(クランクインした昨年の)8月17日の岩手(えさし)ロケは、64歳で生涯を終える清盛のほんの入り口でした。そのときは、これから自分は「出口がまったく見えないところへ向かって演じていくんだな」という不安や難しさを感じていました。
そして最初は(役として)年を重ねていくということがどういうことなのか、よくわからなかったのですが、清盛がどんどん年を重ねて、立場も位もあがっていくなかで、それぞれの清盛がどういう状況で、どういう気持ちでいるのかをひとつひとつ考えながらやってきました。
今思うと、清盛と一緒に歩んでいたというよりは、ぼくが清盛にしがみついていた、食らいついていたという感じです。油断していると、清盛はすぐにどこか遠くへ歩いて行ってしまう、自分から離れていってしまう。そういう危ういなかでも、どうにか清盛にしがみついて演じてきました。
清盛は、最初はひとりぼっちで孤独でしたが、それを乗り越えて最後はたくさんの人たちに囲まれて生涯を終えることができました。ぼくのなかには“人と人のつながり”がテーマとしてあって、それについての重要なことを清盛に教えてもらったような気がします。ぼく自身もスタッフやキャストのみなさんとのつながりを意識しながら演じることができたし、ここまで濃密に人と関わり合いながら仕事ができたことは、とても貴重な経験になりました。自分の全身全霊をかけてスタッフやキャストのみなさんにぶつかっていけたこと、そしてそれを受け止めていただいたことにとても感謝しています。クランクアップした今は、まだ清盛の名残りが自分のなかにありますが、徐々にそれがなくなっていくのかと思うとさみしいですね。でも、ぼくには子どももいますし、これからも大河ドラマのような大きな仕事もあると思うので、前を向いて頑張っていきたいと思っています。
松山くん、本当にお疲れさまでした。ぼくは松山くんと1年2か月いっしょに撮影してきましたが、クランクアップした今、ようやく松山くんの素の顔を見たような気がします。
それは同時に、“この1年2か月、松山くんが清盛という役柄に入り込んでいた”ということだと思います。とても胸がいっぱいになりました。
1つの作品に全てを傾けて演じることができる役者、“松山ケンイチ”という男と、1年2か月ともに演じてこられたことを、ぼく自身も誇りに思います。彼は最後の瞬間まで、ぼくらにとって、かけがえのない最高の殿でした!
松山さんとは、ワンシーンしか共演するシーンがありませんでした。ただ、ナレーターとして1人の役者さんを1年間見続けて、平清盛として作品の全てを背負っている姿に、同じ役者としてとても影響を受けました。
最後の最後にワンシーンですが、松山さんとお芝居をさせていただいたときは、正直、身震いがしました。ずっと見続けてきた役者さんとの共演で、本当に緊張しました。
平清盛はすべてを包んでくれるような大きな存在なのだなと、そのワンシーンだけで実感させられました。
源頼朝としては、父は義朝(玉木宏)ですが、ぼく自身は平清盛も父として見ていたような気がします。松山ケンイチさんといっしょに仕事ができて、本当に光栄でした!
重盛としては第24回からの出演でしたが、ぼく自身は第1回から『平清盛』をずっと見ていました。役柄も、清盛の嫡男でしたが、ぼく自身にとってもお父さんと思えるくらい、松山さんの背中がとても大きく感じていました。
はじめていっしょにお芝居をしたのが、父上に長台詞を言うシーンだったのですが、松山さんの存在が大きくって、本当に声が震えました。目を見ると食われちゃうんじゃないかと思えるほど、大きな存在感と迫力がありました。
撮影はもちろんですけど、撮影以外でも、みんなが和気あいあいとやっていける空気を松山さんがつくってくれて、助けられた部分もたくさんありました。
今回、松山さんと共演させていただけて、この作品に関わることができて、たくさんの勉強ができました。父上、本当に、お疲れさまでした!
第31回から参加させていただき、松山さんの生き様を、現場でしっかり見させていただきました。今回、松山さんと共演して心から思ったことは、ぼくは松山さんのこだわりが大好きだということ、芝居が大好きだということです。清盛に対する松山さんのこだわりをそばにいてすごく感じることができ、役者としてとても大きな刺激をもらえました。また、第1回からこの作品を見させてもらった一視聴者としても、本当に楽しませてもらいました。1年と2か月、父上、本当にお疲れさまでした!
わざわざみなさんに来ていただいて、本当にうれしいです。こういう話は現場ではしないので、なんだか照れくさい感じがしますが、キャストのみなさんがいなければ、ぼく自身もどう清盛を演じればいいのか、わかりませんでした。
自分が棟梁ではないときは、中井貴一さん(平忠盛)をはじめ、先輩俳優の方々の後をついて行くことで精いっぱいでした。自分が棟梁になってからは、今度は自分の背中を見せなくちゃいけない!そういう部分ですごく悩みました。でも、やればやるほど、ちゃんと返してくれる役者さんたちばかりでしたので本当に助かりました。すごく感謝しています。
大河ドラマ『平清盛』は、制作発表の時点から非常に挑戦的な企画でした。貴族の時代から武士の時代に移るという、これまで描かれたことのない時代をターゲットにしたドラマであり、この時代をドラマ化するのは長年NHKのドラマ部の悲願でした。
脚本家の藤本有紀さんが平安の歴史と向き合い、濃密で雄大なドラマに組み立ててくださいました。そして、その世界観を松山ケンイチさんをはじめとする出演者の方々、またスタッフの方々、非常に多くの人々の努力のおかげで映像化することができました。
また、大河ドラマの主役というのは、今回の『平清盛』で言えば、10代から64歳までの生涯を1人で演じ切らねばならないという、過酷なものです。見てくださる方の目が肥えているなか、1人の人間の生涯を演じるのは、とても大変なことだったと思います。松山ケンイチさんは、若いときは若々しく、年をとったら老獪(ろうかい)に、平清盛を演じ切りました。
僕は松山ケンイチさんの才能を、すばらしいものだと思っています。これからも大河ドラマの主演を二度、三度とやっていただきたいと思っています。
また、共演者の方々にも恵まれました。若い役者さんたちもたくさん出演していただきましたが、みなさんがいいお芝居をされています。彼らにもこれからの大河ドラマを支えていってもらえればと感じています。
最後に、松山ケンイチさん、本当にお疲れさまでした!
大河ドラマは全51作ありますが、平清盛という人間が生きた平安時代を本格的に描いた作品はほとんどありません。圧倒的に戦国時代や江戸時代の方が多い。演出家として、この貴重な機会にめぐりあえたことを光栄に思っています。
(平安末期は)日本史上の大変革期で、武士、貴族、朝廷の、いろんな人たちが入り交じりながら、新しい時代を求めて必死に生きていた時代です。描けば描くほどに壮大なスケールを感じたし、やればやるほど、今までにない面白さを発見できました。
この作品を松山ケンイチという俳優と走り抜けることができて、ある種の達成感というか、幸せな気持ちでいっぱいです。松山さんとは、今作で初めてお仕事をしましたが、演じることに関して、ひたむきで、真摯で、貪欲な方です。演じることが好きなんだな、とひしひし感じました。
松山さんの役に取り組んでいく姿は、スタッフやキャストの心の支えになりました。だからこそ、この大作を無事撮り切ることができたのだと思います。
大河ドラマの魅力は、主人公の貧しい時代からはじまり、どんどんのし上がって、頂点を極めるという爽快感ではないでしょうか。『平清盛』も、撮影に入る前はそこが見せ場だと思っていました。ただ、すべてを撮り終えた今、この作品の面白さは“頂点に立ったあとがあること”ではないかと感じています。
権力を握った清盛が、闘う相手がいなくなり、一瞬自分を見失って、もがく。それでも初心を取り戻して、さらに先に進む。そういう権力者のとても人間臭いところを描き切ることができました。
もがきながらも、新たな希望を目指していく清盛の姿が、特に最終回では凝縮されています。最後まで、松山ケンイチさん演じる平清盛をお見逃しないよう、お願いします!
松山ケンイチさん:
いろいろなターニングポイントがあると思いますが、その中でもぼくが特に印象に残っているのは、清盛が一度倒れて、夢の中というか、意識のない中で白河院と会話するシーン(第34回「白河院の伝言」)です。
白河院に「お前にはまだ見ぬ景色がある。わしに追いつけば見られる景色がある」と言われ、目の前に双六の賽(さい)を落とされる。白河院は死んでいるので賽を振ることができない。生きている人間にしか賽は振れない。そこで清盛は賽を拾って「私はあなたを追い越してみせまする」と言うシーン。このあと復活した清盛は、“賀茂川(鴨川)の水”と、“山法師(強訴を繰り返す寺社)”と、“双六の賽”をすべて自分の力で動かせるようにしようと模索していきます。
大河ドラマ『平清盛』は、2011年の震災が起こってから、半年もたっていないなかで撮影が始まっています。だから、生きることに関して、きっちり向き合って、表現していかなければならないと思っていました。そういう意味でも、第34回が心に残っています。
松山ケンイチさん:
撮影が夜中になることも多かったのですが、時間が遅くなればなるほど、柴田監督がいきいきしてきて、目がギラギラしてくるんです(笑)。そのおかげで乗り切れたとこがあるので、感謝しています。終わってからのことは、何も考えてないので、これから考えます。
松山ケンイチさん:
自分の周りでは「そういうのは気にするな」とか「本当に良い作品を作っているんだから突き進みなさい」など、いろいろ言っていただきました。
でも、数字で最低記録を更新できたのはすごく光栄だと思っています。ぼくらはもちろんそれを狙ったわけではなく、本気でやって、本気でいい作品にしようと思って努力してきました。それで記録更新するって、滅多にないことだと思います。逆に、すごい高視聴率を出すのと同じぐらい難しいことではないでしょうか。適当にやって、それが画面に出て、視聴者の皆さんが離れていって悪い視聴率につながったのなら、それはダメなことだと思います。
大河ドラマ『平清盛』は、そうではない!そこには、強い自信を持っています。
松山ケンイチさん:
自分の家族と同じぐらいの時間を、スタッフやキャストのみなさんと過ごしました。スタッフ、キャストのみなさんは、数々の大河ドラマを経験してきた百戦錬磨。だから、何を注文しても、どんな質問をしても、どうぶつかっていっても、それに応えてくれる器をもっている方たちばかりでした。
みなさんのおかげで、自由に自分の感覚を大事にして、ストレートに表現することができました。
松山ケンイチさん:
苦しくても向き合うしかないです。清盛と向き合っていくしかないんです。柴田監督や磯さんにも、相談に乗ってもらったことはありました。そして、清盛に食らいつき、しがみついて、頑張って演じ切りました。これからはどんな役でも、この感覚で演じ切っていきたいと考えています。