特集ワイド:苦闘「スマホの壁」 「タップ」「フリック」オジサンにムリ?
毎日新聞 2013年03月26日 東京夕刊
狙った通りの箇所をタッチできない▽普通に押すつもりが「長押し」状態になり、別の機能が起動する▽ボタンが小さくて押しにくい▽ボタンを押した感覚がなくて不安−−など。
指の操作がうまくいかないのは「年齢のため力の加減がうまくいかないのでは、と思います。人さし指と親指を開いて画面を拡大する『ピンチアウト』で、大きくなりすぎるのは一例です。『長押し』になるのは動作がゆっくりのため。機械がそう認識してしまう」(古木さん)。
らくらくスマホは「うっかり触って起動」しないよう、タッチパネルを(1)アイコンに触れると選択していることが分かるよう色が変わる(2)さらに押し込むことで「実行」され、同時に振動を指先に伝えて操作したことが分かる−−仕組みにしたという。
見当違いのボタンを押して困る例もある。「電話中、最初の画面に戻るホームボタンを押す方がいますが、電話は切れません。そのままの画面では電話を切るボタンは見当たらない。ただ電話を切るのさえ、できない方がいます」
「中高年の指は乾いているのでタッチパネルの反応が悪い」という説がある。この点はどうなのか。
スマホのパネルの主流は静電容量式だ。この方式は画面を指で触れると発生する静電容量の変化をセンサーで感知し、触れた位置を認識する原理だ。古木さんは「指先の水分によって静電容量は変化します。一般的に年を取ると皮膚の水分を蓄える層が減る。厳密な調査はありませんが、指の乾燥が影響する可能性はあると思います」。
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時代に追いつけない中高年。そのつらさを代弁してきたと言えば、漫談家の綾小路きみまろさん(62)だ。きみまろさんは約1年前にスマホにした。「慣れるのに3カ月かかった。一時は携帯電話に戻ろうかと思いました」と振り返る。「字が小さくて目がチカチカするし、少し触っただけで画面が変わる。朝4時半ごろ、なぜか親戚のおじさんに電話がつながり、『何かあった?』と驚かれたこともあります」。身につまされる。
「中高年はカセットテープレコーダーの世代なんです。ぐっと押して、ガチャッと音がしないと安心できない。だからタッチパネルも必要もないのにぎゅうっと押してしまう。タッチのタイミングが分かっていて、指離れがいい若者とは違うんです!」
スマホは難儀以外の何ものでもないのか。きみまろさんは「ネットでテレビで聞いた言葉を調べています。百科事典をポケットに入れて歩いているようなもの。若いころにあったら、あらゆる世界を勉強し放題で、すごい人間になれたかもしれない」と話す。