連載 : 数学ガールの秘密ノート / 結城浩
第13回 センター試験の数学的帰納法(前編)
教養
この記事はcakesの有料記事ですが、3月25日〜4月3日の期間は無料公開をしています。
cakesにご加入いただくと、過去記事もふくめてすべて見放題でお楽しみいただけます。
テトラ「先輩。センター試験で数学的帰納法というものが出題されましたね」
僕「そうだね」
テトラ「名前から、なんだかとっても難しそうなんですが……」
僕「名前からは難しそうに見えるけど、理解するのはそれほど難しくないよ。 先走った思い込みを捨てて、ていねいに一つ一つ考えれば」
テトラ「それで……あのう……」
僕「ん?」
テトラ「もし先輩のお時間がよろしければ、解説していただければと思いまして……」
僕「ああ、そうだね。じゃあいっしょにセンター試験を解いてみようか」
テトラ「はいっ!」
僕「数学的帰納法が出てきたのは大学入試センター試験(2013年)の数学II・数学Bの第3問(選択問題)で、そのうちの(2)だね」
テトラ「はい」
僕「第3問には(1)と(2)があって、両方とも数列の問題だよ。(1)はよくあるタイプの問題で、数列の一般項と数列の第 $n$ 項までの和を求めるもの。 (1)の答えは(2)の最後にちょこっと関連しているだけだから、(2)だけを話すね」
テトラ「はい、わかりました。よろしくお願いします」
僕「まずはふつうに問題文を読んでみよう」
問題文(その1)
正の数からなる数列 $\{ a_n \}$ は、初項から第 $3$ 項が $a_1 = 3, a_2 = 3, a_3 = 3$ であり、すべての自然数 $n$ に対して $$ a_{n+3} = \frac{a_n + a_{n+1}}{a_{n+2}} \qquad \text{ $\cdots$ 【2】} $$ を満たすとする。 また、数列 $\{ b_n \}, \{ c_n \}$ を、自然数 $n$ に対して、 $b_n = a_{2n - 1}, c_n = a_{2n}$ で定める。 数列 $\{ b_n \}, \{ c_n \}$ の一般項を求めよう。 まず、【2】から $$ a_4 = \frac{a_1 + a_2}{a_3} = \text{[シ]}, a_5 = 3, a_6 = \frac{\text{[ス]}}{\text{[セ]}}, a_7 = 3 $$ である。 したがって、 $b_1 = b_2 = b_3 = b_4 = 3$ となるので、 $$ b_n = 3 \qquad (n = 1, 2, 3, \ldots) \qquad \text{ $\cdots$ 【3】} $$ と推定できる。 【3】を示すためには、 $b_1 = 3$ から、すべての自然数 $n$ に対して $$ b_{n+1} = b_n \qquad \text{ $\cdots$ 【4】} $$ であることを示せばよい。このことを……(以下続く)
テトラ「ちょ、ちょっと待ってください先輩。もうすでに頭がパンクしそうです」
僕「あ、そうだね。ごめんごめん。一度にぜんぶ読むんじゃなくて、一文ずつ説明しようか」
テトラ「ず、ずいぶん長くて複雑な問題文で……しかも、まだ先があるんですよね」
僕「そうだね。長い文章で書かれた問題文はどうしても身構えてしまうかな。試験のときはすばやく読むことも必要だけど、いまは理解することが大事だから、 くぎって《少しずつ読む》ようにしようか」
テトラ「少しずつ……」
僕「そう。中途半端な理解のまま、全体を急いで読んだとしても結局なにもわからないで終わってしまう。せっかくだから、少しずつ読もう。ひとつひとつ理解を確かめながら」
テトラ「はいっ!」
僕「まずこんな表現が出てくる」
テトラ「はい。正の数というのはわかります。プラスの数のことですね」
僕「そうだね。それでいいよ。それから数列というのはその名の通り、数の列のこと。 $1, 2, 3, 4, \ldots$ も数列だし、 $2, 4, 6, 8, \ldots$ というのも数列になる。 $1.1, -3.2, 0, 5.3, -7.4, \ldots$ なんていうのも数列」
テトラ「あれ、でも、プラスの数……」
僕「あ、そうだね。この問題文では《正の数からなる数列 $\{ a_n \}$ 》といってるから、数列 $\{ a_n \}$ は、 $1.1, -3.2, 0, 5.3, -7.4, \ldots$ のようなゼロやマイナスの数が入っている数列ではないわけだ」
テトラ「はい」
僕「いろんな数列を考えることができるけど、一般的に数列はこんなふうに表現できる」
$$ a_1, a_2, a_3, a_4, \ldots $$テトラ「この $a_1$ や $a_2$ といったものがすべて数を表している……ということですね?」
僕「そうそう。実際には数だけど、それに番号付きの名前を付けているわけだね。この数列の $1$ 番目の数を $a_1$ と表し、 $2$ 番目の数を $a_2$ と表し……という具合だ」
テトラ「はい、わかります」
僕「そして、ある数列全体のことを $\{ a_n \}$ と書き表しているんだね、この問題文では」
テトラ「ははあ……これっていうのは、実際には何かの数の列なんですよね?」
僕「そうだよ。問題文の続きを読むと、どんな数の列なのか、最初のいくつかは具体的に書いてあるよ」
テトラ「あ、そうですね。数列の $1$ 番目の数が $3$ で、 $2$ 番目の数が $3$ で、 $3$ 番目の数が $3$ で……あれれ? ぜんぶ $3$ ですか?」
僕「いやいや、問題文にはそうは書いていないね。ほらほら、それが先走った思い込みだよ!」
テトラ「あちゃちゃ! そうですね、すみません」
僕「問題文をここまで読んできてわかったのは、数列 $\{ a_n \}$ は、 $3, 3, 3, $ という数で始まるということだ」
$$ 3, 3, 3, \ldots $$テトラ「そうですね」
僕「センター試験はマークシート式だけど、マークを塗ることだけを考えていちゃだめなんだよ。あくまで出された数学の問題を解く、という気持ちになること。 数学の問題がきちんと解ければ正しくマークできる。 そして、問題をきちんと解くためには問題文をしっかり読まなくちゃいけない」
テトラ「なるほど。それはそうですね……問題文をしっかり読む」
僕「じゃ、問題文の続きを読もう。数列 $\{ a_n \}$ の説明が続いているよ」
テトラ「先輩、あたし、【2】のように文字がたくさん出てくる数式が苦手なんです……」
僕「こわがらないでよく見てごらん。この【2】という式を見て、何かわかることはあるかな」
テトラ「ええと……ええと……【2】に出てくる文字はぜんぶ、 $a_\text{なんとか}$ という形ですね」
僕「そうそう。もう少しきちんと読むと、【2】に出てくる文字は、 $a_n$ と $a_{n+1}$ と $a_{n+2}$ と $a_{n+3}$ だ」
テトラ「あの……ここに出てくる $n$ って何でしょう」
僕「問題文を読もう。《すべての自然数 $n$ に対して》って書いてあるよね。自然数というのは $1,2,3,4,\ldots$ という数のことだから、 この【2】という式の $n$ に $1,2,3,4,\ldots$ のどの数を入れても、【2】という等式が成り立つ――っていってるんだ」
テトラ「誰がですか? 誰がそういってるんですか?」
僕「問題作成者が、だよ。この問題を作った人がそういってる。問題作成者は、この【2】という式を使って 数列 $\{ a_n \}$ を定義しているんだよ!」
テトラ「ははあ……」
僕「数列は数の列。さっき、 $a_1 = 3, a_2 = 3, a_3 = 3$ という三つの式で、数の列のうち最初の $3$ 項はわかっている。でも、そこから先はわからない。 だけど、この【2】という式を使えば、その先の項 $a_4, a_5, a_6, \ldots$ をずっと決めることができる」
テトラ「ずっと……ずっと決められるんですか。無限に?」
僕「まあそうだね。《無限に決める》という言い方は誤解を生みそうだけれど。どんなに大きな自然数 $n$ に対しても $a_n$ は決められるということ。 たとえば $10000$ に対しても、 $a_{10000}$ は決められる。【2】の式を使えばね」
テトラ「あ、あの……ごめんなさい、【2】の式をどう《使う》のかわからないです。ものわかりが悪くてすみません」
僕「もう一度【2】の式をよく見よう。こわがらずに落ち着いて、式の形をよく見るのは大事だよ」
テトラ「複雑ですね。えっと、式の形は、分数です。それから……えっと、あとは?」
僕「うん。ここで大事なのは、《右辺》に $a_n, a_{n+1}, a_{n+2}$ があって、《左辺》に $a_{n+3}$ があるというところなんだ」
テトラ「はあ……どうしてでしょう」
僕「なぜ大事かというとね……いいかい、ここがポイントだよテトラちゃん。【2】の式を使えば《 $a_1, a_2, a_3$ から $a_4$ が計算できる》からなんだよ」
テトラ「え……あっ! 確かにそうですねっ!」
僕「【2】の $n$ に $1$ を代入すれば、右辺に出てくる $a_1, a_2, a_3$ から左辺の $a_4$ が計算できる。次に、【2】の $n$ に $2$ を代入すれば、右辺に出てくる $a_2, a_3, a_4$ から左辺の $a_5$ が計算できる――これは、わかるよね?」
テトラ「先輩っ! わかりますわかります! 《 $a_1,a_2,a_3$ から $a_4$ 》、《 $a_2,a_3,a_4$ から $a_5$ 》、《 $a_3,a_4,a_5$ から $a_6$ 》……これを繰り返せば、 どんなに大きな自然数 $n$ についても $a_n$ が計算できるんですねっ!」
僕「そうそう。さえてるよ、テトラちゃん。機械的に繰り返せばいいということがわかる。 だから、《 $a_1 = 3, a_2 = 3, a_3 = 3$ という具体的な数》と、 《【2】という式》の二つを使って、 数列 $\{ a_n \}$ を定義していることになる。 【2】の式が分数かどうかというのはまずはどうでもいい。 最初に押さえておかなくちゃいけないのは、 ここで《数列 $\{ a_n \}$ を定義している》ということなんだ」
テトラ「はわわ……数式はそういうふうに読むんですか……」
僕「【2】のように数列を定めている数式のことを、数列の漸化式っていう。この問題文では《数列 $\{ a_n \}$ を、最初の $3$ 項と、次の $1$ 項を得る漸化式によって定義している》といえる。 ここまで、わかった?」
テトラ「はいっ! よくわかりました」
テトラ「先輩! あたしは最初、文字がいっぱいあるし、ややこしい式が出ている……って思ったんですが、先輩の説明をお聞きしてよくわかりました。 ここではとにかく、数列 $\{ a_n \}$ を計算できるようにしてるんですね!」
僕「そうそう、そういう理解でいいよ。数学の問題は、こんなふうに一歩一歩読めばちゃんと理解できるんだよ。 でも、なかなか数学的帰納法まで行き着かないなあ」
テトラ「いえいえ、先輩。ここまででも、すごく勉強になります。 なんだか、頭の中がすごく整理されたようです。 数式がごちゃごちゃごちゃっと散らかっていたのに、 スキッと片付きました」
僕「それはよかった。じゃあ、センター試験の問題文、続きを読もうか」
テトラ「あ、あの……先輩、すみません。せっかく計算のやり方がわかったので、あたし、【2】を使って具体的に $a_4, a_5, a_6, \ldots$ を計算してみたいんですけど……」
僕「ああ、そうだね。テトラちゃんの気持ちはよくわかるよ。やってみて」
テトラ「はいっ! では、計算します。まず $a_4$ ですね」
$$ \begin{align*} a_{n+3} &= \frac{a_n + a_{n+1}}{a_{n+2}} && \quad \text{【2】の式} \\ \text{【2】の式に $n = 1$ を代入する} & \\ a_{1+3} &= \frac{a_1 + a_{1+1}}{a_{1+2}} && \\ a_{4} &= \frac{a_1 + a_{2}}{a_{3}} && \quad \text{足し算を計算した} \\ &= \frac{3 + 3 }{3} && \quad \text{ $a_1 = 3, a_2 = 3, a_3 = 3$ を使った} \\ &= \frac{6}{3} && \quad \text{ $3+3=6$ を計算した} \\ &= 2 && \quad \text{ $6 \div 3 = 2$ を計算した} \end{align*} $$僕「いいね。 $a_4 = 2$ になった」
テトラ「次は $a_5$ を計算します」
$$ \begin{align*} a_{n+3} &= \frac{a_n + a_{n+1}}{a_{n+2}} && \quad \text{【2】の式} \\ \text{【2】の式に $n = 2$ を代入する} & \\ a_{2+3} &= \frac{a_2 + a_{2+1}}{a_{2+2}} && \quad \text{} \\ a_{5} &= \frac{a_2 + a_{3}}{a_{4}} && \quad \text{足し算を計算した} \\ &= \frac{3 + 3 }{2} && \quad \text{ $a_2 = 3, a_3 = 3, a_4 = 2$ を使った} \\ &= \frac{6}{2} && \quad \text{ $3+3=6$ を計算した} \\ &= 3 && \quad \text{ $6 \div 2 = 3$ を計算した} \end{align*} $$僕「 $a_5 = 3$ なんだ」
テトラ「そのようですね。次は $a_6$ です」
$$ \begin{align*} a_{n+3} &= \frac{a_n + a_{n+1}}{a_{n+2}} && \quad \text{【2】の式} \\ \text{【2】の式に $n = 3$ を代入する} & \\ a_{3+3} &= \frac{a_3 + a_{3+1}}{a_{3+2}} && \quad \text{} \\ a_{6} &= \frac{a_3 + a_{4}}{a_{5}} && \quad \text{足し算を計算した} \\ &= \frac{3 + 2 }{3} && \quad \text{ $a_3 = 3, a_4 = 2, a_5 = 3$ を使った} \\ &= \frac{5}{3} && \quad \text{ $3+2=5$ を計算した} \\ \end{align*} $$僕「 $a_6 = \frac{5}{3}$ が計算できたね」
テトラ「あれれ、分数が出てきちゃいました……」
僕「数列に分数が出ても特に問題はないよ」
テトラ「そうですか。では次に $a_7$ を」
$$ \begin{align*} a_{n+3} &= \frac{a_n + a_{n+1}}{a_{n+2}} && \quad \text{【2】の式} \\ \text{【2】の式に $n = 4$ を代入する} & \\ a_{4+3} &= \frac{a_4 + a_{4+1}}{a_{4+2}} && \quad \text{} \\ a_{7} &= \frac{a_4 + a_{5}}{a_{6}} && \quad \text{足し算を計算した} \\ &= \frac{2 + 3 }{\frac{5}{3}} && \quad \text{ $a_4 = 2, a_5 = 3, a_6 = \frac{5}{3}$ を使った} \\ &= \frac{5}{\frac{5}{3}} && \quad \text{ $2+3=5$ を計算した} \\ &= 5 \div \frac{5}{3} && \quad \text{分数を割り算の形に} \\ &= 5 \times \frac{3}{5} && \quad \text{分数の割り算を掛け算の形に} \\ &= 3 && \quad \text{計算した} \\ \end{align*} $$僕「今度は $a_7 = 3$ になったね」
テトラ「自然数に戻るとほっとします。ここまでで、 $a_1$ から $a_7$ までが判明しましたっ!」
$$ a_1 = 3, a_2 = 3, a_3 = 3, a_4 = 2, a_5 = 3, a_6 = \frac{5}{3}, a_7 = 3, \ldots $$僕「ねえ、テトラちゃん?」
テトラ「はいはい、どんどん行きますようっ! 次に……」
僕「ねえ、テトラちゃん、気づいてた?」
テトラ「あ、す、すみません。こんなことやってたらいつまでも終わらないですよね!」
僕「いや、そういうことじゃなくて」
テトラ「はい?」
僕「テトラちゃんはセンター試験の問題、空欄の[シ][ス][セ]に答えたことになるんだよ!」
テトラ「え! あ、ほんとですね!」
テトラ「いつの間に! えっと……[シ]は $2$ で、[ス]は $5$ で、[セ]は $3$ ですっ!」
僕「ねえテトラちゃん。テトラちゃんの発想は自然で正しかったということだよ。 【2】のような式が与えられて $a_4, a_5, a_6, \ldots$ が計算できるなら、計算してみたいという気持ちは自然で正しい」
テトラ「そうなんですね……うれしくなります!」
別の数列の登場
僕「ところでセンター試験の問題文に戻ってみると、空欄の[シ][ス][セ]に入る前に《別の数列》の話が出てくる」
テトラ「えっと、えっと……」
僕「落ち着いて。二つの数列が出てきているよね。何と何?」
テトラ「はい。数列 $\{ b_n \}$ と数列 $\{ c_n \}$ ですね……」
僕「うん、そうだね。ではそれぞれの数列の定義はわかるかな」
テトラ「またまた《定義》ですね! はい、わかります」
$$ \begin{align*} b_n &= a_{2n - 1} && \text{ $b_n$ の定義}\\ c_n &= a_{2n} && \text{ $c_n$ の定義}\\ \end{align*} $$僕「うん、それでいいよ。今度は、 $b_n$ と $c_n$ を、数列 $\{ a_n \}$ を使って定義したことになるね」
テトラ「はい」
僕「いまテトラちゃんが書いてくれた式は、問題文のここに書いてある通りだ」
テトラ「はい、そうです。あの、先輩。思ったんですが、問題文に出てくる《……で定める》のような言葉って大事ですね。 さっきは《……を満たすとする》という言葉でした。 この《……で定める》っていう言葉で定めている人は、問題作成者さんですね!」
僕「そうそう。問題を作る人が、そう《定めた》わけだね」
テトラ「ゲームのルールを決めるみたいに……ですよね?」
僕「その通りだね。ところでこの $b_n = a_{2n - 1}$ はどう読めるだろう」
テトラ「え? $b_n$ は $a_{2n - 1}$ に等しい、ですよね」
僕「うん、そうなんだけど、これは $b_n$ を定義している式だから、《 $b_n$ を $a_{2n - 1}$ で定義する》のほうがいいかな。……でね、 $a_{2n - 1}$ というのは具体的にどういうこと?」
テトラ「数列 $\{ a_n \}$ の、えっと、 $2n - 1$ 番目の数です!」
僕「それも正しいけど……うーん、聞き方が悪かったかな。じゃ $n = 1, 2, 3, 4, \ldots$ のとき、 $2n - 1$ は何を表すかわかる?」
テトラ「 $n = 1$ なら $2n - 1 = 1$ です。 $n = 2$ なら $2n - 1 = 3$ です。 $n = 3$ なら $2n - 1 = 5$ で……あ、 $2n - 1$ は奇数になるんですね」
僕「そうそう。だから結局、《数列 $\{ b_n \}$ は、数列 $\{ a_n \}$ の奇数番目の数をひろってできる数列》ということ。 $2n - 1$ は奇数を作り出す式だね。 $n = 1,2,3,4,5,\ldots$ のとき $2n - 1 = 1, 3, 5, 7, 9, \ldots$ になる」
テトラ「わかりました。あ、数列 $\{ c_n \}$ の方は $a_{2n}$ ですから、偶数ですね!」
僕「そうだね」
数列 $\{ c_n \}$ は、 $a_{2}, a_{4}, a_{6}, a_{8}, a_{10}, \ldots$ という数列。
僕「親切にも問題作成者は、この問題がどこに向かおうとしているかを教えてくれている。問題文を読もう」
僕「ここでのキーワードは何だと思う?」
テトラ「一般項、ですよね」
僕「そうそう、テトラちゃん、それでいいよ。数列 $\{ b_n \}$ の一般項は、 $b_n$ のこと。そして数列 $\{ c_n \}$ の一般項は、 $c_n$ のこと」
テトラ「えっと、つまり、《その数列の $n$ 番目の数は何ですか?》と聞いたときの答えということでしょうか、一般項というのは」
僕「そうだよ。一般項といってもいいし、第 $n$ 項といってもいい。《数列の一般項を求める》というのはテトラちゃんが言ったように《その数列の $n$ 番目の数を求める》ことなんだけど、 多くの場合は、その一般項を数式で表すのが目標になることが多いね。 $n$ が与えられれば $n$ 番目の数を求めることができるように」
テトラ「はい。一般項――わかりました」
テトラちゃんがいつもの《秘密ノート》を開いてメモを取る。
僕「目標は数列 $\{ b_n \}, \{ c_n \}$ の一般項を求めることなんだけど、問題文ではそれに続いて、さっきテトラちゃんが求めた、 $a_4, a_5, a_6, a_7$ の話になるね」
テトラ「これはさっき埋めました。[シ]は $2$ で、[ス]は $5$ で、[セ]は $3$ です。さっき、分数が出て不安になりましたけど、ちゃんと解答欄が分数になっていて安心しました」
僕「ああ、そうだね。それから、テトラちゃんが自分で計算した $a_5 = 3$ と $a_7 = 3$ も問題文と合ってたわけだ」
テトラ「問題文に出てきていたのですね……計算しちゃいました」
僕「いやいや、自分がちゃんと正しい道を歩いている証拠だよ」
テトラ「ではっ、問題文の続きを読みましょうっ!」
数列の推定
僕「この文が何をいってるか、わかる?」
テトラ「はい! わかる……と思います。 $b_1,b_2,b_3,b_4$ っていうのは奇数番目の $a_1,a_3,a_5,a_7$ ですから、ぜんぶ $3$ に等しくなります。 $b_1$ から $b_4$ までがぜんぶ $3$ に等しいので、 $b_5, b_6, b_7, \ldots$ がずうううっと $3$ に等しい! 問題作成者さんはそう主張してるんですね!」
僕「いやいや、正確にはそのように《主張》してるんじゃなくて、まだ《推定》の段階だね」
テトラ「あれ、あれれ?」
僕「ほら、わざわざ《と推定できる》って書いている。ここではまだ《推定》なんだ。 だって、 $3$ に等しいって確かめたのはあくまで $b_1, b_2, b_3, b_4$ の $4$ 個の項だけだよね。 だとしたら、 $b_5$ や $b_6$ や $b_{10000}$ が $3$ に等しいなんてことはまだ言えないから」
テトラ「ははあ、それはそうですね。それなら、どんどん計算していけばいいですねっ!」
僕「いやいや、そうじゃないよ。ここではどんどん計算したいわけじゃない」
テトラ「違うんですか」
僕「いくら具体的に計算して確かめても、確かめた範囲でしか確実なことはいえないからね」
テトラ「それは……当たり前じゃないでしょうか。確かめた範囲でしか確実なことはいえませんよね」
僕「テトラちゃん、そこで数学が登場するんだよ! 計算するのではなく、証明するときが来たんだ」
テトラ「証明……する」
証明の登場
僕「問題文の続きを読もう」
僕「ここに《示せばよい》と書いてあるよね。数学では《証明する》ことを《示す》と表現することがある。 だから、この問題文はこういっているのと同じになる」
テトラ「すみません。ちょっと話題がそれちゃうんですが、質問いいですか?」
僕「いいよ、なに?」
テトラ「この問題には《すべての自然数 $n$ に対して》と書いてありますよね」
僕「そうだね」
テトラ「ということは……あのう《 $n = 1, 2, 3, 4, \ldots$ のようにどんな自然数に対しても》ってことですよね」
僕「そうだね。どんな自然数 $n$ に対しても $b_{n+1} = b_{n}$ を証明すればいい」
テトラ「そんなこと、できるんですか。だって、無数にあるんですよね。自然数は」
僕「そう、そうなんだよテトラちゃん。そこがすごく難しくて、すごくおもしろいところなんだ。自然数は無数にある。だから、一個一個試してみるわけにはいかない。 計算して確かめるんじゃなくて、証明することが必要になるんだ」
テトラ「……」
僕「証明できれば、自然数が無数にあっても大丈夫」
テトラ「すべての自然数に対して証明すれば大丈夫……?」
僕「そう。そして、数学にはすべての自然数に対して証明するための方法がある」
テトラ「そんなものがあるんですか?」
僕「そうだよ。すべての自然数に対して証明するための方法、それがセンター試験に出た数学的帰納法なんだ!」
テトラ「……!」
僕「数学的帰納法がいったいどういうものか、それはさっき読んだ問題文(その1)の続きにズバリ出てくる」
問題文(その2)
……このことを「まず、 $n = 1$ のとき【4】が成り立つことを示し、 次に、 $n = k$ のとき【4】が成り立つと仮定すると、 $n = k+1$ のときも【4】が成り立つことを示す方法」を用いて証明しよう。 この方法を[ソ]という。 [ソ]に当てはまるものを、次の〔0〕~〔3〕のうちから一つ選べ。
〔0〕組立除法 〔1〕弧度法 〔2〕数学的帰納法 〔3〕背理法
(問題文はさらに続く)
テトラ「……」
僕「だから、この[ソ]の正解は〔2〕の数学的帰納法ということになる。ちなみに、〔0〕の組立除法は多項式の割り算のやり方。 それに〔1〕の弧度法は角度を「度」じゃなくて「ラジアン」で表す方法。 つまり〔0〕も〔1〕もそもそも証明の方法じゃない。 〔3〕の背理法は証明の方法だけど、 これは証明したい命題の否定を仮定すると矛盾が導けるという方法で、 自然数の証明とは直接関係はない」
テトラ「……」
僕「ん? テトラちゃん、どうしたの。背理法のこと、詳しく話す?」
テトラ「い、いえ、そうじゃなくて、あたしはこの問題文の意味がさっぱりわからないんです。これは……日本語なんでしょうか?」
僕「そうだね、とても日本語には思えない。これもまた、《少しずつ読む》ことが大事なんだよ。いいかい――」
(第14回へ続く。いよいよ数学的帰納法へ! 次回、黒髪の才媛ミルカさんが登場します!)