WINEPブログ
道路側から見ると、今回は10頭ばかりの馬が放牧されており、遠目に馬が2頭横になって寝ていた。1頭は全く横になっていた。馬がそんなすがたで寝ている姿はあまり見ないので、もしかして死んでいるのかな、と思ったのだが、我々の声を聞きつけたのか1頭が頭をもたげた。しかし白い馬は寝たままであった。
付近の道路の芝生をひっくり返している部分に線量計を当てるとなんと8.5μSv/hrあった。少し意図するところがあったのでこの土をビニール袋(Ziplock)に採取していた。そこにまったく偶然のタイミングで軽トラックで反対側の斜面のミニチユア馬の牧場に配合飼料をやりに来たテンガロンハットをかぶった人物が車を止めて降りてきた。、「何やってんだい?土取ってんのかい?そんなことより馬がどんどん死んでるんだよ。全部放射能のせいだよ」と言い放ったので少し驚いた。たがいに名刺を交換して自己紹介すると、
「馬の死体があるんだ、案内するからに来ないか?」というので、まずそのミニチュア馬牧場の敷地に入った。
最初に白骨化した死体を(写真1)、
(写真1)
次に野鳥や狐に食いちぎられた死体を(写真2)、
(写真2)
つぎに最近死んだという死体(写真3)に案内された。
(写真3)
この直近の写真3の死体は南相馬の家畜保健所が調査に来て「伝染病ではない、と電話で言われて今日その報告書が浪江町の郵便局に届くはずだ」ということであった。
次に道路下の広大な普通の馬の放牧地に下りて行って馬の異常を紹介された。先ほど寝ていた白馬が泥で馬体が汚れていたのだが、それをあえて細川さんが大声で小枝を掲げて追い立てると、馬はびっこを引き気味に奇妙な速歩を見せた。この馬は右目に黄疸が出ており、ひざがやられているということであった(写真4)。
(写真4)
後に飼料やるときに、かいばおけに首を突っ込んでいるのを近くでよく見ると、右目は白内障または失明しているのではないかと思われた。まったく元気がない。さらにもう一頭茶色の馬が膝がやられておりこれも歩き方がぎこちなかった。「放射能の影響はまず馬の膝に来る」というのが細川さんの意見であった。足がやられることは馬にとっては致命的なことである。競馬なら即殺処分の対象だろう。
それから自宅に案内されて、明日東京の東電本社に出かけて行って、娘さんと細川さんの友人の娘さんと、自分たちのオジーちゃん代から先祖代々馬のボランテイア事業をしていたことの説明に行くので、その証拠写真や書類の整理をしているということであった。(写真5)。
(写真5)
細川さんは細川牧場を経営して「花塚ボランテイア活動会長」を務めこれまで全国の馬のイベントに馬を提供してきた、その多くの過去の華々しい、誇らしい写真を見せていただいた。神田明神、相馬馬追いなど数多い有名な神事イベント、水戸黄門などの多くの映画ばかりでなく、各地での盲人のホーステラピーにも貢献している。今回の原発事故ですべてのイベントへの参加が困難になって馬の飼料代が調達できなくなったことが新聞などで報道されて、全国から支援の義捐金が届いておりその書留の袋が積まれていた(写真6)。
(写真6)
全員に対して必ず何らかの形でのお返事を出しているということであった。
昨年、細川さんが馬の被害(価格の暴落)に対する賠償金を東電に訴えたのに対して「細川牧場は馬を平成22年と23年に87頭もの飼育していたという証拠がないので賠償金を支払えない」という回答書に対して、はらわたが煮えくり返るような怒りをぶちまけていた。そのことで本日(3月28日)東電に交渉に出かけるとのことである。
昼食の後、馬のかいばおけに配合飼料をたっぷり与え、牧場に稲わらをところどころに置いていく作業をすこしだけお手伝いさせていただいた。まだ放牧地には低温で牧草がまったく生えてきていないが、これから緑になるのだそうである。馬の水飲み場になっている山からの湧き水を放射能測定用に採取した。
「まったく先が見えない。生きがいを奪われた。でも今飼っている行き場のない馬のためには最後まで付き合っていく。それが私の先祖からお世話になってきた馬に対する<鶴の恩返し>だから」 と語っていた。
付記1: 細川徳栄さんの住所と電話は以下の通りです。1人でお住まいです。いつでもご連絡くださいとのことです。携帯電話が都合がよいようです。電話の着メロには大音量の浪花節がいきなり聞こえますので驚かないでください。
細川牧場 花塚ボランテイア活動会長 細川徳栄
〒960-1633福島県相馬郡飯館村臼井字町123-1
TEL/FAX(0244)42-0303
携帯 090-9742-3141
付記2: この2年間で生まれた子馬15頭ほどがほとんど死んでいった、とのことです。いろいろもっと細かい数値的な情報が聞きたかったのですが、明日の東電との交渉に忙しそうだったので、聞きそびれています。小生は放射線の馬に対する影響の研究論文を読んでいないので、あえて今回は、現在進行形の事実のみを紹介しました。獣医畜産関係者は是非細川農場を訪れて本格調査をしてもらいたいと思います。それが細川氏の強い希望でもあります。
追記1: ウマの放射線障害に関して以下の記述があった。
チェルノブイリ原発事故による環境への影響とその修復:20年の記録(IAEA著:日本学術会議翻訳)
215頁
ベラルーシ領内の高度に汚染されたコイニキ地区から、事故発生の1 年半後に避難させた2000頭の羊と300 頭の馬(3‐8 歳)に慢性放射線障害が見られた[6.26]。線量は推定されていない。羊については、全身状態の悪化、衰弱、呼吸障害、低体温、その他の異常が見られた。また、白血球減少、赤血球減少、血小板減少、好酸球増加、正常よりも1.5 -2 倍高い血糖濃度、甲状腺ホルモン