■「子供を産めるのか」は、気にしなくて良い
――「福島県の人たちの不安」ということに関連してなんですが、一時期、福島県で「子供を産めるのか」という話がありました。たとえば、「私たちは子供を生めるんですか?」という不安を持つ女子高生がいたとしたら、菊池さんはどのように答えますか?
答えるのは簡単で、「被曝の影響は気にしなくて良い」ですよ。つまり、今回のような低線量の被曝でそんな問題が起きるとは考えられていない。本当は「子供が生めますか?」だなんて、そんなことを高校生に言わせちゃいけないんだけど、言わせる人がいるじゃないですか。僕はむしろそういうことを言わせる大人たちに怒りを覚えるんですが・・・
本当に自発的に言っているならまだしも、言わせるならなおのこと、彼女らの心の傷になりますよね。だけど、科学的には全然問題ない。問題ないって言う意味は、よその土地に住んでる人と変わらないという意味ですよ。
――なぜそう言えるのか、理由を教えていただけますか?
たとえば、「先天性の異常を持った子供が、被曝の影響でどれだけ生まれるか」っていうのは、原爆の影響などからわかっていて、いわゆる「しきい値あり」なんです。つまり、高い線量の胎内被曝をしないと被曝による先天性の異常は起きない。福島でそれだけの被曝をした人はいないんですよ。
気をつけなくてはならないのは、被曝影響と関係なく、先天性の異常を持った子供は一定の率で生まれることで、それを被曝のせいだと思い込むとおかしなことになります。差別にもつながる。それから、遺伝的な影響についてですが、これって原爆の被爆2世問題と同じでしょう? 遺伝的な影響はほとんどないと考えられるのに、それを言い続ける人たちというのは、被爆者差別とか被爆2世差別とかを知らないのかなと思います。過去の繰り返しじゃないですか。これが差別問題につながっていることはきちんと理解してほしい。
――いわゆる(原子力業界を擁護するという意味で)「御用学者」という言葉が一時期、流行っていましたが、菊池さんのところにも「御用学者」というような反応がツイッターで来ることはありますか?
一時はありましたが、気にしないことにしました。ただ、御用学者とかいう言葉で一括りにするようなやり方で「ある一定の見方をする人たちは全部排除します」というのが誰にとって得なのかって言われたら、僕は誰にとっても損だと思う。そのおかげで発言しづらくなった専門家はいますよね。それはいいことじゃないと思います。
――あまりにもその人たちを攻撃してしまったがために、その人たちの意見があまり出てこなくなったのは、良くないということですか?
原子力の専門家は大学の研究者であっても、原子力産業とつながっている方が多いじゃないですか。でも、その方々が一番知識があるわけですよね。そもそも、工学は産業にかかわってこそ価値があるものだと思いますし。御用学者と呼んでどうしたかったのかな、何の利益があるのかな、って思います。彼らにこそ意見を色々聞いたらいいと思うんだけどね。
(了)
■菊池誠(きくち・まこと)
1958年生まれ。大阪大学サイバーメディアセンター教授。専門は学際計算統計物理学。日常生活で人々がはまりやすい「ニセ科学」についても警鐘を鳴らしてきた。著書に『科学と神秘のあいだ』(筑摩書房)などがある。
編集者注:この記事は、8月11日に生放送した番組「<どうする?原発>科学者・菊池誠が語る『トンデモ・デマから身を守る方法』」に加筆修正したものです。
◇関連サイト
・[ニコニコ生放送] 「トンデモ・デマから身を守る方法」 - 会員登録が必要
http://live.nicovideo.jp/watch/lv103478592?po=news&ref=news
・特集「どうする?原発」
http://ch.nicovideo.jp/channel/genpatsu
(聞き手:亀松太郎 書き起こし:寺家将太、ハギワラマサト、吉川慧 編集:猪谷千香)