第19回電撃大賞《銀賞》受賞作。

表紙の雰囲気やyuu_be氏ぼくだ氏のレビューから、毎年受賞作にひとつはあるような厨二全開異能バトルを想像していましたが……これは予想を上回る出来でした。
正直申しまして、読む前から感想が準備できていたんです。こんな感じで。

よくあるタイプの異能バトル。説明過多な部分もあるけど、個人的に大好きなジャンルなので楽しめて読めました。ただ、他に無数にある同ジャンルの中で、この作品が特に優れている部分があるかというと……

しかしいざ読んでみれば、正直こういう異能バトルの「1巻」としては最高傑作に近いレベルなのではないかと。

まず世界観や設定の説明。確かに分量は多い、全体の4割近くが説明なのかもしれません。けど不思議と読んでいて苦じゃない。説明が一カ所にまとめられていなくて、必要に応じてキャラの口から説明されるという流れなんですね。その説明台詞も、素人であるヒロインに説明する、という体をとっているので、不自然な感じがしない。読者も一緒に教わっているみたいで、スッと物語に入っていけました。
この手のバトルものの最大のハードルはこの「設定の説明を如何にストーリーに盛り込むか」だと思うんですが、本作は理想的な形でそのハードルを越えたと言えるでしょう。

あと、主人公がイイネ。最初は「若くして上級魔術師の資格を持つ天才」みたいに書かれてて、なんだよまた最近流行りの「俺TUEEEE」かよ……と残念に思ったんですが、そうではありませんでした。確かに天賦の才もあるんでしょうけど、その裏でちゃんと努力している。悩んでいる。取り返しのつかない代償も払っている。そして、それでも破ることのできない壁があることも自覚している。
今回は、その「裏側」が回想程度でしか語られませんでしたが、そこらの俺TU(ry主人公とは違うなというのは十分に分かりました。これだけで好感度3割増しです。

そんな彼が、ヒロインである黒髪猫耳メイドと出逢ったり、相棒が銀髪犬耳っ子になったりしながら、世間を騒がす悪い魔術師を倒すというストーリー。

そのね、悪い魔術師がまた良いのです。個人的に最も高く評価したい点と言ってもいい。
アリがちな下種野郎ではない、かといってお涙頂戴の悲劇のヒロイン(笑)でもない。そこらの作品と比べてもらえれば分かるのですけど、彼は一度たりとも取り乱したり叫んだりしないのです。「俺は間違ってなんかいないんだあー!」と叫ばれた日には興ざめもいいところなんですけどね、そんな場面はありませんでしたね。

ヒロイン二人については特に言及することがないな……それぞれ役割がはっきりしていていいんじゃない?(棒
この作品でひとつ減点をするとしたら、ヒロインに魅力がないというか……獣耳は趣味嗜好の問題だとして、いまいち女の子らしい可愛さに欠けるような気がします。あとは、二人で協力して成果を上げるという場面があればバトルものとしてもっと良かったのですが、それは次巻以降に持ち越しか。

長く書きましたがこんな感じです。
冒頭で書いた通り、まあ毎年何作か出るようなありふれた異能バトルと言ってしまえばそれまでですよ?けど、それくらいこのジャンルには固定ファンがいるということでもある。そして、そんな人たちにとって本作は間違いなく「ドストライク」のはず。

長くなればなるほど魅力の出るジャンルです。今後に大きく期待します。

レビュー:tartarous

塔京ソウルウィザーズ (電撃文庫)塔京ソウルウィザーズ (電撃文庫)
著者:愛染猫太郎
販売元:アスキー・メディアワークス
(2013-02-09)
販売元:Amazon.co.jp