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【暮らし】

<はたらく>「女性の自立」空回り 各地の男女共同参画センター

嘱託職員が相談業務をする名古屋市男女平等参画推進センター。2014年度に移転する=名古屋市中区で

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 「国や自治体が推進する男女共同参画政策が行き詰まっている」との声が、配偶者や恋人らからの暴力(DV=ドメスティックバイオレンス)の被害などの相談に応じてきた各地の男女共同参画センターなどの元職員や、女性学の研究者らから上がり始めた。相談を担う女性の多くが、一年契約の非正規職員の立場にあるからだ。 (沢井秀和)

 「泣きながらかかってくる電話も多い。混乱している人に心の整理をしてもらうのは大変なこと」

 大阪府内のある市の男女共同参画センターで、二年前まで非常勤の支援員だった遠藤礼子さん(44)=大津市=は明かす。

 各地のセンターで相談を担うのは多くが非常勤職員の女性。愛知県女性総合センター「ウィルあいち」(名古屋市東区)の県女性相談センターの相談員は九人だが、すべて女性の非常勤嘱託。愛知のセンターでも、遠藤さんの働いたセンターでも非常勤職員は一年契約で、更新は二度までに限られている。

 遠藤さんは「多くの自治体の非常勤職員は、不安定な契約を強いられている。被害者を支援する人が生活に不安を抱えていては、いい仕事ができない」と訴える。

 遠藤さんと同じセンターの非常勤支援員で、三月末に正当な理由も示されないまま、契約が更新されずに辞める女性(51)は「継続的な支援が必要な利用者や、連携機関との信頼関係が途切れることになる。一番困るのは利用者」と指摘する。

 この女性は子ども三人を育てるため、別の仕事もせざるを得なかった。「女性の自立をうたいながら、非常勤を安い賃金で専門職として雇い、使い捨てにするのが多くの男女共同参画センターの実態。雇用継続や再就職を考えると、非常勤は声を上げにくい」という。

 富山県内のある市で一年半、非常勤のDV相談員を務めた女性(52)も、「行政は本当に男女共同参画社会をつくる気があるのか」と話す。DV加害者が窓口を訪れる可能性があるのに、相談は受付カウンター近くで受ける。人手不足のため、図書の貸し出しや講座で訪れる市民に対応する必要があるからだ。他の職員に聞こえる場所で、性暴力の被害相談に耳を傾けることもあった。

 この女性は悩みを抱える女性に付き添い、関係機関を回りたかったが、非常勤は指示された以外の業務が許されなかった。

     ◇

 共著「社会運動の戸惑い」(勁草書房)で、男女共同参画政策の現状を書いた富山大非常勤講師の斉藤正美さん(61)は、「男女共同参画センター自体が、社会の性差別構造を踏襲している」と指摘。センターの事業も疑問視する。多くは意識啓発が中心で、寸劇や紙芝居の制作・上演、かるた作りから、結婚適齢期の子どもを持つ親の交流まで手掛ける市もある。

 「生活の困窮、性暴力、差別に苦しむ声に耳を傾ければ、現在の仕組みの限界が見えてくる。啓発一辺倒の事業、相談・支援員の待遇を見直し、性差別をなくす施策をつくる体制づくりが求められる」と話している。

◆名古屋市は移転 しわよせが心配

 名古屋市は女性の相談に応じてきた市男女平等参画推進センターを、二〇一四年度に別の場所にある女性会館に移転、一本化させる。同センターも相談員六人は嘱託職員。相談体制に変わりないが、同会館の図書室は縮小する。一一年の事業仕分けで、施設や事業の整理が必要とされた。

 名古屋市立大の菊地夏野准教授(社会学ジェンダー論)は「図書室は全国の女性団体の会報がそろい、DV被害女性を支援する市民の拠点。自立を目指す女性にしわ寄せがいくのは、時代に逆行している」と訴える。

 

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