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59話の続きじゃないです。
3話のルート分岐です。
2章.聖誕祭の終わりに
3裏.裏ルート、迷宮の主として生きる


 決めるのは、ここで『待つ』か。『動く』かだった。

 太ももの切り傷は思ったよりも浅かった(おそらく、反射的に身体を引いていたのだろう)。ただ、圧迫の止血でいくらかましになっているものの、歩くのも億劫な状態だ。

 動けば出血は増していき、相当な体力を失うのは間違いなかった。
 それも、命の危険が生まれるほどの体力を失うだろう。

 …………。

 ゆえに、僕は『待つ』。
 遭難した際の常道は、動かずに救助を待つことだ。無闇に動いて、更なる危険に巻き込まれてしまっては命がいくつあっても足りない。ここは『待つ』ことが最も冷静で、最も正しいはずだ。

 そう、これが正しいはず……。正しいはずなんだ。

 僕は震える身体を抑えつけながら、何度も自分に言い聞かせる。

 剣をつきながら、壁まで移動し、背中を預けて座り込む。

 もう動きたくない。何が何だかわからない。夢ならば覚めてほしい。
 理不尽な暴力によって、僕の心は完全に折れかけていた。

 すくんだ身体が、ここから一歩も動こうとしない。
 ここで『待つ』のは怖い。けど、ここを『動く』のはもっと怖い。

 僕は何も考えず、ただただ待った。
 助けなんて来るはずはないと心のどこかでわかった。けれど、少し、――少しだけ、ゆっくりと考える時間が欲しかった。

 僕は座り込み、ぼうっと宙を見つめる。

 それは、壊れかけた心が、緊急に休息を求めた結果かもしれない。

 何時間、そうしていただろうか……。
 幸い、新たな訪問者が、ここに訪れることはなかった。新たな人間も、新たな怪物も、訪れることはなかった。

 訪れることはなかった。――が、現れたのだ。

「え?」

 何もない空間。そこに回廊の淡い光が集まっていき、それは実体として変質していく。
 それは形を獣へと固定させ、翠色の毛並みをなびかせ、果てには白い牙を覗かせる。

 そう、数時間ほど前に消えたはずの巨大狼が、そこに現れたのだ。

「な……、なんで……」

 狼と目が合う。
 もちろん、その狼は傷1つ負っていない状態だ。ボロボロなのは僕だけ。

 状況を理解し、僕はそいつから離れようと、何もかもを放り出して駆け出す。
 しかし、その全てが遅い。

 背中を獣に裂かれる感触、燃えるような痛みが全身を焦がす。

 それでも、僕は走る。
 まともに戦える気なんてしなかった。折れかけた心は、僕を、ただただ走らせた。

 身に着けたものを投げつけ、泣き叫び、恥も外聞もなく僕は走る。

 そして、次は腕を裂かれ、足を裂かれ、血まみれになっていく。
 徐々に速度を失った僕は、狼の体当たりによって壁に打ち付けられる。

 終わった……。
 打ち付けられ、意識が遠のいていく中、僕は自分の死を悟る。

 僕はこの狼に食われて死ぬ。
 それが僕の終わり。

 そう思いながら、意識は暗く深いどこかへ沈もうとして――

「――うーん、面白い」

 どこか暢気な、それでいて楽しそうな男の声を、最後に聞いた。


◆◆◆◆◆


 僕は暗く深いどこかに沈んだ意識を、少しずつ浮き上がらせていく。

 体中の激痛がそれを助け、僕はゆっくりと意識を覚醒させる。

「ん、うぅ、ぁあ……」

 まぶたを開き、僕は淡い光を目に映す。
 そして、声を聞く。

「やっと起きたね、少年」

 僕は声につられ、顔をそちらに向ける。

 そこには全身を奇妙な包帯で包んだ赤い髪の少女が、暗闇の中にいた。
 少女は僕の隣で、黒い椅子に座って、こちらを見つめていた。僕は自分が寝ていたことを理解し、身体を起こす。

 しかし、身体の激痛がそれを許さない。

「ぐっ、くぅっ」
「無理しなくていい。ここは安全だ。ゆっくりと身体を休めるんだ」

 少女は優しい声でそう言い、手を伸ばして僕の頭を撫でる。

 僕はその優しい音色に、涙が出そうになる。
 幼い頃、とても怖い夢を見たとき、母に慰めてもらったときのことを思い出す。

 僕はこの心優しい少女に命を助けられ、看病までしてもらっていることを直感した。

 僕は寝転んだまま、ゆっくりと無理なく声を出す。

「君が、僕を助けてくれたの……?」
「いや、助けたの私じゃないな。助けたのは、別のやつだよ。私がここにいるのは、起きて目にするのがアレというのは可哀想だと思ったからだ」
「他の人が助けてくれたんだ。それで、看病は君がしてくれていると……」
「そういうことだね」

 少女は尊大な物言いで答える。

 そして、僕は思考する。ここはどこで、さっきまでの回廊は何で、どうして――

「――もういいかな。私も会話に入りたくて仕方がないんだ」

 僕が状況を分析していると、少女の隣から黒い何かが生えて・・・、そいつは楽しそうに喋りかけてきた。

「う、うゎぁ!!」

 僕は声を上げて驚く。
 唐突に地面から生えてきたそれは、人の形をしていた。形をしているが、決して人ではない。まるで粘土をこねて作ったような姿で、顔は能面だ。

「あれ、驚かしたかな。いてもたってもいらなくてね、すまないね」
「ティーダの登場は、いつも心臓に悪い。もっと気をつかえ。少年の傷が悪化する」
「あれ、あれあれ。やけに肩を持つね、アルティ。男嫌いの君が、さっきは撫でていたし」
「……さあ、私もよくわからない。よくわからないけど、なぜか、その少年は大丈夫だ」

 少女は親しげに、その能面の化け物と話す。

 僕は混乱する頭を必死に落ち着かせ、文脈からこの男に敵意がないことを理解する。

「え、えっと……、あなたが僕を助けてくれた方、ですか……?」

 おっかなびっくりに僕は声をかける。

「ああ! 私が助けたよ! 丁度、近くにいて、とっても気になってね!」
「それは、ありがとう、ございます……」

 能面はいい笑顔で(少しだけ能面が歪んでいて、どこか笑っているように見える)、僕の恩人であることを教えてくれた。

「ふふふっ、私は20層を守る番人、闇の理を盗むものティーダだ。よろしく頼むよ」
「私はアルティだ。一応、10層を守っている」

 2人に自己紹介され、僕も慌てて返す。

「えっと、僕は相川渦波です」

 軽く頭を下げ合いながら、自己紹介を終える。
 10層20層という意味が分からず、首をかしげる。

「ふんふん、ではカナミと呼ぼう。なんだか、カナミって呼ぶのがしっくりくる。そっちも気軽にティーダと呼んでくれていい。そうじゃないとこっちは落ち着かないんだ。アルティも同様だね」
「ああ、呼び捨てあうのが当然だな。なにせ、カナミは人間で、私たちはモンスターだからな」

 終えてすぐ、驚愕の事実が発覚する。
 アルティは自分たちがモンスターであると言った。

「え、えっと、モンスターですか……?」

 僕が確認するように繰り返すと、ティーダは楽しそうに説明する。

「そうそう、あのモンスターだよ。こっちのアルティも可愛い顔して、化け物の中の化け物。倒したら、消えて魔石になるよ」
「ま、ませき……?」

 まるでRPGのような単語が飛び交い、僕は混乱する。

「あれ、魔石もわからないのかい? やはり、君は面白いね。アンバランスすぎて、ついつい助けちゃったほどだ」
「あ、助けていただいたことは本当に感謝しています……」
「いや、それはどうでもいいよ。気にしなくていい。それよりも、重要なのは君だ。何より、君だ。君は一体何者で、君はどうしてあそこにいたのか。私はとっても気になるんだ」
「何者で、どうしてあそこにいたのか……」

 僕が聞きたいほどだ。
 しかし、命の恩人の望みだ。できるだけ答えてあげたいと思う。

 僕は搾り出すように、少しずつ言葉を紡ぐ。

「目が覚めたら、いきなりあそこにいたんです。その前は家に居たはずなのに……。バイトから家から帰って、妹と食事して、明日の準備をして、家のベッドで寝たはず。なのに……」
「ふんふん、君にとってもイレギュラーな事態だったんだね。何か私たちが力になれることがあるかもしれないから、全部教えてくれないかな。私は気になって気になって仕方がない」
「わ、わかりました。それで――」

 僕は話す。
 僕のことを。そして、ここにきてからのことを。話し続ける。

 偽ろうとは思わなかった。モンスターと自称しているものの、2人が友好的であるのは確かである。
 小一時間ほど話し、それが終わる頃には2人の表情は激変していた。

 ティーダは歓喜に、アルティは驚愕に塗り変わっていた。
 ティーダは喜びながら、色々と僕に教えてくれる。

「――間違いないっ、君は『異世界』から、この世界に来たんだ! すごいっ、この『迷宮』はそんなことも成しえるのかっ、いや、それともこれが本命だったのか!?」
「い、異世界、ですか?」
「ああ、そうだよ。君は運悪く、いや、運良くも、この世界に呼ばれたんだ。ここは君のいた世界とは、完全に別物だ」
「う、うぅ……」

 僕はそれを否定できなかった。状況がそれを肯定している。
 怪物、迷宮、魔法のような炎、そして、目の前で喜んでいるティーダ。どれもが、幻想的だ。僕の世界の理とは、根本的に違う存在だ。

「あ、あぁ、ごめん、カナミ。君にとっては笑い事じゃなかったね。その、家で待ってる妹さんが……」
「は、はい……。だから、絶対に帰らないといけないんです。すぐにでもっ……」
「ふむ、そうだなぁ。カナミには帰って欲しくないが、帰って欲しくないがっ、それを手伝うのはやぶさかではないよ」
「ほんとですか!?」

 僕は痛む身体を動かし、ティーダのほうへと身を乗り出す。

「ああ、全てが私の思っているとおりなら、君は帰ることができる――」
「帰れるんですねっ。帰れるなら、僕、何でもします!」
「いい返事だ、カナミ。なに、私も、タダで君に協力しようとは思っていない。君にやってもらいたいことがある!」
「それは一体!?」

 最優先事項は、妹のところへ帰ることだ。
 僕はそのためなら、何でもする覚悟がある。それに恩人である2人の役に立ちたいという気持ちもある。

「――君は今日から、守護者ガーディアンだ! 0層の番人、カナミとなるのだ!」

 そして、ティーダは宣言する。
 あくびをしているアルティの隣で、雄々しく僕を守護者ガーディアンと呼んだ。

 心が跳ねる。

 それどころではないのわかっている。しかし、僕の根にあるゲーム好きな部分が、その宣言を魅力的なものに映した。

 それが始まり。
 その心の高鳴りは始まり。

 のちに、迷宮の主ダンジョン・マスターと僕は呼ばれる物語。
 その物語の始まりだった――。


◆◆◆◆◆


 ティーダとアルティとの出会いの後、僕の帰還計画は詳細まで決められた。

 こちらの世界について学んだことと照らし合わせ、それは納得できるものだった。なにより、信頼するティーダとアルティの計画だ。僕がそれを断る理由はなかった。

 ティーダは面白がりながらだが、僕の帰還のために動いてくれている。
 そして、僕は2人の代わりに、迷宮で守護者ガーディアンの仕事をすることになったのだ。

 今日は、その責務を果たすための下準備。修行の時間だ。
 拠点である20層の暗闇の中、僕はアルティと鍛錬を行っている。

「いいかい、カナミ。魔法の基本は、精神力と供物だ。供物に関しては状況しだいだが、魔力の源である精神は鍛錬が可能だ」
「は、はあ……」
「精神が強くなれば、自然と魔法の基礎能力も向上する。わかるかな?」
「うん、それに異論はないよ。異論があるのは別の点だね」

 僕は恩人であり師匠でもあるアルティに異を唱える。

「ほほう、言ってみろ」
「なんで、精神の鍛錬で、この状況になるんだ?」

 アルティは、そのちっこい身体で僕の背中に張り付き、息の届く距離まで密着している。

「平常心の修行だ」
「いや、修行しなくても平常心だよ?」

 別に、僕は心乱れていない。

「む、こんなに可愛い女の子がくっついているのに平常心だと?」
「アルティは妹くらいだからね。妹も、しょっちゅうこうやって僕にくっついていたから、別に何とも……」
「え、妹もこんなことしていたのか?」
「引かないでよ、事情があるから、事情が」

 勘違いして欲しくないので、僕は事情があることを繰り返す。
 それを聞いたアルティは悩んだように唸る。

「うーむ、慣れてるのだな。ならば、もっと密着度をあげるか」
「いや、これ以上はちょっと……」
「呪布を脱ごう。おまえも脱ぐか」
「待ってください、師匠」
「どうした?」
「ちょっと犯罪くさい絵になるので、待ってください。肌と肌の密着はアウトです」
「大丈夫だ。呪布がなければ、私は炎だからな。炎と肌の密着だ」
「それ、僕燃えてね……?」
「精神鍛錬だよ。心頭滅却をマスターすれば、問題ない」
「心頭滅却をマスターする代償に、僕、炭になってると思うよ」
「大丈夫だ。火加減はする。ミディアムレアくらいだ」
「それで安心すると思う?」
「まあ、カナミに拒否権はないけどな」
「熱いっ! すごい熱い! まって、アルティ! HPがごりごり減ってるから、ほんとに!!」

 いつの間にか後ろでは呪布を脱いだアルティが、僕の身体をこんがりと焼こうとしていた。

「ふふっ、HPが見えるってのは便利だね。逆に言えば、それがゼロにならなければ、カナミは死なないんだ。やったなカナミ、限界まで鍛錬ができる」
「HP1までやるの!?」
「ああ、もちろんだ。カナミは私とくっついても、何も感じないらしいからな。不本意ではあるが、こういった鍛錬法しか残されていない。ああ、真に不本意であるがな」
「あ、あれっ。もしかして、アルティ、ちょっと怒ってる?」
「ふふっ、怒る? 何を言っているのやら、私が怒る要素なんてどこにもなかっただろう? 少しばかり、不本意なことがあって鍛錬法が変わっただけだろう?」
「怒ってるそれ!」

 などといった鍛錬と称したいじめの時間を僕は乗り越えて行く。

 正直、アルティの教えで役に立ったのは、魔術基盤や詠唱といった知識面だけだ。

 他にも、体術や剣術も鍛えていく。
 レベルは戦えば戦うほど上がるが、後々のため、それ以外の部分も鍛える必要があるらしい。

「とりあえず、カナミには90層まで行ってもらうからな。あと7人ほど、私たちの仲間を開放して欲しい。そのための修行だ」
「はあ、あと7人も、アルティみたいなのがいるのか……」
「君の仲間でもあるさ。『次元の理を盗むものカナミ』」
「それやめて欲しいんだけど……、なんか恥ずかしいし……」
「私たちの挨拶みたいなものさ。こう名乗らないと、7人の仲間たちに攻撃されるぞ?」
「そ、それは嫌だけど……」
「さあ、修行の再開だ。カナミには魔法の才能があるからな。まずは、魔法をマスターするぞ」
「今日は、どんな修行を……?」
「うーん、とりあえず、魔法を撃ち合おうか?」
「思ったんだけど、アルティって教えるの向いてないよね」
「なら、早く強くなって、迷宮を進むんだな。7人の仲間の中には、教えるのがうまいやつもいる」

 そして、修行は続く。

 基本的に迷宮は、人手が足りない。僕の目的のためにも、アルティたちの目的のためにも、僕が強くなって、人間として各層の封印をといて行くのは必須だ。

 朝は迷宮でモンスターを狩り、昼はアルティかティーダと20層で鍛錬。その繰り返しだ。

 生活は20層の液状ハウスが基本となっている。ティーダの能力の中に、流体操作というものがある。その応用で、僕のために作ってくれた家だ。ちなみに、生活用品は街からアルティが定期的に仕入れてくれる。

 そんな生活が数日ほど過ぎ、僕も守護者ガーディアンとしてそれなりの実力となってきたころだ。

 初の20層での試練を任される。


◆◆◆◆◆


 液状ハウスのベッドで寝転がっていると、慌てた様子のティーダの声が響く。

「カナミっ、なかなかの使い手たちがそっちに向かっている!」

 家の液体が口の形になり、僕へ喋りかける。

「え、けど、今、アルティもいないよ?」
「うむ、そこでだ……、すまないけど、カナミが試練をやってくれないかな?」
「僕が?」
「カナミは強くなった。おそらく、人類トップクラスを10人相手にしても余裕のはずだ。少々予定が早まったものの、問題はないと思う」
「予定が早いなら、放置して21層に行ってもらってもいいんじゃ……?」
「できれば、今回の挑戦者たちは、入念に試験したいところなんだよ。眷属端末での確認でも、才能溢れているのが見てとれる。これを21層で失うのは惜しい」
「わかった、ティーダ。任せてくれていい」
「頼んだよ」

 それを最後に声は聞こえなくなる。

 僕は唐突な大任に汗を垂らす。しかし、親友であるティーダの頼みだ。僕は気合を入れて、支度を進める。

 アルティにもらった呪布を『持ち物』から取り出し、体中に巻きつける。さらにその上から紫色のローブを羽織る。ローブはぶかぶかで、身体全体を隠し、見えるのは口元だけとなる。最後に、背中にレイピアを隠し持ち、ティーダお手製の仮面を被り、木の杖を手にする。

 これで準備は万端だ。
 怪しさ満点の魔法使いだ。

 そして、僕は待ち構える。

 迷宮の守護者ガーディアンとして恥ずかしい姿は見せられない。何度もシミュレートしてきた、台詞を頭の中で繰り返す。

 そうしているうちに、挑戦者たちは20層へと辿りつく。

 それが出会い。

 挑戦者たちが4人の女の子であることに僕は戸惑う。異色のパーティーだ。確かに女性だけのパーティーだって存在するのは確かだ。しかし、女性は魔法の才能に偏ることが多く、女性だけのパーティーだとどうしてもバランスが悪くなるのだ。

 僕は戸惑いながら、『注視』する。そして、自分の心配は杞憂だったことがわかる。

 それぞれがそれぞれ、正真正銘の化け物だった。
 才能の塊といってもいい少女が4人。それも、パーティーバランスは完璧といっていい。平均レベルは15くらいだ。

 まず1人目、金の髪をなびかせる恐ろしく美しい少女、ティアラ・フーズヤーズ。先頭に立つリーダー格と思われる少女で、レベルも最も高い。高い身体能力に、戦闘用スキルのオンパレード。剣だけで戦えることもできれば、おそらく魔法戦闘も可能。万能型の前衛だ。

 2人目、こちらも恐ろしく美しい金髪の少女だ。しかし、背はティアラ・フーズヤーズと比べてかなり低い。名前はディアブロ・シス。ただ、その美しさは女性的というよりは中世的で、その短い髪も相まって、美少年と見紛うほどだ。この子は、間違いなく後衛の魔法使いだ。身体能力は低く、その代わり、魔法に関しては破格のステータスを保持している。魔法に関するスキルばかりで、おそらく一番後ろに陣取るはずだ。

 3人目、黒髪黒目の生気のない幼い少女、マリア・ディストラス。この子もディアブロ・シスと同じく、後衛と見える。しかし、接近戦もできなくはないスキルとステータスのため、注意は必要だ。火炎魔法だけが異様に高いため、おそらくアルティと同じく広範囲殲滅に特化した魔法使いと思われる。この子の一発だけは常に注意しておかなければならないだろう。

 4人目、青い髪の竜人ドラゴニュート、スノウ・ウォーカー。ステータスを見る限りでは後衛2人を守る盾の役割を担っていると見える。高い防御力を持ち、さらには竜人ドラゴニュートという種族から、その堅牢さはパーティー随一となっている。しかし、魔力が低いわけではない。珍しい魔法スキルを持っていることから、トリッキーな部分もあるはずだ。

 これで全員……。

 いや、なんかおかしい気がする……。

 以前、気まぐれにティーダが20の試練を行っていたときは、こんなの化け物たちが相手じゃなかった。才能があるといっても、まだ人間の範疇内で、パーティーとしての実力も可愛らしいものだった。

 しかし、この少女たちは違う。
 明らかに迷宮を殺しにきている4人組だ。

 僕は冷や汗を流しながら、前もって用意していた台詞を喋る。

「よ、よく来たな。人間の探索者たちよ……。しかし、おまえたちにこれ以上進む資格があるか、試させてもらおうぞ。私は0層の守護者ガーディアン、次元の理を盗むものカナミだ……」

 仮面のおかげで、焦っている表情はわからないだろう。しかし、声から動揺が伝わっていないか不安でしょうがない。ちゃんとボスらしくできているだろうか。

 僕の名乗りに対して、先頭の少女が答える。

「0層の守護者ガーディアン?」
「ああ、最近だが、迷宮にて誕生させてもらった。なに、新参だが、これでも守護者ガーディアンだ。期待には応えられると思うよ」

 もはや引っ込みがつかない。前もって用意していたキャラで通すしかない。

「なるほどね。本当は噂のティーダってやつを倒したかったけど、別にあんたでもいいかな。立ちふさがるなら、踏み潰すだけ」
「ふっ、いい目をしている。しかし、まだ早い。己の限界を知ってみるか、人間よ」

 ティアラ・フーズヤーズと僕は睨み合う。
 正直、汗が止まらない。この子、眼力やばいもん。なんかオーラみたいなの出てるし。

「シスっ、マリアっ、スノウっ、いつもので行く!」

 そして、ティアラ・フーズヤーズは剣を抜いて叫ぶ。
 それと同時に4人は散開し、フォーメーションらしきものを組む。

「さあ、かかってこい。果たして、この身を傷つけることができるかな?」

 僕も合わせて魔法を展開する。

 こうして、戦いは切って落とされた。

 戦い。
 長い長い、戦いの始まり。


 これが、終生のライバルとなる少女たちとの初邂逅だ。


◆◆◆◆◆


 おそらく、この少女たちこそ、僕の迷宮の主ダンジョンマスターとしての物語でいうところの主人公にあたる。

 それほどまでに、彼女たちと僕は、数え切れないくらいの戦いを重ねる。
 迷宮でボスモンスターとして出会い、仮面を外して町で人間として出会い、長い長い付き合いになる少女たちだ。

 ボスとしては相容れぬ宿敵だが、人間のときは友達だ。僕はボスとしての自分を決して語らず、少女たちの成長を見守った。彼女たちこそ、おそらく、アルティたちの願いを叶える存在だと直感したからだ。

 なにより、見ていられなかったというのもある。
 4人が4人とも、精神に問題がありすぎだった。狂った精神、呪われた精神、死んだ精神、絶望した精神、とにかく、4人とも人として欠陥がありすぎた。

 僕はそれを見ていられず、人間として少女たちに近づき、その精神を癒していく。そうしていくことが、彼女たちの成長に繋がるとわかっていたからだ。

 結果、それは大成功を収める。

 それぞれが、それぞれの運命を乗り越え、最強の挑戦者として僕の前に現れる。




 僕はいつものように笑って、応える。

「来たな……。改めて自己紹介しようか、私が0層の守護者ガーディアンにて迷宮の主ダンジョンマスター、次元の理を盗むものカナミだ。さあ、試練を始めようか……」

 遠くない未来、僕は消える。

 しかし、そのとき、心残りなのがこの4人だ。
 そのために僕は笑う。

 笑って試練を行う。
 僕がいなくなっても、幸せになれるよう、願いをこめて試練を始める。

 これが僕の物語。
 迷宮の主ダンジョンマスターの物語だ。


なんだこれ。
もうひとつの作品、敵はいないシリーズのノリが混じってますね。

60話が書けたらたぶん消えます。時間の余裕があれば、4/2には消したいところ。
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