| 第34回 | 人に言えない妙な趣味を正月から人に言う |
| 第35回 | ロックとは何か?に結論が出るの巻 |
| 第36回 | 彼女は僕の歌を聴いたことがあるだろうか。 |
| 第37回 | 嵐呼べヌイグルマー!人呼べZ! |
| 第38回 | 3・11余震用MC使用せず |
| 第39回 | 再び二代目大槻ケンヂ大募集! |
所沢のホールで先日、筋肉少女帯のコンサートがあった。
おかげ様でチケットはソールドアウト、今年に入って初めての筋少のライブでもあり、当日はそれはもうボーカリストも気合が入っていたのである。
リハーサルが終り、メイクさんに顔をぬってもらいながら「一体今日はどんなプレイでオーディエンスをヒーヒー言わせてやろうか」虎視眈々とイメージシュミレーションしていたその時であった。
「ケンちゃん…」
と、横から名を呼ぶ声が聞こえたのだ。
『ケ、ケンちゃん?』数年後には50歳になる我が身をそんなふうに呼ぶのは、思い浮かぶ限りは水木一郎さんと、歳を取ってからというものもうすぐ50歳の息子が5歳に見え始めてきてしまったらしい80歳の老いたる我が母くらいのものである。
で、横を向いたら声の主は後者であった。
『出、出たぁっ!』と僕は、驚きのあまり座っていた椅子からころげ落ちそうになったのだ。
だって、中野区在住の80歳の母が、わざわざ所沢までノーアポで息子のライブにいきなり姿を見せるなんて、僕は超常現象に関してはややビリーバーよりの懐疑派であるけれど、さらに縁起でも無いけれど「ケンジ〜、お母さんお迎え来たから最後に会いに来てやったよ〜、アンタ家出る時はちゃんと蛍光灯消すんだよ〜」的な、虫の知らせ霊現象の例のアレかと思ってしまったのも無理からぬところだろう。しかし、足があった。
「え?へ!?何でいるわけ?どういうこと?」
「何でってケンヂ、所沢はうちから西武線一本でピューっと40分だよ。近いから差し入れ持ってきてやったんだよ、ホラ」
心霊現象の正体とは大体そんなもんである。持つべきものはみやげを持った母である。
しかしノーアポで来られては、近所の菓子屋のおにぎりを四十個も持って来てくれた肉親に対して「え〜、いきなり来てくれても席が無いんだよどうしよ〜」とアラフィフロッカー息子は困惑するしかなかった。すると母は「ああ」とめんど臭そうに手をふったものだ。
「いいよライブは、観ないよ、筋肉少女帯はうるさいから」
サッサと帰っていったのであった。
「ま、確かにオレらうるさいもんなぁ」と言いながらメンバーと赤飯のおにぎりを食べたものだ。
ノーアポ、アポ無しで急にライブに現れる人というのはたまにいる。
若い頃は、元カノが(何の意図なのか)いきなり見に来るという背筋の凍る場面が何度かあった。心霊現象より何十倍も怖い。
スタッフと顔見知りになっていてうまいこと入ってきてしまうのだ。しかも打ち上げまで来て今カノと同じテーブルに座っていたりして。これはもう会場の隅の隅、場合によっては店外の非常階段の踊り場などに退避するしかなかった。『今日の主役がなぜキャベツのダンボール箱の裏に隠れていなければならぬのか』おそらく自分が悪いからだ。あ、20年も昔の話しですからね。
元カノではないが高木ブーさんが(ブーさんがオーケンの元カノであったならそれは日本芸能史上の大事件である)アポ無しでライブに遊びに来て下さったことがあった。
しかもサブカルのメッカ・新宿LOFTプラスワンだった。いらっしゃったと聞いてあわてて楽屋に行くと、ブーさんは「カトチャにこれから会うんだけどさ、時間が空いちゃってさ」とおっしゃいながら、ふくよかなその手にはかなりサイズの合わぬ、ミニテトリスをピコピコと操っておられた。
ブーさんは筋肉少女帯のライブにも出演して下さったことがある。
この時は正式なオファーに応えて下さったもので、筋少+ブーさんでプレスリーのハウンドドッグを演奏した。
今は無い日清パワーステーションという会場であった。ブーさんにはもちろん個室楽屋を御用意した。
そうしたらその日フラリと、亡くなった飯島愛さんがライブを見に来てくれたのだ。
愛さんはとても気さくで自由な人だった。どれくらい自由かというと、ある夜彼女から「アンタの大ファンって女の子がいるから今から会ってやってくんない」と電話が来て、一時間後にその子を乗せたスモーク張りのガンメタのベンツでズキキャッ!と僕の家の前に乗り付け、有無を言わさず僕を拉致したほどのフリーダム・スピリットの持ち主だった。本当にいい方だった。
で、愛さん、ライブ開始よりずい分前に会場に来たので、ロックバンドの汚い楽屋に居てもらうのも申し訳ないと思い、ブーさんの個室楽屋でしばらく待ってもらうことにしたのだ。
すると20分も経たなかっただろうか、キレ気味な表情の飯島愛がロックバンドの汚い楽屋にバーン!と入って来て、僕は怒られた。
「ちょっと〜、楽屋に高木ブーがいて気まずいんだけどぉ、部屋代えてくんない!?」
ご、ごめんねぇと謝った。
「なんかずっとミニテトリスやってるしぃ」
このように、ノーアポで困惑、と言うのはたまにあるが、逆に一度、来場の予告有り、で大いに弱った、ということもあった。
正確には「アポ」ではなくて「宣言」なのだけど、あるライブの数日前、チケットを購入済みだという人から「当日、ライブ会場で自ら命を断つ」との手紙が僕あてに届いたのだ。
アポじゃないですね、予告ですね、まぁ話しの流れで…で、もう当日はスタッフは警備に大わらわ、僕も何かあっては大変と気をもんだものだ。結局、何も無く、ライブは終った。
すると数日後、自殺予告者からまた手紙が来たのだ。
「すいません、先日のライブ、用事が入って行けませんでした」
とあった。昔のことなので正確には覚えていない。もしかしたら「体調悪くて行けませんでした」だったかもしれない。いづれにせよ、十年以上経った今でもその方に対しては「ダメだこりゃ。」としかかける言葉を僕は知らない。
追記
当エッセイをまとめた本「このエッセイは手書きです」発売記念弾き語りツアー、サイン会のスケジュールは以下の通りです。ぜひ遊びにいらして下さいね。
4/12(金) サイン会 大阪 旭屋なんばCITY店
13(土) LIVE 京都 SOLE CAFE
14(日) LIVE 浜松 窓枠Cafe AOZORA
21(日) サイン会 仙台 八文字書店SELVA店
21(日) LIVE 仙台 cafe Mozart Atelia
26(金) LIVE 大阪 南堀江knave
27(土) LIVE 名古屋 栄タイトロープ
28(日) サイン会 名古屋 星野書店近鉄パッセ店