烏帽子(えぼし)は基本、ビシッと立ってなくてはいけないもので、
烏帽子が折れているというのは恥中の恥なんです。
でも、信西の烏帽子はいつも折れています(笑)。これは、落とし穴に落ちたり、海賊に捕まったり、いつも不運な出来事に巻き込まれてしまう、「巻き込まれキャラ」だからです。
いつも烏帽子が折れている信西ですが、たまにピーンと立った烏帽子をかぶっているシーンがあります。これはとても貴重なシーンだと思います(笑)。
前半の信西は、人物デザイン的には少しかわいいキャラクターにしています。これは、阿部サダヲさんにぴったりですよね。
着ているのは、白い紗(しゃ)の狩衣(かりぎぬ)ですが、これもいつも汚れています。下にはいている“くくりばかま”は少し上ではかせて、かわいい感じを出しています。そして、馬には乗っていないのに、なぜか馬靴を履いています。
ユーモアがあり、哀しさもあるキャラクターが、兎丸ですね。海賊ということで、加藤さんのワイルドさをより際立たせる人物デザインにしています。
何か特殊なものを着ているように見えるかもしれませんが、時代考証を裏切っているものは何1つ着ていません。上に着ている、水色とベージュのものは、水干(すいかん)という当時の着物。これをストーンウォッシュにかけてクタクタにしています。下にはいているのは、“切りばかま”という短めのはかま。それの股上を深くして、サルエルパンツのようにしています。
頭に付けているのは、“はっぷり”という通常は顔に付けるプロテクターです。これは、父親である朧月(おぼろづき)の形見。ただ頭に付けるだけではおさまりが良すぎておもしろくなかった。それを小道具担当が、バキっと片方だけ折り曲げてみると、これがうさぎの耳のように見えたんですね。で、「これだ!」って採用したわけです(笑)。意図してうさぎの耳のようにしたのではなく、偶然です(笑)。
胸と腕にしている入れ墨は、父親の名前である朧月(おぼろづき)の「朧」を「月」と「龍」に分解してデザイン化したものです。これは、言われないと誰もきっと気づかないのではないでしょうか。
璋子は、「あなたの心の芯はどこにあるのですか?」と聞きたくなるような、存在が浮遊している感じのする、あいまいなキャラクターです。そのあいまいさを、色袷(いろあわせ)の組み合わせで表現するのが、ぼくの仕事でした。しかしこれは感覚的な領域ですから、言葉ではなかなか説明できませんが、色彩の集合として、璋子の存在のあいまいさを表現したつもりです。
また、第1回でもお話ししましたが、薄く透き通る紗(しゃ)の着物を合わせて着る紗袷(しゃあわせ)を多用することで、直線的で重たい感じのする平安時代の着物の印象を、全体的にやわらかで軽やかな印象にしています。
紋紗(もんしゃ)という地に紋が入っている紗を合わせて着る紗袷(しゃあわせ)です。
このときの璋子は全部で五枚重ね着していますが、これも十二単と呼ぶそうです。十二枚着ているものだけが十二単ではなく、五枚でもその呼び名ということです。また、十二単では常道の色袷(いろあわせ)もありますが、今回は一切それを考えずに、キャラクターデザインという立場から独自の色袷にしています。そしてそれは、檀さんと璋子というキャラクターをつなぐための色袷でもあります。
ぼくらがイメージする平安時代の衣装って、直線的で輪郭がカクカクしている、重い感じの印象ではないでしょうか。その見た目の重量感を、格式はのこしながらもすこし軽くしたかった。そこで採用した手法が、薄く透き通る紗(しゃ)の着物を合わせて着る紗袷(しゃあわせ)の分量を増やすことです。
かつらは、これまでの頭にすっぽりとかぶるものではなく、髪の生え際や、髪の分け目は地毛を活かせるように独自に開発したものを使っています。
また、璋子の髪は床まであるので、その後ろ姿も必見です。