木語:南の島、なぜ消えた=金子秀敏
毎日新聞 2013年02月28日 東京朝刊
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「日米の絆と信頼を取り戻し、緊密な日米同盟が完全に復活した」−−オバマ米大統領との会談を終えた安倍晋三首相はこう自賛した。
ところが、中国の新華社電は「日本は冷遇された」と報じた。まるで逆だ。
東シナ海で日米同盟と対立する中国が会談の成功を喜ばないのはわかる。だが、「絆の回復」と「冷遇」とでは違い過ぎる。どちらが事実により近いのか。
新華社電は、安倍首相が尖閣(せんかく)問題で米国の支持を取り付けようとして失敗したと見る。その証拠に、オバマ大統領は会談で一度も中国と口にしなかったし、領土問題にも言及しなかったではないか。
中国は、安倍首相を悪玉にしてオバマ大統領を持ち上げているのである。3月の全国人民代表大会(全人代)で習近平(しゅうきんぺい)総書記が国家主席に就任すれば、いずれ米中首脳会談が開かれる。習総書記は米中協調路線に転換したいのだ。新華社の記事から中国の思惑が透けて見える。
安倍首相が冷遇されたというのは言い過ぎとしても、オバマ大統領が中国に配慮していたことは事実だ。
日本の報道は、ほとんど環太平洋パートナーシップ協定(TPP)問題に集中したが、同盟関係の復活を評価するには安保問題でなければならない。だが、安保問題の記事は付け足し程度だった。合意は二つだ。Xバンドレーダーの追加配備と普天間(ふてんま)飛行場の辺野古(へのこ)移設を急ぐことだった。
日米首脳会談が終わって数日後、Xバンドレーダーを配備する場所が報道された。意外にも京都府・丹後(たんご)半島の航空自衛隊基地内だという。
Xバンドレーダーは弾道ミサイルを追跡する高性能レーダーで、米ミサイル防衛網の柱となる重要兵器だ。アリューシャンと青森県にすでに配備されている。米国は昨年、さらに2基を「日本の南の島」と「東南アジアの国」に配備したいと表明した。
「日本の南」とは九州・沖縄、「東南アジア」とはフィリピンのことだと言われていた。四つのレーダーが並ぶと南シナ海、東シナ海、日本海、オホーツク海の上空をカバーする。米国に向けて飛ぶ中国の弾道ミサイルを探知して迎撃ミサイルで撃ち落とすのだ。
ところが第3のレーダー配備先となる丹後半島は日本海に突きだし朝鮮半島を望む位置にある。対象は北朝鮮の弾道ミサイルだろう。なぜ変わったのか。オバマ政権が対中政策を修正して協調路線に向かうサインを出したのだとしたら、「日米の絆」で尖閣問題が日本に有利になったと思うのは早い。(専門編集委員)