東日本大震災

  • Check

第二部 安全の指標(18) 検査の意義 低い預託実効線量

千葉市にある放射線医学総合研究所。東京電力福島第一原発事故による内部被ばくの研究が進む

 県がホールボディーカウンター(WBC)による内部被ばく検査を開始したのは東京電力福島第一原発事故から約3カ月後の平成23年6月だった。千葉市の放射線医学総合研究所(放医研)で、先行地域の浪江町、飯舘村、川俣町山木屋地区の調査が始まった。
 当面の検査対象を原発事故当時、18歳以下と妊婦の合わせて約38万人とした。県の推計では、市町村が実施する独自検査を含め、これまでに検査を受けた県民は30万人前後とみられ、全体の8割程度にとどまっている。
 県実施分は現在、県所有のWBC8台、日本原子力研究開発機構(茨城県)の5台、新潟県放射線検査室、弘前大付属病院、広島大付属病院のそれぞれ1台で対応している。県地域医療課は「検査態勢は十分でない。県民から、もっと早くならないのかという声もある」と実情を明かす。だが、今のところWBCを追加購入する予定はない。導入には、車載型で1台1億円程度のコストがかかる。県民健康管理基金の予算を活用することになるが、県民健康管理調査や甲状腺検査などにも多額の費用がかかり、追加導入までは予算が回らないのが現状だ。
 ■ ■
 検査はまだ道半ばだが、これまでの県の検査で、摂取した放射性物質から将来にわたって受ける放射線総量を表す預託実効線量は低いことが分かってきた。県実施の検査は2月末までに11万8930人が受けている。このうち、1ミリシーベルト未満が11万8904人で、99.9%以上を占めた。1ミリシーベルト以上1.4ミリシーベルト以下が14人、1.5ミリシーベルト以上2.4ミリシーベルト以下が10人、2.5ミリシーベルト以上3.4ミリシーベルト以下は2人だった。
 放医研によると、外部被ばくでは、飛ぶ力が強いガンマ線だけの影響を受けるが、内部被ばくの場合はガンマ線に加えて飛ぶ力の弱いアルファ線やベータ線の影響を受ける。放射性物質の種類によって、集積しやすい臓器がある場合は、その臓器への影響を個別に考慮する必要がある。これらのことを含めて人体への影響を表すのが実効線量で、預託実効線量はおよそ一生分の実効線量を累計した値だ。
 「自然界から浴びる放射線量の世界平均は1年間で約2.4ミリシーベルト。食品からも摂取するカリウムによる1年間の被ばく線量は約0.3ミリシーベルト。こうしたことから考えても3ミリシーベルト程度の預託実効線量が健康に何らかの影響を与えることはないと言える」。放医研緊急被ばく医療研究センター内部被ばく評価室長で工学博士の栗原治(42)はこう分析する。
 ■ ■
 栗原は「放射線の与える影響は、分かっていない部分がある」と付け加える。外部被ばくと違って内部被ばくは内臓に蓄積されるため、継続的に放射線に当たることになる。「それを追っていったデータはほとんどない。放射線がどのように細胞に当たってどう影響するか。最終的な影響が分かっても、何でこうなったかが明らかになっていない部分がある」と説明する。
 県以外に、独自にWBCによる内部被ばく検査を実施している市町村は南相馬市、いわき市など15市町村。だが、県は各市町村の実施状況の詳細なデータを確認し切れておらず、当面の検査対象分が全て終了するのが25年度のいつになるのかも見通せていない。検査の現場からは、全体像を把握するため、科学的データの蓄積の必要性を指摘する声が上がっている。(文中敬称略)

※預託実効線量 内部被ばくによる線量は摂取した放射性物質から、将来にわたって受ける放射線の総量を考える。取り込んだ放射性物質が時間とともに体内から減少することなども考慮する。おおよそ一生分として、大人の場合は向こう50年、子どもは70歳になるまでの年数で線量を積算する。

カテゴリー:ベクレルの嘆き 放射線との戦い

「ベクレルの嘆き 放射線との戦い」の最新記事

>> 一覧

東日本大震災の最新記事

>> 一覧