<2013年1月=東スポ携帯サイトより>
関東圏限定の話題となるが、なかなか視聴率20%を越えられぬ朝の連続テレビ小説「純と愛」(NHK)に、昨年11月から思わぬ強敵が現れた。テレビ東京が同時間帯に「世界の料理ショー」の再放送をスタートさせたからだ。
カナダ放送協会の制作。本国では1968(昭和43)年から放送され、日本国内では昭和49~53年に東京12チャンネルにて放送されていた。軽妙洒脱にして、シモネタや皮肉、ブラックジョークも全開なグラハム・カーの話術…と言うか、それらをアドリブ全開で吹き替えてしまう黒沢良らの話術により、再放送をも含めてカルト的な人気を誇っていた。
朝の再放送番組ゆえ、あまり宣伝もされていなかった。ところが徐々に再放送の噂が広がり始め、録画して帰宅後に見る人や、主婦や子供までが熱中したり…番組終了から35年が経過した今、再放送をきっかけに、当時の放送を見ていなかった世代にまで、その魅力が拡散中だ。
今も昔も話題となるのが料理中、たびたびグラハム・カーの口から飛び出る、ディレクター(たぶん)の「スティーブ」なる人物の存在だ。
「おい、スティーブ、何やってんだ?」
「スティーブ、ちゃんとオーブン温めておいたんだろうな?」
「そんなんだから、スティーブは何度も嫁さんに逃げられちゃって――」
ってな具合に毎度毎度、名前だけは呼ばれるが、その姿は決して画面で見られない。スティーブは長年、都市伝説のような存在だった。
スティーブに関しては
①存在はするが、画面にはただの1度も登場したことがない
②存在自体が架空であり、日本語版制作にあたって進行を面白くするために スタッフが産み出したバーチャルな存在
③実在するディレクターであり、画面にも数回登場したことがある
などなど諸説が存在した。
今回の再放送でこそ「スティーブの謎」を解き明かさんと、毎日の放送を凝視していたところ、ついに〝スティーブらしき人物〟が登場する回があった。
それは「タルトタタン フランス風」の回。いつものようにワインを飲み、トークしながら料理するグラハム・カーが突如、「カメラさん、ディレクターをアップで映してくんない。いつも文句ばっかり言ってるからさ。恥かかせてやるんだよ。少しぐらいピンボケだって構やしねえよ」と言うや、画面にはやや前頭部の髪が寂しい、ヘッドセットをしたスタッフの笑顔が。この人物こそがスティーブなのか?
続けて「こんなことで視聴率が落ちたら大変だからね。かなりブ男でガッカリしたでしょ? あれだもん、嫁さんに2度も逃げられてやんの」と笑い、この件は終了。
番組ラストに流れるスタッフロールを確認すると、そこには確かに「スタジオディレクター スティーブ・ワッツ(STEAVE WATTS)」と表記されている。
この人物こそが長年謎とされてきたスティーブなのか! だが、このスティーブ・ワッツなる人物の名前が、毎回テロップで流れているか、と言うと決してそうでもない。また、この回に限っては、グラハム・カーが「スティーブ」とは呼ばずに「ディレクター」と呼んでいるのも不自然だ。スティーブ・ワッツのテロップがない日でも、グラハム・カーはスティーブに文句を言い続けている。
ここからは推測。おそらく〝スティーブいじり〟の原点は、スタジオディレクターのスティーブ・ワッツ氏だが、毎回、グラハム・カーがスタッフ全般に対して言っている文句や軽口の対象を、日本語版制作にあたって、より分かりやすくするために、すべて「スティーブ」に統一してしまったというのが真相では?
スティーブは現実と虚構の狭間にこそ存在する――。やっぱり謎だ。