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文部科学省は2014年度から使用される高校の日本史教科書の検定結果を公表した。沖縄戦における「集団自決(強制集団死)」は9冊のうち8冊が取り上げた。
教科書執筆者が文科省検定の制約の中で表現に苦心した跡がうかがえる。
例えば「極度の混乱に陥った住民は、捕虜になることを恐れ、日本兵による命令によっても集団自決をとげた」「なかには日本軍が住民に集団での『自決』を強いたところもあった」-などである。
ここまで記述を取り戻したのは、11万人が結集した07年9月の県民大会やその後も継続して「軍命」「強制」記述の復活を求めた運動が後押ししたのは間違いないだろう。
だが、文科省は「軍命」や「軍の強制」を認めていない。これらを「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である」と指摘した06年度の検定意見は依然として撤回していない。「集団自決が、直接的な軍の命令により行われたことを示す根拠は、確認できていない」との姿勢を堅持しているのだ。
今回の検定は実質的に民主党政権下の12年に終了しており、安倍政権下でなされた検定ではないことに注意しなければならない。
06年度の検定は、「戦後レジーム(体制)」からの脱却を前面に掲げた第1次安倍政権時代であった。安倍晋三首相の基本姿勢はいまも変わらず、教育改革にも並々ならぬ意欲を示す。これからの検定で復古的な安倍カラーを前面に押し出し、検定に政治介入してくる懸念が消えない。
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沖縄が日本から切り離されたサンフランシスコ講和条約はどう扱われているか。
日本が独立した日としてすべての教科書が盛り込んでいるものの、沖縄分離の背景など十分な説明がなされているとはいえない。沖縄を長期間にわたって軍事占領することを昭和天皇が希望していることを米側に伝えた「天皇メッセージ」に触れたのは1冊だけである。
安倍政権は同条約が発効した4月28日を「主権回復の日」として政府主催の式典を初めて開くことを決めている。自民党には、「4・28」を「主権回復記念日」とするよう求めてきた議員連盟がある。野党時代の11年8月、同議員連盟が中心となって国民の祝日法改正案を衆院に提出している。解散総選挙で廃案になったものの、昨年4月28日には「国民集会」を開いている。主権回復の日は突然出てきたものではないのである。
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沖縄戦に関しては、実証的に積み上げられた膨大な証言の蓄積と、これまで黙して語らなかった当事者による新たな証言の発掘がある。
その一方で、沖縄戦体験者は年々少なくなっていく。復帰から40年が過ぎ、米軍統治下の沖縄を直接知らない人も増えていく。
ウヤファーフジ(祖先)が経験した苛烈な沖縄戦、主権をないがしろにされた米軍統治下の体験をどう新しい世代が学び直し、記憶を継承していくか。沖縄戦から現在までの戦後史が地続きであることを認識する必要がある。