2007年07月03日
■重箱の隅をつっついた話『モンブラン149』5回目<ペン芯の違い>
モンブラン149のペン芯について綴りたいと思います。
149のペン芯のバリエーションは実に豊富です。
(1)50年代 前期型
(2)50年代 後期型
(3)60年代型
(4)70年代以降エボナイトペン芯 切り割り有
(5)70年代以降エボナイトペン芯 切り割り無
(6)90年代以降プラスチックペン芯
もっとバリエーションがあるかもしれません。(5)と(6)のあいだに違った構造のペン芯が存在するかもしれません。
残念ながら、(1)は所有していないので、今回の比較対象からははずしました。
また、私が持っているペン芯のなかで比較してみると、(4)と(5)の違いは、切り割りの有無だけだったので、これも比較対象からはずしました。したがって、今回は(2)、(3)、(4)の比較だけとなります。
それぞれニブを外した状態でペン芯を撮影しました。右から、50年代 後期型、60年代型、左が、70年代以降型、となります。いずれも材質はエボナイト。
ニブとペン芯は、基本的には、同時代で組み合わせて使うのがベストだと思っていたのですが、わたくしの場合、モンブラン149に限っては、50年代のペン芯との相性がよかった例がありませんでした。前期型の薄いペン芯も後期型の肉厚のペン芯も、インクがドボドボドボドボでてきてしまい、文字を書くような状態ではありませんでした。
たまたま運良く60年代の149が手に入り、ペン芯を60年代のものに替えてみたら、これがすこぶる調子がよく、安定したインクフローのもと、しなやかで頼りがいのある、弾力に富んだ、149の書き味を味わっています。師匠にペン芯の交換と調整をお願いしたときの記事をぜひお読みください。http://pelikan.livedoor.biz/archives/50943146.html
原稿執筆には149の開高健モデルを使っていますが、ペン芯は、70年代以降のエボナイトペン芯で切り割りが有るものがついています。
切り割りがどこに入っているかわからないという方のために横から写真を撮ってみました。ペン芯を上方に持ち上げられるように切り割りが入っているのがわかるかと思います。このペン芯について師匠が詳しく書いている項がありますので御参照されたし…。http://pelikan.livedoor.biz/archives/50822061.html
モンブラン149は、いままで何十本、いやもしかしたら100本以上、手にとって見てきたけれど、ペン芯とニブの組み合わせで、時代を特定するのはとても難しいとわたくしは思っています。
60年代のペン芯と「18C」のペン先がついた未使用新品箱入りの50年代149とであったこともあったし、60年代の149に、50年代後期のペン芯や70年代の切り割り有りのペン芯がついているのを見たこともあります。
まったく未使用新品の開高健モデル2本と出会ったのですが、いずれも中白「14C」のニブでしたが、一方にはペン芯に切り割りが有り、もう一方には切り割が入っていなかった、というケースもありました。
切り割りの有無を区別しなければ、この70年代のエボナイト製ペン芯は、もしかすると20年近く149に採用されていたことになるのではないでしょうか。
自分にとって理想的なインクフローと書き味を求めていくにつれて、気になりだしたのがペン芯です。ペン芯との相性によって、ニブは豹変するということを何度も経験しました。
次回の、重箱の隅をつっついた話『モンブラン149』は、
最終回<星の大きさと輝きの違い> です。
■『男の隠れ家ONLINE』19回目の記事を更新しました。
先月、愛媛県松山市に「伊丹十三記念館」がオープンしました。今年で、伊丹さんがお亡くなりになってから10年を迎えます。
金ペン堂の古矢健二店主が入院されているあいだ、いろいろな思い出話をうかがいましたが、シャープペンの話となると、登場するのは、伊丹十三さんです。バイクで突然やってきてモンブラン・ピックスをゴソーーーっとまとめて買って行ったそうです。そんなことが随分とあったとか。
事前に相談もなく、突然、テレビ番組で、モンブラン・ピックス75の魅力を語ってしまったものだから、問い合わせの電話が鳴りっぱなしになってしまい、その状況を知った伊丹さんが、御迷惑をおかけしましたと店に謝りに来たこともあったそうです。
伊丹さんは生前10本の映画を監督していますが、そのすべてがモンブラン・ピックス75を使って書き生まれたといっても過言ではありません。5月25日に新潮社から『伊丹十三の映画』という本が発売されました。ページをめくるにつれて、伊丹さんがこの世からいなくなってしまったことをつくづく残念に思いました。もっともっと日本映画を変革することができたでしょうし、もっともっと日本文化の深層を描くことができたと思います。
モンブラン・ピックス75をガンガン使っていた人は、後にも先にも、伊丹さんだけです。伊丹十三記念館には、ゆかりの品が数多く展示されていると聞きました。そのなかに、ピックス75にニューマンの2B芯を入れて書いた文章や、描いた絵コンテが展示されているのではないか、と思うと、飛んでいってこの目で確かめてみたい気分になります。
今回、あらためて、50年代から70年代までのピックスを使ってみましたが、ニューマン社製2B芯は、実によくできた芯だなぁと思いました。満寿屋さんに作っていただいた無地のリフィルに書いてみましたが、一画一画コツコツと、芯と机とのあいだで筆記音が生じるのが実に面白く感じました。万年筆を使っているときには耳にすることのない音なので、妙に新鮮に感じました。
この記事へのコメント
そして、今回のピックスの記事(「男の定番」も)、大変嬉しく読みました。
伊丹さんや開高さんをはじめ、多くの方々との出会いの経験を持つkugel_149さんならではの切り口を、いつも羨ましく、また楽しく拝見しております。
人とモノとの関係は、決して偶然はないと思います。その関係をつぶさに見つめると、そこには、ある種の必然がひそんでいる……。
例えば、伊丹さんが、モンブランのブティック(当時もすでにありましたが)ではなく、金ペン堂でお求めになっていたのもそうです。「金ペン堂」という屋号からして、「白井米穀店」とか「青木くだもの」みたいな、伊丹さんの作品に出てきそうな……(譬えはうまくないですが)。
そういう意味で、少し大げさな言い方かもしれませんが、kugel_149さんが書きつづられているものに、いつも思索のヒントをいただいています。
今後とも、よろしくお願いいたします。