使用許可申請をした上で,使用の対価を支払わなければならないのは当然のことである。したがって,本件使用範囲にかかる本件会館の使用は,国有財産法18条6項,財政法9条1項に違反する違法なものである。
以上のとおりであるから,本件妨害行為は,本件通達に違反し違法である。
(4)仮に,本件通達にいう「新聞記者室」の範囲が本件使用範囲であるとしても,本件通達には「別添1 使用許可ができる場合」として「当該施設の利用が行政財産の公共性,公益性,中立性に反せず,一時的又は限定的なため,業務運営上支障が生じない場合」を挙げ,その一例として「映画ロケ等のため使用」が掲げられている。審査要求人らの前記第2の第2項及び第3項の国会記者会に対する申入れ等が,この「映画ロケ等のため使用」の申入れ等に該当することは明らかであり,国会記者会の本件妨害行為は本件通達に反し違法である。
(5)また,「通達は,行政機関の内部関係における規範を定めるための形式であり,国民や裁判所を拘束する外部効果はない。すなわち,国民も裁判所も通達には拘束されない」(宇賀克也『行政法概説Ⅰ〔第4版〕』〔有斐閣,2011年〕)とされている。本件通達も同様に何ら裁判所や国民を拘束するものではない。したがって,仮に本件通達にいう「新聞記者室」の範囲が本件使用範囲であるとしても,本件通達をもって国民である審査要求人らに対する本件妨害行為を正当化する根拠足りえない。
(6)さらに, 本件会館は前記のとおり衆議院の所有であり,いわゆる行政財産である公物に該当する。
ア 公物の基本的な使用形態は伝統的に自由使用とされ,その自由使用が他の私人により妨害された場合には不法行為となり妨害排除請求権が認められると解されている(最高裁昭和39年1月16日第一小法廷判決・民集18巻1号1頁。宇賀克也『行政法概説Ⅲ行政組織法・公務員法・公物法〔第3版〕』〔有斐閣,2012年〕517頁以下参照)。したがって,仮に本件通達にいう「新聞記者室」の範囲が本件使用範囲であるとしても,国民の自由使用が基本とされている公物である本件会館の使用制限にあたっては,上記1の衆議院事務局の見解及び同2の日本新聞協会の「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」に照らすならば,審査要求人らのように本件会館において正当な取材行為を行おうとする者に対しては,物理的に困難である,あるいは現場において著しい混乱を生ずるなど,具体的な支障が生ずる現実的危険性があると明らかに認められる場合を除き,その取材行為を可能な限り受け入れるべきである。上記のとおり,本件通達が「当該施設の利用が行政財産の公共性,公益性,中立性に反せず,一時的又は限定的なため,業務運営上支障が生じない場合」には「使用許可ができる」として「映画ロケ等のため使用」を例示していることを銘記すべきである。
イ また,行政財産である公物を公用物として使用する場合には特定の合理的な行政目的が必要であり,当該行政財産の使用許諾に際して憲法上の規律が及ぶことは言うまでもない。
したがって,限られた行政財産を具体的にどの主体に幾らの対価で使用させるか等の決定について行政に一定の裁量権があるとしても,その使用態様が憲法の要請する平等的取扱いに反する場合には,行政による当該決定は憲法14条1項に違反し違憲無効である。
本件会館は,衆議院の単なる広報室の役割を超え,テレビ・新聞等の報道機関の取材拠点として供用されている。仮に本件会館が国会記者会の言うように国会記者会加盟社のみの使用を目的とし,加盟社以外が使用する場合には国会記者会の許可を要するものであるとすれば,それは憲法14条1項に反する公用物の使用にほかならず,甲12に基づく国会記者会による本件会館の使用は違憲・無効で許されない。
結局,国会記者会は,行政の適法性の原則に則り,具体的な支障が生じない限り公物である本件会館を公用物として国会記者会加盟社以外も含む全ての報道機関に対し,その取材のための使用を許諾しなければならないのである。
それは,上記衆議院事務局の見解(上記1)及び日本新聞協会の「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」(同2)に照らしても明らかであり,国会記者会もかかる許諾をしているのである(同3)。
ウ さらに,建物としての公物は,当該建物が奉仕する特定の行政目的のために供され,当該公物の管理者はこの目的に適合するようにこれを管理する義務を負う。その際の管理権の行使は全くの裁量に属するのではなく,その目的に相応しくない管理は許されない(塩野宏『行政法Ⅲ〔第3版〕』〔有斐閣,2006年〕350頁)。すなわち,公用物の管理権限を委ねられた者の管理権限の行使についても行政的規律は及ぶのである。本件は私人間の問題では全くない。本件妨害行為を私人間の問題として処理することは許されない。
本件会館は,取材の自由に資する目的で建てられ,甲12の使用目的及びその使用範囲のもとで,国会記者会に本件会館の日常的な管理が委ねられた。したがって,審査要求人らなど国会記者会加盟社以外の者から取材の自由に資する目的・態様の範囲内でその使用が求められた場合には,国会記者会はその確認をしたうえで適切にその管理権限を行使しなければならないのである。
そして,その権限行使に当たっては上記のとおり憲法14条1項に基づく平等な取扱いがなされなければならない。これに反する権限行使が憲法14条1項に違反する違憲無効の行為であることは言うまでもない。
6 結論
以上のとおり,国会記者会による審査要求人らに対する本件妨害行為は,衆議院事務局の見解(上記1), 日本新聞協会の「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」(上記2),財務省の見解(上記3)を明確に無視する違法なもので,報道の自由を保障する憲法21条1項に違反するとともに,憲法21条の精神に基づき十分に尊重されなければならない報道のための取材の自由を侵害するものである。
また,国会記者会加盟社以外のジャーナリストに対する撮影許可(上記第4項)との関係では,本件妨害行為は憲法14条1項に明確に違反する。
さらに,本件妨害行為は上記第5項のとおり,本件通達にも違反するものである。
そして,公物である本件会館の使用は憲法14条1項の平等原則に違反してはならないのであり(上記5),上記4にとどまらず国会記者会加盟社の会員とそれ以外のジャーナリストに対する対応の相違(その典型は,前者については毎週金曜日の本件会館屋上からの撮影を認め,後者についてはこれを拒否したこと。)は,端的に国会記者会の本件妨害行為が憲法14条1項に明確に違反するものであることを示している。
したがって,国会記者会の本件妨害行為は,衆議院事務局の見解(上記1), 日本新聞協会の「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」(上記2),財務省の見解(上記3),本件通達(上記5)及び憲法21条(報道の自由及び取材の自由の侵害)に違反し,また憲法14条1項(上記4及び5)に明確に違反するものである。
第6 本件審査要求の趣旨に基づく審査の不可欠性について
これまで述べてきたとおり,国会記者会の本件妨害行為は,①衆議院事務局の見解(前記第5,1), ②日本新聞協会の「記者クラブに関する日本新聞協会編集委員会の見解」(同2),③財務省の見解(同3)及び④本件通達(同5)に違反するとともに,⑤憲法21条(報道の自由及び取材の自由の侵害)及び⑥憲法14条1項(前記第5,4及び5)に明確に違反するものである。
国会記者会による本件会館の使用については,以上のとおり,少なくとも上記①~⑥の問題が存在する。それは,衆議院から本件会館の管理をゆだねられた趣旨に明確に反するものであり,上記①~⑥の国会記者会の違法・違憲の行為を是正し,本件会館という国有財産のその趣旨に則った適切な使用がなされなければならない。
上記の違法・違憲状態の原因は,国会記者会が本件会館全体を無償使用することを衆議院が承認していることにある。
よって,審査請求の趣旨のとおり,国会記者会による本件会館全体の無償使用が,財政法9条1項及び本件通達に違反しており,御庁が主務官庁である衆議院その他の責任者に対し,その是正をはかるよう通知することを求める。
なお,審査要求人らは,縷々述べたとおり,国家記者会により本件会館における取材行為,すなわち本件会館の使用を直接に妨害されたものであり,本件審査要求について,利害関係を有する者である。
証明方法
甲第1号証 「政府・東京電力統合対策室共同記者会見フリーランス連絡会」設立のご報告と参加のよびかけ
甲第2号証 全部事項証明書(土地)
甲第3号証 東京新聞2012年6月30日付朝刊第1面の記事
甲第4号証 週刊金曜日2012年10月26日号(917号)抜粋
甲第5号証 「国会記者会館,フリーランスを排除するも,警察官は出入り自由」と題する記事
甲第6号証 申入書(2012年7月17日付)
甲第7号証 申入書(同年8月16日付)
甲第8号証 佐賀から審査要求人寺澤宛の電子メール
甲第9号証 申入書(同年10月10日付)
甲第10号証 DVD(「国有財産である国会記者会館を記者クラブが私物化」と題する動画を記録)及びその反訳文
甲第11号証 DVD(佐賀事務局長が審査要求人に対し,その左手で,国会記者会館の敷地に入らないように妨害している状況の動画)
甲第12号証 「国会記者事務所の使用について」と題する書面
甲第13号証の1 「衆議院御中」と題する書面(衆議院に対する質問事項)
甲第13号証の2 「衆議院服部創公報課長の回答」と題する書面
甲第14号証の1 「ご質問」と題する書面
甲第14号証の2 「衆議院事務局からの回答」と題する書面
甲第15号証 国会記者会規約
甲第16号証 記者クラブに対する日本新聞協会編集委員会の見解
甲第17号証 「行政財産を使用又は収益させる場合の取扱いの基準について」と題する通達
甲第18号証 陳述書(審査要求人寺澤有)
甲第19号証 陳述書(審査要求人佐藤裕一)
甲第20号証 陳述書(審査要求人畠山理仁)
甲第21号証 「記者クラブに関する見解を財務省にきいた」
添付書類
1 甲号各証(写し) 各1通
2 委任状 9通
当事者目録
審査要求人 寺澤有
審査要求人 佐藤裕一
審査要求人 畠山理仁
審査要求人代理人弁護士 堀敏明
審査要求人代理人弁護士 山下幸夫
審査要求人代理人弁護士 倉地智広
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