忠盛は、まさに“ゴッドファーザー”。平家のなかで育って、いかに平家の家格を上げていくかを第一に考え、具体的に動きはじめた人物です。朝廷を別にすれば、貴族が世の中でトップを走っていた時代に、武士の地位を上げるために奔走した人なんです。
ぼくは大河ドラマって、歴史上の人物の私利私欲を描くからおもしろいと思っています。戦国もの、どう生き、どう領土を広げていくかということをあらゆる手段を講じ、試行錯誤しながら懸命に生きていく男たちの姿を描いているからおもしろいんです。
第1話で忠盛は、舞子を殺され、その子どもである清盛を育てることを決心します。そして清盛に、いかに平家を大きくしていくことが重要かを伝授していく。『平清盛』は、ある意味天下をとるために欲にまみれていくファミリーの話です。だから、おもしろいと思っています。
あるドラマの制作発表の待合室に2人でいたとき、「次の大河ドラマの話がきているんですが、大役だし、長期の作品だし迷っています」と相談されました。ぼくは間髪入れずに「やれ!」と言いました。
ぼくが『武田信玄』(1988年放送)をやったのは25歳のときでした。そのときの自分に比べると松山くんのほうがずっとしっかりしているし、不安がることは何もないとも言いました。
そして最も重要なのは、1人の人物を1年かけて演じることのできるドラマは大河しかない。自分が平清盛になるのか、平清盛が自分になっていくのかわからないけど、歴史に名を残した人が自分にのりうつってきたときに、必ずその人から教えてもらうことがある。それは、役者・松山ケンイチではなくて、人間・松山ケンイチに大きな影響を与える。実際にぼくが武田信玄という人から人間として教えてもらったことが山のようにある。人間として成長できるかどうかという面においても、大河ドラマをやる意味は大きい、って。
また、今回の大河ドラマが51作品目。大河ドラマにはこれまで数多くのすばらしい役者さんが出演してきたけれども、その中で主役はたった50人しかいない。51人目として、松山ケンイチという名前が大河ドラマの歴史に残るということは役者冥利(みょうり)に尽きるんじゃないか、という話もさせてもらいました。
松山くんに「やれ!」と言ったし、その責任は絶対とらないといけないと思って(笑)、ずいぶん悩みましたが「やろう!」と決断しました。
松山くんが清盛をやるというのが大きかったし、どこまで手伝えるかわからないけれども、やらせていただこうと思いました。
魅力的ですよ。彼がもっている真っ直ぐさや(調度)いい加減さが相まって、現代風でありながらも時代劇としてきっちり成立している。彼ならではの清盛像を創り上げています。
ぼくは若い人たちにすごく刺激を受けています。『プリンセス・トヨトミ』という映画で岡田くんとは共演しましたが、若い人たちを見て「こいつら、すげえな」といつも単純に思っています。「今の若いやつらは・・・」なんて全然思わない。対等に芝居ができるし、競い合うこともできます。
ぼくが岡田くんや松山くんと何が違うかというと、20年多く経験を積んできたという経験値の違いだけであって、あとはあまり変わらない気がするんですよ、特に役者なんて商売をやっていると。
岡田くんの頼朝は非常にいいし、彼が創り上げる頼朝はこういう頼朝なんだとすごく理解できる気がします。