警視庁が「振り込め詐欺」に代わる新名称の公募を始めた背景には、「現金を指定した金融口座に振り込ませる」という従来の手口から、詐欺グループが被害者宅などを訪問して現金を手渡しで受け取る手口が主流になり、「実態にそぐわなくなった」（捜査幹部）という事情がある。
警察庁によると、高齢者宅に電話をかけて現金をだまし取る手口の詐欺被害が目立ち始めたのは、平成１５年ごろ。当初は息子や孫を装って「オレだよオレ」などと偽ることから「オレオレ詐欺」の名称で呼ばれるようになった。
その後、利用していないインターネットのサイト料金を請求する「架空請求詐欺」や融資を装い保証金を詐取する「融資保証金詐欺」、公共機関から現金が返還されると偽る「還付金詐欺」といった派生型が出現。警察庁は１６年１２月、これら４種類を一括して「振り込め詐欺」と命名した。
金融口座に振り込ませるという手口が共通し、「『振り込み』ではなく『振り込め』と命令口調にすることで犯人がイメージできる」（捜査幹部）との理由だったが、その後も架空の投資話やギャンブルの必勝法を教えると持ち掛けて手数料名目で現金をだまし取るなどの手口が相次いだ。
警察庁はこれら新手の詐欺を「振り込め類似詐欺」と新たに分類し、さらに２３年４月には「振り込め詐欺」と「振り込め類似詐欺」をまとめて「特殊詐欺」と命名した。だが、いずれも一般への認知度はほとんどないのが実情だ。
一方、２０年には全国で約２万件、被害総額も約２７５億円に達した振り込め詐欺は、振込先に悪用された口座を速やかに凍結するための「振り込め詐欺救済法」が施行されるなど対策が強化されると、翌２１年には約７３００件、約９５億円まで激減した。
だが、その後に口座を介さずに現金をだまし取る「手渡し型」の手口が主流になると徐々に被害額も増加に転じ、２４年には約１６０億円まで膨らんだ。特に都内では「約７割が手渡し型」（捜査幹部）といい、昨年１年間では１千万円を超える高額被害が２０４件も確認されている。
また、詐欺グループについても、現金を受け取る「受け子」や電話をかける「架け子」、メンバーを募集する「リクルーター」など役割が細分化され、複雑化しており、実態把握の難しさが指摘されている。