2007年06月21日
■重箱の隅をつっついた話 番外篇 <monolith6さんへ>
6月18日付の記事「重箱の隅をつっついた話『モンブラン149』3回目<キャップの3連リングのロゴ>」に次のようなコメントが寄せられました。コメントを寄せてくださったのは、monolith6さん。
ずーっと不思議に思っていたことがあるんです。モンブランはドイツの万年筆なのに、なぜ No.(ナンバー) 149 と彫られているんでしょう。ドイツ語で Nr.(ヌンメァ) 149 と彫られているべきなのに。どうして部分的に英語なのか、未だに誰も明快な答えをしてくれません。
たしかに、わが愛するモンブラン・マイスターシュテック149には、「MONTBLANC MEISTERSTüCK No149」とキャップバンドに彫られている。ドイツ製品なのに、なぜ…?
わたくしは学者でも研究者でもないので、これが正解!と胸を張ってお答えするわけではありませんが、あくまでも、こんな感じの理由じゃない? というわたくしなりの解釈をここに記してみようと思います。
「No.149」あるいは「No149」という表記ですが、英語として表記していないのではないか、とわたくしは考えています。英語としてではなく、ラテン語として表記しているのではないでしょうか。
英語の教師になりたいなぁと思っていた頃、予備校で出会った帆糸満(本名渡部十二郎)先生に、まさに重箱の隅をつっつくような質問を毎週質問していました。
そのひとつに、英単語「number」には「N」があるものの「o」がないのに、 なぜ、「No.」と省略して表記するのか、ということがありました。帆糸満先生は牧師になることを目指してラテン語を勉強されておられたので、いとも簡単に、笑顔で、次のようにお答えになりました。
「ははは。その理由はだね、ラテン語の「numero」を省略した形だからですよ。誰もが迷わず答えられる単語や、誰にでもはっきりと伝わってしまうと縁起の悪い言葉を、むかしの人は、最初と最後の文字だけを残して、その間を「‐(ハイフン)」でつないで表していたのさ…。そういう習慣があったことを知っている人の中には、今でも「dead」を「d-d」と書く人がいるんだよ。君は、アクロニム(Acronym:頭字語、頭文字をつなげてつくった省略語のこと)を勉強しているのかな?」
目からうろこだった。頭をポリポリかきながら、明快な答えにわたくしは感動いたしました。
英単語の「number」が「No.」と表記するまでの流れを整理すると以下のようになります。
ラテン語「numero」
↓
省略した表記のしかた その1「n-o」
↓
省略した表記のしかた その2「No」(「o」の下にアンダーバー)
↓
省略した表記のしかた その3「No.」(「o」の後にピリオド)
そうしていつの間にか、ラテン語「No.」は英語の「number」として認知されるようになったわけです。
広く知られることで、言葉の経済化現象はいっそう進みますので、「No.」のピリオドが省略されて、「No」と記すことすらあります。
次に、そのような前提を念頭に、なぜわざわざドイツ製品にラテン語を使ったか、ということを考えてみたいと思います。
英語圏で現在お仕事をされておられるmonolith6さんは御承知だと思いますが、ラテン語は、久しく、文語表現における共通語として多くの言語の中で使用されてきました。そのなごりで、現在でも専門用語や学術用語で広く使われており、ある種の格調の高さを醸し出すために、英語の中でもラテン語を用いるケースがあるかと思います。
一般的には死語として扱われていても、医学や生物学、神学の分野では、ラテン語は必須とされていますし、バチカンでは、日常はイタリア語を話していても公式文書や公式記者会見はすべてラテン語です。一部の人々にとっては、ラテン語は、知識階級であることを示す、“本の香りのする言葉”なのではないでしょうか。
また、「〜番」という表現を輸出国向けにそれぞれの言語で表すのは煩雑で、しかもわかりにくいと判断したのではないでしょうか。ドイツ語で「Nr.149」、フランス語で「N.149」、英語で「No.149」、日本語で「149番」よりも、ラテン語表記の「No.149」あるいは「No149」を使えば事足りると判断したのでは、とわたくしは思いを巡らせます。
モンブランがその自信作を“マイスターシュテック(名品、傑作、代表作)”と銘打って世界に向けて販売するのにあたっては、ユダヤ人を大量虐殺したゲルマン人としての血のイメージを払拭し、穏やかで、知的で、精巧で、雪のように清々しいイメージを打ち出そうとしたはずです。そういったことも含めて、万年筆という道具を使う人々を想定して、知識人受けするラテン語をさりげなく使ったのではないでしょうか。そこにわたくしは、モンブランのささやかな意気込みと誇りを感じるのですが…。
違うかなぁ。
いかがでしょう、monolith6さん。
未熟者、かく語りき。
ERRARE HUMANUM EST(「誤るのが人間である」)
この記事へのコメント
製造過程で間違いがあったのでしょうか。製品検査でも見逃されたのでしょうか。
14年ほど前に某デパートのモンブランブティックで購入したのですが、最近になって気がつきました。「どうしてロゴがいつも反対なんだろう。」つまり、ポケットにさしても、キャップを尻軸にさしても、ロゴは逆さまを向いています。
いろいろなサイトで149を見かけるたびに、気になってロゴの向きを確認してしまいますが、いまだに私の149と同じ向きのものを見たことがありません。
まさかその時代のものは、逆さま...だなんてことはありませんよね?
今からでも交換してもらえるかなあ?(ネームも彫ってあるしなあ...)
そのキャップは、珍品中の珍品。幻の個体、ということになると思います。印刷ミスで値段が跳ね上がったイギリスの女王切手のように…。
ぜひ一度、実物を見てみたいものです。
珍品ですか。
「交換」だなんて考えずに、大切にしていきます。
ご教授ありがとうございました。
ドイツの会社なのにブランド名は MONT BLANC と綴ってモン・ブランとフランス語読み。しかも名前の山はドイツには存在せず(西欧州最高の山だからというシンボリックな意味合いはさておき)。モデル名はドイツ語綴りでマイスターシュテュック。型番はラテン語表記。そしてクリップの原産国名は GERMANY と英語表記。言語がごちゃまぜで、統一感のなさがどうもイマイチです。ペリカンはメーカー、モデル名ともにドイツ語。でも原産国名は英語。でも DEUTSCHLAND とするわけにも行かない、苦しい対応といったところかも。
ドイツ人論を展開するわけではありませんが、
何語で記すか、
何語に統一して記すか、ということは
ドイツ人にとっては、
優先順位があまり上のほうにこないテーマなのかもしれません。
世界的に通っている呼称を選択しているだけなのかもしれません。
それ以外は、ドイツ語で。
マイスターシュテックという言葉が残ったのは、
その意味をきちんと伝える、より通用性の高い、
他の言葉がなかったからだと思います。
マスターピースという言葉は、
語感からも、ちょっとマイスターシュテックとは
ずれているように思うのです。
いかに多くの人々に使われるかが大事なのでしょう。
モンブランは、御存知のとおり、
輸出対象国の宗教との兼ね合いから、
シンボルマークだって変えてしまうくらいですから。
世界で使って貰えることを念頭において、リング刻印のありようをこのように変えてきたのだとすると、モンブランの企ては見事に成功していると言えますね。
普段はモンブランなんぞ、と斜に構えている自分ではありますが、やはり究極の一本を選べ、と言われたら、149或いはペリカン1000のどちらかの最終選択で大いに悩みそうです。やはり149はただならぬ万年筆であると言えましょう。