大河ドラマ「平清盛」

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人物デザインの創作現場!キャラクターそれぞれの人物デザイン 総集編 第3部(第31回〜最終回)

・23・・ 伊豆に居る源氏の人達について 伊豆にいる源氏たちはつくっていて楽しいキャラクターたちでした。やはり「これからのぼっていく」という人々はたとえ貧しくとも志があり、身なりそのものにきらびやかさはなくとも輝きを感じられるものです。総じてストーンウォッシュによるエイジング、また環境的にもコーンスターチやスモークがまっており、衣装や髪にもそれがふりかかっています。これは無頼の高平太の頃の平氏と酷似した表現で、ふたたび武門が世の中にのぼっていこうという繰り返しです。その源氏もやがて鎌倉幕府を興して清盛の思い描く武士の世に到達しても滅びてゆく。伊豆のころの源氏が初期の平氏に酷似しているのは諸行無常盛者必衰の暗喩でもあります。

・24・・ 舞子の衣装について 舞子が白河法皇の子を身ごもっている頃の装束は、唐衣(からぎぬ)、裳(も)までを身につけない簡易な十二単にしています。上に羽織る袿(うちき)は白系のものにして、無頼の高平太の袿とどこか似たような印象にしています。これがたとえば深い色であった場合、表現として成り立つかもしれませんが、高平太との関連性という上では印象になりにくいと考えたからです。ところで本作品中では、現代の表現で平家の紋章としてよく目にします「揚羽蝶(あげはちょう)」を使用していません。時代考証的に正確な裏づけがとれなかったのが理由なのですが、それでも実際なにかのきっかけで社会にその紋様が流布し、歴史事実的な印象をもちはじめているのもいなめません。そこで非常に気がつきにくいのですが、舞子のこの袿の紋様には「向かい合う蝶」を配しました。これにより、その身ごもる子が、ゆくゆく平氏を強大なものにしていくということを暗喩させています。

・25・・ 兎丸たちについて 兎丸とその仲間たちは清盛と行動をともにしていくうちに自然と財をなして装束も豪華になっていきます。兎丸本人はなかに赤い単衣を着て襟もとに赤を指し色に使っていますが、むろん平家の世を象徴しています。しかしその上に羽織る袿は女物の深い青と金糸の袿です。これは高平太の姿の輪郭をなぞっているものです。純粋で稚拙であっても無垢な良心のあった高平太と同様ななにかを背負っている感じにしたかったんですね。そしてもちろん青を使っているのは死の予感です。頭の巻き物も青地に金糸。これらの金のイメージは最終的な清盛の姿に拡大されていきます。兎丸は清盛にとって良心をになう人物でしたが、同時にどろどろとした俗っぽい欲求も抱いている、いやそれを自己表現の道具として使っている人物です。それが金やモノを搾取したりする乱暴さにもなっていたように思います。むろんそれは彼特有の道義に裏づけされていたのですが。人物デザインでは色彩のコントラストや金属的な反射でその俗な欲望部分を表現しています。金色は即物的でどこか権力志向も感じさせる装置です。兎丸の仲間たちは共通した黒の直垂をアレンジしていますが、一種の制服的な意味合いです。そこに金糸をつかったそれぞれの色の羽織で個性を表現しています。このグループの俗物さとユーモア、その良心が清盛の心のどこかを代弁しているような印象になればと思いました。

・26・・ 西光について 西光は成親とともに後白河法皇に仕えていますが、出家する以前は赤系の狩衣姿です。出家直後は黒と白の法衣、その後に赤と朱の混ざったような橙色のような法衣、最後が桜色の法衣と変遷します。そもそもの出自が北面の武士で、貴族たちからするとどこか荒ぶって下賎な人間というようなイメージがあったかもしれませんが、後白河法皇はそのような彼の荒さが気に入っていたのかもしれません。むろん信西の弟子ですので、西光は彼の影響下にあることを視覚的に表現しようと考えました。その理由から黒白の法衣以外は赤系の装束でまとめています。鹿ヶ谷の陰謀に関わる最後だけ桜色の法衣にしていますが、それはもちろんご察しのとおり信西へのオマージュです。清盛と西光は、ともに信西が理想とする開かれた国を実現しようと願い行動している。同じ頂きをめざし同じ入り口から同じ道を歩んでいたかのように思っていたところが、いつしか道はわかれ、互いの歩みを干渉することになってしまう。清盛が西光を踏みつけにして斬首を申しつけるシーンは、そのようなふたりの不条理そのものですが、その時の西光の姿が信西の姿に酷似していることによって、さながら清盛が信西を踏みつけにしているかのような錯覚を起こさせたいと思いました。また一方、信西ほどの才覚をもちあわせていないのにもかかわらず、師のようになりたかった西光の愚かさと悲哀も同時に表現したかったわけです。

・27・・ 成親について 後白河法皇の近臣である成親は、はじまりの頃の白系の狩衣姿の後はすべて有職故実にのっとった装束にしています。白系の狩衣姿はどこか貴族的ですがその白さの裏には真実に見せかけた嘘がふくまれている印象をめざしました。また成親の人物デザインのなかで特徴的なのはメイクアップにあるように感じます。ドラマの収録の始まりの頃は眉毛を眉つぶしという化粧によってつぶして消していたのですが、それではなかなか自然さを生み出すのに大変さがあるので、ふたりで相談し眉毛そのものを脱色してくださいました。これは女性ではりょうさんや加藤あいさんなどにもご協力していただきました。まだ滋子で実験させていただいたような特殊メイクによる眉つぶしの技法が完成していないタイミングでしたので、成親というキャラクターを生み出す上で本当に一助になっています。この積極的な行動のために成親のいっけん人は良さそうだが裏をかえすとドロドロと己の欲望が渦巻いているという表現が容易になりました。この効果は、最後に成親が幽閉され餓死させられるシーンに昇華していきます。このメイクアップづくりは非常に緻密かつ繊細に生み出されています。メイクチームに陰影を細かく指示出しし、副調室にあるさまざまな角度からのモニターで印象を何度もチェックしながら、あの蝉とともに死んでいくシーンが生まれました。とても気に入っているシーンです。

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