いいママになりたかった:大阪2児放置死事件/上 両親の「ネグレクト」 幼少期の体験、心の傷に
毎日新聞 2013年01月23日 東京朝刊
同じころ、行動に一貫性がなく、うそをよくつく特異な言動が目に付くようになった。家出の理由を聞いても要領を得ない。繁華街を歩き回って捜し出すと「お父さん来たから帰る」と、ケロッとした様子で帰宅する。家出を泣いて謝り、父娘で「寝ようか」と笑い合った翌朝には、もういなくなっていた。
父親は高校の強豪運動部の監督として、全国的に知られた存在だった。「部活動の遠征で家を空け、エネルギーの95%を仕事に費やしていた。次第に『家出するのは、心配してほしいからかもしれない』と思うようになった」
シングルファーザーとして仕事と育児に奮闘する父親の姿が、02年に民放番組で取り上げられた。番組の中で、幼い顔に化粧をした中学3年生の中村被告が、カメラの前で孤独な思いを吐露していた。
「家族みんなで、っていうのがなかった」
実は中学時代、中村被告は集団で性暴力を受けた。だが、そのことを、父親に打ち明けていなかった。
東京の高等専修学校卒業後に地元に戻った被告は、就職先の飲食店で知り合った男性(26)との間に長女を授かり、結婚。だが、長男の出産から半年後、自らのうそや家出が原因で離婚した。その後、水商売を転々としながら1人で育児をしていたが、次第に子供を家に置いたまま遊びに出るようになった。周囲には「子供は他の人に預けている」と、うそをつき続けた。
そして、事件は起きた。
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「困難を目前にすると、無意識に『解離』的な認知操作をする特性がある」。弁護側の依頼で中村被告の心理鑑定を行った西澤哲・山梨県立大教授(臨床心理学)の分析だ。
解離は、記憶が飛んだり人格が変わったようになったりするなど、意識や体験がバラバラになる現象。虐待などのトラウマのある子によくみられる。心理的苦痛を直視しないよう、防衛手段として身につけてしまうという。
専修学校時代の被告の恩師によると、少年鑑別所の職員が当時、被告について「解離性障害の疑いがある」と語っていたことがある。だが、専門的な治療を受けるなどの措置はとられなかった。
「幼少期の母親からの養育放棄(ネグレクト)と、父親が気持ちに寄り添ってくれないという情緒的なネグレクトが続いた結果、心に深い傷を残したのではないか」と西澤教授は語る。「彼女が本当の意味で罪に向き合うには、親に謝罪してもらうことを含め、トラウマ体験と向き合う治療的なかかわりが必要だ」