資金洗浄の拠点
キプロスをめぐるEUの内憂外患
地中海のリゾート地、キプロス共和国の銀行危機が世界の金融市場を揺るがしている。キプロスには租税回避地という別の顔がある。とくにロシアの政府系企業や銀行はキプロスに持ち株会社を登録。ここ経由でロシア本国に投資をしている。キプロスはロシア財閥&富裕層のマネーロンダリングの拠点というわけだ。
キプロスの預金総額は最大700億ユーロだが、このうち半分は非居住者の預金である。もし、10万ユーロ以上の大口預金に課税されるとロシアは20億ユーロ以上の資金を失うと試算されている。
EUは最大100億ユーロ(約1兆2200億円)の資金支援の条件として、すべての預金者に課税するよう求めたが、キプロスの国民が猛反発。ATM内の現金が数時間でなくなる取りつけ騒ぎに発展、銀行は休業に追い込まれた。
私は1982年、キプロスで「ワイン祭」を取材し、全国紙の文化面に書いた。キプロスは古代ローマ以前からワインを造っていたワインの源流の1つなのである。ワイン祭の会場にいたら「野村さん」と日本語で名前を呼ばれ、心底、驚いた。その人物は在日米国大使館からやってきたCIAの要員らしかった。キプロスは東地中海の軍事要衝でもあり、米ソのスパイが暗躍していたのだ。
55年、スエズ撤退後の英国が、この島に軍事基地を移したことをきっかけに、ギリシャ系住民とトルコ系住民の対立が表面化。60年に英国から独立したが、現在でも、南部のキプロス共和国が実効支配している地域(ギリシャ系)と、北部のトルコ軍の実効支配地域に分断されている。
そんなキプロスがロシアの裏金庫であることを承知の上で、EUは今回、預金課税の強硬策を決めた。急先鋒のドイツは9月の連邦議会選挙を控え、経営実態が不透明なキプロスの銀行支援を決められない事情がある。ドイツのキプロス批判も、内実は国内対策なのである。
今回はギリギリのところで妥協が成立したが、これ以上キプロスを追い込むと、ロシアの後ろ盾を得て、EUを離脱することもあり得た。EUは安全保障上の懸念が増し、世界中の市場で株価が一挙に下落したかもしれない。キプロスを失うことの得失をしっかり見極める必要がある。
※この記事の公開期間は、2016年03月27日までです。