「現在の危機は度を超している」。国連の潘基文(パンギムン)事務総長が北朝鮮を厳しく非難した。挑発的な動きを続ける北朝鮮が、停止中の黒鉛減速炉を再稼働させると表明したから[記事全文]
世界のどこかで、毎分1人の人の命が、武器によって奪われているという。この国際条約を、流血による犠牲者を減らす足場にしたい。国連総会で武器貿易条約が成立した。通常兵器の不[記事全文]
「現在の危機は度を超している」。国連の潘基文(パンギムン)事務総長が北朝鮮を厳しく非難した。
挑発的な動きを続ける北朝鮮が、停止中の黒鉛減速炉を再稼働させると表明したからだ。稼働すれば核兵器の材料となるプルトニウム生産が可能となる。
07年の6者協議での合意により、寧辺(ヨンビョン)にある黒鉛炉や核燃料再処理施設などを止めた。翌年には原子炉の運転に必要な冷却塔も爆破した。
再稼働の強行は、朝鮮半島の非核化を目指す6者協議の成果を全面否定することになりかねない。改めて北朝鮮に自制を強く求めたい。
金正恩(キムジョンウン)氏が最高指導者の地位である第1書記に就いて、もうすぐ1年を迎える。
若き最高指導者は、朝鮮戦争の休戦協定の白紙化や「核の先制攻撃の権利行使」など、矢継ぎ早に強硬策を繰り出している。米国を対話に引きずり出そうとの思惑からだろう。
きのうは、ワシントンでの米韓外相会談にぶつけるかのように、南北の唯一の経済交流の窓口である開城(ケソン)工業団地への韓国側からの通行まで封じた。
挑発の本意が戦争ではなく、外交上の駆け引きだとしても、不測の事態となる危険はある。
6者協議の関係国は、リスク管理のための外交戦略を練り直す必要がある。まずは日米韓3カ国が緊密に連携して、今後、北朝鮮とどう向き合っていくのかを真剣に検討することだ。
2月に就任した韓国の朴槿恵(パククネ)大統領は北朝鮮政策として「信頼プロセス」を掲げる。核実験後も南北対話を模索する姿勢を崩さず、「北の変化を待つのではなく、北が変化せざるをえない環境を韓国と国際社会でつくる」と訴える。
朴大統領は来月、米国を訪問し、オバマ大統領と北朝鮮問題を話し合う。日本も緊密に連携し、北朝鮮が変わる環境づくりに尽力したい。
黒鉛炉の再稼働は核問題だけでなく、事故リスクの観点からも周辺諸国には見過ごせない。
何年も止まったままの原子炉を再稼働させることは、安全上の問題が多い。旧式の黒鉛炉だと、なおのことだ。
北朝鮮は黒鉛炉とは別に、3年前から独自に軽水炉も建設中だ。来年中にも稼働するのではないかとの見方もある。
韓国では福島原発事故の後、北朝鮮での事故による放射能汚染への懸念が強まっている。この軽水炉の安全管理にも不安が尽きない。
北朝鮮発のリスクを減らしていく。そんな外交が急務だ。
世界のどこかで、毎分1人の人の命が、武器によって奪われているという。この国際条約を、流血による犠牲者を減らす足場にしたい。
国連総会で武器貿易条約が成立した。通常兵器の不正取引を規制する初の枠組みだ。
国連を舞台にした8年越しの交渉では、軍縮NGOに加えてアフリカや中南米、北欧が議論を引っ張った。採決では154もの国々が賛成した。
対人地雷、そしてクラスター爆弾の禁止条約づくりに続く歴史的な快挙といえよう。
規制の対象となるのは、戦車や軍艦、攻撃ヘリコプター、ミサイルなどの兵器と、銃など小型武器の計8種類。
加盟国がこれらの武器の貿易をする際、相手国が国連安保理決議による禁輸対象国だったり、集団虐殺や戦争犯罪に使われるとわかったりした場合、取引をしてはならない。
また、武器輸出の記録を条約事務局に報告し、闇市場への流出を止める努力をすることも求められている。
ただ、条約成立を手放しに喜んではいられない。条約に実効性を持たせるためには武器輸出大国の加盟が不可欠だ。
米オバマ政権が賛成したのは評価できる。しかし条約の批准承認には上院の3分の2の賛成が必要だ。全米ライフル協会が条約を認めないよう圧力を強めており、予断を許さない。
米国の関心が高い国際テロ対策を進めるうえでも、条約は効果を持つに違いない。上院は承認に動いてもらいたい。
残念なのは、ロシアと中国がともに採決で棄権に回ったことだ。ロシアは、支援するシリアのアサド政権に与える影響を懸念したのだろう。
ひとつでも多くの国に支持を広げ、中ロに再考を促すためにも米国の批准が必要だ。
中ロも、新たな国際的な枠組みに加わってこそ、責任ある大国といえるだろう。
採決では北朝鮮、イラン、シリアの3カ国が反対した。国連による制裁や非難にもかかわらず、兵器の輸入による軍備増強を進める姿勢は容認できない。
条約では、手投げ弾や軍用輸送機、さらに武器の贈与やリースが規制からはずれた。将来、規制の網を広げる方向で条約を見直すべきだろう。
日本は条約協議に熱心に加わり、交渉の妥結にも力を尽くした。武器輸出三原則を掲げる国として当然のことだ。
国際社会に日本の姿勢を改めて示すうえでも、国会は条約の承認を急いでほしい。