力より一言　少年変えた　広島の児童自立支援施設　「懲罰は何も生まない」　過去の事件教訓　対話と信頼　指導の要に

　福岡県立の児童自立支援施設「福岡学園」（那珂川町、入所者３６人）で発覚した穴掘り懲罰問題は、ルール違反をした子どもへの指導はどうあるべきかという重い課題を突きつけた。福岡学園と同様に、非行の進んだ子どもが多いとされる広島県立「広島学園」（東広島市、３２人）を訪ねると、過去の体罰事件を教訓に、心の内面に寄り添い、反省を促す取り組みが行われていた。

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　「君はここに来て自分の何を変えたい？」

　「嫌なことがあっても逃げないとか、友達との付き合い方とか…」

　広島学園に四つある寮の一つ「梅寮」。広いリビングで少年と職員が向き合っていた。少年は自転車窃盗などを繰り返し、少年審判を経て広島学園へ来たばかりだ。梅寮の正式名称は「個別処遇寮」。学園では集団生活が基本だが、入所直後の３泊４日は、梅寮で職員と２人で過ごす。

　職員はまず「学園は君を守り、自立を助ける施設だよ」と伝えて警戒心を解く。万一、いじめや体罰を受けたとき、寮の職員以外にも園長や、園外の第三者委員に相談できることも説明。その上で非行やその原因、自分の弱い点を職員との対話の中で考えさせる。

　「梅寮の存在は学園の要です」と中西俊和園長（５７）は話す。入所直後ばかりではなく、無断外出や暴力などのルール違反をした子も集団生活を送る他の寮から離れ、梅寮で職員と過ごして自分を見つめ直す。

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　梅寮ができるきっかけになったのは、１９９９年と２０００年に相次いだ職員による体罰事件だ。〈もみ合いになって園生の顔面を殴った〉〈園生の眉をそり落とした〉…。園生の側も、ルール違反の無断外出が９９年に２１件続発した。園生が小学生３人に３週間のけがなどをさせる暴力事件もあり、地元では学園の立ち退き運動が起こった。

　「当時は、違反をした子どもへの指導方法を定めたものはなく、『力に頼る指導』を容認する空気も職員にあった」と園関係者。それが、子どもの反発心を呼び起こす悪循環に陥っていた。

　事態を重くみた広島県は、００年から２年間で職員をほぼ総入れ替え。指導指針を定め、長時間の正座やランニングなどの懲罰的指導を禁止した。さらに、指導内容は職員の合議で決める▽梅寮で職員との対話や作文を通じて反省を促す▽反省後に清掃などの奉仕活動をする‐と要領で規定。職員によって指導にぶれがないよう改めた。

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　昨年秋にルール違反をして、「梅寮」で１４日間を過ごしたという少年（１５）に話を聞いた。

　私語厳禁の洗面所で話していたことを職員に注意され、かっとなって寝室の壁を蹴り穴をあけた。「なんで俺だけ注意されるんか」。なかなか反省できなかったが、「怒られることに上手になれ」という職員の言葉で変わったという。

　社会に出たら注意を受けることは多く、その度に腹を立ててはトラブルになる。謙虚に聞いて次に生かせ‐。そう受け止めた少年は、運動会を間近に控えたグラウンドで職員と一緒に３時間、草むしりの奉仕活動を行った。「そこまで腹を立てることではなかったと思います」とばつが悪そうに振り返った。

　少年はこの春、学園を出て、合格した定時制高校に通い始める。

　広島学園の入所者３２人のうち、発達障害や知的障害と診断されているのは１４人。虐待を受けた経験者は２１人に上る。

　「虐待経験や障害のある子は増えていて、指導は年々難しくなっている。でも、けんかや親の暴力など『力の論理』にどっぷり漬かってきた子に、肉体的苦痛を感じるような懲罰的指導をしても良くはならない」。中西園長はこう強調した。