実験の夜『如月の掟破り』というライブを渋谷無限大ホールで行いました。
来てくださったお客様ありがとうございました。
今回は僕が考えたコーナー、遊び、得体の知れないもの、などを時間が許す限りやらせていただきました。
『如月』というのは『二月』のことです。
『掟破り』というのは、今回はぼくにとって『ゆるさ』のこととして使わせて貰いました。
僕は、昔から好きなことになると真剣になり過ぎて周囲から冷たい眼差しを向けられることが多かったのです。中学時代、体育の授業で持久走を行う際、誰もが『寒い寒い』とつぶやきながら、長袖の体操着に手まで隠し腕を組み身体をさすっていた時でさえも、僕だけは皆より五分ほど早く運動場に出てアップを完了させ半袖半パンでスタートラインに立っていました。そんな僕を見て特に女子達は完全にひいていました。
僕は鼻水と涙を流しながら全力で走り自分以外の全ての人を周回遅れにしました。
周りからすれば何が目的なのか全くわからないでしょう。でも走るのは気持ちの良いものです。今でもたまに真夜中の甲州街道、明け方の井の頭通り、夕暮れの青梅街道、十年前の五日市街道などを全力で疾走することがあります。体力が著しく低下しているのに感覚は早く走れた頃のままなので気を失いそうになります。よく独りで嘔吐します。
ライブでもそのようになりがちで、作家の大塚君にやりたいことを全部伝えると、『五時間ライブやるつもりですか?』とよく言われます。
僕もたまには、良い感じでやりたいんです。
鼻息が荒くない、精神的な余裕を醸し出したいんです。
ゆるめのセーター自然に着こなしたいんです。
ゆるめのセーターを着ている時、いつも僕は『今、僕、ゆるめの、セーター、着ている』と自覚してしまっているんです。
カンフー着みたいなのは何も考えずに着れるのに不思議です。
だから、今回は『自分の掟を破ってみよう』と思い自然で楽しいライブをやってみようかなと思いました。
結果、掟は破れませんでした。でも普段とは少し違う感じになりました。楽しかったです。
一緒に出てくれたメンバー。
●中須 (ロシアンモンキー・東京NSC6期生)
●ジェントル (ミルククラウン・東京NSC7期生)
●村上 (しずる・東京NSC9期生)
●児玉 (ジューシーズ・東京NSC9期生)
●向井 (パンサー・東京NSC11期生)
みんな後輩ですが、無茶苦茶面白くていつも笑わされます。
そして構成作家は大塚くん。大塚くんも面白いです。面白いことと変なことばっかり言います。大塚くんが居てくれると本当に助かります。
昨日、パソコンの使い方がよく解らなくて大塚くんに電話しました。
又吉:『大塚くん、原稿書いてて4ページ以降、ページがないんやけど、どうしたら良いの?』
大塚:『エンター、何回も押してみて下さい』
又吉:『あっ、増えた。なんぼでも行ける。20ページくらいまで行けた』
大塚:『それで大丈夫です。それで、100ページまで行ったら玄関のインターホンが鳴ってオッサンが来ますけど絶対に出ないで下さい』
又吉:『わかった。え〜100ページを越えるとピンポン鳴って、オッサンが…』
僕は真面目にメモを取りながら大塚くんの話を聞いていたので、途中まで大塚くんのボケに気付きませんでした。
才能のある芸人なら、すかさず『変なオッサンなんか来るか!』とか『誰が来んねん!』とか『いやオッサン何しに来んねん!』とツッコミ面白い感じにできたことでしょう。
大塚くんには申し訳ないことをしました。
電話を切った後は原稿に集中しました。
いつの間にか朝が来て、そろそろ寝ようかなと思った頃に、ピンポン、とインターホンが鳴りました。
ページを見ると100ページです。
オッサンが来たようです。大塚くんには絶対に出てはいけないと言われましたが、気になったので静かに玄関まで行き、のぞき穴から外をのぞくと、『100P』という文字が入ったハチマキを頭に巻いた変なオッサンが、巨大な『エンターキー』を両手に抱え肩で息をしながら立っていました。
ドア一枚を挟み、僕はしばらくオッサンを見ていました。
たまたま通りがかった新聞配達員にオッサンは『巨大なエンターキーを押して下さい』と眼で促しました。新聞配達員がそれを押すと、オッサンは『ありがとうございます』と小さな声でお礼を言い小走りで帰って行きました。
僕がパソコンの前に戻ると、101ページ目が出ていました。
巨大なエンターキーを自分で押しても良かったなと思いました。
来月も、『実験の夜』やります。
過度の期待しないで下さい。面白くなれば誰よりも僕が嬉しいです。
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