近現代史や領土の問題をどう教えるべきか。教科書検定の結果が公表されるこの季節、毎年のように議論がくり返される。とりわけ今回は、自民党が総選挙で「近隣諸国条項の見直し」を[記事全文]
知らざあ言って聞かせやしょう。阿国(おくに)以来の伝統が、都に残せし歌舞伎座の、種は尽きねえ建て直し。その五代目の、きょうが幕開け。以前を言やあ四[記事全文]
近現代史や領土の問題をどう教えるべきか。教科書検定の結果が公表されるこの季節、毎年のように議論がくり返される。
とりわけ今回は、自民党が総選挙で「近隣諸国条項の見直し」を掲げて政権についてから初めて出される検定だった。この機会に改めて考えたい。
この条項は検定基準の一項目であり、アジア諸国との近現代史の扱いに「国際理解と国際協調の見地から必要な配慮」をすると定めている。
これが外国からの教科書への口出しをしやすくし、教科書を「自虐的で偏向した」内容にしているとの批判がある。
たしかに教科書の書きぶりを他国からあれこれ言われるのは気持ちのよいものではない。
しかし、そもそも子どもたちに歴史の光と影の両面を教え、アジアに限らず世界の国々を尊重する態度を養うことが大切なのは当然である。
わが国は国際協調を重んじ、独善に陥ることなく、客観的に歴史を教える。この条項は実際の検定基準としてより、内外にその姿勢を示す宣言として働いてきた。もちろん、そこには戦前の教育への反省が込められている。
条項を削れば、近隣諸国にわざわざ「配慮をやめる」とメッセージを送る意味を帯びる。
また、条項があるゆえに日本の教科書が外国の言いなりに書かれているとは言いがたい。
たとえば、今回は尖閣諸島が日本の領土とわかるようにとの意見がつき、「沖縄県に所属する」と加筆された例がある。
領土の記述には近年、中韓から抗議が繰り返されているが、文部科学省はそれを受けて書きかえを指示してはいない。
文科省によると、条項に基づいて検定意見がついたのは確認できるかぎり91年度が最後で、今回もなかった。
この条項は81年度検定で「華北を侵略」が「華北に進出」に書きかえられたと朝日新聞を含む多くのメディアが報じ、中国などから抗議を受けてできた。実際は書きかえはなく、事実誤認から生まれた条項だという見方が見直し論の背景にはある。
誤報は反省しなければならない。ただ、「侵略」を「侵入」「進出」などに変えた事例はこの年や過去の検定で他にあったと文科省は説明している。条項を作った当時の判断までが誤りだったとはいえない。
的外れな抗議があったときはきちんと学説をふまえて説明すればよい。冷静で成熟した国の姿を示せば、子どもたちの誇りはおのずと育まれる。
知らざあ言って聞かせやしょう。
阿国(おくに)以来の伝統が、都に残せし歌舞伎座の、種は尽きねえ建て直し。その五代目の、きょうが幕開け。
以前を言やあ四代目は、銀座勤めの陸(おか)の目印、江戸というより桃山の、赤欄干(らんかん)と唐破風(からはふ)も、百が二百と葺(ふ)き並ぶ、瓦屋根さえだんだんに、古さはつのり、店じまい。
二十九階建てとかの、でっけえ母屋も重なるが、とうとう普請(ふしん)は成し遂げられ、それから小屋の外づらは、ここやかしこの皆様が、小耳に聞いたささやきで、黙阿弥ならぬ元のまま。
名さえ由縁(ゆかり)の五代目歌舞伎座とはおれがこった。
内に入れば横長の、舞台の枠は変わらずに、回(まわ)り舞台に花道も、まったく同じ尺ばかり。
魔物のすむと人の言う、あの雰囲気もそっくりで、通い詰めたる観客の、脳裏に浮かぶ名舞台、いちばん大事な思い出は、どうやら壊れずそのままに。
新奇な小屋じゃあ、長い伝統も生かされねえ。
そのかたわらで年寄りが、いつも難儀の階段は、えれべーたーと、えすかれーたー。ばりあとやらを取り除き、地下鉄駅からまっすぐに、笑ってあゆめば座席まで。
天井近くに貼り付いた、一幕見(ひとまくみ)席の驚きは、昔は見えねえ花道が、全部じゃねえがそれなりに、拝めるように出来ていて、どうにもこうにも銭のねえ、芝居好きにはうれしかろう。
守るところを守り抜き、変えるところは変えりゃよし。ここやかしこの古い小屋、建て直すのに「型」となれ。
江戸の色、喜怒哀楽を下地にし、守ると変えるをとりまぜて新狂言もこなしつつ、歌舞伎は生きた四百年。
いくさの後は客が減り、長い間の苦しみも、今ではかなり盛り返し、指折り数える動員順位。お国に頼る割合も、古典の中じゃまずは少ねえ。
右肩上がりで量的拡大、順風満帆ここまで来たが、中村屋ついで成田屋と、看板役者がみまかって、芝居の出来は下がりゃしねえか。
成田屋さんは五年前、エヌエッチケーで言わしゃった。
「公演数が多すぎるかな。このまま続くわけはない」
五代目歌舞伎座からみても、ちょっとは中身が心配でえ。いかにご祝儀値段でも、一等席なら二万円。若手役者は気張らにゃなんめえ。
とにもかくにも、芝居の始まり。こいつあ春から、縁起がいいわえ。