WEB特集
アベノミクスに踊る株式市場
3月29日 21時50分
いわゆるアベノミクスで円安と株高が一気に進みました。金融市場は景色が一変した感があります。今年度最後の取引となった29日の終値は、日経平均株価で1万2400円近くで昨年度末と比べておよそ23%高くなりました。
これにともなって上場企業が保有している株式の含み益は、わずか半年の間に2点6倍に膨れあがったのです。含み益の大幅な増加は、新たな設備投資など企業が攻めの経営に舵を切るきっかけとなり、日本経済全体の活性化への期待も高まります。
新年度以降もこの勢いを保ち息の長い上昇相場は実現できるのか、経済部で株式市場を取材している小田島拓也記者が解説します。
今度こそ谷を抜けられる
東京・兜町界隈。東京証券取引所を中心に多くの証券会社が軒を連ねる株の街です。歩いてみると、ここ数ヶ月の変化を肌で感じます。
去年の秋頃までは、明るい話題があまりなく、次はあの証券会社が店をたたむらしいといった話が、往時を知る事情通のあいさつ代わりでした。相場には谷があれば山もあるのが常ですが、あまりにも深くて長い谷に、証券マンたちも自信を失っていました。
それが、去年11月からの株価の急騰劇に証券マンたちの顔色がにわかに活気づいてきたのです。
「今度こそ谷を抜けられる」
そんな思いがひしひしと伝わってきます。
今月20日にはネット証券各社が東京・両国の国技館に個人投資家4600人を集めセミナーを開きました。証券会社の社長がコマーシャルをまねて「いつ買うんですか?」「いまでしょう!」と呼びかけましたが、まさに「踊る株式市場」といった状況です。
「含み益」回復で「攻めの経営」に
大手証券会社「野村証券」が、国内の上場企業1848社を対象に試算したところ、多くの企業が決算期末を迎えることし3月末の時点で、株式の含み益は合わせて11兆円を超え、この半年間で2.6倍に増えたことが分かりました。
含み益は、保有している株式について、時価総額から取得時の総額を差し引いた金額です。含み益の増加は企業にとって財務的な余力を生み出し、新たな設備投資や雇用など攻めの戦略につながる可能性も出てきます。
すでに年収の増加を打ち出す企業や採用人数の増加を決める企業も相次ぎ、日本経済全体の活性化への期待が高まっています。
アベノミクスは不動産市場にも
今年度を振り返ると、ヨーロッパの信用不安問題の再燃、歴史的な円高、それに日中関係の悪化など、企業にとって予測しがたいニュースが相次ぎました。
しかし、去年11月の半ばに状況が一変しました。
日銀の大胆な金融緩和を柱とする、いわゆるアベノミクスへの期待から、株価は急ピッチで上昇を続け、日経平均株価はこの4か月半の間に40%以上も上昇しました。
投資マネーが流れ込んでいるのは株式だけではありません。不動産市場にも流れ込んでいます。東京証券取引所で不動産を扱うREIT(リート)と呼ばれる金融商品の指数は、この4か月半で60%近く上昇しました。
不動産価格も上昇するだろうという見方が広がったためですが、REITを運用する会社はすでに新たな投資物件を物色して、大都市では優良物件の取り合いが始まっているという関係者もいるほどです。
背景に海外投資家の動き
こうした動きをけん引してきたのは海外の投資家です。
東証によりますと国内の株式市場で海外の投資家は、株式を買った額が売った額を上回る「買い越し」を18週にわたって続け、その額は合わせて5兆6700億円近くに上りました。
アベノミクスへの期待が海外では非常に強かったことを示しています。
一方で国内の個人投資家は保有していた株式を売って利益を手にした投資家が多く、総じて「売り越し」でした。
つまり個人投資家が売って外国からの資金が買いに回る構図でしたが、その個人投資家も「買い越し」に回り始めています。
またリーマンショック以降、日本の株式への投資を避けてきた年金基金など国内の大手機関投資家も、このところの活況をうけて株式市場への投資に意欲を示しています。
期待先行・不安要素も
しかしアベノミクスで予想される効果は株価にすでに織り込まれたという見方も出ています。
企業の業績は増益が予想されていますが、まだ発表になった訳ではありません。
株価は先回りして上がったと言えそうです。
さらに不安要素がない訳ではありません。地中海のキプロスに対する金融支援をめぐる混乱。連立政権樹立をめぐって混迷を続けるイタリアの政局。
これまで幾度となく日本の株式市場の足を引っ張ってきたヨーロッパの信用不安問題が再びクローズアップされています。
これまでの株価の上昇はアベノミクスだけでなく、ヨーロッパの信用不安問題がひとまず落ち着いていたことも大きな支えとなってきました。
実際、海外の投資家は3月18日から22日までの1週間、キプロスに対する金融支援を巡る混乱が明らかになったことで、当面の利益を確保しようと19週ぶりに売り越しに転じたのです。
新年度の相場は・・・・
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の藤戸則弘投資情報部長は「これまでは期待感から買い越してきた海外の投資家が、ヨーロッパ経済の先行きを見極めようという姿勢に変わってきている。国内では新年度に入ってすぐに開かれる日銀の金融政策決定会合の内容が注目される。さらに4月末からの決算発表で平成24年度の企業業績がどれほど改善したか、そして平成25年度の業績がどれほど伸びるのか。期待が大きいだけにその内容が十分でないと判断されれば、株価の上昇傾向に変化が起きる可能性がある」と話しています。
一方、BNPパリバ証券の丸山俊チーフストラテジストは「海外の投資家からは、安倍総理大臣がTPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉への参加を表明したことについて改革への強い意欲を示したと評価する声がよく聞かれる。今後も株価が上昇していくためには政府の成長戦略でどういった内容が打ち出され、実行に移されるかが大きな鍵を握っている」と話しています。
株式市場では「噂で買って事実で売る」という相場格言があります。投資家が噂や期待をもとに株式を買い、株価が上がって事実が公表された時点で株を売って利益を得ようというものです。企業の業績改善がさらに進み、政府の成長戦略などが投資家の期待を超えるような内容になれば、息の長い上昇相場が続く可能性が高まります。
逆に期待外れの「事実」しか出てこないようであれば投資家は容赦なく売り抜けようとするでしょう。株式市場の活気が続き、それが経済全体の活性化につながってほしいと思います。