米粉利用の現状と今後
2010年5月26日
はじめに
●わが国の穀物自給率は40%と極めて低いこともあり、米の「粉」として利用が注目をあびています。
●国内で生産可能な米をパンや麺に利用し、自給率と自給力を高める施策が進められており、大手パン会社やコンビニも、米を原料に使ったパンの取り扱いを始めています。
米粉原料の特徴と用途
●最適な品種は、「粉用として期待される」目的や対象ごとに異なります。
●小麦と米粉の価格差があっても需要を呼ぶには、「特長ある米粉」が必要です。
●原料に多収穫米を用いることで、米の価格を下げることができます。
●小麦とは異なる“米”らしさ、風味をもたせることで“差別化”することも考えられます。
●米(品種)ごとの特徴と用途は以下のようです。
「一般米」
●新潟「コシヒカリ」や熊本「ヒノヒカリ」、兵庫「山田錦」等々地元産地の米で米粉製品を作ると、地場消費、地産地消になります。
●調整方法や加工方法を工夫することで、一般米の米粉でも、良い製品を作ることができます。
「超多収米」
●多収性品種を用いることで、コストを削減することが可能です。
●比較的製粉性が良い品種が多いようです。
多収穫米および高アミロース米の米粉パンの形状 (提供: (独)農研機構 作物研究所)
「高アミロース米」
●アミロース含有率が25%以上の「越のかおり」や「ミズホチカラ」「モミロマン」等で作った麺は麺離れが良く、食味が良いようです。
●高アミロース米以外でも、普通程度のアミロース含有率の米にアルギン酸を添加して作った麺は、高アミロース米の米粉麺に匹敵するとの報告もあります。
高アミロース米は米粉麺に適する (提供:(独)農研機構 中央農業総合研究センター・北陸センター)
「粉質米」
●胚乳組織が粉質状で砕けやすく、高速粉砕機で粉砕しても比較的でん粉の損傷が少なく、よく膨らむ米粉パンができます。
●砕けやすいがために、精米歩留まりが良くない、収量性がやや低いなどの欠点もあります。
●代表的な品種に「ほしのこ(北海303号)」があります。
▼北海道地域向きの粉質米新品種候補系統「北海303号」
粉質米品種「ほしのこ(北海303号)」 (提供:(独)農研機構 北海道農業研究センター)
「その他の新形質米」
●「みずほのか」や「LGC1」等の低グルテリン米で作る米粉パンは、膨らみが良く風味が良い傾向があります。
「パンや麺以外の用途」
●もともと米粉は、主に和菓子原料として使われてきました。
●最近、新形質米を用いて和菓子の試作をしたところ、色々な風味のものが得られたとの報告もあります。
●また、米粉は洋菓子材料としても用いられ、シフォンケーキや、ロールケーキ、バームククーヘン等、風味が良く美味しい製品が開発されています。
米粉パンへの利用
●米粉は小麦粉と異なり、パンの骨格となるタンパク質「グルテン」を持っていません。
●そのため、次の3つのいずれかの工夫が、米粉パンの製造では必要となります。
1)米粉に、小麦粉から取りだしたグルテンを、2割程度添加する(グルテン添加米粉パン)
2)小麦粉に、米粉を1~5割程度混合する(米粉混成パン)
3)グルテンや小麦粉を加えず、米粉だけ、ないしは米粉に増粘多糖等の粘性物を添加する(グルテンフリー米粉パン)
●完全に米粉だけで作る米粉パン向けの米粉は、まだ研究途中です。
「グルテン添加米粉パン」
●米粉に、小麦粉から取りだしたグルテンを2割程度添加します。
●「コシヒカリ」や「タカナリ」など、アミロース含有率が中程度の米が適します。
●低アミロース米の米粉では腰折れしやすく、高アミロース米の米粉はパンの形状は良くとも、硬すぎてしまいます。
●損傷でん粉含有率の少ない米粉を使うと、製パンの作業性が良く、膨らむパンができます。
●粉質米や低グルテリン米(後述)の米粉を用いても、良く膨らむパンができます。
グルテン添加米粉パンにおけるアミロース含有率と米粉パンの形状の関係。低アミロース米(青字)、黒字(中程度のアミロース含有率の米)、高アミロース米(赤字)。
(提供: 新潟県農業総合研究所 食品研究センター)
「米粉混成パン」
●小麦粉に、米粉を1~5割程度混合します。
●グルテン添加米粉パンと同様に、中程度のアミロース含有率で、損傷でん粉含有率の少ない米粉が適しています。
●粉質米や低グルテリン米(後述)の米粉も適しています。
小麦粉に米粉を3割添加した米粉混成パンにおけるアミロース含有率と米粉パンの形状の関係。低アミロース米(青字)、黒字(中程度のアミロース含有率の米)、高アミロース米(赤字)。 (提供: 加工プロ4系)
「グルテンフリー米粉パン」
●グルテンや小麦粉を加えず、米粉だけ、ないしは米粉に増粘多糖等の粘性物を添加します。
●アミロース含有率の低い低アミロース米が適します。
●中程度以上のアミロース含有率の米粉を用いると、過度硬くなりすぎます。
粉砕技術、各種操作技術の紹介
●粉砕技術等の進歩によって、米粉の製粉技術は格段に向上しました。
●粉砕技術には、「2段階製粉法」「酵素処理製粉法」があります。
●どちらも新潟県が特許を取得しています。
●粉砕には、「気流粉砕機(ジェットミル)」「胴搗き粉砕機(スタンプミル)」「高速粉砕機(ピンミル)」「ロール粉砕機」が開発されています。
「2段階製粉法」
●米は、外周部が固く粗い粉となるため、米を洗米浸漬して圧偏粉砕後に気流粉砕する2段階製粉技術が開発されました。
●これにより、微細な米粉が調整可能になりました。
2段階製粉法と酵素利用製粉法 (新潟県ホームページ「米粉のお部屋」内「新潟県の微細製粉技術について」より)
「酵素処理製粉法」
●酵素・有機酸を用いて細胞間物質を分解し、組織を壊れやすくした後に気流粉砕して、微粉化する技術が開発されました。
●微細で丸みを帯びた粒形、少ない吸水特性を有する小麦粉に近い米粉が調整可能になりました(上図)。
「気流粉砕機(ジェットミル)」
●湿式の粉砕によりでん粉の損傷の少ない米粉が調整できます。
気流粉砕機SPM-R430型。右写真は粉砕室内部 (提供:株式会社西村機械製作所)
「胴搗き粉砕機(スタンプミル)」
●和菓子に適する製粉方法で、比較的損傷の少ない米粉が調整できます。
「高速粉砕機(ピンミル)」
●少量生産に適するが、米粉はやや損傷でん粉の割合が高くなります。
「ロール粉砕機」
●大量生産に適する粉砕であり、やや角張った粉ができます。
開発された加工商品
●全国各地のいろいろな米粉製品を紹介します。
「米粉パン」
●米粉入り食パン 国産米粉を20%含む
(山崎製パン株式会社)
●お米入りロールパン
(敷島製パン株式会社)
左 :米粉入り食パン(山崎製パン株式会社) / 右 :お米入りロールパン(敷島製パン株式会社)
●「タカナリ」の米粉パン
(ブランジェ・アプレ 埼玉県松伏町)
市販されているグルテン添加米粉パンの例 (埼玉県・松伏町 ブランジェ・アプレの製品)
●「ヒノヒカリ」のコメロンパン
(熊本県立鹿本農業高等学校食品加工部 熊本県山鹿市)
熊本県鹿本農業高校の米粉パン「コメロンパン」
●山田錦の米粉パン
(山田錦米パン工房 (JA兵庫みらい) 兵庫県小野市)
「米粉麺」
●ときめきラーメン万代島」各店で、米粉ラーメンを提供しています!
(新潟県内米粉ラーメン取扱店の紹介)
●自然芋そば(「越のかおり」の米粉麺)
(株式会社自然芋そば 新潟県上越市)
●べーめん
(有限会社レイク・ルイーズ 岐阜県海津市)
「米粉を使った洋菓子」
●べジロールトマト(写真右)
(野菜専門店のパティスリーポタジエ 東京都目黒区)
●スーパーパティシエ辻口 博啓が語る 古くて新しい食材 米粉の新たな可能性(農林水産省)
(参考:農林水産省のホームページより)
●米粉の情報
●米粉用米利用の先進事例集 (平成21年12月発行)
●全国米粉食品普及推進会議
鈴木保宏
農研機構 作物研究所 米品質研究チーム長
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