26日のヨルダン戦(アンマン)の3日後、ようやく日本へ帰国した。が、帰国の途に着く直前に急性腸炎に見舞われた。最悪の体調の中、アンマン→ドバイ→ドーハと飛行機に乗り、ようやく帰国便に乗れると思いきや「オーバーブッキング」と非情通告を受けた。仲間2人と途方に暮れつつクレーム処理の窓口へ行き、何とか北京経由便を取ってもらって4時間遅れで成田に着くことができた。が、その間にも再び体調不良が再発し、成田ではロストバゲージに直面するなど、どこまでも混乱が続いた。
こうした悪循環が続くと、どうしても屈辱的敗戦を喫したヨルダン戦のことが脳裏をかすめる。前半終了間際の不用意なリスタートからバニアテヤに奪われた1失点目、ミスが重なった挙句、吉田麻也(サウサンプトン)がハイルに1対1であっさりとかわされた2失点目……。敗戦後のキングス・アブドゥラ・インターナショナルスタジアムの異様な雰囲気、そして関係者や現地の熱狂的ファンがごちゃまぜになった狭く騒然としたミックスゾーンでの取材……。本当に今回のゲームは最悪の展開だった。
そんな中、改めてザックジャパンの2年半の戦績を振り返ってみたのだが、予選で3敗というのは過去に例がない。98年フランス大会出場権を得た97年の予選も黒星を喫したのは韓国戦。2006年ドイツ大会の予選はイランにそれぞれ1敗を喫しただけ。岡田武史監督(杭州緑城)が指揮した2010年南アフリカ大会の時も3次予選でバーレーン、最終予選で出場決定後にオーストラリアに黒星をつけられたのみ。そう考えると、ザックジャパンの北朝鮮、ウズベキスタン、ヨルダンの3敗というのは圧倒的に多い。最終予選は2位以下がダンゴ状態になっていることに助けられて、日本は優位な状況を維持できているといっても過言ではない。もしも日本がA組に入っていたら、2位以上をキープできていたかどうか難しいところだろう。
それでもザッケローニ監督の解任論が起きる気配は全くない。フィリップ・トルシエ監督や岡田監督が代表を率いていた時は頻繁に去就問題が騒がれたが、今回は不思議なほどの静寂だ。なぜそうなのかを分析してみると、
1.ザック体制がアルゼンチンを撃破するという華々しいスタートを飾ったこと
2.就任間もない時期にいきなり2011年アジアカップ(カタール)で優勝したこと
3.香川真司(マンチェスターU)や長友佑都(インテル)を筆頭に代表選手の多くが欧州で活躍していて、チームの潜在能力が高いと見られていること
4.ザック監督の人柄が温厚かつ思慮深いため、敵を作りにくいこと…の4つが挙げられる。
今の代表をトルシエのようなエキセントリックな人物が指揮していたら、間違いなく3次予選終盤には解任論が出ていたはずだ。我々も正直言って、北朝鮮とウズベキスタンに連敗した時「このままで大丈夫なのか」と懸念したが、昨年6月の最終予選3連戦で圧勝したことで楽観的な気分になってしまった。それが落とし穴となり、批判精神が鈍ったといっていい。我々メディア側も反省しなければいけないところは大いにあるのだ。
もうここからは楽観的な見方は絶対に捨てなければいけない。確かに今の日本は勝ち点13でB組ダントツトップに立っているが、残り試合はオーストラリアやイラクより1試合少ない。目下勝ち点6で3位に沈んでいる手負いのオーストラリアは6月4日の日本決戦に全てを賭けてぶつかってくるはずだ。パワープレーを得意とする相手を跳ね返すだけのフィジカル能力を持つ選手が日本には少ないため、どうしても劣勢を強いられる時間帯はあるだろう。本田圭佑(CSKA)が元気にピッチに立てる保証はないし、欧州リーグ終盤戦を迎えているそれ以外の面々もケガなしで大一番を戦えるとは限らない。
そこでザック監督は何ができるのか……。それを我々は厳しい目で見極めなければならないだろう。実際、この2年半を見ても、ベストメンバーが揃わない時の戦い方は確立されていないし、チームの目覚ましい成長が見られたとは言い切れないところがある。香川のトップ下起用も本田がいない時の穴埋めでやっている印象で、長期的に彼を真ん中に据えてやっていこうという信念のようなものがあまり感じられない。守備陣にしても吉田と今野泰幸(G大阪)に頼りがちで、それ以外の選択肢があまり見えてこない。就任1年目にあれだけこだわっていた3‐4‐3も封印したままだし、中途半端感はどうしても残る。
6月決戦に向けて、現在Jリーグで活躍中の豊田陽平(鳥栖)や渡邉千真(横浜)らFW陣を新たに招集したり、経験のある田中マルクス闘莉王(名古屋)らDF陣を呼ぶというのも一案かもしれない。そういう大胆なテコ入れ策を指揮官は図れるのか……。負けた時というのはチームを変える絶好のチャンス。指揮官の覚悟のほども確かめられるだろう。次の代表招集は5月だが、ザックジャパンの今後を視野に入れつつ、指揮官や欧州組、国内組の動きをしっかり追ってきたいものだ。
元川 悦子
もとかわえつこ1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、94年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。ワールドカップは94年アメリカ大会から4回連続で現地取材した。中村俊輔らシドニー世代も10年以上見続けている。そして最近は「日本代表ウォッチャー」として練習から試合まで欠かさず取材している。著書に「U-22」(小学館)「初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅」(NHK出版)ほか。
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