2013年3月27日 12時0分
更新
賛否両論? 神戸・三宮駅にド派手な自殺対策広告
内閣府が2010年に策定した「いのちを守る自殺対策緊急プラン」では、自殺者数の多い3月を自殺対策強化月間として、全国的に自殺対策の取り組みを実施している。しかし、その認知度はいまだ高いとは言い難く、自殺予防を身近な課題と捉える人を増やすためにも、いかにアピールするかが問われているようだ。そんな中、神戸市営地下鉄三宮駅のホームでド派手な広告が展開されている。賛否を呼びそうなこの広告に、どんな意図が込められているのか―。
誰もが共感できる仕掛け
神戸市では自殺対策強化月間の啓発活動の一環として、ウェブサイト「ストレスマウンテン」を3月1日にオープンした。このサイトは、自分自身のストレスの状態を理解し、心の健康管理に役立ててもらうことを目的とした市民向けサービスだ。
米国の心理学者トーマス・ホームズらが提唱したストレス尺度である「ストレス・マグニチュード」を下敷きに、市民1,240人を対象にした調査データを加味して作られている。過去6カ月以内に経験した出来事にチェックを入れると、ストレス蓄積度(ストレスマグニチュード)が表示される。また、「こころの健康対策」として、ストレスとの付き合い方や、各種相談窓口などの情報が紹介されている。
三宮駅のホームでド派手な広告は、この「ストレスマウンテン」への誘導と、市のこころの健康センターが行っている「自殺予防とこころの健康電話相談」の案内を目的に、3月1日~4月25日、展開されている。
ホームにある柱という柱が、ストレスを抱えながら日々を過ごす人々の声でびっしり埋め尽くされているさまは、十分なインパクトがある。
広告は6種類。部長に昇進して仕事に追われるAさん(35歳会社員)、定年退職して所在なさげに過ごすBさん(60歳無職)、就職活動がうまくいかないCさん(21歳学生)、乳児の世話に追われる出産直後のDさん(30歳主婦)、親の介護に追われるEさん(57歳主婦)の5パターンの人物像、そしてストレス要因のチェックリストだ。それぞれの声の中に、誰もが共感するものを見つけられる仕掛けになっている。
一例として、Aさん(35歳会社員)の場合を紹介する。
あー今日何曜日やったっけウッソまだ今週こんなあんの?
うわー会社行くんめちゃめちゃ嫌やなー
部長に昇進したんはええんやけど
その分急に仕事の量が増えてなんぼやっても片付かへんし
家に帰んのが遅いからなんか嫁とすぐケンカになるし
小学校に上がった子供は遊び疲れて寝顔しか見れんし
住宅ローンもあるし節約せなあかんのやけどそりゃしんどいわ
飲まなやってられんて話やでホンマに!
そない言うたら有給休暇ぎょうさん残っとるから今度家族旅行に行こうかな
という、Aさんが、ストレスが原因で、精神的不調をきたす確率は約80%と考えられます。
※これは以前に実施された類似の調査を参考にしたものです
電話相談窓口の利用1.5倍に
こころの健康センターの柿本裕一所長によると、ウェブサイトや相談窓口の認知度を高めるべく直観的に理解してもらえるコピーをと考えた。若い人を引き付けるためにデザイン性にもこだわった。お役所らしからぬ大胆なポスターとなっているため、「反響は大きく、賛否両論の意見をいただいている」(柿本所長)。インパクトがあって分かりやすい、ストレスという問題を身近に感じた、という声もあれば、自分自身がストレスを抱えている中で見るとつらいとの声もあるようだ。ただ、総じて反響は大きく、電話相談窓口の利用も3月に入って1.5倍に増えているという。
柿本所長は「このような広い対象に向けたアプローチとともに、ハローワーク神戸での相談コーナー開設・相談カードの設置など高リスク者へのアプローチも実施、自殺で命を落とす人や自殺を考える人を一人でも減らせるよう取り組みを強化している」と力を入れる。
警察庁が3月14日に発表した2012年の自殺者数は2万7,858人。3万人を下回ったのは1997年以来15年ぶりのことだ。しかし、20歳代を中心とした若者の自殺者数は依然として多く、深刻な問題となっている。自殺は非常に重いテーマだが、それだけにこの問題を敬遠するのではなく、むしろ物議を醸すくらい大胆に訴えていくことも、現状を変える手掛かりになるのかもしれない。
(編集部)