
特定団体
改正暴力団対策法に基づき、指定暴力団のうち、抗争事件や企業への襲撃事件などを繰り返して特に危険な組織として、都道府県の公安委員会が指定した団体。「特定抗争指定暴力団」と「特定危険指定暴力団」の2種類ある。特定抗争の組員は、公安委が設定した警戒区域内で組事務所に立ち入ることや5人以上で集まることが禁止され、特定危険の組員は警戒区域内で、みかじめ料の要求など27の行為が禁止される。特定団体の組員がこうした行為をした場合、警察は「直罰規定」を適用し、中止命令を経ずに逮捕することができる。
(2013年3月25日掲載)
暴力団 不気味な沈黙 特定団体指定3ヵ月 「直罰」適用ゼロ 道仁会・集団で行動避ける 誠道会・警戒区域外で会合
改正暴力団対策法に基づき、福岡県内の三つの指定暴力団が全国で初めて「特定団体」に指定され、27日で3カ月になる。改正法の影響か、表だった事件は起きていない一方で、改正法の柱である中止命令を経ずに逮捕できる「直罰規定」の適用もない。4月には県暴力団排除条例施行から3年を迎え、県警は「暴対法と条例の『二つの武器』で暴力団を封じ込める」と意気込む。
「これを機に事務所を手放そうと思ってます」。特定抗争指定暴力団に指定された昨年12月27日、九州誠道会(同県大牟田市)系のある組幹部は、捜査員にこう漏らしたという。
「特定抗争」に指定された誠道会と道仁会(同県久留米市)は福岡、佐賀、長崎、熊本4県68市町の警戒区域内では、組事務所に立ち入ることや5人以上で集まることが禁止され、違反すれば中止命令を経ずに逮捕される。これまでに福岡、佐賀両県で誠道会系の3カ所と道仁会系の1カ所の組事務所が撤去された。
福岡県警幹部は「誠道会も道仁会も特定指定後はほとんど活動ができていない」との見方を示す。ただ、規制の網をかいくぐるかのような動きも垣間見える。
1月29日夕、鹿児島県内の山あいの静かな温泉街は物々しい雰囲気に包まれた。警察官100人以上が集まり、県外から来た車十数台を一台一台止めて検問を実施。捜査員が温泉宿に入る約40人の男たちをビデオで撮影した。
鹿児島県警などによると、この日、温泉宿では誠道会の新年会が開かれた。幹部や組員らは新幹線や車で別々に温泉宿に入り、1泊したという。鹿児島県は5人以上が集まれば逮捕できる警戒区域に含まれないため、会合場所に選んだとみられる。
また、関係者によると、誠道会最高幹部の警護はかつては組員数人が担当していたが、今では暴力団に認定されていない関係者が当たっているという。
道仁会も旧本部事務所の周辺住民が起こした事務所使用差し止め訴訟では組幹部ら数十人が裁判所に集まっていたが、1日の和解協議に姿を見せたのは幹部ら数人だけ。集団行動を避けているとみられ、捜査幹部からは「暴力団も捕まらないよう対策に必死だ。事務所に出入りしなくなり、組員の動向を把握しづらくなるかもしれない」と危惧する声も聞かれる。
●工藤会 抑止効果?情報提供減? 北九州 多くの事件 なお未解決
北九州市に本部を置く指定暴力団工藤会が「特定危険」に指定され、構成員が警戒区域内でみかじめ料などの不当要求を行えば、中止命令を経ずに逮捕できるようになった。だが、改正法を適用しての摘発はない。
「捜査の新たな武器だ」。改正暴対法が施行された際、捜査幹部はこう語った。その武器を使っていない状況について、県警は「法の抑止効果が表れ、不当要求行為そのものが減っている」との見方を示す。ただ、ある幹部はこの見方に否定的で「多くの事件が未解決で、市民や企業からの情報が得にくくなりつつある」と率直に話す。
改正福岡県暴力団排除条例に基づき、暴力団員の飲食店への入店を禁じる標章制度が昨年8月に始まったが、北九州市ではその後、2カ月間に飲食店関係者を狙った切りつけ事件やビルの不審火が8件起きた。県警は昨年10月に小倉北区のスナックが全焼した火災で放火容疑で無職の男を逮捕。他の一連の7件の事件は未解決だ。
「標章を外せ」という脅迫電話も90件以上発覚。標章を外す動きは広がり、対象店の8割近くが掲げていた標章は今はほとんど見られない。「犯人を挙げることが情報提供をしやすくする第一歩」と県警幹部は力を込めるが、小倉北区のクラブ経営者は「ただでさえ怖いのに、捕まらないのなら情報は提供できない」と打ち明ける。
小倉北区の歓楽街では、他県警の警察官がパトロールを続けている。29日からは市が歓楽街などに新設した158台の防犯カメラも作動する。ただ、多くの市民には今の状況が「不気味な沈黙」とも映っている。
