では、体罰を乗り越える道はあるのだろうか。
まずは部活指導の現場の側から考えてみよう。過去も含めて東三河地区高校の強豪部活で体罰に頼らなかったは指導者の共通点は何だろう。
関係者の声を総合すると、「生徒の自立性を育てる指導を行っていた」に落ち着く。
その1人として挙げられたのが、昭和30〜50年代に豊橋東高校の男子バスケットボール部を指導した後藤善之助さん。後藤さんは東京教育大(現・筑波大)を卒業後、同校に赴任。
競技を通じて自立心を養うことを主眼に指導し、練習時間わずか2時間。しかもほとんどが小柄な選手ばかりだったが、生徒の自主性を大切にした合理的な練習で全国上位の力をつけさせ、1967年のインターハイでは全国準優勝に輝いている。
近くは、豊川工のライバル、豊川で昨年度まで男子駅伝部を率いた北野孝英さんも、自立心を大切にした。
北野さんはトヨタ自動車長距離部でランナーとして活躍。05年に豊川男子の監督となってから、チームの力を急速に引き上げた。
北野さんは指導の目的を「走ることを好きになってもらうこと」に置き、選手たちの自主性を大切にした。
周囲から「甘い」と言われながら、選手が卒業後に大学や実業団で伸び伸びと競技に打ち込めるよう、在学中に能力を搾り取るのを避け、余力を残して送り出した。
その指導のなかから、今年の箱根駅伝の4区で区間賞を獲得した田中秀幸選手(順大4)が生まれた。
体罰を避けるには、実績を上げた指導者のなかから、体罰に頼らずに強くした事例を探し、冊子にして部活指導者に配布することも有効かもしれない。
そのとき、注意すべきは実績を全国大会での活躍だけに絞り込まないことだ。「生徒の将来を考えて、才能の開花を次の指導者に託す」、そうした勇気ある指導者にも目を配ることだ。
実績主義が体罰の温床になった、今回の豊川工の問題を忘れてはいけない。
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