水説:冷戦と1票の価値=倉重篤郎

毎日新聞 2013年04月03日 東京朝刊

 <sui−setsu>

 福田博氏(77)にとっては、30年前の屈辱が原点だった。在米大使館の総務参事官として、自民一党支配などを理由に、日本を民主主義国家とは認めない、とする米政府、議会要人たちにどれだけ反論行脚したことか。

 その後本省の局長、大使、外務審議官と上り詰めていく過程でもその構えは変わらなかった。が、1995年から10年間最高裁判事をつとめ、1票の格差是正訴訟を担当し、初めて認識を変えた。

 民主主義の根本である投票価値の平等が、この国ではいまなお実現されていない。民主主義社会では有権者が主権者である。政治家ではない。直接、間接民主制ともに有権者が多数決で物事を決する。であるにもかかわらず投票価値が平等でなければ何が多数かわからないではないか。

 目覚めた福田氏は、在任中の5回の合憲判決に、黙々と反対意見を書き続け、退官後も出版物や講演でその主張を全面展開してきた。それが奏功したか、3月に出そろった昨年12月総選挙結果に対する16件の高裁判決では、違憲14件(うち2件は無効)、違憲状態2件とまでなった。

 福田理論のもう一つの特徴は、元外交官らしく国際政治の枠組みにも論及する点だ。いわく。米ソ冷戦時代は、格差に目をつぶった合憲判決もやむを得ない側面があった。なぜならば、当時は共産主義という強力なイデオロギー的武器と、それと連動する国内政治勢力があり、政権の安定性を優先するという判断もあり得た、というのだ。

 中国の台頭を受けた現在の「米中冷戦」はどう見るのか。福田氏の見解は明快だった。中国の狙いは、偉大な中華圏作りと経済利益の拡大など勢力範囲の拡張。しかも、それを国内法や国内政策で決めているだけで、かつてのソ連が持っていた普遍的武器とはなり得ず、同列には論じられない。

 さて、先の16件を受けての最高裁上告審判決が年内にも言い渡される。福田氏からするとさまざまな観点から画期的判決が期待できる。注目点は、11年3月の最高裁の「違憲状態」判決にある「憲法の投票価値の平等の要求に反する」としたくだりだ。格差是正なら2倍近くても許容範囲だが、「投票価値の平等」となると、もっと厳格な物差しが示されてもおかしくない。

 「11年判決で最高裁は明らかに方向転換した。今度は違憲と言わざるを得ないし、一部無効もありえます」

 民主主義と冷戦から説き起こす判決予想。永田町はこれまでにない試練を迎えることになる。(専門編集委員)

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