社説
婚外子差別/撤廃へ、政治は覚悟を決めて
社会の安定を重視し、立法府の対応を慎重に待つ姿勢に傾きがちな最高裁がいよいよ覚悟を決めたということだろうか。 法律に残る婚外子の遺産相続をめぐる差別が見直される方向が強まってきた。 結婚をしていない男女間の子ども(婚外子)が相続できるのは、結婚している夫婦の子ども(嫡出子)の半分とする。 こうした民法の規定が法の下の平等を定めた憲法に違反するかどうかが争われている2件の家事審判の特別抗告審で、最高裁は先日、審理を大法廷に回付することを決めた。 大法廷は新たな憲法判断が必要になる場合や、最高裁判例を変更する際などに開かれる。 婚外子の相続格差が合理性を欠き、従来の「合憲」判断を覆して「違憲」とする可能性が高いということだ。 1995年、大法廷はこの規定を合憲としたが、賛否の差はわずかだった。合憲を疑問視する意見が多数あり、「立法による改正が適当だ」といった政治に期待する異論もあった。 その後、小法廷で合憲はかろうじて踏襲されてきたものの、判決に際して反対意見が続出。東京、名古屋、大阪の各高裁で違憲判断が相次いでいる。 親の結婚の有無により、相続に差を設ける規定を正当化する根拠は乏しい。 本人に何ら落ち度のない子どもに不利益を強いるのは理不尽で、法律婚を尊重し、そうした家族中心に構成される社会を維持するためとする理屈ももはや説得力を欠く。 法改正によって伝統的な家族の形態が崩れるとの見方は皮相だ。法体系がどうあれ、既に夫婦や親子など家族の在り方が大きく変化している。 国際結婚や事実婚が珍しくなくなり、離婚や非婚に伴うシングルマザーが増えている。生殖医療の高度化により、親子関係も固定的に捉え切れなくなっている。 市民の意識が多様化し、相続差別を放置しておける状況にはない。国連の委員会から是正勧告されてもいる。 婚外子に対する差別は社会に根強い。時代にそぐわない、差別を助長するような規定は直ちに改めるべきだ。遺産相続で特段の配慮をしたければ、遺言という手もあるではないか。 司法に促される格好で、政治が見直しを決断する機会は少なからずあった。 法制審議会は合憲判決直後の96年、規定をなくす法改正を求める答申を出した。 法務省は2010年、婚外子と嫡出子の相続を平等とする民法改正案をまとめたが、法案に組み込まれていた夫婦別姓導入をめぐり政権内の調整が難航。政府も国会もいまだに法案を提出できないでいる。 法整備や改正が社会の急激な変化に遅れるのはやむを得ないとしても、長期間の先送りは無作為との批判を免れない。 また司法に後れを取るのか−。政治の感度、覚悟が問われている。
2013年03月30日土曜日
|
|