海外の日系紙

日本への出稼ぎが生んだロストゼネレーション(上)

さまよえる日系ブラジルの若者たちはいま

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(2)ITビジネスで成功?!「絶対ビッグになる」

 吉永クラウジオさん(21、三世)が小学6年生の時、一人で不良グループとケンカしている最中に、突然現れた大人が頼みもしない助っ人役となり、勝手に相手の集団を叩きのめしたという。その大人はテコンドー師範だと名乗り、「俺のケンカをとられた。こいつに勝つまでは絶対に辞めないと決心し、その場で弟子入りした」と真顔で説明する。

 少年院に入った経緯を聞くと、「1度目は暴走族の奴らと喧嘩してボコボコにしちゃって。2回目? ヤクザを刺しちゃったんですよ。組を抜けようとした結果、命を落とした友人の仇をとるため、事務所に単身で乗り込んだ」とか。

 まるで空手の達人の武勇伝か、アクション映画の一場面のような話を真剣な表情で繰り広げた。

 2回目の出所後間もなく20歳を迎え、すぐに帰伯した。「成人したら帰ることは決めていた。計画性がなさ過ぎて、所持金は1万5千円(約400レアル)しかなかったんですけど」。案の定すぐに生活費に困り、ISEC(文化教育連帯学会)に転がり込んで、住居と職場を用立ててもらうこととなった。

 その後は、飲食店や国際引越し業者などを点々とし、現在は「国際師範4段の資格を持っている」というテコンドーの個人レッスンで生計立てる。主な顧客は、日本食レストラン勤務時代につながった駐在員とその子弟らだ。

 昨年、サンバを習いに来伯した40代の日本人女性と交際し、ほどなく妊娠が分かった。出産を控えた女性はとりあえず単身で先に帰国し、日本で待ち合わせている。

 赤ちゃんの話題になると、嬉々として子育ての意気込みや、夢のような将来展望を語る。いわく「僕は今、まさに子どものために生きている。しっかり稼がなきゃ」、そして「インターナショナルな人間に育てたいんですよ」との希望、「ドイツとかロシアとかそういうところで育てたい」との夢にまで広がる。

 きっと自らの幼少経験を省みて、子どもはちゃんとした愛情豊かな環境で育てたいのだろうとの推測が湧いた。

 しかし、肝心の女性が待つ日本への“帰国”の日程に話が及ぶと、「本当は6月(昨年)くらいに帰るはずだったんですけど、ビザが下りなくて・・・」と歯切れは悪く、はぐらかした。理由を尋ねても「よくわからないけど上手くいかなかった」としか語らない。

 それでも「来年(今年)あたりには帰るんです。まずは、ホストをやって当面の資金を稼ぐつもり。奥さんも公認なんですよ。早く子どもに会いたくてたまらない」と楽観的な姿勢は変わらない。

 「将来的な見通し」について尋ねると、即座に「僕はIT系で必ず成功します。プランもあるんですよ」との意外な答えが返ってきた。

 いわく「新しいFacebookのようなサービスを作る」とか「ネット犯罪をシャットアウトするようなソフト作成も考えている」などと淀みなく雄弁だ。

 てっきりコンピューターに詳しいのかと思い計画の詳細を尋ねると、実は「パソコンは持っていない」とか「プログラミングの知識もない」など、さらに意外な答えが返ってきた。

 その辺りのチグハグさを指摘しても、具体的かつ建設的な返答はないようだった。その代わりに「いや、現状とかは関係ない。僕、どうやっても絶対ビッグになりますから。見ててください」と繰り返すのみ。

 まるで「将来の自分はそうなっているはず」「そうならなければ」と必死に自分に言い聞かせているようだった。(2012年7月1日取材)

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