『龍馬伝』では、革新性や変革を追い求めていましたが、今回の『平清盛』では、また新しい挑戦として、これまで大河ドラマが培ってきた歴史や伝統と、革新性の融合を目指しています。そのときに中井さんの立ち位置は、ぼくにとってとても重要でした。
中井さんご自身は、とてもエレガントで、優雅さや品格をもち合わせた方です。その中井さんが演じる忠盛は、平家の筆頭であり、一族の歴史や伝統を受け継ぐ象徴的な存在。ディフェンダーとして忠盛がどっしりと構えているからこそ、清盛も自由奔放に動くことができるわけです。
ぼくの表現者としての感覚的・技術的な革新と、これまでの大河ドラマに脈々と息づく伝統的な価値観や知識・ノウハウの融合を、最も象徴的に表現できるのが中井さんの忠盛だと考えています。保守性の象徴としての忠盛に、中井さんがもっている品格とエレガンスさをそこなわず、いかに革新的な表現に持ち込めるか?そのチャレンジは、忠盛という1人のキャラクターデザインで終わるのではなく、今回の大河ドラマ全体を貫く人物デザインの考え方や方向性を指し示すものです。
この狩衣姿の忠盛は、今回の大河ドラマが目指す伝統と革新の融合が、奇跡的にカタチになった1つの理想型です。
中井さんが着ている狩衣は、もともとは光沢のある正絹ですが、それをストーンウォッシュにかけて風合いを出しています。
このディープパープル(小豆色)の狩衣を着た中井さんは、最高のエレガンスさを放っています。
ただ、ただ、美しいですね。メイクは薄めにしていて、ちょっとアイラインを引いているくらいです。まゆ毛もご本人のまゆ毛を活かしています。 衣装は、ストーンウォッシュをかけたピンクの麻の袿(うちき)に、しびら(しびらだつもの)という前掛けのようなものをつけています。これは、前掛けではなく、はかまの一種だそうです。
実際のしびらはもっと短く、まるで侍女の前掛けのように見えるので、比率を変えて少し長めにしています。その方が全体のバランスもいいし、見ていて親近感も感じてもらえると考えました。