かつて在籍した部員の父親は、こう語る。「あれは指導ではない」と。
この父親は「直接目撃したのではないが」と前置きした上で、陸上部顧問の教諭(50)が部員OBに対してふるった暴力を話した。
この部員は教諭の尽力もあって、大学に推薦してもらえた。「しかし、入学後に体調を壊して、大学で長距離を続けられなくなった」という。教諭は、この卒業生を学校に呼び出して殴った。「おそらく自分の体面をつぶしたという理由なのだろう。失意のどん底にいる人間を励ますのではなく、殴る。これを指導といえるのですか」
今回、豊川工が公表した体罰の中にも、明らかに常軌を逸したものがあった。
昨年の10月、教諭は女子部員を殴った。ほかの部員の見ている前、数発殴った。
この女子部員は入学後、思うように走れず、記録も伸びずに悩んでいた。女子生徒は中学時代、県内トップクラスの選手。希望に胸膨らませて豊川工陸上部に入った。
自分に自信を失い、将来の見えなくなった女子部員を待っていたのは、励ましや慰めではなく体罰だった。関係者の中には、10月以前にもこの女子部員に体罰を加えていたという証言がある。平手だけでなくげんこつも伴った。
女子部員は登校ができなくなり、12月に退学した。ショックで、いまだ自宅に引きこもったままだという。
さかのぼって昨年7月末には、長期合宿で男子部員を殴り、鼓膜を傷つけるけがを負わせている。
男子部員は岐阜県の学校に転校した。関係者によると、かなりの力で殴られており、いまだに完治していないという。
なぜ、教諭は体罰を加えたり、激しい言葉を吐かなければならなったのだろうか。
冒頭の父親は、教諭の行為を批判しながらも、教諭の指導力を高く評価する。「一人ひとりの部員に、寄り添って指導してくれた。技術的なアドバイスは図抜けていた。すばらしい指導力だった」
なぜ、この卓越した指導力に、体罰が伴うようになったのか。教諭本来の資質だったのか、それとも体罰に誘う外的要因があったのだろうか。
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