中国から飛来する微粒子状物質「PM2・5」に対して、各県で暫定指針に基づいた注意喚起が始まっている。観測値によって不要不急の外出を控えるように呼びかけるが、サラリーマンは外出せざるを得ない。花粉症の時期でもあり、マスク着用を心掛けていても、繊維の隙間をPM2・5はすり抜けて体内に侵入。その結果、糖尿病のリスクが高まるという。専門家に話を聞いた。
■患者増加の報告
PM2・5のような微粒子状物質は、鼻や口の粘膜に付着しアレルギー性鼻炎を悪化。肺の奥まで入り込み、肺の病気にも結びつくと考えられている。ただし、研究は始まったばかりではっきりしたことは分かっていない。ところが、PM2・5も含む大気汚染の微粒子が、生活習慣病と関りの深い2型糖尿病のリスクを上昇させるとの報告があるという。
長年、生活習慣病と抗加齢医学を臨床研究している東海大学医学部抗加齢ドックの久保明教授が警鐘を鳴らす。
「世界的な雑誌『Diabetes』に昨年12月に公表された論文では、大気汚染の微粒子が1立方メートル中に10マイクログラム増えるたびに、2型糖尿病患者が1%増えるとの報告があります。中高年の方々で、特に生活習慣病予備軍の方では、PM2・5などの大気汚染が、2型糖尿病の発症リスクを高める可能性があるのです」
■自律神経に乱れ
先の論文によれば、大気汚染の微粒子は、(1)慢性の炎症と低レベルの酸化ストレス(2)自律神経のバランスの乱れを体内に引き起こす。それが、糖尿病とどう関わるのか。「(1)の状態が長く続くと、肝臓は脂肪肝になりやすくなり、エネルギーを消費する褐色脂肪の機能は低下し、逆に脂肪をため込む白色脂肪は炎症を起こします。また、筋肉ではインスリン抵抗性が高まって、血糖値のコントロールが難しくなる。さらに、血管の壁にも炎症が広がり、動脈硬化が進みます。このような状態がトータル的に2型糖尿病を後押しすると考えられるのです」(久保教授)
食事制限など食生活を見直しても、生活習慣病が改善しない場合には、すでにPM2・5などが、体内に悪影響を及ぼしている可能性があるそうだ。
■屋内トレが効果的
肺の病気やアレルギー症状の悪化だけでなく、2型糖尿病にも関与しているPM2・5。それを防ぐには、注意警報が出たら超微粒子を除去してくれる高機能マスクを着用。といいたいところだが、マスクの着用方法は意外にも素人には難しい。きっちり装着すると息苦しく、普通のマスクではPM2・5はすり抜けて体内に入ってしまう。どうすればいいのか。
「正しい防御法については、今後の研究結果を待たなければなりません。ただし、注意警報が出たならばランニングなどの屋外でのスポーツは控えるべきでしょう。大気汚染の微粒子は、筋肉の働きを弱めると考えられているので、屋内でスクワットなどの筋トレに励むのはお勧めです。2型糖尿病のリスクを抑えるためにも、毎日、少しの時間でも筋トレを行うようにしましょう」と久保教授はアドバイスする。
現段階の予防法は、外出時のマスク、そして屋内の筋トレ。PM2・5による体内への悪影響を退けよう。