心理時間の応用

[待ち時間革命、実践の手ほどき]
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 『大人の時間はなぜ短いのか』 ※1、『1年は、なぜ年々速くなるのか』※2が相次いで出版された。タイトルにあるように、1年という物理的には不変な時間に対して、体感する時間が変化することを解明する内容である。体感する時間のことを心理時間あるいは心的時間と呼び、実験心理学の領域ではさまざまな研究が行われてきた。※3心理時間は、いくつかの要因によって伸びたり縮んだりすることが見出されている。心理時間としての待ち時間に影響を与える要因にはどのようなものがあるか考えてみよう。
※1 引用元:一川誠(2008)『大人の時間はなぜ短いのか』集英社
※2 引用元:竹内薫(2008)『1年は、なぜ年々速くなるのか』青春出版社
※3 引用元:松田文子ほか(1996)『心理的時間』北大路書房

心理時間の応用 1:

発熱や痛みの激しい患者のトリアージ

 発熱している患者は、代謝が高まっており、心理時計が通常よりも進むという実験結果がある。実際の時間よりも心理時計が進んでいるので、実際には20分しか待っていないのに、30~40分も待ったと感じてしまう。病状によっては順番を繰り上げて診察する必要がある。その場合、まわりの患者に簡単に状況を説明して了解をもらうことだ。ほとんどのケースでは「お互い様」という雰囲気が診察室に広がる。患者側も明日は我が身というか、自分がつらい状態になったときには優先的に対応してくれるだろうと考え、こうした場合の診察の順番の繰り上げに対して、病院への安心感をもつことが満足度調査で明らかになっている。まれに「こちらのほうが、状態が悪いのに」という患者もいる。しかし多くの場合、このような配慮をつづけている医療施設で、自己中心的でモラルに反するような患者の割合が減っていくようである。

心理時間の応用 2:

時間がゆったり流れる待合室

 医療現場では、てきぱきしている人が「できる人」という価値観があるようだ。医療現場はとても忙しくあわただしい。待合室のこのようなバタバタした雰囲気は、心理時計の進み方を速める効果をもち、患者の待たされ感を増幅しやすい。少なくとも患者がいるところでは、できるだけゆったり振る舞い、スタッフ間の私語もつつしみ、静かな雰囲気を演出することが待ち時間対策のひとつになる。
 音楽を流す場合には、ビバルディのようなテンポのある曲よりも、ドビュッシーのようなゆったりした曲調のものを選んだほうが心理時計を進みにくくする。

心理時間の応用 3:

時計を患者の視線の先におかない

 退屈な講演を聞いて、まだ終わらないかと講演終了時間を気にしながら時計をみる。しかし、なかなか時計の針は進まない。こんな経験をしたことのある人が読者のなかにも多いのではないだろうか。
 一般的に、退屈なときほど早く時間がたってほしいと感じ、心理時計が進むことがわかっている。心理時計が進むと時間の経過に注意が向き、「まだ、これしか経っていない」となる。その結果、ますます時計をみてしまう。この悪循環を断つためには、まずは患者の視線の先に時計をおかないことも小さな工夫のひとつなのである。

心理時間の応用 4:

不安、恐怖、緊張を和らげる

 恐怖心や強い不安感があると、心理時計は早く進むという。例えば、バンジー・ジャンプをするときには、恐怖とともに極度の緊張状態となる。落下中は極度の緊張状態によって心理時計がすごい勢いで進み、まわりがとてもゆっくり見えるようになる。
 心理時計が進むことを確かめるためにつぎのような実験が行われた。手首に地上では判読できないほど高速で切り替わる文字列を表示する機器をつけ、被験者がバンジー・ジャンプを行い、落下中にその高速文字列が読めるかを確かめた。地上では判読できない高速表示される文字列を、落下中に読めたという結果であった。引用元:山口大学時間学研究所(2008)『時間学概論』
 症状の重い小児患者を連れた若い母親は、大きな不安を抱えていることが多い。そういった母親達の不安や心配を聴き、安心感を与えるための声かけをすることは心理時計を遅くするのに有効であろう。

この記事は、スナッジ・ラボ株式会社のご協力で実現しました。内容は、以下の本からの抜粋です。

待ち時間革命 前田 泉 (著)

病院への苦情のトップに立つ待ち時間。
だが待ち時間をゼロにすれば良いかといえば、否。
要は長さではなく、待たされ方の質なのだ。(Amazon内容紹介より)

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