大河ドラマ「平清盛」

ホームへもどる

人物デザインの創作現場!キャラクターそれぞれの人物デザイン 総集編 第1部(第1回〜第16回)

・1・・ 正盛時代の平氏について 正盛・忠盛時代、また清盛が活躍し官位を上げていく以前の平氏は、朝廷の命のもとに武家として人を殺める務めも行い、けっして高い地位を得て雅やかな暮らしをするところではありませんでした。この作品の撮影にはいるまえの段階で、制作・演出・美術・人物デザインの総意として計画した基本は、「平治の乱までの武家の姿は汚しや経年感を中心とし、それ以降官位が上がるのをきっかけに雅な雰囲気を強める」というものでした。本作品の主人公が平清盛である以上、この「平治の乱を境目にした変化」というのは作品全体の印象を決めていくものです。したがって、正盛時代の平氏の衣裳は、ストーンウォッシュなどの技術によってエイジング(経年した雰囲気の表現)をかけ、またけっしてきれいごとの仕事をしていないというような印象を強めるために、コーンスターチなどをつかって汚しをかけています。これらの表現は、たしかに当時の町並みが整備されていなかったであろうという根拠もありますが、それとともに当時おかれていた平氏の立場を感情表現としてもより強調するための表現でもあります。

・2・・ 朧月について 隆大介さんが朧月を演じられるとお聞きした時には、それはもう興奮したのを覚えております。さまざまな時代劇の映像作品のなかでの強烈な印象と特異な存在感のファンだったからです。朧月は都をさわがせる盗賊の棟梁という設定です。誰がみても「こいつがリーダーだ!」という風格である必要がありますが、それを生み出す上で黒の水干(すいかん)をベースに、布を巻き付けて体の輪郭からはみだすような雰囲気に仕立てています。馬上や闘いの最中に風で揺れるような効果を意識しました。また長い盗賊暮らしの辛苦を彫り込んだようなメイクアップで感情表現を誇張し、平氏の軍勢を威嚇するような効果にしています。重要な小道具として本来顔の防具であるハップリを頭に兜のようにのせています。ご承知のように、これが後々、兎丸、小兎丸へと継承されていく。いわゆる権力への抵抗の象徴となるわけです。

・3・・ 京の町民について 第一部に登場する京の町民たちには、ほとんどストーンウォッシュをかけた衣装をまとわせています。その上に必要に応じてコーンスターチをかけて、町そのものが高位な場所をのぞいては良く整備されておらず、荒廃していたのだという美術表現の一部にしています。もちろん貴族など、狩衣姿などで出歩いているものもあるわけですが、そのようなひとびとにも、同様にコーンスターチをかけ、「同じ環境を生きている」という映像表現上の効果に仕立てました。そのような中に牛車で突然あらわれる雅やかな藤原摂関家のような人々との対比も興味深いものがありました。

・4・・ 舞衣装の高平太について この頃高平太は、女性ものの袿(うちき)に高下駄(たかげた)姿で日に焼けて髪はボウボウという、無頼そのものの姿でありましたので、それに反転するかのような白闕腋袍にさせました。冠の左右につく緌(おいかけ)は、本来ですともっと濃い毛が密集した扇型の造作ですが、顔を見えやすくするという目的と、ラフな毛の抜け方によって無頼の高平太感を出すように工夫しています。直衣の柄は桐竹立木雉子雌雄、冠の挿頭の飾りの植物は若松で、芸能考証担当の友吉先生と相談させていただきながら「場に合って縁起のよいもの」を当てはめています。薄い白塗りは白河法皇の前に出る儀礼上のイメージを先行させていますが、それが舞による汗によって徐々に壊れていく。それによって高平太自身の心情も表現させていただきました。

・5・・舞を踊る女人(黄色い衣装)たちについて 舞人を含め、白塗りの濃さにはとても神経を配りました。儀式の要素が強い場面、官位や権力を意識した場面、また高位のものに従う人々、貴族社会の力が強い場所や時期には、白塗りの女性(ときには男性も)が出て来る頻度を高くしました。これらの条件に合いながら、役者自身の顔の雰囲気を前に出したいなどの表現上の効果が混ざる場合には薄い白塗りにしたりと、さまざまな条件に合わせて白塗りを施しています。本来的に舞を踊る女人の場合、「置き眉と濃い白塗り」をルールにし、儀式的な意味合いを視覚的に強めています。水干(すいかん)と袴は白拍子に共通する装いですが、水干の色を黄色とし紐を朱など、色選びを五行の色彩から選んでいます。ここでは忠盛が深い小豆色の正絹の狩衣(かりぎぬ)を召していますので、それに対して印象が真反対になるような、ハッとするような色彩を対置させようと考えました。袴は金に裾を緑のグラデーションに。これは美術部のエアガンによる作業で、この作業を試したおかげで後のさまざまな衣装表現に活用出来ることになりました。

・6・・ 海賊たちについて 宋からの影響、また遠くシルクロードを介したその先にあるペルシアの雰囲気を意識しています。総じて異国的な雰囲気を大切につくりました。個人的にはさながらドラクロワのロマン主義の絵画のような色彩感を参考にしています。肉体の露出感や汗によるテカリ、日焼け、汚れもすべて過剰につくり、存在そのものが海賊たちの感情の荒っぽさを表せるように目指しました。髪に巻くターバンのような巻き物も、本来日本的な表現を目指す場合結び目を前にするであろうところを、後ろに結ばせて異国情緒を出しています。この結び方は、鱸丸(すずきまる)にも共通するもので、もちろん彼は純粋に平安の世に生きる日本人なわけですが、どこか海の男としてのつながりを表現しているわけです。また兎丸もそうですが、入れ墨のような彫り物もところどころにほどこしています。船上で動くダイナミズムを表現するために髪はおろしている者の人数をふやし風をはらましています。

・7・・ 博多の町民 美術の山口さんとお話させていただいて、セットデザイン的に「赤」を増やしていくということをお聞きしました。これは宋との交易をイメージさせる効果と、この物語が平氏の成長と関係していることを暗喩させるためです。この頃まだ清盛をはじめとする平氏たちはストーンウォッシュをはじめとするエイジングのかかった衣装で色彩も渋めでしたので、演出と話をさせていただきながら町民のなかに宋風のふん装を増やしていきました。もちろん比率としては和の装束のほうが数は多いのですが、効果的な部分には宋人を配置するような工夫をしています。

「人物デザインの創作現場!」トップページへ
ページトップへ↑