UNBALANCE

―1話―

芸は身を助けるって言う。
80点を沢山取るより、他が0点でも一つだけ100点を取ることは素晴らしいと言う。

嘘だ。

窓に映った自分の姿を見る。
僕の席は教室の一番後ろ、窓側。外はいい天気。
青空と重なって映っているのは僕の顔。
10人いれば7人ぐらいはイケメンと言ってくれるだろう顔だ。
だからモテるかっていうと否だ。
「じゃあ、この漢文の訳を……今日は10日だから、出席番号10。片山ー」
「は、はい。し、し、然ら、らば、せ、聖人、ン、のれ、礼儀積偽にお、おけ、けるや、またと、陶エンして、
 こ、これを生ずるがご、ごとし。こ、これ……」
「あー…そこまででいい。じゃあ次を……」
先生は諦めたように、僕の言葉を遮った。周囲の視線を感じながら席に着く。

そうだ、僕は酷い吃音なのだ。
顔が良くても喋れない人間がモテる訳がない。
勉強もそうだ。国語は全国テストでも上位。だが英語は壊滅的。理科は得意。でも数学は苦手。
これで大学進学大丈夫なんだろうかと頭が痛い。
1000m走っても息切れしないスタミナはあっても運動神経ゼロ。
ボールを投げれば明後日の方向に飛ぶし、何もないところで転ぶ。
全く持って歪な人間なのである。

(痛…)
頭に紙くずが当たった。
開いて見れば「マリオ、腹話術師はどうしたの?」なんて丸っこい字で書かれている。
ちなみに僕の名前は世界一有名な配管工と同じ名前では断じてない。
片山彩(カタヤマ サイ)って名前がある。でもここにあるマリオは僕のコトだ。つまり渾名だ。僕にとって不本意な。
由来は緑の類似の兄からではない。マリオネットのマリオだ。
人形ってコトだ。喋らなければ見栄えのいい人形。喋らせるなら僕以外の誰かにすべき人形。
それが周囲から見た僕。
紙くずを投げた本人がニヤニヤと笑っている。

高井沙織(タカイ サオリ)

僕と違って正真正銘の才色兼備。
10人が10人美少女と言って、成績は常にトップ、陸上部で走り高跳びでは全国大会に出場、ついでに親はえらーい代議士先生様だとか。
生徒会にも参加してて人望も厚い。……のに、みんなにいい顔するクセに、僕にだけは冷たい。
この吃音じゃ悪口を言いふらせないとでも思ってるんだろう。実際その通りだけど。



四時限目の授業を終えると購買でパンを買って、僕はそのまま天文部の部室に入った。
どうせ次の授業は音楽だ。僕がいない方がみんなの為だろう。
天文部……5人中4人が幽霊部員。つまりここは実質僕1人の部屋だったりする。
夜間の天体観測用にと寝袋やらコンロやらが一式。ここで暮らすにはうってつけだった。


……って、不貞寝してたら外が赤かった。よく寝たなぁ。
この部室にはもう1つ利点がある。3階の角にあるこの部屋からは弓道場が見えるのだ。
明かりは付いてない。
僕は懐に手紙をしまって部室の引き戸を動かした。

僕にだって好きな人はいる。

亘理雪希(ワタリ ユキ)さん。

同じクラスの弓道部。美人というより可愛いという言葉が似合う人。
抜群に可愛いってわけじゃないけど、一緒にいると暖かい気持ちになれる、そんな雰囲気を持ってる。
彼女だけが……僕を笑わなかった。
僕に話しかけてくれた。
移動教室の時に隣になって、ノートで筆談もした。
そう筆談だ。
上手く喋れないなら、文字で伝えればいい。
ラブレターの文面を考えるのに1ヵ月、便箋を選ぶのに1週間、渡す決心をするのに3日。
直に渡すコトはやっぱり無理。
だからこっそり机の中に入れておこう。
僕は教室へと走った。途中転ぶこと5回。
息は切れてないが、心臓の鼓動は3倍速。
廊下側から4列目、前から2番目の席!
(……亘理さん……)
便箋を彼女の机の中に……

「キミ、何をしているの!」

誰だ!?
放課後だぞ!お前こそ何をしているんだよ!
「マリオ…?」
「た、高井…」
一番見られたくないヤツに見られた!
「そこ、雪希の席だよね? 何しているの?」
いつものソプラノとは違う、冷めた声音で高井は訊ねた。
こういう時、自分の吃音を呪いたくなる。口喧嘩も言い訳も、僕には全く勝機がないからだ。
「それ、何?」
陸上部のユニホーム、部活終わりか途中か。
高井は流れる汗を首のタオルで拭きもせずに近づいてきた。
「渡しなさい!」
もぎ取ろうとする高井の手を払う……と同時に僕は体勢を崩して転んだ。
頭を机の角にぶつける……痛い。
思わず頭をさすった手……この手はさっきまでラブレターを持っていなかったか?
「………」
床に目を走らせる。
無い。
どこにも落ちていない。
落ちていないとしたらドコに?
「へー…雪希のコト好きなんだ、マリオ」
想像したくなかった答えが頭上から浴びせられる。
「あ、あ…あ゛ぁ゛う゛ぁぁぁ゛ぁあ゛ぁぁぁ゛ぁあ゛ぁぁぁ゛ぁーー」
僕は声にならない声を上げてその場を逃げ出した……のだと思う。その時のコトはよく覚えていない。


気付いたら学校の中にいた。厳密には。
つまり建物の中ではなく、学校の敷地内、校舎面積の3倍ぐらいある裏山。
ここの経営者何考えているんだか。
まあ逃げ込んだ僕がいうコトじゃないが。
いつの間にか月が出ていた。
手の甲や頬が擦り切れている。そういえば何度か転んで……いや転げ落ちた気もする。
(取り敢えず、星が出てるから方角に迷うことはないか)
ふと足元を見る。月光に揺られて仄かに紅紫に光る花……
(なんだこれ? 見たことがない)
植物はかなり知識があると自負しているのだけれど……
興味を持って幾つか花を毟った。
正直、ラブレターのコトを忘れたい気持ちもあったのだ。

忘れたいって言ったって明日という日はやってくるのだけれど。
学校へ向かう足が重い。

一番いいケースを想像してみる。
・高井は僕にラブレターを返してくれる。

一番悪いケースを想像してみる。
・クラスのみんなが僕のラブレターの内容を知っている。
 亘理さんは僕と話もしてくれなくなる。いや、僕を避けるようになる。

……最悪の場合、僕が次に書く手紙は遺書だな。
それ以外の場合、僕は絶対に高井から手紙を取り戻さなきゃならない。
あれはどうしようもないぐらいに僕が雪希さんを好きだという「証拠」なのだから。


結論から言えば、僕は今日中に遺書を書くことは無かった。
しかし
「………」
今朝からずっと僕の方を見てくる高井の沈黙が怖い。
まるでマングースに睨まれたヘビの気分だ。
大体、いつも取り巻きがいる高井に僕が話しかけるチャンスがない。
なんとしても高井と交渉してラブレターを取り戻さないといけないのに。
「ねえ、片山くん」
向こうから来た!?
……白々しく僕を本名で呼ぶ。人の目があるからだ。
「私、いつもお弁当なんだけど、今日は女中さんが寝坊しちゃって」
だから何だっていうんだ?
「私、購買って使ったことないの」
パシれっていうのか……分かったよ……弱み握られてるもんな……

僕が購買に向かうと、高井は何故か僕の後ろを付いてきた。
なんでだ? 教室で待ってればいいのに。
おにぎりとサンドイッチ、ジュースを(自分の分も含めて)買うと、高井は人の居ない場所に連れて行けと僕に命じた。
しかもちゃんとお代を払った。……払わされると思ったのに。
兎に角、僕は言われるがままに天文部の部室へと高井を招待した。

(購買のおにぎりをみんなと食べるのが嫌なのかな?)
そんな理由を考えながら、おにぎりをつまむように食べる高井を眺めた。
「何よ、私をじっと見て」
「な、なにって、そ、そ……」
僕は口を開くのを辞めて近くのメモにペンで殴り書きをした
『高井ってもっと豪快に食べるイメージがあった』
と、文字を見て顔を真っ赤にする高井。……ヤバイ、怒らせたかも?

ドン!

……ええ、完璧に怒らせましたね。
でもまさか口より先に手が飛んでくるとは思いませんでしたよ。
って、なんか僕に落ちてく…る……?

「もぐ?!」

口の中に土と……草の味が広がった。
「ぺっ! ぺっ!」
落ちてきたのは昨日拾った花だ。取り敢えず鉢に植えてここに置いておいたヤツ。
鉢の方が落ちてこなかったのは不幸中の幸いかも知れない。

「っていうか、いきなり人を突き飛ばすなよ!」

……アレ?

……アレ?
高井に対して思わず文句が口に出た訳だけど……
アレ?
「今、僕……普通に喋ってる?」
キョトンとした顔の高井に向かって確認すると、機械仕掛けの人形のようにコクコクと頷いた。
「なんで? 喋ってる! 僕が! こんなに流暢に! ハハッ! ハハハハハハハハハハ!!!」
床に染みができている。
ああ、これは僕の涙か。
「マリオ?」
不思議そうな目で高井が僕を見ている。
分からないんだ。僕がどんなに吃音で辛かったのか。
「だって喋れるんだぜ! 僕はさ! 嬉しいんだよ! 裸踊りでもしようか!」
「うん……わかった……」
「は……?」
高井はタイを外すと、ブラウスのボタンに手をかけ始めた。
「お、おい!?」
途惑っている間に、床にはらりと純白の生地が落ちた。
「待て、待てよ!」
ブラジャーまで手を掛ける高井の腕を掴む。
「何やってるんだよ!」
「裸で踊らないと……」
「はぁ? なんでそ、そうな、なるん、ん……!!」
また吃音に戻って……!?
なんで! どうして! これじゃあシンデレラより酷いじゃないか! 魔法の時間短すぎるだろ!
魔法……魔法のような……何で……何かしたか、僕が……何か……
何かグチャリとしたモノを踏んだ。
ああ、これはさっき吐き出したあの花だ。
汚いな。僕の唾だけど……
花?
(もしかして!)
鉢植えは3つ。まだ2つある!
迷わず鉢植えから花を抜き、土が残ってるのも構わず口に突っ込む。

ゴクン

「これで……また、喋れるように……なってる!!」
く……くはははははははは……ひゃはははははは……
「裸踊りは辞めにしよう」
高井に命じた。彼女は素直に頷くとダラリと手を落として無気力にただ立っていた。
「やっぱりそういうことか」
非科学的だが、僕が急に喋れるようになったことだって充分非科学的だし、野暮かな、これは。
(ふぅん)
スカートも脱いで下着だけになった高井の姿を見る。
チェック柄の可愛らしい上下だ。子供っぽいとも言えるかも知れないけど。
「ふ……ふふ……」
笑いかけて口を押さえた。
もし花の効果期間が文字数制限だった場合のコトを考えたのだ。
そして押さえた手に温かいモノが付着したのに気づいた。
……鼻血だった。
「と、取り敢えず手紙返せ」
「はい」
「あと服着ろ」
「うん」
そこまで命じた所で、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴ったのだった。

「片山くん?」
理科室から機材を天文部の部室に運ぼうとしている俺を捕まえたのは音楽教師の常陸先生だ。
釣り目がちの美人だが気難しいことで知られている。
「何ですか?」
「あなた、その……」
「吃音なら治りました」
それ以上の質問を許さないと言った強い声を出してみた。
「そ、そう……でも貴方、ここ数日授業に出てないでしょう?」
「学校には来てますよ」
保健室登校ならぬ部室登校だ。
「ちょうどよかった。俺よく転ぶし、機材壊すといけないから、先生持って下さいよ」
「ふざけないで!」
と怒る先生は言葉とは裏腹に俺から機材を奪った。

ここ数日、部室にあの花と理科室の機材を持ち込んで研究した結果がこれだ。
あの花を精製した粉をカプセルにした。1粒で2時間は持つ。
ただし、催眠効果は減少する。
生で食した場合は相手の意識すら制御下におけるが、加工した場合(加熱も含む)効果は著しく減少する。
具体的には今のように身体は俺の命令に従うが、心はその限りに非ず。
(あの花の栽培も考えなくちゃな……後は俺の身体が花に慣れて効果が無くなる可能性……これも怖いな)
今暫く周囲には吃音で通した方がいいかも知れない。
俺は押し花にした花を飲み込むと、常陸先生には俺が喋れるようになったことを忘れるように命じた。
(ん……)
部室の机の端の手紙を拾う。高井から取り戻したラブレターだ。
「これはもう、要らないな」
破いてゴミ箱に捨てた。
「……1人を除いて、ね」
来訪者の少女に向かって、俺は一人含み笑いをした。

「マリオ、何の用?」
便箋を俺に叩きつけた高井は俺を睨んだ。
「呼び出された女の顔じゃないぜ」
「アンタは……雪希のこと好きなんでしょ」
「当たり前だ」
「喋られるようになって良かったじゃない。これで声に出して好きって言えるじゃない」
「ああ。でもその前にさ……」
高井の唇を奪う。
「あ、アンタ……」
「おお、初めてなのに上手くいくもんだな。才能あるや、俺」
突然のコトに、高井は何度も自分の唇をなぞっている。
「……雪希のこと好きなんでしょ!?」
「そうだよ。だからお前で練習したんだよ。それに復讐って意味もある」
「わ、訳わからないこと言わないでよ!」
「馬鹿だなぁ、沙織」
「馴れ馴れしく呼ばないで!」
怒りでか、耳まで顔を真っ赤にさせている高井に俺は笑いかける。なるべく悪そうに。
「そこ、動くなよ」
「はぁ? ちょ…ちょっと! どこ触って……」
「水色じゃん。前はチェックだったよな」
ブラウスを捲ると陸上で程よく引き締まったヘソ、そして平均以上の胸が姿を現した。
「なんで知って…何で……なんで動けないの!?」
「動くなって俺が命令したからだろ?」
うーん、美少女の涙目ってのはそそられるものがあるね。
これが亘理さんの泣き顔だったら心が痛むけど。

「今日から沙織は俺のマリオネットなのさ。操り人形!」
「お、大声出すわよ……」
「黙れの一言で済む」
「……信じられない」
その言葉は何に対してだろうか
この不思議な力のコトか、俺が自分に反逆したコトか、それとも自分の惨めな姿か。
「安心しろよ。最初は優しく抱いてやるからさ。さっきも言ったろ? 沙織は亘理さんの練習だって」
「抱くって……まさか……」
まさかもなにも、服をひん剥かれてされることなんてそう多くはないだろうに。
「ダメよ! 絶対にダメ!」
「立場わきまえろよな」
「私とそういうことしちゃダメなのよ! アンタは…アンタは雪希とそういうことするんでしょ!」
「だから練習だって言ってるだろ」
流石に3回も説明するのはイライラする。
「雪希が可哀想じゃない! 私は…私は……雪希なら……」
「もう黙れ」
高井…沙織って呼ぶか。心の底から俺はご主人様ってヤツにならなきゃならないんだから。意識改革、意識改革。
「パクパク口動かして、小鳥の雛みたいだぜ。餌くれてあげようか?」
俺は今一度沙織の口を塞ぎ、今度は唾液も流し込んだ。
「くっくっく……はっはっはっは……」
行儀悪く口から餌を零した沙織の姿に、訳もなく笑いが込み上げてくる。
「寝袋じゃ困ると思って布団も用意した。緊張するなよ、最初は優しくするって言っただろ?」
沙織に布団の上に寝るように命令すると、俺はその上からのし掛かった。
服を脱ぐように命令してもいいが、それは練習にならないと思ったので却下。
紳士のように丁寧に一枚一枚脱がしていく。

「日焼けの後があるな。陸上部だもんなぁ」
肩から先と首から上に比べて胸元やお腹は絹のように白い。
といっても日焼け対策はしているのか、他の部分が極端に浅黒いというわけではないが
こうして並べるとどうしても分かってしまうということだ。
「ッ!」
今まで気丈にも俺を睨み続けていた沙織は、それを指摘されると初めて目を逸らした。
フロントホックのブラジャーを手早く外す。
仰向けになっても重力に負けない張りのある乳房が震えた。
「ご感想を聞かせてもらおう」
「……慣れてるのね」
「一応勉強してきたからな……って、何言わす!」
「そういえばそうね。慣れてたら私を練習になんか使わないものね」
腹をくくったのか、胸を見られてもこの反応。
少しツマラナイ。もっと羞恥心に震えて欲しいものだ。
「強がってないか?」
「ないわよ」
顔を背ける沙織の顎を持ち上げ、俺に向かせる。
「泣いてるじゃないか」
「泣かせてるくせに」
それもそうだ。
俺は大人しくスカートを脱がせにかかる。
ふぅん、模範的生徒である沙織も結構スカートは折ってるんだなぁ。
お、ここにも日焼けの線が。
「ニーソックス要らずだな」
太股の日焼けのラインを見て、俺は茶化した。
沙織は気にしているらしく、反論もせずに押し黙ったままだった。
(手応えがない……が、流石にここを脱がせたら反応はあるだろ)
沙織の女を守る一枚の布に俺は手をかける。
予想通り、沙織の身体が震えた。
「……や…めて……」
普段の沙織からは想像もできないぐらいか細い声で俺に対して哀願する。
俺は口から舌を出して、その願いをへし折った。

「んー毛がないぞ。剃ってるのか? それともパイパンってヤツか!」
沙織は目を伏せてひたすら耐えていた。
「ちゃんと俺の目を見ろよ。恋人同士……って設定なんだからさ」
俺は役者のアドリブなど許しはしない。
「ツルツルのスベスベだぞ、沙織のここはさ。でも、胸や太股とは滑り具合が違うよなぁ?」
俺の手から零れるか零れないかの程よい大きさの胸はきめ細やかで、柔らかい。
引き締まったカモシカの様な足は、手を走らせるとスケートリンクを行くようだ。
しかし、沙織の秘所はしっとりと水気を含み、それが潤滑油となって指を滑らせる。
「結構濡れてるじゃないか。ん?」
「……雪希にもそんな風に言って抱くの?」
「む…」
それはない。絶対ない。
しかしやり込められたようで気分が悪い。
指先を沙織の中に進めながら、俺は唇を曲げた。
「…ぁ…ん……」
鈴の音のような高く澄んだ喘ぎ声が沙織の口から漏れた。
……正直、ちょっとドキッとした。
顔を紅潮させて吐息を漏らす沙織、今まで見たこともなければ想像したことも無かった。
「可愛いな、沙織」
耳元で囁いてみる。
いや、別に、ホラ、今は恋人同士ってコトだし。これは沙織じゃなくて亘理さんってコトだし!
「…さ…彩……」
ちょ、何いきなり名前呼んでんだよ!
潤んだ瞳で俺を見るな!
「痛っ!」
「あ、ご、ゴメン……」
動揺した俺は沙織の中を引っ掻いてしまったようだ。
「…ん……はぁ……」
肩で息をする沙織がどうにも……扇情的で、俺の陰茎は力強く主張をし始めた。
曰く「もう我慢できへん」
(結構濡れてるし大丈夫だろ。大丈夫だよな?)
ズボンとパンツを脱ぎながら、一応確認してみる。
「沙織、経験は?」
「あ、あるわけないでしょ……」
俺が知るわけないでしょ。
って処女かよ!
(いや、まあ、でも処女でもコイツは運動しているし! 柔らかいだろ、うん)
しかし……
「お前モテるのに」
「……私にだって好きな人いるもの」
「へー。俺ってますます酷いヤツだな」
平静を装いつつ、心の中では罪悪感。悪になりきれない自分……・
「お前をフる奴なんて居るんだな。やっぱりアレだな、性格キツイのがバレたんだな」
「……別にフラれてなんかいないわよ。性格キツイのは……バレてるけど」
「へぇー外面がいいお前の本性見抜くなんて大したもんだな、ソイツ!」
「……そうね。だからその人、私なんか好きじゃないのよ。他に好きな人がいるんだもの」
「そいつは御愁傷様! ま、お前の青春もここでお終いってコトだな。俺はお前にとって最初で最後の男だからな!」
そこでどうして俺を意外そうな目で見るかね?
「……飽きたら公衆便所にでもされるのかと思った。知らない男達にに100円とか10円とかで輪姦されて……」
き、鬼畜過ぎるわ!!
「やらん、やらん」
ちょっと息子が萎えたぞ、実際。
「そう……私は彩の専用穴なんだ……」
「ま、まぁな」
エ、エロイこと言うなよ……
ちょっと息子が元気になったぞ、実際。
そんな元気になった淫棒を、沙織のまだ誰も許したことのない秘肉の桃源郷へと狙いを定める。

「ん……一応黙らせておくか。声が漏れたら不味いし」
「我慢するわよ」
「やけに協力的だな?」
「……信用しないなら黙らせれば」
「じゃあ命令する。俺に抱きつけ」
沙織の健康的な腕が俺の首に強くしがみつく。
「マグロじゃなぁ。雰囲気でないだろ?」
息づかいが聞こえるほど近くの沙織に向かい笑った。
沙織は少し強ばった後、釣られてこれまた少し笑った。
そのタイミングで俺は彼女の中へ一気に侵攻を開始した。
「く…はっ……ぁ……んぁ……」
本当に沙織は耐えているようだ。理由は分からないが、まあいい。俺だって余裕があるわけではないのだし。
未開のその地は確かに侵入者を阻んではいるが、同時に受け入れてもいる。
いや貪っていると言うべきか。
脈動し絡みつくそれは心地よい痛みにすらなって俺の頭を焼いた。
「はっ…はっ……はぁん……」
小刻みに呼吸する沙織から、時折甘い声が覗く。
その吐息は俺の耳を濡らした。
「んんぁ……ふぁあ……ああぁぁ……」
喘ぐ沙織の額には汗でへばりついた黒髪が乱れている。
俺はそっとそれを払うと、彼女の涙に気付いた。
「痛いか?」
沙織は答えず(というよりは答える余裕がなく)、ただ否定を込めて首を振った。
「はっ…ふあぁ…ひっ…あっ…あっ…ぁっ……」
俺達の身体が揺れる度、シーツの皺が増えていく。
「お前の唇を吸わせろ」
命令すると、沙織は弾かれたように俺の唇に貪りついた。
……これじゃあ吸わせろじゃなくて、吸えだろ。
そう考えるより速く、沙織の舌が口の中にかち割ってくる。
「ず…ずじゅ…じゅるる……」
泡を漏らしながら、唾液が混じり合い、少し冷たい沙織の舌が俺の舌と舞踏をする。
「んちゅ…じゅる…じょぽ…じゅぽっ……じゅるるうるるぅ……」
合わせて肉壺の締まりも心なしか強くなってくるようだ。
「はむぅ…じゅ…ぁあぁ……ちゅるる……じゅぇ……ろ……」
(……止めろって命令しない限り続くのか、コレ)
息が続かなくなって来て、ようやく気付いた。
や、沙織も限界な感じだが、キスに夢中でなんというか……
(このまま死んでも悔い無しってか?)
いや、好きでもない男とキスして死ぬのは嫌だろうし、それはないか。
「んんー…じゅる……ぅる…れぇろ…じゅるる……」
「……んはっぁ! ……や、止め、もういい!」
名残惜しそうな顔するなよ、オイ。
「はぁぁっ……んぁあっ……ひゃうっ…んっ…んっ……」
キスし足りない分を埋め合わせるかのように沙織は俺と身体を密着させてくる。
柔らかい2つの乳房が心地よく二人の間を阻み
しかしその先端の果実は俺の胸板を擦り刺激し続けた。
「くっ……そろそろ……」
「はっ…ぁは……足……んっ…ぁふっ…足絡ませて……んぁっ…命令……」
自分の身体の支配権を持つ俺に、沙織はもどかしそうに指示した。
「ああ、しっかりと俺に絡みつけ! そのスラリとした綺麗な足で俺の身体にしがみつけ!」
俺が高らかに沙汰すると、彼女の足はガッチリと俺の腰を掴み、一番深い場所へと肉棒を誘った。
「あはっ!」
一番奥を貫かれた衝撃に沙織は歓喜の嬌声をあげ
「うぐっ……」
俺は精を吐き出した。

(……ってよく考えたら不味くないか、コレ)
バッチリ子宮に向けて白濁が注ぎ込まれていること山の如しである。
(いや、でもどうせ沙織は俺のモノだし……)
しかし子供ができたら色々面倒ではある。
いや、たった一度のコトで懐妊とか、そんなどこぞの皇帝のようなことそうそうありはしないだろうけども。
「おい、今日は危険日? 安全日?」
俺の身体の下で惚けている沙織は、虚ろなまま、質問とは関係の無いことを口にした。
「雪希の代わりでもいい……」
(いや、代わりだし)
他に何があると思ってるんだ、コイツは。
つか、また泣いてるし。
「まったく……」
沙織の涙を親指で拭ってやると、俺はティッシュ箱に手を伸ばし……
(……動けない)
ホールドされている訳で。
二人の結合部からは血の混じったピンク色の精液が滴っている。
「……あ、足を、は、はなせ……」
(げ! 時間切れ!?)
薬を探す。
机の上だ。
ここから手を伸ばしても届かない。
「お、お、い、い。足を、は、離せ」
「ふぇ……?」
コイツ、まだ夢うつつだ!?
「だ、だ、だから、あ、足を、は、離せ」
「んー? ……何言ってるのぉ〜?」
黙れ! 人のコンプレックスを刺激するな!
くそ! くそっ!
この状況で分かってもしょうがないが、この催眠は相手が俺の言葉を理解しないとダメなんだな!
つまり沙織や教師ならいいが、馬鹿に対しては小難しいことを言っても理解できない可能性があるということだ。
これは忘れないようにしておこう。
しかし今はこの状況をなんとかしなくては!!


その後、何故か部室にあった釣り竿で薬を釣ろうとして、持ち前の運動神経の無さを発揮し
ピタゴラスイッチ並の連鎖が起きて部室がメチャメチャになって片付けが大変だったのは別のお話である。




<幕>


―2話―

夜空に赤い星が輝いている。曇の多い空でも見えるそれはアークトゥルスだろうか。
星の輝きはすなわち命の輝きなのだ。星は年を取ると膨張し、その輝きを増す。
だがそれは星の寿命が近づいている証拠だ。
そして星は最後に瞬いて爆ぜる。
人は人生をよく星に例えるが、歳が長けて輝きを増す人はどれだけいるだろうか。
その死が鮮やかに周りを照らす人がどれだけいるだろうか。
夜の公園で埒もない事を考え吐いた溜息は、白かった。
「ご主人様を待たせるなよ」
ようやくやってきた奴隷を俺は咎めた。
「せめて髪ぐらい梳かす時間を頂戴よ」
電話で「公園に来い」という命令を俺に受けた沙織は、いや沙織の身体は忠実に俺に従うのだ。
「別に俺はお前がどんな格好だろうと気にしないぜ」
「……ワタシガキニスルノヨ……」
何か沙織が呟いたようだったが、俺は気にせず命令した。
「早速だが、脱げ。全裸だ、全裸」
「………」
クリーム色のパジャマを脱ぎ始める沙織。
眉を顰めて拒絶した所で、俺の命令は絶対なのだ。
「ってブラしてないのかよ」
「もう寝るつもりだったんだから!」
薄地の生地から零れた乳房は、外の冷気に当てられたか先端が凝り固まっていた。
「こんな姿で夜に外をあるいて……私、誰かに見られないかって……」
愚痴をこぼす沙織は脱いだパジャマやサンダルを俺の座るベンチの上に畳んで置く。
特に命じたわけではない。元の性格が反映なのだろう。
「なぁに、ノーブラパジャマで外でるなんて些細なことだろ」
「……そりゃ公園で裸になるよりはね」
周囲を伺いながら胸と秘所を隠す沙織。街灯に照らされる顔は羞恥で赤く染まっている。
「外で……するの?」
「何を?」
返されて沙織の顔はさらに真っ赤になる。
「お前、意外とエロスだよなぁ」
「違う! 私は……」
「公園ですることっていったら、まず散歩だろ、散歩」
「え…えぇ!?」
「ほら、さっさと公園一周」
と命令すれば沙織の足は歩きだすのだ。
……って
「俺の腕掴むなよ」
「私一人で行けっていうの!?」
「言うの」
「誰かに見られたらどうするのよ!」
「どうしようもないな」
他人事の様に答える。
「み、見られるだけならいいわよ」
いいのかよ……露出癖でもあるんじゃないんだろうな。
「も、もし襲われたらどうすればいいのよ! 一緒に来てよ! それなら裸だって我慢するから!
 何かあったら守ってよ! 私はアンタの所有物だってちゃんと言って守ってよ!!!」
怒るトコ間違ってないか? ……いや奴隷としては正しいのか?
「いやいや、ご主人様の命令を疑うのは奴隷としては失格だな」
沙織の腕を放す。
枷を外された彼女の足は、目的を果たすために歩き出した。
「いや……いやよ……こんなの……怖い……」
震えながら身を縮めて歩く沙織を見送る。
あんな風に歩くと時間かかるだろうに。いっそ堂々と歩いた方が早く済むのにねぇ……
「ま、それだと調教にならないか。まずはじっくり俺の怖さを教え込まないとな」
ちなみに沙織が言ったような可能性は限りなく低い。
この公園は植木で外からは見えづらいし、ホームレスなんかは住み着いていないのはリサーチ済みである。
だいたい街灯が極端に少ないんで、人影があるとわかってもよっぽど近づかない限りは顔も格好も分からないのだ。
が、そんなことは沙織は知る由もない。不安になるのも当然……というより狙い通り。
気分が良くなった俺はジャリを蹴っ飛ばした。

顔を真っ青にして帰ってきた沙織に俺はねぎらいの言葉をかけた。
「遅かったな。陸上部なのにノロマな亀もいいところだぜ」
実際、待ってるのは退屈だった。
「やっぱりお前の言うとおり一緒にいけばよかったな。ちょっと後悔」
「ホ、ホント!?」
……なんで嬉しそうなんだよ。
「……シンパイシテクレタンダ……」
何かブツブツ言ってるが、どうせ俺に対する文句だろう。右から左に聞き流す。
「じゃ、次はご主人様に奉仕してもらおうか。もちろん性的な意味で」
指を鳴らして命令する。
うん、鳴ってよかった。俺これ成功率低いからな……
「って、なんで俺に跨る!」
膝の上に体重を感じて、目の前にあった沙織の顔に少し驚いた。
「なんでって、エ、エッチするためでしょ!?」
そういう沙織の手は俺のズボンのチャックを外して息子を外に取り出している。
「風情が無いわ! いきなり!」
「ハァ? 」
「こういうのさ、もうちょっと手コキとかフェラとかしてくれた方が盛り上がるだろ」
「手コキ? フェラ?」
うわー…凄いキョトンとした顔で見つめてきたよコイツ。
「一回100円とか10円とか思いつくのに、その手の知識は知らないのかよ」
「し、知ってるわよそれぐらい! やってやるわよ!」
「よし、じゃあ命令する。フェラしろ」
だが沙織は動かない。
「やっぱ知らないだろ」
俺の能力は、命令の単語を俺が識っていても相手が認知してなければ無効なのだ。
「フェラってのはフェラチオ。口でチンポしごくことだ」
「あ……」
めちゃくちゃ後悔した顔したな、コイツ。
「やるっていったのはお前だからな、沙織」
「うぅ……」
ベンチに座る俺に対して、沙織は地面に膝を付ける。
丁度頭の位置が俺の息子の高さになって、準備オッケーって感じだ。
「さあ始めようか? これは命令だぞ」
「………」
観念したように、沙織は陰棒を口に含んで……
「じゅる…じゅるるるる、じゅぽっ…ぬぽっ……じゅっ…ちゅっ……」
「ちょ…ま…おま……っ」
めちゃくちゃ吸い付いてるんですけど! スゲー音立ててるんですけど! 首凄い動かしているんですけど!
後ついでに……
「痛い! 歯ァッ! 痛い!!」
「んぷっ……じゅるるるっ……ぬぽぽっ……」
「止め! 止め! ストップゥゥ!!」
「んぱっ…!」
沙織の唾液に塗れた真っ赤な俺のジュニアが外気に当たる。
うう…ひりひりする……
「なんなんだお前はぁぁ!!」
マニュアル車を5速でアクセル全開踏み込むような、そんなフェラだったぞ! 車壊れるわ!
「だいたいフェラ知らないんじゃなかったのか!」
内容は兎も角、傍目には頬窄ませて尺八状態、プロの犯行だったぞ、コラ。
「名前は知らなかったけど……」
「行為は知っていたと」
頷く沙織。
「しかし経験もなかったと」
頷く沙織。
「……くしゅん!」
クシャミをする沙織。
「もういい、服着ろ」
コイツ完全に耳年増だ。しかもソッチ系の用語は疎いという……

「はぁ……まぁ一から教えるつもりでやればいいか」
と、頭を抱えていると沙織の足が視界に入った。
陸上で鍛えているとはいえ、女性らしい丸みのある足首と、綺麗に切りそろえられた爪
しかしそれらは土に塗れ、所々すり切れていた。
「……お前もう歩くな」
全裸になれとは命令したが、俺としては靴まで脱がせるつもりはなかった。
しかし沙織は文字通り全部脱いだ姿を全裸と認識していたと言うわけだ。
「え? なに……」
パジャマを着終わった沙織を抱える。俗に言うお姫様抱っこってやつだ。
「足痛いだろう。なんで言わないんだ」
金魚のように赤い顔で口をパクパクさせている沙織を咎めた。
「自慢じゃないが俺は何にもないところでコケるぐらい運動神経がないからな。
 しっかり掴まっていろ。じゃないとお前を落っことすかも知れないからな」
「――ッ!」
なんか沙織が言葉にならない声を上げだした。
なんなんだ、コイツは? まったく理解不能だ。


沙織をどこに連れて行ったかと言えば、なんのことはない、俺の家だ。
風呂場で足を洗ってやって、俺の部屋のベットの上に置いた。
「……何やってるんだ、お前」
救急箱を捜して来て、部屋に帰ってみると沙織が俺のベットに突っ伏していた。
「な、何もしていないわよ!! 匂いなんて嗅いでないわよ!!」
わからん……最近のコイツは富みにわからん
「まあいいや。ホラ、足だせ」
消毒液で足を拭うと、軟膏を塗ってやる。
「……親は?」
その途中、沙織が尋ねてきた。
「俺に関わるなって命令してある。そんな命令しなくても俺には興味ないだろうけどな」

治療を終えると、俺は救急箱を戻すついでに紅茶を淹れてきた。
触った沙織の肌が冷たかったからだ。夜の公園を裸で歩けばそうもなるだろう。
「風邪ひくといけないからな」
「ありがとう……」
沙織の頬が緩む。
やばい。ちょっと、いや、かなり可愛い。
悟られないように俺は沙織に背を向けた。
(ダメだ、ダメだ、俺には亘理さんという心に決めた人がいるんだ。コイツはただの奴隷だ!
 ……待てよ、ただの奴隷に優しすぎないか、俺!? まさか舐められている!? 違いない!)
俺自身も紅茶を飲みながら、気持ちを引き締める。
(これ飲んだら今日は一晩中コイツを犯してやろう。どっちが上かハッキリと身体に刻ませてやるのだ! はっはっは!!)
しかし、俺特製のブランデー入り紅茶は旨い。身体もすぐ温まる。紅茶とお酒の配分には研究を重ねたからな。
未成年が飲酒?気にするな。いや、そもそも登場人物は全員18歳以上ってことにしておけ!
「さて、沙織。壁に手を突いて俺にケツを向けて貰おうか」
偉大なご主人様の顔で俺は沙織に振り返る。
「Zzz……」
寝ていた。
あれか、お酒飲むと眠くなるタイプか、オイ。

テレビの中のお天気お姉さんが今日は曇りだと告げている。
トースターがパンを焼き終わったと叫んだ。
「おーい、いい加減起き……」
「――!?!!?!!!」
沙織が俺のベットを叩いて居た。
ベット壊す気か、そんなに俺が憎いか……いや憎いか。無理矢理犯している相手だもんな。
「どうしよう、どうしよう、男の人の家に泊まっちゃった……」
「あー……」
「お父さんになんて言えばいいの! 勝手に夜出ていって、それで…それで……」
「適当に友達の家に泊まってたでいいだろ。女の友達の」
コイツ馬鹿なんじゃないだろうか。いや学校の成績はいいけどさ。
「そ、それもそうね……」
「飯作ったから食え。学校に遅刻するぞ」
「ご飯つくったの!?」
「俺はいつも自分で作ってるっての」
「あ…でも……」
「なんだよ?」
「私、これしか服ないわよ……」
両手を広げて着ているパジャマを主張する沙織。
「それもそうだ……カバンも無いしな」
置き勉とかしているタイプじゃないだろうし。
「遅刻決定だな」
「私皆勤賞狙ってたのに……」
「俺が知るか」


その日、学校で沙織と会ったのは昼休みだった。
両親に叱られていたらしい。っていうか、もう今日は学校サボってもよかったんじゃないか?
「私は真面目なの!」
廊下を並んで歩きながら、俺が購買でゲットしたおにぎりを奪う沙織。
「はいはい、立派立派」
教材を両手に抱えた生徒が資料室に入れないで立ち往生していた。
通り際に資料室の扉を開けてやる。
生徒がお礼を言ったように聞こえたが、無視して過ぎた。
吃音で無口を通しているから俺が答えなくても不自然ではないだろう。
面倒がなくていい。吃音で良かったと思える数少ない時だ。
「………」
そんな俺を沙織がジッと見ていた。
「なんだよ、その顔……痛っ」
「……ホントに何もない所で転ぶわね」
「お陰さまで、黄緑色のパンツもよく見えます」
慌ててスカートを押さえる。
ふん……まあ昔ならそのまま踏んづけられてた気がするから、多少は調教の効果が出てきたってことなんだろう。
「……イジメの現場も見えたな」
下窓から体育用具倉庫とプールの間に男子生徒が固まっているのが見えた。

「おいお前ら」
俺はイジメなんて他人事なんてスルーするつもりだった。
しかし沙織が急かすので仕方なしに仲裁に入ったのだった。
まあ俺の能力を使えば、「去れ」の一言で済む訳だし?
「アン?」
「あれ、マリオじゃん」
「マリオが普通に喋った!?」
「クララが立った!」
……コイツら……前言撤回、多少怖い目にあわせてやろう。
「失せろ、クッパの威をかるクリボーどもが」
「なんだと!」
「お前はな、俺に拳の一つも当てられやしないんだよ!」
「ぬかせぇぇぇ!!」
不良の大きく振りかぶった拳は俺を捉えることはなく、空を切った。
「マ、マリオがケンのパンチをさけてやがる!?」
正確にはパンチが俺を避けているわけですが。
「当ててみろよ。大したスピードだが、蚊も潰せない威力のパンチだぜ、お前のは」
「舐めるんじゃねーぞ!!」
「げぇ!ケンのパンチを顔面に食らってもマリオの奴微動だにしねぇぇぇ!!」
正確には殆ど寸止めに近い状態なのですが。
「お前にはデコピン一発で充分だ。派手に吹っ飛べ」
ペチン!
「うぉぉぉぉケーーーン!!」
「やべえぇぇぇ5mは吹っ飛んだぞ!?」
「くそう、マリオの野郎、星と契約しがやったな!?」
いや、どっちかっていうとスターよりフラワーなんだけどね。
「逃げろーーーーーー」
やれやれ。
「で……」
不良共の獲物を見下ろす。
中等部の制服を着ている。中性的な少年だ。
「なんで高等部にいるんだ? 命令だ、言え」
「姉さんに……会いに……」
「姉さん?」
「岡崎…叶鳴…」
「岡崎? 生徒会長の、岡崎先輩か?」
「はい」
そう語る少年の顔は困惑に満ちている。
「ちょっと、彩。今度は貴方がこの子を苛めているみたいでしょ!
 君、岡崎先輩なら私が捜してこようか? 私、生徒会で先輩のことよく知ってるし」
「沙織……」
不良追い払ったの俺だぞ。何イイトコ持っていこうとしているんだ、コイツは。
「い、いえ……結構です。助けていただいてありがとうございました。じゃあ、これで……」
「ストップ」
立ち去ろうとした少年を制止させる。
「……名前を言え」
「結城凜(ユウキ リン)です」
「彩!」
「そうか。それで結城君、どうしてウチの学校に居る?」
沙織の咎めも気にせず、俺は少年の襟首を掴む。
「ウチの学校の中等部の制服にはラインが入っている。ラインの色は赤、緑、黄、青の四種類。
 学年毎に色が違う。色はローテーションで毎年変わる。つまり毎年一色は使われない色が存在する。
 今年の場合は黄色。君が来ている制服のラインの色だ」

岡崎叶鳴(オカザキ カナル)

生徒会長にしてこの学校の経営者である岡崎グループの令嬢。
岡崎家は旧華族の名家であり、岡崎先輩も物腰柔らかく、
典雅な仕草、振る舞い、喋り方はまさにお姫様といった風で生徒からも人気が高い。
柔らかいのは物腰だけではない。
その胸の柔らかさもまた(おそらく)一級品であろう。
つまりは巨乳なのである。巨乳なのである。(大事な事なので二回言った)

生徒会室に入ってきた岡崎先輩は、まず先客であった俺に驚いたようだ。
もっとも声を上げるとか、身体を仰け反らせるとかではなく、目を少しだけ広げたといった程度であったが。
しかし、俺の後ろにいた少年の姿を見たときは流石に口を開いた。
「凜! 貴方、どうしてこちらに!?」
「お姉さんに会いに来るのに理由は要らないんじゃないですか」
と、俺が二人の関係を知っていると告げた頃には、岡崎先輩は平静を取り戻していた。
「腹違いでも……ね」




「それで?」
沙織が俺の肉棒の先を指の腹でゆっくりと撫でた
「不良から弟さんを助けてくれたお礼にパーティに招待された。もう少し弱めでいい」
沙織の押しつける力が弱まり、むず痒い刺激が俺を襲う。
「んっ……はぁ……んっ…んっ……岡崎先輩をどうするつもり?」
「人に話をするときは目を見てと言われなかったか?
 ま、今お前が見るべきは俺の顔ではなく性器だ、目を逸らすなよ」
昨夜のように椅子に座った俺に対し、跪き手コキをする沙織に命令する。
「うぅ……」
「そんな嫌な顔するなよ。お前の処女を奪ったチンポだぞ。感想でも言ってみろ」
「キモい……」
短っ!
「もっと他にも色々あるだろ」
キモいとか傷つくわ!
まあ、間違っても美しいものではないけど。
「……熱いし、脈打ってるし、先っぽ膨らんでるし、割れてるし」
「割れてないと出せないだろうが、色々……」
「でも彩のなんだよね……」
俺のじゃなかったら怖いわ。
「この熱も、脈も、彩が高ぶってる証」
沙織がフゥーっと亀頭に息を吹きかける。
「この形に私は剔られたんだ……私のアソコはこの形に変えられていくんだ……」
「空いてる手で袋の方も揉んでみろ」
「こう? 痛くない?」
さわさわと二つの睾丸を掌で転がす沙織。
「なんか先っぽからヌルヌルしたのが出てきたわ……」
沙織は何の躊躇いも無く、肉棒を舌で舐めとった。
「う……お前……」
「ちょっと苦い……」
「なんでそんな積極的なんだよ……」
さっきまで顔逸らしていた女が。
「だってコレ、舐めたりしなきゃならないんでしょ?」
「ま、まあな」
「今のは大丈夫だよね? 歯も当たってないし」
「痛くない……が、今は手コキやってるんだから舐めるの禁止」
「わかった。……凄い臭い……」
「イカ臭いだろ。栗の花の臭いとも言うけど」
ゲラゲラと下品に笑って見せたが、怒ると思っていた沙織は意外と惚けたままだ。

「何を考えてる? 言ってみろ」
「何って……イカ? 栗? たしかに似てるかも知れないけど、凄くむわっとしてて、
 湿ってて、それでなんか、ずっと留まるの。私には無い匂い。これが男の匂いなんだなぁ……って
 そう思うと身体が熱くなって、私のアソコ……ジュンってしてる……」
ほうっと沙織は蕩けたように溜息を吐いた。
「んっ…ふぅっ…んぁっ……彩は気持ちいいんだよね?」
「気持ちよくなきゃこの先走り汁はでない」
「そうなんだ…はぁっ……じゃあもっと…んんっ…もっと、出せるように…ぁっ…頑張るね……」
先走りの液を手にまぶすように広げると、滑らかになった手でさらに肉棒を刺激しはじめる。
「ふん、頑張らなくても俺が命令すればお前は出来の良いダッチワイフになるんだよ」
「ワイフ? ……妻……?!」
「お前、ダッチワイフの意味知らないだろ……ま、それは後でいい。
 人差し指と親指で輪作れ。俺のチンポを挟むようにしてな。」
「ん……」
「それでチンポを扱け。根本からカリ首にかけてな」
「カリ首?」
「先端の膨らんでいる部分までだ。もう少しテンポよく……そうだ、そのテンポだ」
「ん……はっ…んぁ…また…ぁっ…大きくなった……ぁ…」
「締め付ける指の強さは変えろ。そういう事できないならただの穴の方がマシだからな」
「ぁっ…ふっ……んっ…ぁん……はぁ………ぁっ……」
俺の汁に塗れた沙織の指はテラテラと光る。
「掌も押しつけるように動かせ」
「ぅん…んっ……ぁあっ…はぁっ……」
「そろそろ出るぞ。出たら手を止めろ」
全開の反省を踏まえて予め指示しておく
「はっぁ……出る……?…ん………きゃっ!」
俺の白濁が沙織の瑞々しい肌を跳ねる。
「ふぅ……」
「あ……熱い……ぃ……」
粘着質のその液体を掬うと、沙織は暫くオモチャを与えられたばかりの子供のように遊んでいた。
「これが精子なんだよね……赤ちゃんの元……」
俺が虚脱感と気怠さから醒めた頃には、それにも飽きたか、顔に白い化粧をした沙織は尋ねてきた。
「それで岡崎先輩をどうするの?」
「……俺も生徒会に入ろうかと思ってな」
「え?」
「この部室に色々機材を持ち込みすぎて目立っているし」
あの花の研究、栽培、それから薬の精製……どう考えても天文部の活動ではない。
「実質俺一人じゃ部費も無いに等しいだろ。それに広い部屋も欲しい」
手っ取り早く生徒会押さえるのが一番なのだ。
「岡崎先輩も俺の奴隷にするのさ」
「……岡崎先輩にも私みたいなことするの?」
「日本人の美徳はMOTTAINAIだぜ? あんだけいい身体してんだ、政治だけに使うのはなぁ」
あの豊満な肉体を貪ることを想像するだけで涎も出てくるってもんだ。
「………」
そんな俺を沙織は歯噛みして見ていた。
大方軽蔑でもしているんだろうが、痛くも痒くもないね、ふん。

美味しい……この豚肉、まさか人の乳で育てたんじゃないだろーな。
岡崎家のパーティにお呼ばれした俺だったが、セレブな方々が集まる場所に俺の知り合いなど居るはずがなく
目立たぬ程度に豪華なディナーに口を付けていたのだが……
「最後の一切れかよ。むー……」
もっと食べたい。
「すいません」
歩いていた給仕に声をかけ……
「凜? 結城凜?」
「あ、片山さん」
「こんな所で何をしている? 答えろ」
「父さんの姿を一目見てみたくて……」
何故?という顔で少年は持っていたお盆で自分の口を隠した。
「俺に隠し事は無意味だぞ」
少年の肩を取ると、人に聞かれないよう小さな声で尋ねた。
「なんだ、妾腹だからって顔も会わせられないのか」
「ええその通りです。お父様は凜に一度だって会おうとなされないのです」
「岡崎先輩」
岡崎先輩は艶やかな着物に身を包んでいた。襟元が窮屈そうではあるが。
「凜の存在を知ってはいるのですがそれだけで、認めようとはしてくださないのです。
 私も凜の事を知ったのはつい最近ですわ。姉として、この子が不憫で……」
「ふぅん。まあ立場ってものがあるしな」
「それでも一言ぐらいお声をかけられても良いものでしょう? 自分のお子だというのに……
 私には厳しいけれども、優しいお父様ですのに」
確か岡崎先輩には兄弟は居ないはず。
つまり彼女は次期岡崎家の当主なのでそれなりの態度という訳か。
「会いたいのか? 父親に」
凜は黙って頷いた。
「俺も片親だが、別に母親に会いたいとも、憎いとも思わないけどな」
人それぞれか。
「確か、ここには茶室があったと思ったな」
洋館風の建物だったので浮いていたのを記憶している。
大正時代に建てられたとかいう屋敷だ。そういう節操のない和洋折衷もあるだろう。
「岡崎先輩は茶道も嗜むようで」
「ええ」
「なら茶室の縁側に凜を隠しておいて、お父さんを茶室に招いた後に会わせてしまえばいい。
 その場から立ち去るのは不作法になる。そういう事をするお父さんですか?」
「いえ、お父様は礼儀正しい方ですわ。正しい心は正しい居振る舞いに宿るという持論の方ですもの」
「念のため、他の人――それも一人ではなく複数のグループと喋っている時に茶室に招いた方がいい。
 茶室に向かうのを見られれば、そこからすぐ会場に戻るのは不自然だ。次期当主の先輩の面子を潰すことにもなる」
まあ実際は俺の能力で強制的に茶室に送るんだけどね。

時計の針を見る。先輩の父親が会場を後にしてから結構立つ。
お腹も一杯になり、俺はする事もなく壁際でたたずんでいた。
(……ホントに誰が誰やら)
場合によっては俺に利益を与えるような人間も居るかも知れない。
食指が動く美人も多いが、性奴隷もそう多く抱えた所で破綻してしまうのが目に見えている。
欲しいのは薬学系、動植物系の知識のある人間だ。
研究書片手に色々試して見て、今の薬を作ったが、何故こうなるのかまでは判りはしない。
「まあ、まずは学校だ」
ある種の閉鎖された空間である学校というものは、隠れ蓑を兼ねた拠点にするには丁度良い。
「……書記の辺屋くん、階段を踏み外して骨折したんだってね」
「生徒会の仕事が増える季節だからな。近々、代わりの人を選抜しないと……って沙織!?」
スカイブルーのドレスを纏った沙織が、仏頂面で隣に立っていた。
「どうしてこ…」
「岡崎先輩とは親子ぐるみで仲イイもの。私がここに居ても不思議じゃないでしょ」
説明はされたが、正直沙織の姿の方が衝撃的だった。
(ごくっ…)
しっかりと化粧をして、(ウィッグだろうか?)長い髪をアップで纏めた沙織はいつも以上に美しく見えた。
たたずまいもいつもの自信に溢れたものではなく、清楚で女らしさを感じさせるのは衣装のせいだろうか。
ただ、物憂い顔が非道く心をかき乱させた。
これで笑ったらさぞ可憐であろう、この娘を微笑ませてみせよう、そう男ならば誰もが思うだろう。
「俺はこの会場にずっといたんだぞ? 気付かなかったのか?」
内心の動揺を隠すように、埒もないことを話した。
「私はすぐ見つけたわ」
「俺は見つけられなかった」
いつもより綺麗だから……という理由ではなく、単純に気付かなかったのだ。
「囲まれてたのよ。お父さんの御機嫌伺いをしたい人とか」
将を射んとせば……って奴か。
「それに……」
「ん?」
「言い寄ってくる男もいるし……」
「なるほど。俺もお前を知らなかったら声をかけるかもな」
等と素直に言ったら、何故か顔を逸らされた。
なんか悪いこと言ったか、俺?
「ど、どうせあの人達もお父さんが目的で言い寄ってくるだけよ」
「そんなもんかなのか……」
なんとも思っていない女を口説くのが当たり前の世界ということなのだろうか。
「だから私、こういう所嫌いなのよね……なるべく出ないことにしているの」
「ふーん」
……って、じゃあなんでコイツここにいるんだろ?
「あ!」
岡崎先輩の父親が戻ってきた。
不機嫌そうな顔を見るに、親子の対面は良いものではなかったらしい。
だが俺にはそんなことは関係ない。
俺はまだ茶室に残っているだろう岡崎先輩に会いに足を進めた。
「……で、なんで俺についてくる?」
「いいじゃない別に」
まあいい。手伝いは居ても悪くない。
「が、なんで俺の腕を取る?」
腕に沙織のシルクの生地ごしの柔らかい胸の感触を受けながら尋ねた。
「こ、こういう場所なんだからこっちの方が自然でしょ?」
そういうもんなのか?
「なんか逆に視線を感じるが」
主に若い男性(心なしか睨まれている気がする)と中年の女性(こっちは好奇心という感じだ)から。
「普通よ」
そういうもんなのか……

茶室では浮かない顔をした姉弟が礼儀正しく座っていた。
「どうも、茶室の空気が重いな」
「片山くん……」
少年の方はこっちを向こうともしない。
「取りあえずお話はできたんでしょう? 一歩前進、それでいいじゃないですか」
「そうね……ありがとう、片山くん」
「いえ」
少年は黙したまま。
かけられた言葉は血の通わない言葉だったか。
ま、勝手に期待して勝手に落ち込んでいるだけだ。
「あら、沙織さん? そうか、だから今日のパーティに出たいと仰ったのですね!」
ポンと手を叩く先輩と、慌てて何事か捲し立てる沙織。
俺は茶室の襖を閉めると、畳の上に正座した。
「何か、私にお礼ができるとよろしいのですが……」
「実はそれを楽しみにしていました」
「まぁ」
俺の正直さが面白かったのか、先輩は上品に口元を抑えて笑った。
「では、俺の言うことをなんでも聞いてください」
「私にできることなら」
「簡単ですよ。先輩の身体で奉仕してくれればいいんです」
その言葉に隣に座っていた少年君が肩を動かす。
「君は関係ないから、そこに座っていなさい」
耳元で囁くと、彼は石のように固まってしまった。
その表情には驚きと恐怖と焦りが浮かんでいる。
「私の身体で奉仕と仰いますと……肩たたきでもなさればよろしいのでしょうか?」
対称的に小首を傾げる先輩は俺の命令の意味が分かってないようだった。
「そういう事ではありません。まあ、俺に全て任せてくれませんか?」
「わかりましたわ」
「ではそこを動かないで。まずは目隠しをしましょうか」
沙織がハンカチを持っていたのでソレを使って先輩の目を塞ぐ。
目を閉じろの命令で済む事だが、こっちの方が雰囲気がでる。
なすがままにされている先輩は少し不安げではあるが、俺の行為を受け入れた。
元より抵抗した所で無駄なのだが、この時点ではまだ疑ってないらしい。
「姉さ…」
「君は黙っておけ。だが目も耳も閉ざすことは許さない」
沙織に指示して庭に続く障子を閉じさせた。
「実はですね、先輩。俺、お金に困ってるんです」
「まぁ! でしたら私が幾らか無心を……」
「いやいや、お金はやっぱり自分で稼がないと行けないといけません」
……って、驚いた顔するな、沙織。嘘に決まってるだろ、嘘。
「大変立派な心がけだと思いますわ」
「ええ。ただ俺は運動神経が無くて労働に向かないんですよ」
「身体を動かすことだけが仕事ではないでしょう? 片山くんのように思慮深い方なら、その才能を欲する人は多いでしょう」
「はい。だから俺は楽して稼ぐことにしたんです。具体的にいうと仲介料で稼ごうかと」
「仲介料?」
「女衒ですよ、女衒」
「女衒?」
「岡崎さんを抱きたいって人なら沢山いるでしょうからね。買って嬉しい花一匁〜♪」
先輩の両襟を掴む。
「あ、大声は出さないように」
一気に引きずり下ろすと二つの超特大の果実が零れた。
音にするとボヨヨヨーーンって感じだ。
(すげ…)
先輩は悲鳴を上げているが、実にミュートだ。
しかしコレ、うーん……
(同じものとは思えない……)
沙織を振り返ったら、睨まれた。
「先輩、キスの経験ありますか?」
首を振る先輩。
「じゃあ素敵な相手を紹介しますよ」

先輩の巨乳にすっかり興奮したマイサン。
「どっかの誰かさん曰く見た目はキモいですが、我慢してくださいねー」
柔らかい唇が亀頭に触れる。
資格を奪われた先輩は何が触れているか分からないまま、グリグリと押しつけられる物体に眉を顰めた。
「そんなに嫌わないでください。ただの男性器ですから」
声にならない悲鳴を上げる先輩。
「ディープとは積極的ですね」
「むー! むー!」
「噛んではダメですよ。うん、先輩の口の中暖かいですよ。貴族口マンコ最高です」
先輩の小さな顔を両手で挟むように掴むと、そのまま上下に動かした。
「んご…ふっ……ふぁ………ばっ……うっ…ぐっ……んぽっ……」
先輩の口は小さく、根本まで陰茎を飲み込ませると亀頭は喉奥を付く。
その圧覚が非常に心地好い。
「おっと、ホントにやばそうだ」
「ゲホッ……ケホ……」
俺が肉棒を引き抜くと苦しそうに呼吸を確保し始めた先輩。
「品質を確かめるのもお勤めですからね」
揺れる身体に一拍子遅れて揺れる二つの乳房を掴み上げる。
「おお、沈む! 沈む!」
上質の羽毛布団など目じゃない。これ明日から俺の枕にしたい!
「もしかして自分で自分の乳首銜えられたりできます?」
「し、しりません……」
「じゃあ試してみよう」
「か、身体が……」
「勝手に動いてるんじゃなく、俺の思うままに動くんですよ? そこ間違えないように」
ポンと手を叩く。
「じゃあまず口から馴らしていきましょうか。一回千円! なんて高級な口マンコ!」
と肩を掴まれ後ろに引っ張られる。
(なんだよ、沙織)
ヒソヒソと喋りかける沙織。
(ま、まさか本当に先輩を……)
(やるわけないだろ。そんなことしたら目立ちすぎる。記憶まで消すにはあの花丸ごと食べなきゃならないんだぞ)
しかも効果時間は短い。不特定多数の人間に数に限りのある生の花を使うのは勿体ないのだ。
(それに……)
(それに?)
(俺は人形を見せびらかすタイプじゃない。愛でるタイプだ)
スッと沙織の頬を撫でる。
(特にお前には屈辱と快楽を与えて最高の二律背反を味会わせてやる。それが俺の楽しみなんだからな)
顎を持ち上げ無理矢理にキスをする。
唾液の橋を振り切ると、さらに囁いた。
(誰が他に分けるものか。お前は一生俺以外の男と結ばれることはない。死が二人を別つまでずっと一緒だ)
ふ……あまりの恐怖にか震えているな。涙まで流して、くっくっく……
と、ふいに拳を握って座り続けている少年君の姿が目に入った。
唇は充血し、血が流れている。
目は俺を睨み続けている。
「悔しいか? そうだよなぁ……腹違いとはいえ、優しいお姉さんだったものなぁ。
 お前のせいだな。お前が父親と会いたいって願ったばかりに、姉に会いに学校にきたばかりに
 俺がお前の姉さんを陵辱することになったんだ。可哀想になぁ、岡崎先輩……」
乳首を銜えたまま額に汗を浮かべる先輩。
そういえば止めろっていってなかった。
巨大な乳房を乳首一つで支えているのだから、その先端は非道く赤みを帯びている。
また無理な体勢を維持しようと乳首を噛む力が強くなっているのだろう。
汗の他に涙も浮かんでいた。
(ま、あれはあれでおもしろいから放っておくか)
視線を少年に戻すと、その髪を乱雑に掴み上げて、問うた。
「姉さんのこと、好きかい?」

返答の代わりに唾が飛んできた。
否、ちゃんと「そうだ」と頷いた。
なるほど、そういう返答なら口は本人の自由になるわけか。
ちゃんと「言え」って命令すれば唾を受けなくて済んだ……と。
「ふん……」
唾を拭うと、改めて少年君に命令を囁いた。
「大事なお姉さんの処女、凜君に奪わせてあげよう」
「!」
「スタンダァップ……」
少年君と立ちあがらせると、今度は逆に先輩の後ろに回る。
「もうおっぱいはいいですよ、先輩」
背中から手を回して股を割らせる。
ショーツ穿いてない……そういや着物ってそうだっけ。
「っていうかツルツルじゃないですか、先輩」
顔を真っ赤にしながら髪を振り乱す先輩。
「こんなに立派なモノ持ってて、子供マンコなんて、可愛いなぁ」
先輩の入口を撫でると、指で引き広げる。
(ま、凜くんのには丁度いいかもな)
あまり濡れてないが、どうせ毛も生えてないガキだろう。
「これからこの子供マンコがお客さんに貫かれますからね、先輩。
 大丈夫、相手も多分初めてですし、そんなに大きくないですよ。
 ホラホラ、ズボン脱いで、パンツ降ろして、チンポだせよ」
少年君は涙を振り飛ばしながら俺に逆らおうとするが、無駄なことだ。
少年君はその未成熟な身体と性器を実の姉の前にさらけ出し……
出し……
「あ、あれ……?」
いや確かに、性器はさらけ出された。
しかし、そこには一つのスジしかなかった。
肉と血管と精で出来た醜悪な棒の姿は一切見受けられなかった。
「つまり……その……女…の子……?」
俺が狼狽から抜け出すのより、少年、いや少女が羞恥から抜け出す方が一瞬早かった。
彼女は俺に目掛けてその小さな身体を弾丸にして向かってくると、俺は受け身も取れずに畳の上に倒れ込んだ。
「姉さん!」
あられもない姿の先輩の腕を取ると、そのまま茶室から連れだそうと走り出す。
(不味い…っ!)
しかし凜の前に鼬のような敏捷さで沙織が立ちはだかった分、俺に口を開く時間ができた。
「凜、そこから動くな!」
「うっ……」
「ふー…二重の意味で驚かせやがって……」
冷や汗を拭うと、さらに命じて茶室の中央に戻るよう二人をし向けた。
「沙織、よくやった」
「沙織さん……貴方は……」
目隠しをされているので、微妙に方向を間違えたまま、先輩は話しかける。
「先輩……私……私は……私は先輩みたいにお金持ちじゃないし、胸も大きくないし、女らしくもない!
 だから……だから私は彩に一生懸命尽くさなきゃいけないの! 例え奴隷であっても……一番で居たいの」
「奴隷? 沙織さん、貴方は片山くんとお付き合いしているのでは?」
「はぁ? んなわけないだろ。沙織は俺の奴隷なんだよ」
「片山くん、沙織さんは貴方のことを……うぐっ!」
沙織が先輩に馬乗りになって押さえつける。
「お、おい……あんまり乱暴なことは……」
「先輩……彩ね、これから凜ちゃんを犯すのよ」
は、はい?
「何回も、何回も、何回も、凜ちゃんの小さな膣の中に精液を出すの。
 彩の精液はとっても濃くてね、きっと凜ちゃん妊娠しちゃうわ……」
思わず凜くんの方を見る。
うわ……すっごい絶望した目で俺を見返してきた……
「ねえどう思う? 先輩はその光景見て哀しい? 辛い? 忘れないでね、その気持ち……
 ……その内、羨ましいって思うようにさせてあげる。私にも精液欲しいって泣いて懇願するようにしてあげる」

そう告げると、沙織は先輩から離れ、俺の肉棒に指を這わせた。
「凜ちゃんが余計なことするから、彩の……萎えちゃったじゃない」
いや、どっちかっていうとお前が……
「でも大丈夫、私がすぐに元気にしてあげるから」
沙織は裏スジをなぞるように中指を這わせると、ふにふにと柔らかに亀頭を刺激する。
「う……」
シルクの手袋の肌触りが堪らない。生の手とは違った擦れる刺激に、思わず声を漏らした。
「私、上手くできてる?」
上目遣いに沙織が尋ねる。その仕草に俺の半身は硬度を取り戻しつつあった。
それを見届けると、沙織はゆっくりと凜ちゃんに近づいていった。
(猫に狩られるハムスターだ……)
沙織は下半身丸出しの凜ちゃんを押し倒すと、その未熟な秘所に吸い付いた。
「じゅ…じゅぁっ……ちゅる……ちゅ……っちゅ…んっ……ふ………」
「…ぅあっ……あっ…ぁ……な、何?……んぁあ……何コレぇ……」
「潤滑油…ちゅっ…足りない分は……んちゅっ……私の唾液も含めて……ふふ……私の唾と彩のちんちんが
 ……んんっ……凜ちゃんのココで交わるのね……んはっ……んんっ……ぅふ……っ……嬉しい?」
「そんなの…んぁぁっ…嬉しいわけ……はぁんっ……ないようぉ……きゃんっ!」
うぉい、そんなクリトリスねじり上げたら絶対痛いって! まだ初めての子供なんだぞ!!
凜ちゃんちょっと痙攣しているじゃないか! ヤバイんじゃないか、それ。
「ひぎぃい……あっ…あっ……あ゛ぁぁ゛あぁぁぁ……」
悲鳴と、その後の気の抜けた声と一緒に畳の上に染みが出来ていった。
「お漏らししちゃったの、凜ちゃん」
「ふぁあぁ……」
「でもダメじゃない。これじゃあ彩のを入れられないよ。解れてはきたけど……
 でも彩のおちんちんに凜ちゃんの汚いおしっこを混ぜるなんて許せないじゃない?」
沙織は先輩を引き摺り、凜くんのまだ生暖かい秘所に顔を押しつけさせる。
「先輩はお姉さんなんだから、綺麗にしてあげないと!」
押しつけられ、諦めたように凜ちゃんの秘所に舌を這わせ始める先輩。
「ふぁあ…お、お姉ちゃん……あぁっ…んぁあ…ひゃん……はぁあ……んぁんっ……」
「……ちゅ……じゅる……凜……んんっ……はあぁ……ちゅっ……ちゅっ……」
「あれ? 凜ちゃん感じちゃってるの? お姉ちゃんにアソコ舐められて、感じちゃってるんだ!」
俺は今、絡み合う姉妹に対して興奮と、それをさせている沙織に恐怖を抱いていた。
――なんという二律背反
どうしてこうなった! どうしてこうなった!
「ってそんな場合じゃない!」
取り戻せ男の尊厳!
立ちあがれ勇者(とかいてマイサムと読む)
「ええい、奴との戯れ言はやめろ! 沙織、先輩……いや、叶鳴!」
二人を凜くんから離れさせると、彼女に向かい命令を放った。
「お姉さんのファーストキスは俺のチンポだったけど……凜くんはどれがいい?
 1 お兄さんの大人チンポ
 2 お姉ちゃんの子供マンコ」
「お、お姉ちゃん……」
「はっはっは! 俺も嫌われたなぁ!
 けどねぇ、2を選ぶともれなくお姉さんの処女喪失が付いてくるんだ!
 だってそうだろ? 凜くんが相手してくれないんだからお姉さんで我慢するしかないよねぇ!」
悲痛な顔を浮かべる凜くん。
「でも、凜くんがキスしてくれたらさ、それはOKって事だろ? 凜くんの事、襲っちゃってもいいんだよね?」
「…………」
反論しようとして言葉も出てこないようだ。
「どうする? お姉さんの事守って自分が女になるか、お姉さんを傷物にして自分を守るか
 どちらか君は選択するんだ。純粋な気持ちをね、君の本心を言うんだ!」
「凜、私のことはいいのよ」
叫びにならない音量で叶鳴が言う。
「叶鳴は黙っていてくれないか。凜くん、ああいう綺麗事じゃなく、本心だよ、本心。さあ、どっちだ?」

「……する」
「ん?」
「片山さんの、お…おちんちんに……キス……する……」
「……あ、そう」
ホントに大事なたった一人の姉って訳か。
「うーん…性悪説って嘘なのかな?」
「性悪説は別に人間の性質が悪っていう説じゃないわよ。悪に染まりやすい性質って説だし」
沙織がツッコミを入れる。く……さすがにお勉強は俺よりできるな。
というかそれは何か? 俺は完全に悪に染まってるってことか?
ふー、やれやれ……どこで道を踏み外したのやら。
……沙織に突き飛ばされて花食ってしまってからか。
「お前のせいか!!」
「いきなり何よ!?」
「………」
ああもう、凜くん呆然としてるじゃんか。折角シリアスにやってたのに!
「ふん……凜くん、君は今悲劇のヒーロー、いやヒロインを演じて浸ってるかも知れないが
 俺にとっては何のことはない、喜劇の一シーンに過ぎないと言うことだよ、これはね!」
どうだ、このこじつけ!
そしてグイッと男性器を凜くんの前に突き出す。
「………」
凜くんは恐る恐る、その割れた先に唇をつけた。
真一文字に固く閉ざしているのは、先程姉が無理矢理喉まで突っ込まれた姿を見ていたからか。
「ふ……」
俺は腰を引き、凜くんの唇から性器を離してやる。
これは契約のようなものだ。だから無理強いする必要はない。
「まあ、まず上も脱げ。下半身だけ出していても面白くない」
言われるがままに凜くんは上着を脱ぎ、成長前の身体をさらけだした。
「うーん……脱いでも面白くない」
当たり前だが起伏が少ない身体だ。
それを指摘すると、凜くんは涙ぐんだ。
「あー……いや、これはこれで味があるかも知れないぞ」
膨らみかけの胸を揉む……いや撫でる。
「あっ…んっ…」
やっぱり女だ。っていうか、感じやすい?
凜くんのサクランボのような先端を舌で啄むように転がす。
「ふぁっ……ひんっ……あっ…ぁっ……ん……」
「うん、悪くない」
ハッ!? 殺気!!
「彩って小さい方が好みなの……?」
「待て待て、毎日ホワイトシチューだと幾らシチュー好きでも飽きるだろ。
 コーンポタージュやビーフシチューが食べたくなる時だってあるもんだ。
 貧乳、並乳、巨乳、全部揃えて何が悪い!」
「……私、平均よりはあるわよ?」
面倒臭ぇ……
「沙織のおっぱいが一番だよ!」
「ホント!?」
よし、機嫌は直ったみたいだ。まったくコイツの負けず嫌いときたら……
……おかしい。
どこの世界に奴隷の機嫌をとるご主人様がいるってんだ!
「ったく……」
苛立ちのままに凜くんの幼い性器へと狙いを付ける。
「ひっ…」
「そう固くなるな」
下乳から腰にかけてのラインをスッと撫でる。
くすぐったいのかむず痒いのか、凜君は身体を震わせた。
その瞬間を見逃さずに、腰を進める。
「ふぇえっ!?」
臀部に感じる異物感に凜くんが甲高い声を上げる。
「よっと……」
1/4ぐらいは入ったか。

凜くんの脇に手を入れて持ち上げたまま、畳に俺は寝ころぶ。
「わっ…わっ……」
突然の事に戸惑う凜くんを尻目に、沙織に向かって解説する。
「この姿勢が騎乗位な。男が下で女が上」
と、凜くんを支える手を離す。
「ふあぁあっっ!?」
慌てて両足で踏ん張る凜くん。
「ひぐっ…ぅ…」
んーあと2/4……
「ゃっ…んあぁっ……ふぅ…ん……」
腰を揺すって2/4で掻き混ぜる。
「これ以上入れたくないか? なら頑張ってみろ。ただし、爪先立ちでな。もちろん、手は使うなよ」
「うぇ?……ふひゃっ……ぁう……む、無理だよぉ……ひゃぁんっ…!」
俺に跨る格好になっている凜くんは、その姿勢を小さな足先一つで支える事になる。
「はっ…はっ…ふひぃ……あぁ……うぅ……」
ふわりとしたショートカットの毛先に汗が溜まっていく。
「髪……伸ばすか。それなら男と間違いはしないだろう」
「ふぁっ…ひゃんっ……」
湿った髪を掻き上げながら、耳たぶを親指の腹で撫でた。
擽ったそうに身を悶えさせると、バランスが崩れる。凜は堪えた。
「……ふぅ……ん……ぁ……」
輪郭にそって頬を撫で、丸みを帯びた鎖骨をなぞる。
「ふ…ふぁ…ッ……ん……ぁ……ぁう………」
陰茎を銜えたままの肉体は小刻みに揺れ、俺を楽しませる。
八の時に形作った眉が一層深くなり、限界の色合いを強くした。
「はっ…はっ……はぁっ……ふ……ぁっ…は……」
パチンと乳首を指で弾くと、汗の滴が飛んだ。
「ひゃあぁぁっ!」
同時にズルリと足をもつれさせた凜くんは、俺の身体に倒れ込んでくる。
そして俺の肉棒は凜くんを貫いた。
「うくぁぁぁぁ……むぐっ!?」
破瓜の痛みに呻吟する凜くんの頭を無理矢理押さえ、胸板に押しつける。
「ん゛ーー! ぐん゛ーーーッ! んあ゛ーーーーー!!」
ジタバタと四肢を動かす凜くん。俺の上から転げ落ちぬよう、組み抱く。
「動くな」の四文字でそれを制することも出来たが、それでは観客を楽しませることはできない。
叶鳴の姿を見る。
顔を沙織に押さえつけられ、視界を閉ざすハンカチを濡らしている。
くぐもった妹の悲鳴と、畳を叩く音が目を奪われて尚も悲壮さを想像させるのだろう。
(あれなら俺が叶鳴に命令する必要もないか……痛!)
凜くんの爪が背中を引っ掻いた様だ。
「ええい! もういい加減痛いのも終わったろうが!」
キツイ凜くんの処女マンコはむしろ俺に耐える精神力を要求する。
「まだジンジンする……ぐすっ……」
「………」
俺の胸に顔を埋めて涙声で答える凜くん。宥めるように俺は彼女の小さな背中を撫でてやった。
「顔上げろ。な?」
「うん……」
うぉ!?汚ねぇ!鼻水が俺の胸にぃ!!
「ひっく…ひっく……」
「ああもう……ほら、チーン」
ポケットからティッシュを出して、鼻をかませる。
「ふぇ……」
「まったく……ん! いいこと思いついた。お前これから俺のコトお兄ちゃんと呼べ」
「お、お兄ちゃん……?」
涙目になりながら、舌っ足らずな声で俺を呼ぶ凜くん。
(い、イイ……!!)
俺は天才じゃないだろうか!
(ハッ!? 冷たい視線を感じる! それも一人じゃない!)
どう考えても沙織と叶鳴です。本当にありがとうございました。

だが、俺はスルーして凜くん……いや、凜に命令する。
「よし凜、まずはゆっくり前後に動いてみようか」
「は、はい……お兄ちゃん……」
「手は俺の身体に置いて良いぞ。そっちのほうが楽だろ」
言葉に誘われ、紅葉のような小さな手を俺の胸に置き、身体の支えにする凜。
「お、重たくない……?」
「はっはっは! 凜の小さな身体ぐらいお兄ちゃんには全然重たくないぞ!」
「……楽しそうね、彩」
アーアーキコエナイ
「ん……んっ…はぇ……ふぁぁ……ぁふ……ん…っ……」
小柄な肌身が俺の上を滑る。
その度に結合部から水音が増えていくようであった。
「どうだ、凜」
「お、お兄ちゃん…んぁっ……なんだか……身体が熱くて……ふぁんっ…ボーッとしてきたよぉ……」
「よし、今度は円の動きで動いてみるんだ」
「うん……」
請われるがまま、凜は俺の股間の上で踊った。
「ふあぁ…ぇ……んっ…ふぁ……ぁは……はぁ……はひっ……」
「気持ちいいか?」
「うん……ぁあっ……気持ちいい……ふぁぁ……気持ちいいよぉ……お兄ちゃぁん……ぁあっ……」
「よぉし、イイ子だ、凜」
健気に腰を振るこの可愛い妹の髪を撫でる。
「お兄ちゃんは?……お兄ちゃんは……ぁぁん……気持ちいい……?」
俺に犯されるまでの強張りが嘘のように凜は狎れてくる。
おそらく、元々依存心が強い性格であることに加え、肉親への渇望が大きかったのだろう。
それで俺を兄と呼ばせることで、だんだんその気になっていってしまった。
叶鳴の父親ではないが、形から入るというのは人の精神に影響を与えるということか。
「そうだなぁ、今度は上下に腰を動かしてくれるともっと気持ちいいかもな」
「わかった…ふあぁっ…ボク……んん……頑張るよぉ……はぁんっ!」
グッと腕に力を入れて、凜は身体を浮かせる。
そして腕の力を抜いて重力のまま、俺に身体を打ち付ける。
「ひゃぁんっ!」
肌と肌がぶつかる音よりも高く、矯正が茶室に響いた。
「しゅごぃ……お兄ちゃんのがぁ……ズンってぇ……ふぁぁ……」
「ああ、お兄ちゃんも気持ちよかったよ。凜のキツキツの膣がグッとおちんちんを飲み込んだからね」
「ふぁぁぁ!?」
凜の一番奥をこじ開けるように腰を揺する。
「さあ、俺の可愛い凜。もっとお兄ちゃんを気持ちよくしておくれ」
「うん……そしたらお兄ちゃん、ボクのこと好きになってくれる?」
「もちろんだ」
「お姉ちゃんのことイジめない?」
「ああ、虐めないよ」
……俺はね。
「お兄ちゃん……んぁあっ……お兄ちゃん!……はあっ……」
涙で真っ赤になった目で、凜は喜びながら俺の上で弾んだ。
「んんぁあっ……大好き……お兄ちゃん……はぁあっ……んっ……んぁ…」
腰を支えてやると、俺の肉棒が凜の腹を併呑しているのが感じられる。
「…ぁん…お兄ちゃんの…はぁ………ぁ……手温かいよぉ……んぁあっ……」
「凜の中も熱いよ。凄く熱くて窮屈で、絡み付いてくる」
「…んぁっ…ふっ……んっ……お兄ちゃんが……ぁあ……お兄ちゃんのがボクの一番奥に来る度に…
 ……ふぁあ……身体全部が熱い鉄の棒で……はあぁ……焼かれたみたいになるのぉ……あああっ……」
「気持ちいいんだね?」
「わかんない……はあぁっ……もうかわんないよぉ……あっ…あっ……おにいちゃぁん………」
自身の体を支えている凜の手が、汗で滑る。
「おっと!」
倒れかかってきた凜を抱きしめてやると、凜の膣はさらにギュッと締まった。
「はあぁぁっ……おひぃちゃん……ひぅ……」
「仕方ない娘だ」
胸板に頬ずりして、俺の匂いを吸う凜を咎め、自ら彼女を突き上げる。
「ひゃうっ!…はぁっ…ひひぁぁ……ぁっ…んぁっ……あっ…あ……」

小柄な彼女の身体は折れが一突きする度に、僅かに宙に舞う。
「はひっ…ふぁ……へぇっ……ほぁあ……」
混じり合った愛液ははね跳び、畳に染みを作っていく。
「あぁ…ご、ごめん……かぁっ…ひっ…なさい……んぁぁぁっ……ぁあっ……」
俺に働かせた事を謝る凜だが、俺は俺でもうそんなことはどうでもよく、
この凜の身体に俺の印を注ぎ刻みたかった。
「あひぃっ……はぁあん……ふっ……あっ……くぁっ………はぁあぁぁ………」
「凜。凜は約束できるね?」
「んぁあぁ……はあっ……ひゃい?……約しょくぅ……ああぁ……しゅる……しましゅ……ぅあぁっ…」
「凜はこれからずっと俺の妹奴隷だよ?」
「はっ…はひ……ふぁあ……い、妹……ひぐっ…奴隷……?……ふあぁああっ……」
「俺はずっと凜のお兄ちゃん御主人様になるんだ」
「んぁぁっ……ずっと…ふあぁ…あんっ…お兄ちゃん……あんん……はあぁぁ……」
「俺の好きな時に望むままに、こうして俺に可愛がられるんだ。いいね?」
「はぁぁ……なる……なりゅぅ……んぁぁっ……ボク……なりましゅぅ……あ、はぁっ……妹奴隷になりましゅぅ……」
「そうか。ならもっと激しくしてあげるよ」
「はあぁあっ……だめ……ぇ……これ以上されたら…ああふぅ……おかしくなりゅ……ぅんっ……」
「どんな風におかしくなるんだい?」
「んぁあっ……頭のなきゃ……ぁぁ……気持ちよすぎてぇ…はぁあ……まっちろに……はぁ……なっちゃぅ……」
「それはイクっていうんだ。さあ、言ってごらん?」
「イク…はぁあっ……イクぅ……凜……ぁぁ……イきます……」
その宣言と呼応するように、凜の肉襞がグッと締まった。
「く……たっぷり飲め……凜っ!」
「イク!…イクッ!……んぁぁっ……イぐうぅぅぅぅぅぅぅーーー!!!」
ビクンっと凜の身体が跳ねると同時に、俺は凜の一番奥で精を吐き出した。
「はぁぁあぁぁぁぁ………」
肉棒が突き刺さったままの小さな膣から入りきらなかった白濁が隙間からあふれ出てくる。
「……ふぁぁ……何かお兄ちゃんのから出てる………」
「精子だよ。お兄ちゃんが気持ちよかった証だ」
「お兄ちゃん……」
凜はさらに強く俺を抱きしめて余韻に浸っている。
「お兄ちゃんの音が聞こえてくるよ……」
耳を胸板に押しつけ、うっとりと凜が語る。
「凜、疲れたかい?」
コクリと首を動かした凜を、抱いたまま横に転げる。
「じゃあ、今度はお兄ちゃんが上になってあげよう」
「え……?」
「約束を忘れたのかい、凜。お兄ちゃんが望んだ時は、凜がどんなときだろうと関係なく可愛がってあげるんだよ」
「まって、お兄ちゃん、まだボク……あんっ!!」
「はじめに沙織が言ったからね。何度も何度も凜を犯すって。怨むなよ……」
「ふぁあひゃんっ…!」




白濁に埋もれた凜が虚ろな目で倒れている。
「……ぁ……ぅ……ん……」
何度か気絶したが、構わず彼女の幼い身体を打ち抜き続けた。
「ふー出した、出した」
結果がコレである。
「ん……ちゅ……れろ……」
チンポの掃除を沙織にさせながら、俺は涙を流している叶鳴に告げた。
「凜がその歳でお母さんにならないように、何をするべきだと思う?」
「……!」
「俺の精子、舐めとってあげるんだ。この沙織のように、舌でね」
「じゅぽっ!…ぬぽっ…!…ぬぷっ…じゅるるるる……」
叶鳴にも聞こえるように、沙織は一際大きな音で俺に吸い付く。
「………」
目隠しをされたまま、這って動く叶鳴。
「そっちじゃない。沙織、案内しろ」
「ん……わかった……」
名残惜しそうに俺のチンポを見ると、沙織は叶鳴を引っ張り、白濁に濡れる凜に重ねた。
「凜との約束もあるし、今日は叶鳴にはもう手を出さないよ」
醜悪な臭いに顔を顰めながらも、恐る恐る叶鳴は凜が纏った精液を口に含んでいく。
「う…ぅぐ……」
が、嚥下するのは難しそうだ。
「沙織、手伝ってやれ」
「どうやって?」
「俺がお前に唾飲ませてやる要領だ」
合点がいったようだが、少し躊躇いが見えた。
「なんだ?」
「だって……彩以外とキス……しなきゃ……駄目なの?」
「俺に自分の精子を口に含めってのか」
「彩の精子は美味しいよ?」
「例え美味しかろうと絶対に嫌だ!」
女同士だしノーカンよね……などと呟きながら沙織は凜に付着した精液を啜り、
口をリスの様に膨らませて叶鳴に口づけをした。
「んふ?! …んんん…ッ!!」
その量は多くないか?
「じゅぷ……ん……ふぅ……んん……」
「おぷ……んぁあ……っん……」
二人の唇の間を泡立った精液が零れていく。
(ま……いっか……)
女同士が睦み合う姿に、燃え尽きたぜ……真っ白になぁ……と思っていた肉棒も元気を取り戻し始めた。
折角のドレス姿の沙織だ。味見するのも悪くないだろう。
その前に茶室は退散したほうがいいかも知れないが。
「岡崎先輩、言っておきますが今日のことは内密にお願いしますよ。
 といっても一番被害を受けたのは凜ですけどね」
「ん゛ー……んぷ……んんー」
「バラしたら……凜が可哀想でしょ?」
凜との約束もあるし、叶鳴はゆっくりと嬲っていこう。
沙織には厳しく虐めさせて、俺は優しく、しかし処女のまま淫乱に陥れていくのだ。
そして俺を求める姉の姿に、凜は約束の撤回を懇願するのだ。
「くっくっく……はっはっはっはははははは!!!」
これからの愉しみに、思わず身体が震えた。


<幕>


―another―

※性的な意味での主役は片山ですが視点は別です。つまりNTR


制服じゃなくて体操着で登校する。
ただそれだけの事なのに、どうしてこんなにも世界が変わって見えるんだろう。
俺は逸る気持ちを抑えきれずに、いつもより大きな歩幅でアスファルトを踏んでいた。
「あ! リーーーーン!」
幼馴染みの後ろ姿を見つけて、俺は思わず駆け寄った。
「タカちゃん? おはよう」
「……お、おう、おはよ、凜」
さいきん凜は髪を伸ばし始めた。
仕草や体付きもなんだか女っぽくなって、密かにクラスの男たちの中で人気が出てきている。
けど、俺はそんな奴らなんかよりずっと前から凜の事……
「この辺りでタカちゃんに追いつかれるって、不味いかも……」
「バーロ、俺は今日は珍しく早起きだったんだぞ! だいたい、凜はいっつも歩くの遅いんだ」
幼馴染みだけあって家はお互い近いのだが、俺はギリギリまで寝ている。
だから途中で先に歩いている凜に追いついて、一緒に登校するのが常だった。
「ぬおおおおーーーーーーーーーーー」
訂正、俺がギリギリならコイツの立場が無い。
「おはよう、慎ちゃん」
「慎矢ァ、運動会の今日ぐらい早起きしよーぜ」
「チッチッチッ……崇哉君、わかってないなぁ。運動会だからこそ体力回復させとかなきゃいけないのだよ!」
それで遅刻しそうになって走ってたら世話無いぜ。
呆れる俺の肩を慎矢は無理矢理掴んで凜に聞こえないように耳打ちしてきた。
「わかってるな、約束。恨みっこ無しだぞ」
「当たり前だ!」
俺と慎矢はお互いの拳を合わせた。
「何の話?」
「ダメダメ、凜には教えられない!」
「いくら俺達三人が幼馴染みでも、これは男と男の約束だからな!」

ずっとこのままの三人で居られたら……それは幸せなんだろうか。

それでも……俺は凜が好きで慎矢も凜が好きなんだ。
この気持ちを抑え続けることは出来ない。
でも言ってしまったら今の関係が壊れるような気がして……
お互い、凜の事が好きだって知った俺達は勇気を出して一歩踏みだそうとした。
でも、どっちが先に告白する?
その権利をかけて俺達は約束をしたんだ。
運動会で勝った方が先に告白する。
そしてどっちが勝っても、凜がどっちを好きでも、俺達の関係は変わらない。今まで通り、一番の友達だ。
それが約束。
相葉崇哉(アイバ タカヤ)と亘理慎矢(ワタリ シンヤ)の男の約束だ。


「そういや、やっぱお袋さん来られないのか?」
教室で荷物を降ろして、鉢巻を締め直しながら俺は凜に尋ねた。
「うん、仕事があるから……」
「じゃあお昼は俺ン家族と一緒に食べようぜ」
凜の家は母子家庭だから、俺の母さんがよく面倒を見ていた。
運動会とかの時に俺の家族の中に凜がいるのは自然な光景だった。
「ううん、お兄ちゃんが来てくれるんだ」
「お兄ちゃん!?」
向日葵のような笑顔で答えた凜だが、俺は鳩が豆鉄砲くらった気分。
「だ、誰だよ、お兄ちゃんって」
「お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ?」
キョトンとした顔で首を傾げる凜。
くぅ……可愛いなぁ!守ってあげたいなぁ!!
って、そうじゃない!!
お兄ちゃん……半分だけ血の繋がったお姉さんがいるのは聞いていたけど……

「おい、崇! 部活対抗リレーの説明あるから集まれって言われてたろーが!!」
「あ!」
慎矢に言われて、俺はその場を後にした。
謎のお兄ちゃんの存在に心掻き乱されつつ……


かくて、その『お兄ちゃん』と楽しそうに話す凜を障害物競走の待機中に拝見することになるのだが……
「似てない」
男女の違いがあること前提にしても、お世辞にも似ているとは言い難い。
凜のお姉さんである叶鳴さんは、目元が少し似ていたんだけど。
「おい、誰だよ、凜と一緒にいる男は?」
並んでいる慎矢が俺に尋ねる。
それは俺が聞きたい。
「俺の次ぐらいにカッコいいぞアイツ」
お前のその自信が羨ましいよ……
もう既にクラスの女子なんかは騒いでいる……というか凜をダシに『お兄ちゃん』と会話しているのもいる。
「つか、あのジャージって舞戸学園のだろ」
父兄参加の競技があるので、ジャージを着て応援している保護者は多い。
件の『お兄ちゃん』もその中の一人のようだ。
「舞戸学園ってお前の姉ちゃんと一緒だろ? 知らないのかよ」
「無茶言うなよ」
慎矢の姉ちゃんが通う学校はかなーり頭のいい私立の学校だ。
「くそ! カッコイイ上に頭もいいのかよ」
「まてまて、あそこは金持ちのボンボンも多いんだぜ。あと推薦」
「それもそうか。お前でも入れるんだもな」
「そりゃどういう意味だ」
慎矢はサッカーで舞戸学園の推薦を勝ち取っている。
(凜はどこの高校受けるんだろ……)
凜の性格を考えるとお姉ちゃんのいる舞戸学園って言い出しそうではある。
学力を考えると、ちょっと頑張る必要があるが、無謀じゃあない。
俺は……普通にやったら絶望的だ。
(俺も舞戸学園の推薦欲しかったな……)
他の学校の推薦の話もあるが、俺は決めかねていた。
「崇……」
「なんだよ」
「俺はお前なら兎も角、あんなのに凜を獲られるのは嫌だからな」
「馬鹿言えよ、あれはお兄ちゃんだって言ってたぞ」
「あれがお兄ちゃんを見る目かよ……」
確かに。
凜が『お兄ちゃん』と話す顔は、ほんのり上気していて、その手はずっと彼の手を握っていた。


「転んだところ、血が出たり、痣になったりしてないかい?」
「うん、大丈夫。お兄ちゃんは?」
「こんなのは擦り傷だよ。でも、凜には擦り傷の一つも付けて欲しくないからね」
「お兄ちゃん……」
「転んだのは俺のせいだからなぁ……悪かったな、一番になれなくて」
ポンっと『お兄ちゃん』は凜の頭を撫でると、昼食へと凜を促した。

午前の保護者生徒の二人三脚で『お兄ちゃん』は盛大にコケたのだった。
ザマァwなんて男子連中は喝采したのであるが、女子に起こったのは失笑ではなく黄色い声だった。
つまり「お兄様が怪我したらどうしよう!?」「お兄様の顔がぁぁぁ」ってことだ。ケッ……

「お弁当、誰が作ったと思う?」
「お兄ちゃん?」
「ブー。正解は叶鳴でした」
「お姉ちゃんが!」
「家の都合でどうしても行けなくなって、残念がってたよ。せめてこれぐらいは……ってさ」
凜の柔らかい(幼馴染みの俺が保証する)ほっぺを『お兄ちゃん』は突っつくと、少し口を尖らせた。
「なんだ、俺より叶鳴の弁当の方が嬉しいみたいだな」
「ち、違うよぉ」
「へぇ……じゃあ叶鳴にそう言っておくかな」
「えっ…えっ……!?」
「冗談だ。それに凜の一番の好物は俺の――だろ?」
からかう『お兄ちゃん』は凜の柳のような腰を抱き寄せて、耳元で何事か囁いた。
すると凜は耳まで真っ赤になって俯いた。

「何なんだよ……アイツ……」
まるで恋人同士みたいなじゃれ合いに、俺は一人地団駄を踏んだ。
「おい、崇」
「慎矢……」
「女子からアイツの名前、聞き出した。片山彩だってさ」
片山? 岡崎でもなければ結城でもない。
「それで思い出したんだけどさ、確か姉貴が前に話してた気がする」
「マジでか。どんな奴だよ」
「どんなって……どもりで滅多に喋らないってよ」
「普通に喋ってるぞ。別人じゃねーのか?」
「でもそれ以外の特徴は似てんだよな」
体力はあるが極度の運動オンチ、親は株のトレーダーで、言うまでも無いがイケメン。
無口だがさりげなく優しいので、実は好きという女生徒は意外と多いらしい。
「でも彼女がいるらしいぜ。それも超美人の」
「って事はやっぱり凜にはあくまでお兄ちゃんってことか?」
「そりゃそうだろ。そんな高校生が中学生相手にしないって」
言い出したのお前だろ……
「あ、もしかして姉ちゃんの彼氏だからお兄ちゃんなのか?」
「や、その彼女もあの男も姉貴と同級生だから違うと思う。凜のお姉さんって姉貴の一コ上だったろ」
ん? でもさっき、凜の姉ちゃんのこと呼び捨てにしていたよーな……
「それはそうと、お前さ、午後の障害物競走の準備の仕事あったろ?」
「あ」
「凜ばっか見てないで、ちゃんとやれよ」
「わかってるよ。でもしょうがないだろ」
「ま、約束だからな。今のところ、俺の方が勝ってるぜ」
自信満々の慎矢に俺は口を結んだ。同じクラスだけど、今日の運動会では最大のライバルだ。
「午後で取り返す!」
「ふ……でも部活対抗借り物リレーだけは完全に味方だな」
そりゃそうだ。まさか区間タイム測る訳にもいなない。
「ん……でも確か各部の他に保護者枠あったよな?」
「ふ! 考えてること分かったぜ」
できればあの『お兄ちゃん』と勝負して完膚無きまでに叩きのめしたい。俺達は笑いあった。
「って、仕事に遅れたら怒られるな」
「芽渡さんと一緒だなんて他の野郎が羨ましがるぜ」
準備は男女で割り当てられている。俺と一緒に準備をするのは学年一の美少女と評判高い芽渡澪(メト レイ)さんだ。
「下心なんてこれっぽっちもないのに」
首を竦めて戯けてみた。だいたい、運営の雑用はクジ引きだったのだから。
「崇、そのミサンガ預かっておこうか」
「なんでさ」
「土塗れだろ。飴探しの小麦粉が土混じりなんて嫌だぜ、俺は」
ま、確かに。それにネットとかに引っ掛かってブチっていく可能性もあるしな。
前のミサンガそれで切れたし……いくら切れると願いが叶うっていっても、その切れ方はなぁ……
「無くすなよ」
「分かってるよ、凜が買ってくれたもんだしな」
色違いの自分のミサンガを俺に見せる慎矢。
(負けないからな、慎矢……)

ネットをグラウンドに広げながら、芽渡さんに愚痴る。
「しかし、凜のお兄ちゃんにすっかり話題持ってかれちゃってるよな、ウチのクラス」
芽渡さんは困ったような顔をして笑い返した。
元々大人しい人だし、こんなものか。悪口を言うタイプでもなければ、お兄ちゃんに対してキャーキャー言うタイプでもない。
「一応、学年でウチのクラス二位なんだけどさー」
「頑張ってるもんね、相葉くん」
「慎矢の奴もな」
「そう…だね……」
俺達二人はかなり貢献していると言えるだろう。クラスの為では一切ないけどさ。
「あれ? 芽渡さん、いつものネックレスは? お祖母ちゃんから貰ったっていう」
芽渡さんのお祖母ちゃんはこの前亡くなったばかりで、そのネックレスを芽渡さんはいつも付けて大事にしていた筈だ。
「あ…その……」
「ああ、そうだよな。大事なもん運動会で無くしたら不味いもんな」
「う、うん……」


部活対抗借り物リレー。
六人でグラウンド三周。バトンの代わりに借り物を受け取り、コース半ばのクジで借り物を交代する。
そして……
「凜の幼馴染みだって? お手柔らかに頼むよ」
俺は運良くこの男と同じ順番になった。
ま、リレーだからスタートは一緒になるか分からないけどな。
「ホントは亘理さんの弟君と並びたかったんだけど、手違いがあってさ。タカヤとシンヤって似てるだろ?」
……なんだ、いきなり?
「幼馴染みだって? 凜は良い子だ。君もそう思うだろ?」
「ああ。少し臆病な所があるけど、素直で、純粋で、一生懸命なんだ」
な、何で俺こんなにベラベラって……
「髪、伸ばしたろ? 似合ってるよな」
「……凄く、女っぽくなった」
サッカー部の後輩(第二走者)がカレーを持って走っている。
「俺の好みに合わせた髪型だ」
ソレを追いかけるのはピンクのカーディガンを持ったバレー部だ。
「凜の好きな色を知っているか?」
「黄色だよ。ずっとアイツは黄色が好きなんだ」
「今は赤だ」
三脚を持った保護者グループ、メガネを持った(っていうか最初からかけてた)将棋部が続く。
「赤いチェックのプリーツスカートと、Yシャツとネクタイ」
「アイツはそんな格好はしない。フワフワした女の子っぽい格好が好きなんだ」
「沙織が凜の事オモチャにして困る。ま、妹みたいに思ってることはいいことだが」
傘をもった部の仲間が俺の背後に迫っている。
「これは知ってるか、幼馴染み君。凜は、耳の裏を撫でられると甘い声でよく啼く。
 息を吹きかけて舐めてやると、もはや腰が砕けて立っていられなくなる」
「なっ…」
「バトン、受け取らないのか?」
「フカシかよ、それ……ッ!」
バトンである傘を受け取らずにいる俺に怒るチームメイトを無視し、この片山という男に詰め寄る。
「敢えて言うならご褒美の話だ」
三つ編みの少女を連れた柔道部が走っていった。
「凜にね、今日一日、どれかで三位以上になったらご褒美をあげる約束なんだ。
 確かに、凜は君の言う通り少し臆病で勝ち気が足りない部分があると思ったからな」
片山は傘を俺の右手に無理矢理握らせた。
「純粋だから俺の言うことを疑わないし、一生懸命になって俺好みになろうとしてくれるよ」
保護者組がようやくやってくる。
「それにあの子は快楽には素直だ」
思わず殴りかかった左手を片山に受け止められる。
「イジメ過ぎたな。謝る。暇つぶしにはなった。反応が予想通りで意外性は無かったが」
コイツ……俺に傘を持たせたのはキレた時に殴りかかってくる手を限定させるためか。
「くそっ!」
遊ばれた事に舌打ちし、俺はかけ出した。
せめてリレーに勝って鼻を明かしてやる。

「痛っ」
プッ……コケてやんの。
よし!クジ引き!!

ういろう

ういろう!? 何故ういろう!?
か、考えても仕方ない! 父兄の中に名古屋とか小田原の人がいるかも知れないし!!
「すいませーん、誰かういろう持ってる人居ませんかーー」
くそっ! これじゃあアイツに先を越されてちまう!
「どれどれ……百葉箱?」
アイツの借り物はヒャクヨウバコか。
……ヒャクヨウバコって何だ?
「ういろうお持ちの方ーー」
アイツはコースから消える。
ふ…アイツもヒャクヨウバコが分からなくて手間取っているに違いない!
「ってオイ!!」
アレは校舎裏にひっそり置かれている謎の白い木の箱!?
(あ、あれがヒャクヨウバコなのか!)
いや、だがあの大きさのモノを抱えて走るのは大変だ。
速やかに俺がういろうを見つければ逆転できる!
「いやー、こういうの俺向きの借り物で助かった」
なんで片手で持ち上げているんだよ! 軽快に走ってるんだよ!!
「お兄ちゃん頑張れー!!」
ういろうーーーーーーーーーーー(涙


しかしアイツは兎も角、次のランナーが百葉箱なんて持って走れる訳もなく
リレー勝負は一位野球部、二位吹奏楽部、三位サッカー部に終わった。
「っていうかコケるなよ、アンカー」
敗因を作った親友を咎める。
「後方にも筆があったりってやつだ」
「弘法にも筆の誤り……だよ?」
慎矢の間違いを訂正する凜。
プ……難しい言葉使うからだ! どんな意味かは知らないが!!
「崇、次の50メートル走でラストだ」
「勝った方が……だな」
「なんのこと?」
凜には答えず、俺達は待機場所に向かって走る。


昔……
三人でかくれんぼをしていて、凜が見つからなくて、
凜を捜していたら、凜は古い井戸の中から出られなくなっていて
俺は飛び込んで、でも凜を抱えて井戸から抜け出せなくて
でも凜が不安になるといけないから、ずっと喋り続けていた。
きっと慎矢が助けに来てくれると俺は信じていたから。
慎矢はどこかからホースを持ってくると、それで井戸を水で一杯にした。
凜は泳げなかったけど、俺を信じてくれて暴れず、ずっと俺に掴まっていた。
水のお陰で浮かんだ俺達は無事、井戸の外に出ることができた。
ズブ濡れになって母さんに怒られたし、その後風邪ひいちゃったけど。


50メートル走で慎矢に勝った俺は、凜を屋上に呼び出していた。
夕日が差す階段を駆ける。
片付けの仕事があって、少し遅くなった。
もうアイツは待っているだろうか?

凜、俺はお前の事が好きだ。
俺一人じゃ、少し頼りないかも知れないけど
でも、お前を怖がらせるものから全部守ってみせる。
お前がずっと笑顔でいられるようにしてやる。
今までも、これからも……

屋上の扉が開いている。
入ってくる風が少し冷たかった。

「凜、あのさ……ッ!」

「ん…ちゅ…ちゅっ…はぁあ……ふぅ……」

……え?

「凜はキスが上手になったね」
「ふぁぁ……」
凜は『お兄ちゃん』に頭を撫でられると子猫のように首を竦めて男の胸の中に収まった。
自分の匂いを付けるかのように、男にスリスリと身体を密着させる。
「いいのかい、俺がここにいて? 幼馴染み君とここで逢う約束なんだろ?」
「ふぇ? タカちゃんは別に私一人で待っててって言ってないよ?」
「ははは……凜はまだ子供だなぁ」
あの男は体操着を捲り、凜の折れそうな腰を風に晒すとゆっくりと撫でた。
「別に、一人でも大丈夫だよぉ。寂しくなんかないもん」
「そういう事じゃないさ。けど、ならどうして俺と一緒に居たがったんだい?」
「だって……ご褒美が早く欲しいから……」
凜は自分からあの男の首に手を回すと、整った唇に吸い付いた。
「んちゅ…ちゅっ…む……じゅる……ちゅっ…はむっ…じゅるる……」
それは触れるだけの優しいキスではなく、貪るように相手の唾液を吸う大人のキス。
「ふぁっ……」
凜が唇を離すと、二人の間には夕陽に燦めく水の橋が出来ていた。
凜は確かにあの男を求めていた。
「我慢できないよ、お兄ちゃん……」
男の足に太股を絡ませると、誘うように腰を擦りつけた。
「ね、お兄ちゃん……」
子供っぽいいつもの凜はそこには居なかった。
まるで情婦のように男を誘う女がそこに居た。
「そうは言ったって、人に見られたらマズいだろ?」
あの男が入口を向いたので、俺は咄嗟に壁に隠れた。
「………」
バレただろうか。あの男の鋭い視線を感じる。
「お兄ちゃぁ…ん……」
甘ったるい凜の声が風に乗って聞こえてくる。
あれは誰だ?
本当に俺の知っている凜なのか?
「タカちゃんだったらバレたっていいよ」
「信頼しているんだな」
「うん、お姉ちゃんの事もタカちゃんとシンちゃんにだけは教えているの」
「好きなのかい?」
「うん、二人とも大好き」
「そうじゃなくて、男として、さ」
あの男は凜のハーフパンツの中に手を滑り込ませた。
「ここに、彼らの精液を欲しいかって聞いてるんだよ」
「ふぇ? そんなの…ふぁっ…ヤダよぉ……んんっ…」
「じゃあ、この可愛い唇にキスをされたいとかは?」
「あっ…はぁん…どうして? 友達と…ふぅ……キスするのは…んぁ…変……はぁ…だよ?」
「ふふ……そうだね、凜。お兄ちゃん、少し変なことを訊いたな」
あの男は凜から手を引き抜くと、濡れたその指を凜の前に突き出した。
「ん……ふ……ちゅる…ちゅ……っん…ぁ…ぷ……」
凜は躊躇わずにそれを咥えると、自分が発した液体を丹念に舐めとっていった。

「はぁぁ……お兄ちゃん、もうボク我慢できない……」
冷たいアスファルトの床に膝を付くと、凜は男の腰にしがみついた。
「お兄ちゃん、赤ちゃんの素をボクに頂戴。ご褒美、頂戴」
頭を動かし、口だけで器用に男のモノを外気に解放させる凜。
「お兄ちゃんのおちんちん……」
男のモノに顔を擦りつけると、まるで犬の様に鼻をひくつかせ、凜はその匂いに酔った。
「凜はお兄ちゃんのザーメンが大好物だもんな」
「うん好き……大好き……」
愛おしそうに男のモノに凜は頬を擦りつける。
「ふぅん……でも、お口じゃ赤ちゃんできないぞ? 凜は俺の妹妊婦になるんだろ?」
「うん、なるのぉ……ボク妊娠するのぉ……お兄ちゃんの子供ぉ……子宮にいっぱい赤ちゃんの素注がれてお腹おっきくなるのぉ」
「じゃあ、下の口に入れるか?」
「ヤダぁ、ボクおちんちん食べたいよぉ……」
「困ったなぁ……」
「両方、両方して? 凜の上と下のお口にお兄ちゃんのおちんちん沢山じゅぽじゅぽしてぇ……」
「でも凜は一回しか入賞できなかったからね。ご褒美にしてはあげすぎじゃないかな?」
「お兄ちゃんの意地悪……」
その醜悪な会話の内容と姿でなければ、それは本当にお兄ちゃんに甘える妹のようだ。
いや、そんなことがあるものか。
もし凜に家族が居るとしたら、甘えさせてやれるとしたら、俺以外に存在するはずがない。
「少し浅ましいぞ、凜」
「ふぇ……お兄ちゃん、ボクの事嫌いになった?」
「まさか。でも、他の人が見たらどうかな? 凜は見られても構わないと言ったけど、
 崇哉くんや慎矢くんが見たらガッカリするんじゃないかなぁ……?」
――ッ
急に名前を出されて、思わず身体が強ばった。
為か、俺は思わず掃除用具入れを叩いてしまった。
「!」
明らかに気付かれた気配がする。
「誰か……いるの? タカちゃん?」
怯えたようにが声を上げる。
「風じゃないか?」
「でも……」
「気にするな。しゃぶれ。上手にフェラできたらオマンコもしてやる」
あの男に頭を押さえて無理矢理モノを咥えさせられると、凜は素直に従った。
「じゅぷ…じゅっ……ちゅ…んほ……じゃるるぅ……んっ…ん……」
「彼は俺の姿は見えない、でも凜の事は見逃さないよ。そんな彼が居たらちゃんと出てくるさ」
足が震えながら動く。
まるで自分の意志じゃないかのように、足が動き出す。
「でも、凜のこんな姿を見たら振り返らずに走り去ってしまうかもね。はははは……」
その通りだ。
あの男の言うとおり、俺はその場を逃げ出してしまった。
二人に気付かれたかも知れないが、もうどうでもいい。
だって、どんな顔して二人を見ればいいのか、俺には分からないんだから。



もし……もし、凜と両思いだったら……
俺はいつもより早く起きて、凜と一緒に学校に行こうと思っていた。
今はもう恥ずかしくてできなくなったけど、昔みたいに手を繋いで……
日曜日は二人で遊園地にいこう。
いつもより着飾った凜の姿が俺はちょっと嬉しくて、でも素直に綺麗だねって言えない俺がいて。
後ろに凜を乗せて俺は自転車のペダルを踏んで、俺を掴む凜の腕が風を切る力になる。
そして観覧車の上からこの町を眺めて、そこからみえる場所一つ一つに思い出があるねって笑うんだ。
(そんな……夢をみていた……)
寄りかかった窓は冷たい。
見下ろした校庭はもう運動会の跡はなく、祭りの後の静けさだけが残っていた。

「相葉」
「先生?」
「捜したぞ。お前、ホームルームに出なかったからな」
先生は俺のミサンガを突き出した。
「あ、俺の……」
慎矢に預けっぱなしだったのが、何で?
「芽渡のネックレスの事は知っているな?」
「は、はい」
「盗まれたんだ」
え……?
「それで芽渡のカバンからコレが出てきた」
「ちょっと……待ってください。それじゃ俺が犯人みたいじゃないですか」
「これはいつもお前がつけているものだってみんな言ってたぞ。今朝もつけていたって証言もある。それが今のお前にはない」
「預けてたんです。それは慎矢が証明してくれたでしょ?」
正直、勘弁して欲しい。
絶対に言うわけないけど、こっちは失恋したばかりなんだ。
「亘理はそんなことは一言も言ってない」
「そんな馬鹿な……」
俺は首を振る。ありえない、慎矢に限って……
「だが亘理はお前がそんなことをするはずがないってみんなに言ってたぞ」
「当たり前だ。やってないんだ!」
「ならどうして亘理に預けたなんて嘘を吐いたんだ?」
嘘なんかついていない!
俺は先生と押し問答をしたあげく、先生を振り切きって慎矢を捜し始めた。

「なんで電話に出ないんだ!」
何度もかけ直した携帯を苛立たしげに閉じると、慎矢の家を直接訪ねたが、まだ帰ってきてない。
(あの場所か?)
あの場所とは、言ってしまえば俺達三人の秘密基地みたいなものだ。
工事中のまま放置された空き地にあるプレハブ小屋。
路地裏の塀の割れた部分から空き地に侵入できる。
明かりが点いていた。

「慎矢!」
「よ、崇」
秘密基地の中には持ち込んだ布団やテレビや棚やカーテンがある。
慎矢はポテチを食いながら、胡座をかいてマンガを読んでいた。
「慎矢、俺、お前にミサンガ預けたよな!」
「何のことだ?」
「何のことって……ッ」
もしかして忘れているのか?
「それより、告白はどうだった?」
笑顔の慎矢に俺は言葉を詰まらせた。
「あー…良い結果だったら、一人でここには来ないか」
「あ、ああ……」
「ま、気にすんなよ」
「悪いけど、お前だってフラれたんだぜ」
次は自分の番と思っているだろう慎矢に、現実を突きつける。
「あのお兄ちゃんさ……お前の言うとおりだよ、凜と付き合ってたんだよ」
「冗談いうなよ、あの野郎は別に彼女がいるんだぜ?」
「じゃあ凜は恋人でもない男とキスやそれ以上をしてたってのかよ!!」
行き場のない喪失感を怒りに変えて吐き捨てる。
「……そういうことかよ」
「そうだよ!」
「でも、俺はちゃんと本人に確認したぜ? あの野郎、ハッキリ言ってたよ、凜と恋人なんかじゃないって。
 むしろ大笑いしていたんだぜ。自分と凜が?ってさ。いや、お前の言うこと信じない訳じゃないけどさ」
慎矢はフッと溜息を吐いた。
「ま、つまりそういうことなんだろうな」
「何がだよ……」
「恋人じゃないけど、そういうことする関係。だってさ、凜のお袋さんだって愛人じゃん? やっぱ凜にもそういう血が流れてんじゃねーの」

首を竦めて笑う慎矢を俺はいつの間にか殴り飛ばしていた。
いや、手は痛くない。頭が痛い。
「……いきなり頭突きかよ」
額を抑える慎矢が起きあがる。
「悪い、パンチは止められる気がした」
「俺はお前のダメージ減らそうと言ったんだぜ?」
「俺達が好きになった人を悪く言うな。俺達の大事な幼馴染みを悪く言うな!」
「お前……ホントにいい奴だなぁ」
慎矢は髪を掻き上げると、長息した。
「そっか。凜は俺のコト好きじゃないのか」
「ああ」
「その場合はさ、俺は凜をお前と共有してもいいって思ってるんだぜ?」
「は?」
慎矢は唇の端を曲げると俺の顔を覗き込んできた。
「そんなに入れ込むなよ。世の中に女は一人って訳じゃないんだからさ」
「女は沢山いるかも知れないけど、本当に好きになる人は多くないだろ」
「かもな。でも、操を立てる必要なんてないだろ」
「ハァ?」
「だからさ、失恋したお前に童貞すてさせて慰めてやろうってんだよ」
慎矢は立ちあがると、カーテンを掴んだ。
あのカーテンは凜が付けさせたものだ。着替える時とかの為に。
「じゃーん!」
慎矢が効果音付きでカーテンを引っ張る。
「なっ……」
そこには全裸の芽渡さんが立っていた。
「………」
「おい、何隠してんだよ?」
俯き震えている芽渡さんは、両手で胸とアソコを隠しているが、それを咎められると怖ず怖ずと直立の姿勢を取った。
「な、な……」
俺は慌てて手で目を隠すが、ちょっと隙間から見てたり……
「おいおい、崇、見て減るもんじゃねーぞ」
強引に俺の手を顔から離させると、慎矢は芽渡さんを俺の前に突き出した。
「ほら、崇の相手すんだよ! お前が魅力ねーから半勃ちじゃねーか。もっと頑張れよ」
「は、はい……」
慎矢に促されて芽渡さんは俺のズボンを降ろしにかかる。
「わ、わっ…」
慌ててズボンを押さえて後ろに転ぶ俺。
「あっはっは! 何やってんだよ崇! だせえ!」
「それは俺の台詞だ! お前何やってるんだ!」
「何って、この女でお前を慰めてやろうってんだよ」
芽渡さんを蹴っ飛ばし、俺の身体に重ねる慎矢。
思わず目が合うと、芽渡さんは哀しげに顔を逸らした。
「ど、どういうことだよ。お、お前は芽渡さんと付き合ってたのか!?」
「ハァ? なんでそうなるんだよ」
芽渡さんを俺に押しつけるように彼女の背中を踏む慎矢。
「なんで俺がこの女と付き合うんだよ。こいつは奴隷、俺の性欲処理の道具」
「ど…」
「何の為にお前と勝負したと思ってんだよ。俺が好きなのは凜だったっての」
やれやれと首を竦めて笑う慎矢。
「ま、凜があの片山って野郎の女ってんならもう興味は失せたぜ。そんなの彼女にしても面白くねぇ。
 コイツと同じ様に散々に犯して俺に服従させてやる。あの野郎に実況電話してもいいな。面白そうだ」
「慎矢……お前……」
「一緒にやらないか、崇? 別に難しいことじゃねーよ、呼び出して、叫べなくして、犯すだけだ。
 あとは写真でもビデオでも撮ってさ、また呼び出して犯す。これの繰り返し。猿でもできる。
 抵抗したらブン殴るだけ。ま、相手によりけりだけど、凜も大丈夫だろ。反抗したり誰かに言うタイプじゃない」
「やめてくれよ慎矢……嘘だろ……お前はそんなことする奴じゃない……」
お前は俺の一番の親友だ。
自信家で、ちょっと乱暴な所もあるけど、誰よりも信頼できる親友だ。

「あーあ、お前ってホントにいい奴だよなぁ」
慎矢はポケットから何か輝く物を取り出した。
慎矢が握る鎖からゆらゆら揺れてぶら下がっているそれは、芽渡さんの大事にしていたネックレスだった。
だが、それは歪み潰れている。
「それ…どうして……」
芽渡さんが啜り泣く声が聞こえた。
「明日学校で見つかるんだよ、コレ」
は?
「んでさ、お前のスパイクの形と凹んだ部分がピッタシ合うんだ」
は……?
「みんなのアイドルの芽渡さんは一気に悲劇のヒロイン、そして俺はお前にこう言う
 やっぱりお前が犯人だったのか!信じていたのに!……ってな」
「なんでだよ、慎矢……なんでだよ……」
「追いつめられたお前は、芽渡を犯す。その証拠写真を今から撮るのさ」
デジカメを構えて慎矢は芽渡さんを促す。
「ほら、早くしろよ」
「でも……」
躊躇う芽渡さんはあらぬ方向を見ている。
「ちっ…」
が、慎矢の舌打ちに怯えて俺を見つめた。
「……ゴメン……なさい……」
「わからねぇ……全然、わからねぇよ……」
これは夢だ。
きっと悪い夢なんだ。
俺はそう思おうと目を塞いだ。

「テレビのさぁ、生放送のCMあけとかで出演者が笑ってて、なーんか置いてきぼりにされた気分ってあるよな。
 今、丁度そんな感じなんだ。きちっとネタ晴らししてほしいなぁ」

その男の声は俺や慎矢のものではない。まして芽渡さんのものでもない。
「だ、誰だ!?」
慌てて周囲を見渡す慎矢に俺も倣うが、この部屋には三人しか居ない。
「………」
しかし芽渡さんはずっとさっきから一点を見ていた。
俺と慎矢はそれに気づき、その方向を見るが誰もいやしない。
「あー、その子には命令してなかったもんなぁ」
この声……どっかで聞き覚えが……
「ま、透明人間の気分は味わえたから良しとしようか。命令解除だ。お前達はちゃんと俺の姿が見える」
なっ……
嘘だ! さっきまでそこに居なかった筈のあの男――片山彩が、堂々とそこに座っていた。
「俺の姿は見えないっていう命令だったからな。お前達にした命令は。
 実際に眼球に映ってないのか、脳が見ていることを認識しないのか興味はあるがな」
片山はビールの缶を慎矢の頭に乗っける、というより押しつけた。
「ダメだろ、未成年がお酒飲んじゃ。俺は酒も煙草も吸わないぜ」
同時にネックレスを奪うと、芽渡さんに自分の着ていたコートを被せ、それを返した。
「一番気にくわないのが、ゲスのようなやり方で女の子を調教している事だ」
「るせぇよ! テメェも似たようなもんだろ!」
不意打ちに近い形でハイキックを片山に仕掛ける慎矢。
「当てれない!」
短く叫んだだけで、片山はその蹴りを避けた。
いや、慎矢が外したように見えた。
「暴力はよそうぜ。男にも女にもな」
蹴られた芽渡さんの背中を撫でる片山は続けた。
「特に女の子が怪我をしている姿は、俺は大嫌いなんだよ。女の子は喘がせてナンボだろ?」
睨み続ける慎矢の視線を意に返さず、片山は置いてあったパイプ椅子に座ると、芽渡さんを自分の膝の上に促した。
「なんでも、人間最初から悪い奴はいないらしいよ。昔の偉い先生曰く。
 だから聞かせてもらおう。亘理さんの弟である君が、こんな事をした理由をさ」
「アンタの通っている学校の推薦をとる為だ」
慎矢が忌々しそうに語り出した。
「推薦? だってお前、もう決まってるだろ?」

「サッカーでな。だからサッカーが出来なくなったら取り消される」
「え?」
「病気なんだよ。足の筋肉が衰える。今はまだ大丈夫だけど……いや、そうでもないか。リレーの時にコケたもんな。
 もしバレたら推薦は取り消される。そして崇、お前が俺の代わりに選ばれる……」
ガン!と慎矢は壁を殴った。
粗末な作りのプレハブ小屋はそれだけで地震がきたように揺れる。
「許せるわけねぇだろ……俺の代わりにお前が? 俺はもうサッカーできなくなるのに?
 お前は凜と同じ高校で、俺が居るはずだった場所で、笑っているのかよっ!!」
慎矢は渇いた笑いを響かせる。
「認められるかよ、そんな光景。ぶち壊すだろ、普通よぉ……」
慎矢……
「壊さないさ、普通は」
片山?
「壊したって足が治る訳じゃないんだからな。確かに神様ってのは不公平さ。
 不幸と幸福の天秤が釣り合うことなんて滅多にありゃしない。けど、他人を不幸にしても自分の天秤は動きやしない」
こいつ……
「俺はな、他人を不幸にすることで自分の幸福の天秤が釣り上がるなら別に躊躇しないが、
 自分の幸福の天秤が上がるわけでもないのに、せっせと他人の不幸の天秤を重くするなんて労力の無駄はしないぜ」
……最低だ
「ま、一番いいのはみんなして幸せになることだけどな!」
ひどく気軽に言うと、片山は芽渡さんの身体に手を伸ばした。
「あ……」
「そう固くなるな」
芽渡さんはそう耳元で囁かれると抵抗することなく、片山の手を受けいれた。
「セックスはちゃんと気持ちがいいもんだって、教えてやるよ。ガキ二人は黙って見てな」
俺達は金縛りにあったようにその場から動けなかった。
あまりに予想外の事態だったからだろうか。
「んぁ…はっ……ん…ひゃぅうっ!」
クチャクチャと水音を響かせる片山は、芽渡さんが震えたのを見、再び囁いた。
「ん? ここがいいのか? 答えてごらん」
「……はい……はぁっん!…あっ…ぁっ…ひゃふっ…んっ…んっ……」
言質を取ると、一層強く片山は芽渡さんの秘所を掻き回した。
「やぁっ…はあぁ……やっ…ふぁあっ……ひっんっ…ふっ…あぁっ……」
長い髪を振り乱して悶える芽渡さんの耳を、片山は甘噛みする。
「んぁっ…んふぅ……ぁっ…あっ…ぁ…ひゃ…んぅ……」
さらに空いている手を彼女の腰に回し、自分の身体に密着させて動けなくした。
「どうして逃げる?」
「はぁ…んっ……怖い……んくっ…ぁぁ……」
「怖い? 気持ちよくないのか?」
「気持ち…はぁっ…いい…ぅんぁ……から……怖い……ぁっ…ん…」
「ほぉう…」
面白そうに頷くと、片山はしどしどに濡れぼそった芽渡さんの秘所から手を抜いた。
「ぁ……」
芽渡さんは解放された安堵よりも、愛撫に対する未練のほうが多いようだった。
「俺が怖いのか?」
芽渡さんはふるふると顔を振ると、か細い声で喘ぎながら答えた。
「エッチで気持ちよくなることが怖い……」
「どうして?」
「……亘理くんにされたときは痛いだけで、苦しいだけで、そういうものが気持ちいいなんて怖い」
慎矢にされたことを思い出したか、芽渡さんは顔を青ざめさせた。
「安心していい。気持ちいいのが普通だ。俺は君を傷つけたりはしない」
片山はポケットから何かを取り出すと、口に噛み飲んだ。
「いいかい、芽渡澪。君はもうセックスの時に彼の事を思い出さない。思い出すことはないんだ」
言い聞かすように芽渡さんに繰り返し言うと、片山は彼女の唇を奪った。
そして勃起したモノを取り出すと、彼女の秘所に狙いを定めた。
「澪、男性器は怖くなんかない。むしろコレを入れられると君は幸福を感じるんだ。わかったかい?」
「思い…出さない……おちんちんは……幸福……」
うなされるように芽渡さんは片山の言葉を繰り返す。
「さあ、幸せにしてあげるよ」
「はぁんっ!」

芽渡さんの身体が大きく上下し、黄色い嬌声が天井を付く。
「あっ…あっ…あっ…はぁぁぁ……ああぁぁぁ……」
断続的に声を上げる芽渡さんの頬を涙が伝う。
しかしそれは歓喜の涙だと、彼女の悦予を抱いた顔が教えていた。
「気持ちいいっ…はぁっ…あっ…気持ち……ああぁ…いい……私ぃ…んぁあ……幸せぇぇ!!」
片山の突き上げのみならず自らも腰を振る芽渡さんは、普段の淑やかさなどどこかに置き捨てたように、男を貪っている。
「すごいぃ……うううっ…はぁ……素敵ぃ…あっ…あぁんっ……あひぃっ…」
反面、男はとても冷静だ。
「はぁあっ…いいっ……男の人のぉ……ひっぅ…おちんちん!……あぁ……大好きぃ……」
優しい笑みと、甘い言葉を時々彼女に向けるが、その目は彼女を見ていなかった。
「…っ……ふっ……あ、あ…ぁん…はっ…はぁっ……ん…ひぅ……」
女の匂いを撒き散らしながら、往復運動をする芽渡さんにはもう俺達は映ってないのだろう。
「はぁあっ…ふぁ……なっ……ふぅ…ぁんっ…ぁ、っ、ぁ…ひぁあ……」
いや、あの男の姿さえ眼中にないのではないか。
「う…ん……ぁあっ…はぁ……ぁあぁ……んくっぅ…はあ、はぁ……」
しかし行為に没頭し、淫らに舞い続ける彼女を生み出したのは間違いなく、俺達を冷たく見下ろすこの男だ。
「ふ…」
「ああぁんっ!」
片手で無造作に芽渡さんの乳房を揉み砕きながら、男は鼻で笑った。
ギリ…と慎矢が歯を擦る。
自分と同類と言った慎矢に対し「お前なんかとは格が違うのだ」と様々見せつけているのだ。
「そらっ! お前の一番奥に俺の子種を植え付けてやる!」
一際大きな肉のぶつかり合う音が空間を支配する。
「はぁあぁぁっ!…ふあぁっ!…ひっ……ぁぁあんぁぁっ!!」
「受け入れろ、噛みしめろ、虜になれ、快楽の!」
それまでの優しげな口調から一点して、男は彼女の支配者として命じた。
「ぁあぁぁ゛おぉあ゛あぁぁぁぁ゛ぁぁっっーー!!」
獣のような絶頂の悲鳴を上げた芽渡さんは、身体を弓なりにして虚脱した。
「…ぁ゛……ぁぁ……ぁ゛ぁ………」
ビクビクと震える四肢と、虚ろな瞳はここではないどこかへ彼女の精神を誘ったようだった。
彼女が余韻に浸っている間も、結合部からは白濁が間断なく流れ落ちていた。
「さて…と……」
一旦射精後の気怠さに身を任せていた片山だが、熱に浮かされ続ける芽渡とは異なり、性交など日常であるかのように平然と振る舞う。
「亘理さんの弟だから仲良くしたかったのに、残念だよ……って、下半身丸出しでカッコつけても締まらないな」
ポリポリ頭を掻くと、ティッシュを見つけて後始末をし始めた。
「凜か沙織も呼んでおけばよかった。いつも舐めさせて綺麗にしているからなぁ……」
愚痴を溢しながら、まだ微睡む芽渡さんに付着した精液も拭ってやる片山。
……さっきの魔王みたいな威圧感はドコへ?
「あ、そうそう。君たちね、ここで見たこと聞いたことは他言無用。書くのも禁止」
片山は俺達に命令すると携帯を取り出した。
「おう、俺だ。……いや詐欺じゃないって。ってか名前でるだろーが。……そうだ。俺ん家の鍵渡してたろ?
 ……いや、他の奴には渡してないけど? ……おい、聞いているか? 兎に角、俺の家にいって飯作ってろ。俺とお前ともう一人
 ……誰が増えようとお前の知ったことじゃないだろうが! 俺はお前の何だと思ってるんだ!?
 ……分かればいい。……は? お前料理できないの? そんなんじゃ嫁の貰い手が無いぞ
 ま、どうせお前は俺のモノだから関係ないけどな。んじゃお前はいいや。……は? いや何しに来るんだよ?」
暫く、会話をすると、ドッと疲れたように片山は電話を切った。
「あーそうそう、もう一つな。亘理慎矢よ、お前には罰を与えておく」
「んだと?」
「お前は女の裸を見ると呼吸が出来なくなる」
「はっ! 何トチ狂った事言っ……」
片山は人形のように気の抜けた芽渡さんを抱えて慎矢の前に置く。
「……カッ……ハッ……」
途端、慎矢は喉元を押さえ、額に脂汗を浮かべた。
プレハブが揺れるような大きな音と建てて、床を転げ回り、芽渡さんから離れて床に蹲った慎矢はゼーゼーと荒く酸素を取り込んだ。
「後で力を借りるかもしれないからよろしくな、慎矢君。お姉さんに俺の悪口言うなよ?」
芽渡さんの羽織るコートのボタンを留めて彼女の素肌を隠すと、そのままお姫様のように彼女を抱えた。

「待てよ!」
「あ?」
「凜は……お前の事好きなんだな?」
「見て分からなかったのか?」
……やっぱり気付いていたのか。
「じゃあ、アンタはどうなんだ」
芽渡さんとは違って、凜を見るコイツにはちゃんと愛情があったように思う。……思いたい。
「凜は幸せになれるのか?」
「幸せに絶対の保証なんてないさ……んっ!?」
片山は何かの衝動を受けて肩を振るわせた。
「アンタ……」
口元から血が流れていた。
「昨日、一匹だけ生き残っていたモルモットも倒れたからな……ふん、運命の女神だって俺は組み伏せてみせるさ。
 重ねて命令しておくが、今日のことは他言無用だ。わかったな、相葉崇哉くん?」
片山は血を拭うと赤く濡れた歯を見せて笑った。
「俺はずっと凜のことを守ってやりたかった……」
「それは俺が請け負ってやってもいい」
「本当だな」
「約束しよう」
約束……か……
「なんなら、君の初恋という感情を消してやってもいいぞ?」
「冗談じゃない」





――数ヶ月後

凜は舞戸学園に入学した。
俺は推薦の話を蹴って、別の今都巻学院に進んだ。
サッカーは続けている。次の試合では背番号を貰えそうだ。
……補欠だけど。
「タカくーん」
俺を呼ぶ声に振り向く。
「先輩、タカくんは止めて欲しいです」
「じゃあタカちゃん?」
「……ランクダウンしてないですか、それ」
っていうかタカちゃんは個人的にダメージ大きいからホントにやめて欲しい。
「俺ら、恋人同士じゃないですか」
「先輩って呼ばなくなったら考えてあげる」
「……努力します」
先輩と並んで歩く。
最近は凜や慎矢に会うことが少なくなった。それはちょっとだけ寂しい。
芽渡の噂をこの前聞いた。凜と同じ舞戸学園で、男漁りが非道い女って話だ。
「………」
凜にはそういう噂はない。
なら、俺はそれでいい。
何かを諦めて、何かを失っていくのも大人になるって事なんだろうか。
「何考えてるの?」
「え? いや……次の試合に出れたら先輩からご褒美が欲しいなーなんて」
「シュート決めたら、ね」
「ハードル高いなぁ……」
それでも得るものだってあって、そうやって人間ってやつはバランスを取っていくんだろう。
まだ丈の合わない制服を捲って、俺達は校門へ歩き出した。



<幕>


もうすぐクリスマスか。
「家が神社なクラスメイトの撫子に催眠をかけて無理矢理クリスマスを味合わせてやる……フフフ……」
我ながらなんと恐ろしい発想!
「それ、喜ぶわよ彼女……」
沙織はツッコミを入れた。心に100のダメージ。
「お前は外で鈴の音を聞く度にイク」
俺は催眠をかけて反撃した。
「ちょっと! 完全な八つ当たりじゃない!」
これからクリスマスシーズンで街には鈴の音が溢れるからなぁ、ハッハッッハ
町中にこの催眠をかけてジングルガール♪ジングルガール♪メスが啼くーなクリスマスにしてやるぜ!
「もういい。なら外に出なければいいんだもの」
む、意外な対処法。
だが折角のクリスマスを独り家で寂しく過ごさせるのは充分お仕置きだぞ! 沙織!
「この際だから大掃除でもしようかしら。彩の部屋の押し入れゴチャゴチャだったし」
お前達呼び込むのにスペースないのもアレだと思って色々押し込んだままだからな。
花の研究や薬つくる道具も置いているし。
「でも明日からにしよう。時間はあるんだし。お風呂沸かしてくるね」
「ついでに洗濯機のスイッチも押しておいてくれ」
「うん。オーブン見ててね」
オーブンの中には沙織が俺に教えてもらいながら作ったターキーがこんがり焼き色に仕上がっていた。
「って俺の家に居座る気かー!!」
チーン
あ、ターキーできた。


『あんばらんす!』(タイトルコール的な)


―3話―

「んぐ…ん……じゅぉ……」
彫りの深い陶磁器のような白い肌をした美少女の顔がボクのペニスによって歪んでいる。
ゴシゴシと亀頭が歯茎を滑る刺激に思わず呻く。
ふくれた頬と奥歯の圧迫感は女性器のソレを上回るかも知れない。
「もほ…もふ…じゅる……むぐ……?」
彼女には何気ない光景で、何故ボクが苦しんでいるのか疑問に思ったらしい。
藍色の宝石のような瞳で見上げてきた。
「…ごにゅ…ちゅっ…んじゅ……じゅっ…じゅっ……」
ウェーブのかかったプラチナブロンドの髪を梳くと、彼女は少し怪訝な顔をしたが受け入れた。
というのも、ボクは今、彼女の歯ブラシになっているからだ。歯ブラシは髪を撫でたりしないだろう。
「…じゅぷ…じゅぶぅ……んちゅ……じゅ……」
美少女はその細い指で脈打つ歯ブラシを根本からしっかりと持ち
歯垢を削ぎおとすように、口の中を前後させる。
「んぅ……ぷ…じゅ……ちゅ…しゅ……」
卑猥に歪む頬は肉ブラシの形に浮かび上がり、口からは涎と先走りの混じった歯磨き汁が泡を立てて落ちた。
彼女の湿り気を帯びた粘膜はボクのペニスを温かくつつみ、白い歯はボクのチンカスを削ぎおとす。
「そろそろ出すぞ」
「ん……ぷっ…じゅ…むぐ……もふ……こく…んぉ……」
エナメル質の愛撫に限界を感じたボクは終に口膣の中に性欲を吐き出した。
「んぷぅっ!?……んっ…んっ……んごこここ……」
吐き出された精液を一旦口の中に留めると、少女は少し顎を傾けながらうがいを始めた。
「…ここじゅぷぷぷ……」
白い泡沫が唇の隙間を縫うと、頃は良しとみたかペッとボクの精子達を排水溝の中に捨てたのだった。


「ねえ、本当に山に行くの?」
教科書をカバンに詰めながら、村一番の美少女――リィルはボクに尋ねた。
「じゃあボクはドコに行けばいい?」
首を竦めて答えると、リィルは恥じらいながら答えた。
「ずっとウチに居てもいいんだよ?」
「………」
返答に困り、ボクは暖炉の火を見つめた。
「ここはプラハより暖かいな」
初めて降り立った異国の都市を思い浮かべながら、ボクはせんのないことを言った。

ボクは……チェコに来ていた。

あの花の咲いていた場所、無法に雑草が生い茂ってはいたが、花の群の終わる場所に古いレンガを見つけた。
花が栽培されていた可能性……ボクはそれを考え、叶鳴に岡崎家の資料を読ませて貰った。
特に学校のあった場所の前の持ち主――奥平柳征(オクヒラ リュウセイ)について。
叶鳴の曾祖父の弟に当たる人物だ。名字が違うのは分家を嗣いだからだという。
当時の次男以下、それも格式高い華族となればそれは片身の狭い身分であり
資料(日記などにすら)にもその前半生の記録は殆どなかった。
独り立ち出来るほどの商才もなければ、軍人になった訳でもない、お荷物といった風に当時の家長の日記には僅かに残っていた。
ただそれによれば彼は、兄(つまり叶鳴の曾祖父)との仲は良かったらしい。
良くできた跡継ぎが愚弟に優しい事を嘆いた内容であったが。
さらにはどうも、難聴であったらしい事が分かっている。
その柳征がある時を境に急に岡崎家の歴史に名を現す。
岡崎の事業を助け、拡大し、政治家や軍部とも繋がりを大きくし、よく兄を助けた、岡崎家中興の旗手としてだ。
分家の奥平家を嗣ぎ、子爵の位も得たが生涯独身であったという。
この後半生の実績を記した資料は枚挙にいとまがないが、おそらくこれはあの花の力だ。
だとすればこの鮮やかなる経歴はボクにとって殆ど価値がない。
彼の暗澹たる前半生の中で、あの花を見つけたきっかけ、そしてあの花の栽培方法がボクの求めるものである。
そして……

「……っ!」
鼻血が流れていたことに気付き、ボクはティッシュを鼻穴に詰め込んだ。
花を精製しモルモットに投薬した実験で、10のモルモットの内9が数日の内に死亡した。
残った一匹はその後、他のモルモットに対して群のリーダーのような性格を見せ始めた。
ココから推察するに、この花の効果は人を選ぶ。というのがボクの結論だった。
何か欠陥のある人間に力を与える。
その事実には心が震えた。まるで自分が神に選ばれた人間であるかのような錯覚すら受けた。
それが今まで自分を苦しめていた、他人と比べて劣っている部分だと思っていただけに、だ。
その喜びが打ち砕かれたのは、生き残ったモルモットが死亡した時だった。
その後、数回の実験によって生き残るモルモットもやがて死亡してしまうというのは決定的のように思えた。
さらに言えば精製した粉よりも生で食べさせた方が死に至るまでの時間が早い。
早急に事態を解決する必要があった。
柳征は76歳まで生きている。
とすればこの問題を解決したと見ていいだろう。
ボクは沙織達が誤って花や薬を飲まないよう厳重に命令してから、叶鳴の財力にモノを言わせて柳征の後を辿った。

(柳征はプラハに留学経験がある。その後、チェコの山奥に別荘を建てている……)

そこはおよそ人の寄りつかない、不便で、かといって風光明媚とは言えないとされている。
だが柳征はその地を巨費を投じて買いあさり、しかし人を招くことなく年に一度だけ訪れたという。
「サイ……」
スラブ系の美しい瞳でリィルがボクを見つめていた。
暖炉の炎を照り返す白銀の髪はゲルマン民族のソレを思わせて、この国の歴史を感じさせた。
ホテルもないこの小さな村で、ボクは彼女の歯ブラシになることを条件に泊めて貰ったのだ。
もちろん、このしょうもない交渉は花を食べた催眠によってだ。
美しいリィルを好いている男子は多いだろう。
そのリィルの口からボクの精液の匂いがする……それは中々にボクの姦心を擽らせた。
「ボクには好きな人がいた」
リィルの表情が曇る。
「尤も、ままならないもので、フラれてしまったけどね」
「なら私じゃ……ッ!」
「そんなボクを、愛してくれた人もいた」
先客がいることに、リィルは言葉を詰まらせた。
「その人を、ボクは傷つけてしまった。でも、いつか……彼女に応えてあげたいと思っている」
ボクを見るリィルの顔には諦めがあった。
その表情でボクは知った。
彼女を知らないリィルでも、ボクの表情から、言葉から、彼女をどれだけボクが想っているのか伝わっているのだと。
「生きて帰れたら……ね」
「サイ、貴方……」
唇から血を流すボクに、目を見開いたリィルはその柔らかい身体を押しつけた。
「ここに居て、サイ! 全部忘れて、私と一緒に暮らそう? 私、後悔しない!」
「リィル……」
「お願い、山には行かないで。私のお父さん、あの山に入って帰ってこなかったの」
ボクはリィルを抱きしめ返すと、彼女の温もりを振り払うように目を閉じた。
そして胸ポケットにしまっていた押し花を口に含むと、彼女の形の良い耳に向かって囁いた。
「君はもうすぐボクの事を忘れる……」
この命令をしたのは二度目だった。


村人は異邦人が立てた館を非道く気味悪がっていた。山には近づかず、悪魔が住むとまで言われている。
館の名前は龍咲館。龍は東洋では神獣だが西洋では悪魔の使いだ。中々当を得ている名前と言えるだろう。
尤も、龍というのはキリスト教によって神獣から悪魔に堕とされた生き物だ。
だとすれば、その地に踏み入れようとしているボクもまた、人間から墜ちていく存在なのだろうか。
(くだらない)
自分を鼓舞し、殆ど道の体を成していない道を行き、白い息を何千回も吐いた時、その館が目の前に現れた。
厳かに建つバロック様式の洋館。
過剰な装飾がなされた取っ手を捻ると、何の苦もなく玄関の扉が開いた。
鍵はかかってなかったらしい。

(招かれざる客か、あるいは待ち望まれた客か……)
カバンを入口に置いて、中へと進む。
老朽化した壁には所々ヒビ割れが見えた。
二階へと続く大広間の階段の先に視線を感じ、思わず身構えたが、ベタな事にただの肖像画だった。
(ふー……)
映画とかで馬鹿にしていたけど、もう笑えないな。
誇り一つ付いてない立派な額に、立派な男性が描かれている。
(しっかし、いくら偉いからって自分の絵や銅像とか作らせる奴の感覚は分からんね。
 マトモな神経していたらそんなもん残す気にはなれないだろうに)
しげしげとその絵を見上げる。
(あれ?)
そこに描かれているのはこの館の主ではない。
(叶鳴の曾祖父……)
つまり柳征の兄の絵だった。
(ブラコン…か?)
人を越えた力を手にしながら兄の影に徹した柳征の生き方の理由としては妥当かも知れない。
(誰も見向きもしない自分に優しくしてくれた唯一の兄……か)
そんな柳征の気持ちをなぞってみながら、ボクは洋館の部屋を探し続けた。
(書斎か)
左右にぎっしり詰まった本棚、奥には木製で金の装飾が施された机と窓、そして蓄音機。
(全部読むには骨が折れそうだ……)
ぼやきつつ、埃を被った本を一つ一つ調べた。
出版された本だが、何かメモが挟まっている可能性もある。
一時間後。
床に散乱した本の上で俺は溜息を吐いた。
机の引き出しも調べてみたが、手記の一つも見つからない。
(あれ? この引き出し……三段目だけズレてないか?)
正確に言えばズレているのではなく、右端が削られている。
装飾のバランスが三段目だけおかしいのだ。
(ということは……)
引き出しを抜いて、厚みの違う三段目の脇を調べる。
程なく板が外れると、その板の内側に文字が彫ってあった。
(所場ルワ……)
ん? 何かおかしい。
チクチク…ポーン……♪
右から読むのか! 昔の横文字はそうだった。どれどれ……
(Mノ保管室 Cガ交ワル場所)
謎かけか? ボクは宗純じゃないんだけどな……
保管室……この館のコレクションルーム。ここに来るまでに見つけたのは、ワイン蔵、猟銃、獣の剥製、レコード……
(レコード……MUSIC!)
思わず手を叩く。机に併設された蓄音機が正解を後押ししているかのように見えた。

いそいでレコードが保管されている部屋に飛び込む。
天窓が一つあるだけの横に長い、奥行きの無い部屋の壁一面にレコードを仕舞う棚が設置されている。
レコードは横にされて、棚に一枚ずつ収められている。
(でもどれだ?)
数えてみれば、空の棚もあるものの縦横24段の棚だ。
番号も振ってない。
(Cが交わる場所……か)
ふ……謎は全て解けた!
ずばりコレだ!
ボクは上から3段目、左から3番目の棚のレコードを手に取……
(あれ? 無い?)
おかしい。
Cとはつまりアルファベットの3番目。3×3の場所じゃなかったのか?
もしかしてアルファベットは英語の並びではない?
でも、MUSICは英語だし……

小一時間悩んだが、なんのことは無い。
左から3番目ではなく、右から3番目だったのだ。

覚束ない手つきでレコードをセットし、針を落とした。
暫しのノイズ音の後、やや聞き取りにくいものの正常に作動した蓄音機は男の声を発した。
『……ガガ……ここにやってきてこれを聞いているということは、あの花を知っている者なのだろう。
 そして多少は知恵もあるものなのであろう。君の理性と行動力を信じ、暫しあの花を使った先達として語ろう』
声の感じからして随分と衰えているな……。晩年に録音されたものか?
『この力を使えば使うほど……私は人を信じられなくなった。私の言葉に逆らえる者はいない。
 それがどれだけ自分を孤独にするか……。それでも私には兄がいた。たとえ兄も私の言葉に影響を受けたとしても
 結果的に兄が幸福であればそれで良いと思った。私は兄には誠実でいたし、兄が私を厭う事はこの力を得る前から無かった』
ボクの予想は当たっていたようだ。柳征はこの力を自分の為でなく、兄の為に使ったのか。
『しかし……兄には子供が無かった。兄は愛妻家で他の女性に手を付けようともしなかった。
 私といえばこの力でいい様に弄んだ女性は両手では足りぬほどもいたし、幾人か隠し子も居たので種無しではないことは違いない。
 兄嫁が私に種をせがんだ時、愚かにも私はそれを受け入れてしまった。兄嫁は心から兄を愛していた。
 それは間違いない。聞き出したことだ。そう……聞き出したのだ。子が生まれてからの兄に、私は不安を覚えて。
 案の定、聡明な兄は気付いていた。兄から初めて罵倒の言葉を浴びた。恨みの言葉を浴びた。責めの言葉を浴びた。
 私は耐えきれず、兄の記憶を改竄した』
……声に震えが混じっていた。
目の前に涙を流しながら顔を押さえる柳征の姿が見えるようだった。
『その瞬間、私の中の兄は死んだのだ。優しかった兄は、私に都合の良い優しい兄になってしまったのだ。
 いっそ怨まれてしまうべきだった。だがその恐怖に勝てなかった。この力が生む作り物の優しい兄の誘惑に負けたのだ。
 いや、この力が無ければ兄の本心を聞くことは無かったろうに! 疑念を感じ、私に混然とした感情を抱きながらも
 しかし兄はそれを心の内に秘めたまま、私に語ることなどなかったであろう! おおお……』
レコードから聞こえる嗚咽をボクは口を真一文字に結んだまま聞いていた。
『愚かなる奥平柳征よ! この汚濁した脳漿と怯懦な心臓で過ぎた力を使った結果がこれだ!』
公式には自分の子を残さなかったのはこの男のせめてもの償いだろうか……
『だが、兄が生きている内はこの力をつかって岡崎家を興し守らねばならぬ。そう思い、生きてきた。
 しかし、天は行いをよく見ているものだ。兄よりも先に私が逝こうとしている……
 順番が逆ではないかと兄は私を励ますが、私は天に感謝している。兄の死を私は見ずに済むのだから。
 翻って心残りが一つある。この力の事。これは人を不幸にする力だ。人を傷つける力だ。あってはならない。
 栽培した花を処分するよう手を尽くしたが、四カ所だけ残した。それは私の生来の惰弱によるものか、老いかは分からぬ。
 私は……命令する!』
まずいっ!
『動くな。私がこれから命令し終わるまで』
それはボクが何度も他人にかけてきた言葉だった。
まさか自分かかかろうとは……
そしてその命令を本当に、指の一本すら動かないほど、忠実にボクの身体が従うとは!
『もし岡崎家が……兄の岡崎家が名誉を汚し、危機にあるならばそれを助けよ』
それは……ないな。
アンタが育てた岡崎家は今も巨木のように政財界に存在している。
『そうで無いならば、この悪魔の力を……』
コイツ……まさか……ッ!
『今度こそ完全に……』
ふざけるな、俺には必要なんだよ! 今更戻れないんだよぉ!
消させなんかさせるかよ!
ボクは…俺は……お前なんかと違うんだよ!!
(動け! 動けよ! 俺の身体ァァァ!!)
『処ぶ……ガガガガガ……』
「!!」
壊れた?
(身体も動く……!?)
蓄音機の使い方が悪かったのか? それともレコードが痛んでいたのか……
(このっ!)
忌々しい蓄音機を床に叩き落として壊す。
(助かったぁ……)
ペタンと尻餅をつき、思わず天井を見上げた。
何で人はこういうとき上を見ちゃうんだろうな……
(ハハハ……)
渇いた笑いを放ちながら、ボクは視線を床に落とそうとし……
(!!)
窓に映った女の姿に、バッタのように身体を弾き飛ばせ逃げた。
何故ならば……

.
グアシャァッ

その女は斧をボクに振り下ろそうとしていたからだ。


まるでタンポポの綿毛が吹き飛ぶように、館を造っていた木材が吹き飛んでいく。
プラチナブロンドの腰まである長い髪を靡かせて、無機質な藍色の瞳はボクを追う。
その姿――メイド服。
だが彼女の御奉仕を受けたら間違いなく冥土行きだ。
(うわたっぁ!?)
逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げろ!
生来の運動神経の無さが、足を滑らせる。
が、運の良いことに頭の上を斧が掠めていった。
コケなかったら理科室の人体模型のように頭が横一文字に真っ二つだったろう。
「………」
ボクを追うメイドさんは纏う雰囲気も相まってまるで人形のようだ。
これでニコニコ笑っていて、ハルバートを持っていなかったらぜひお近づきになりたい。
「……ッ!」
しめた!
壁に刺さった斧が抜けないらしい。
(今の内に薬を飲むんだ)
ポケットをまさぐり、カプセルの入ったケースを取り出す。
山で会話などする必要はないと、飲んでいなかったのだ。
しかしこれさえあればメイドさんの身体の自由は俺次第。
ゆっくりお近づきになる機会もあるというも……
「シッ!」
(うわっ!)
メイドさんは廊下に置かれていた(高そうな)壺を手掴みで投げると、見事に俺の手にヒット。
(チッ…)
転がるケースを取ろうと手を伸ばすが……
「……!」
振り下ろされた斧に思わず手を引っ込める。
(あら〜抜けちゃったのね……)
押し花は……カバンの中か。
(参ったな、八方塞がりだ)
老朽化しつつも蜘蛛の巣とかが張ってなかったり、
肖像画に埃が無かったりした時点で人が館に住んでいる可能性を考えるべきだった。
(大事なことはいつも見落とすんだ、ボクって奴は……)
横薙ぎの攻撃に、バックステップを踏んで何とかかわす。
……訂正、鼻の先ちょっと切れた。
ついでに行き止まりだったりして。
「………」
メイドさんが斧を振りかぶる。
(南無三!)
行き止まりだからって逃げ場がない訳じゃない。
顔を庇うようにして窓に体当たり。
ここ二階だけど斧よりマシ!

(ドワッハァッ!)

したたかに背中を打ち付け、少し呼吸不全に陥っていると窓からボクを見下ろすメイドさんが見えた。
(やばい、追いかけてくるな……)
息を整えようとして逆に咳き込む。
おかしいな、スタミナには自信があったんだけど……
頬を伝うヌメっとした感覚で吐血したことに気付く。
(スタミナ切れじゃなくて命の幕切れってか……)
チェコの空は雲が少ないな……いや、ここが高地だからか……
なんか、雲の形が沙織に見えてきたぞ……
いよいよヤバイか……

(でも……みっともなくても最後まで足掻くかな…ぁ……)
みっともないのには馴れているし……
転がって、地面を這うように動く。
踏みつけた草で、服に緑色の染みができた。
(おい……)
震える手で地面を掻きむしる。
(これって…さ……)
引きつった頬を、奥歯で裏から噛む。
(夢じゃないか!)
悲鳴を上げる身体を無視し、ボクは立ちあがった。

手に花を持って

「四カ所の内、一つはここか……」
花を踏み敷いて近づくメイドさんに、ボクは勝者の笑みを向けた。
「止まれ!」
「………」
「あれ? と、止まれ!!」
「………」
なんでだ!? なんで止まらないの!?
「………」
あー!?!
よく見たら耳栓しているーーーーーーー!!
「…ぁ」
焼け付くような痛みを右太股に感じ、その理由を求めた。
急に下がった視界に、花弁が舞う。
「うぐぁあッ!」
花畑にしゃがみ込みながら、鮮烈に吹き出す赤い血をボクは押さえた。
斧の刃ではなく、穂先の槍の部分で太股を貫かれたのだ。
「くはぁ…っ……はぁ…はぁ……」
確実に仕留める気なのだ。
目の前に立ちふさがるメイドさんは腰に斧を構えて逆袈裟にボクの身体を切断しようとしている。
「か、か、勝った気で、で、い、いるだろ……」
メイドの顔は能面のまま動かない。
キングの前にルークが迫り、まさにチェックメイトというその寸前にも。
(耳栓してボクの命令が届く奴がいないというなら、それは間違いだ……)
土まみれの花を蹲りながら噛み砕く。
「……シャッ」
メイドさんが斧を振った。
「跳べ、片山彩!」
それをボクは宙から見下ろしていた。
「!?」
メイドさんは突然目の前から消えたボクを捜す。
当然だ、人一人分を飛び越える跳躍など怪我をしていなくても想像できまい。
だが、彼女の背後から聞こえた着地の気配は紛れもない事実。
「飛び込め、彩!」
――ボクはボク自身に命令する。
全身の筋肉が悲鳴を上げながら、ボクは一つの肉弾となってメイドさんを貫いた。
「くはっ…」
メイドさんを押し倒し、身体をつかって腕を押さえる。
「人間は……普段から自分の身体を傷つけないようリミッターを付けて行動している」
それを命令で強制的に外して、いわば火事場の馬鹿力を引き出したわけだ。
「おかげで体中……電流が流れているみたいに痛い」
痙攣する手でメイドさんの長い髪を掻き分け、耳から栓を抜く。
ボクはキングも攻撃の一駒にする人間、さらに言うならチェスより将棋が好み。
「命令する……今から……俺が……お前の御主人様だ……」
柳征、俺はお前とは違う。
孤独の世界の王でも冷たく笑って玉座に君臨していやるさ……
そこで俺は意識を失った。

.


「……ゴメンなさい」
「あ…ぁあ……そう……」
部活帰りの亘理さんを呼び止めて告白した俺は、見事に玉砕した。
星が瞬き始めた空に、街灯が点灯し始めた。

(ああ……これ夢か。夢なら……ハッピーエンドがいいのになぁ……)

「片山君は、沙織と付き合ってるでしょ?」
「はっ! なんの冗談! それは全然、違う、間違ってる!」
「そうなの……?」
亘理さんの小さな肩を掴んで、俺は勢い込んで話した。
「俺ずっと亘理さんが好きだったからさ! だからその勘違いが理由なら……」
「気になる人が……いるから。ゴメン、ね」
視線を逸らさず、亘理さんは俺に向かってハッキリとそう言った。
俺はもう二の句が継げない。
とんだピエロだ。
「誰? 好きな人……」
「部活の先輩だけど……知ってる? 葦名先輩」
ああ……
「お似合い…かも……」
平凡ではあるが、人が嫌がることも進んでやるし相談には親身になって考えてくれる先輩だ。
朝の交通安全運動や町の清掃なんかにも参加しているし、新入生の季節になれば色々気に懸けてくれる。
かくいう俺も入学したての頃、声をかけて助けて貰ったことがある。
「……応援、するよ」
あの人じゃ悪口の言い様もない。
っていうか、例え欠点が合ったってそれを指摘するような人を亘理さんが好きになる筈がない。
「悪かった、呼び止めて……気をつけて帰って」
「うん……あの、片山君なら私なんかよりいい人沢山いるよ」
亘理さんじゃなきゃ……駄目なんだよ……

(これがあの日のケチの付き始めだったな……)

「警…察……」
家の前で、手錠に繋がれ両脇を警官に囲まれた男が通り過ぎる。
俺から視線を逸らしたその男を、俺は知っていた。
俺の血半分の持ち主――親父だった。
「何したんだよ? アイツ」
玄関に立つ警官に詰め寄ると、どうやら親父はインサイダー取引の容疑で連行されるらしい。
「何やってんだよ、アンタは」
思わず親父に詰め寄り、俺を止めようとした警官共には静止の命令をかける。
「アンタは何がしたい! 俺に迷惑をかけるんじゃない!」
親らしいことなど一度もされたことはない。
ただ金を、住む場所を与えられていただけだ。
だがそれでもギブアンドテイクなんだからそれなりに感謝はしてきたつもりだ。
「……取りあえず、すぐ出られるように何とか働きかけておく」
俺の能力と、あと叶鳴の家の財力や沙織の家の権力で……なんとかなるだろう。
「いらん。それより俺と縁を切れ。会ったこともない親戚でも金を積めば養子に引き取ってくれるだろう」
「なんだとっ!」
それは合理的かも知れないが、あまりにも情が通わない回答だった。
「アンタはなんで俺を育てたんだよ! 答えろ!」

「……息子だからだ」
俺の目を見ることなく、男は答えた。
「愛してもいないのに、よくもヌケヌケという!」
「愛している」
「心にもないことを……っ!」
「愛してはいたが、愛し方が分からなかった……」
俺に背を向けると、男は続けた。
「せめて金には不自由しないようにと、そんなやり方しか……親失格だというならその通りだ。会わせる顔は無い」
俺にも任意同行を求める警察に黙らせ、パトカーに乗る親父の背中をただ見送った。
(なんだよそれ……気付かなかった俺が悪いってのかよ……)
雨が……降っていた。

(そこから先はよく覚えていない……誰かにぶつかって、携帯を落とした。携帯の履歴に沙織の名前があった。
 なぜ、電話をかけたんだろう。沙織にボクは何を言いたかったんだろう。何を言って欲しかったんだろう……)

『彩? どうしたの?』
俺の気分とは真逆で、浮かれたような沙織の声が電話越しに聞こえた。
「今、どこにいる?」
『家だけど……あ、呼び出し?』
「いや……」
目的など……無い。ただ漠然と電話をかけただけだ。
でも、そんなことを馬鹿正直にいうのも情けなく
「沙織の声が聞きたくなった」
と、目的無しとそう変わらないような答えを話していた。
『――ッ!!』
「……どうした?」
『な、な、な、なんでもない!!』
「声、変だぞ? 風邪でも引いてるのか?」
暫く電話の奥で深呼吸する沙織の声が聞こえた。
『あ、うん、大丈夫』
「そうか。……何、してるんだ?」
『え? あ……お母さんの料理の手伝い。べ、別に彩の為に勉強しようとか、そういうのじゃないから!!
 きょ、今日は月に一度の家族団欒の日だから! この日だけは絶対お父さんお仕事休んで家族の時間つくるの!
 それでこれから夕ご飯で、娘の私もたまにはお母さんのお手伝いして、そ、それだけだから!!』
家族…団欒……
「なぁ、沙織。俺、そこに行ってもいいか? 邪魔かなぁ、家族の団欒の時間に……」
『え? えぇ!? え?! お、お父さんに会うって事!? 彩が家に来るって事!?』
「迷惑か……」
『い、いい! 全然いい! むしろドンドン来て!!』
「そうか。じゃあ今から行くよ。場所は分かってるから……」

(この時、もうボクの身体には冷たくどす黒いものが流れ渦巻いていた……)

白塗りの簡素だが機能的そうな一戸建ての家のインターホンを鳴らす。
息を切らして出てきたのは沙織その人だった。
家の中だというのに、随分と小綺麗にめかし込んでいる。
女の子ってそんなものなんだろうか……
「彩、ずぶ濡れじゃない!」
「ああ……? そうだな」
「はやく中に入って! 今タオルと着替えを……」
沙織が俺の濡れた腕を掴む。
玄関の奥に俺達を伺うように(おそらく)沙織の母親が立っていた。
沙織に連れられて廊下を進むと、母親のいるその先にリビングが見えた。
テーブルには豪華だが、飾り付けは家庭的な料理が並び、椅子には着流しを着て腕を組む壮年の男性が居た。
「彩?」
足を止めた俺に、沙織は振り返る。
「あ、あのね、お父さんとお母さん……」
モジモジしながら紹介する沙織に対し、彼女の母親は好意と好奇心を含んだ笑顔で、父親は敵愾心と値踏みするような渋面で俺に対した。

「いいな」
「え?」
「想像通りっていうか、理想通りっていうか……優しそうなお母さんに、厳格そうなお父さん」
俺の言葉に沙織の母親は謙遜し、父親は顔を崩さない。
「幸せな家族を絵に描いたら……こんな風なんだろうな」
冷たい雨の雫が、髪を滴って鼻に当たった。

「……壊れろ」

「え……?」
ガタンと人が倒れる音が家に響いた。
沙織の母親が糸が切れた操り人形のようにだらりと床に倒れ、口から涎を垂らし、失禁している。
椅子に座っていた父親の方も同じだ。
なるほど、確かに壊れた。
神経がマトモに機能していないらしい。生きてはいる。ぴくぴくと指や足が痙攣しているからだ。
「い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
沙織が悲鳴を上げる。
声は外の雨に掻き消されただろうか。
まあ誰が駆け付けても問題にはならない。
薬だけでなく、花も家に置いてあった分だけ持ってきた。
「お母さんっ、お母さんっ、お父さんっ、お父さん!!!」
倒れた母の身体を揺すり、必死に呼びかける沙織。
惨めな姿。
学校ではあんなに凜として、颯爽としているのに。
俺に抱かれる時だって、ここまで取り乱したことは無いのに。
「ふふ……ふははは……かっかっかっかっかっかっ………」
優越感の笑い声にしては、随分と乾き、掠れていた。
「彩…どうして……彩……」
「いいよなぁ、お前はさ」
「……なんでよぉ……どうしてよ、彩ぃ……」
母親に縋り付き泣き崩れる沙織の姿に、俺の心臓は非道くゆっくりと動悸しているようだった。
感情も神経も鈍感になって、何も感じず、ただ冷たかった。
「沙織は勉強もできて、運動もできて、顔もよくて、幸せな家庭に生まれて……全部満たされて、さ」
「……そんなこと、ない……」
「俺はずっとバランスが悪かった。アンバランスな場所でアンバランスな肉体で……いつも天秤の釣り合いは取れないんだ。
 普通に喋れるようになったと思ったら、こんな能力まで付いてきた。ホントは、こんな力要らなかった
 ただ普通に喋れるだけでよかった!! 勝手なことを言ってるさ。この力でお前達を傷つけておいてな!!」
喉の奥から焼けた石が這い上がってくるような感覚に襲われ、思わず口を押さえる。
「うぐぉ……」
押さえた手の隙間から赤い錆びた匂いの液体が流れ落ちた。
「彩!?」
思わず沙織が俺に駆け寄る。
だが、彼女を払いのけた。
「俺とお前、付き合ってるように見えるんだってさ」
「え……」
「亘理さんに告ったらそう言われた」
「私の…せいで……」
「いや、全然、俺の片想いらしいよ。ただちょっとムカついただけ」
赤い手で沙織の綺麗な洋服に手をかける。
「家帰ったら、親父が警察に連れて行かれてさ。それで何か、お前見てたら八つ当たりしたくなった」
「彩……」
「なんでお前だけ、そんなに恵まれているんだろうって。
 馬鹿な話だろ。こうやってお前を俺と同じみなしごにしたって、俺が恵まれる訳じゃないのに。
 スゲー無駄なことやってんだよ。でももう、全部ぶっ壊したい気になってな……」
沙織を壁に押しつけて、薄い布地を破り裂いた。
「俺を客観的に見ている俺がさ、死ぬなら一人で死ねって思ってるんだけどさ、こんな力があるからかな……うぷっ!」
口の中が苦い。
苦いのは口の中だけか?
「あの日から……お前にとっては良い迷惑だろうけどさ……ま、これで幸福と不幸の帳尻も合うだろ」

「――ないもん」
「あ?」
俺の身体の影で、涙を流しながら沙織は叫んだ。
「私、幸せじゃなかったもん!!」
「はっ……あんなに恵まれててどこが……」
「どんなに恵まれてたって、好きな人に振り向いて貰えないのに、幸せなわけないじゃない!!」
「はぁ?」
濡れた俺のシャツを掴み、沙織は振り絞るように顔を近づけて告白した。
「好きだった! 彩のこと、好き! 大好き! 今も……こんなに酷いことされたのに……それでもどうしようもなく好き!!」
濡れた金切り声で沙織は俺の胸の中に飛び込む。
「俺は……お前にそんな命令……していない……」
「そうよ……あんな力無くなって、私は彩の望むことならなんでもしたわよ……」
「馬鹿なこと言うなよ、お前は散々俺のこと馬鹿にして……」
「そうよ、馬鹿よ。素直になれなくて好きな子虐めるなんて、小学生以下よ」
自嘲の言葉を裏声になりながら放つ。
俺の胸の中で震える沙織は、酷く不安定で、今にも崩れ落ちそうだった。
「沙織……」
その身体を、俺は支えた。抱きしめた。

(ボクだって一人で立てるほど安定していない。
 アンバランスな二人が支え合っても、安定とはほど遠い。
 それでも、一人よりはバランスが取れるんだろう……)

獣のように後ろから沙織の肉体を犯している。
彼女の身体を組み敷いたシーツはグッショリと濡れ透けていた。
「んぁっ…はあぁ……あっ…ぁっ……」
渇いた唇を潤す為に、俺は後ろから沙織を口を啜った。
「んちゅぇ……じゅる……ちゅるる……んぁあっ……」
俺に求められると、沙織は逆に俺から奪うように朱唇を合わせた。
もう何度目になるか数え切れないほどの換液。
「…んぱぁ……はぁっ…は…ぁあぁ……」
呼吸ができなくなるギリギリまで二人の交わりは続く。
「んぁ……はぁ…ん……」
沙織を全て奪いたくて、俺は顔を彼女の首筋に埋める。
汗にまみれたその雪肌をスキーヤーのように滑り下っていく。
「んっ……んんっ……」
首と肩のライン、鎖骨の辺りに落ち着くと、ホタルの灯のように暖かい沙織の体温を感じながら、彼女の匂いを目一杯に啜る。
「はぁっ…」
動物的なその愛撫に、しかし彼女は身震いした。
俺を咥え込む膣が圧縮し、彼女の快感を伝える。
「沙織…」
名前を呼んでやるだけで彼女は目尻を下がらせ、幸福に粟立っている。
そしてもどかしそうに腰を揺すった。
俺は彼女の要求に応えて激しく彼女を貫き、抉り抜いた。
「あぁうぅ…はぁん……んぁあっ…はあ……はひぃ……ふっ…ふっ……」
俺の身体にスッポリ収まる彼女の背中が愛おしい。
心臓が重なるように、脇から腕を通して身体を密着させる。
「んはぁっ…ぁう…んんっ……あっ…あっ…ひゃくぁ……ふ……ひぃ……」
「沙織が……奥に……汲み上げてくるっ」
「ふぁあっ……じゅんって、じゅんってくりゅよぉぉぉ……」
肉を合わせ始めた頃は数え切れないほど睦み言を言い合いった。
だがもはや交わり合うことしか頭にない俺達が放つ言葉は、文章のていをなしてない。
それでも充分通じ合えた。

「沙織…子宮……ッ」
「しゃがってるのぉ……子種ぇぇぇ……」
一番奥の壁をこじ開けるように俺は杭を打ち付ける。
「孕め、孕め、孕め!」
沙織が望むように、その壁の先に俺の精子をまた満たしてやろう。
「ん…んぁぁぁああぁぁぁぁぁ゛ぁぁあ゛ぁぁぁ゛う゛ぁんぁあ!!」
身体の中に熱い精液を受け、沙織は四つんばいで畜生のように悲鳴を上げた。
「あうっ!、あぐあぁっ…はっ、はあぁっ……ひゃふ……ぁうああ……」
だが俺の腰の動きは止まらない。
「だしゃれながらぁッ……突かれりゅ…っ……らぁめぇ……おがじくなるぅ……」
「凄いだろ…凄いだろう、俺とのセックスッ!」
花を使い、己自身の命じたこの犬のような生殖に対する勤勉さ。
普通なら射精の放出感に身体が動かない所を、殆ど反射的にそれまでの運動を反復させる。
それは沙織を何度も桃源に誘い、脳を蕩けかしていた。
「もう他の男じゃ満足できないぞ!」
「あがぁ…ふぁあ……ほぅ……ううんぁ……」
だらしなく舌を吐き出しながら、沙織は焦点の定まらぬ目で首を振った。
俺の言葉が聞こえていたらしい。
そしてこの否定は、俺の言葉への否定だろう。沙織は最初から俺以外を受け入れる気などないに違いない。
しかし彼女は知る由もないが、俺にはそう言ってしまうだけの理由が芽生えていたのだ。
「まだだぞ……」
沙織を抱きかかえる腕を強くしながら、上体を起こす。
「はふぅっ!」
重力によって一頭深くささったペニスに、沙織は嬌声を漏らした。
「くっくく」
それを面白がった俺は、膣口ギリギリまで肉棒を抜くように彼女の身体を持ち上げた。
カリ首によって擦りとられた精液が噴水のように俺の棒をしたり落ちる。
人間のペニスにエラが残っているのは他の男の精子を掻き出す為だと言われているが、自分の精子を掻き出しては世話がない。
「んぁ……」
半目で、赤ん坊のように高い高いされる沙織を俺と向き合わせる。
「そらっ!」
「んほぉあっ…」
チンポが突き刺さった子宮の奥から伸びたような叫びと共に、沙織は少し達したようだった。
「あぁ……ぁ゛……」
肩で息をしながら、それでも彼女は次の交わりを始めようと俺の肩に腕を回した。
「ん…ちゅ…ちゅっ……」
啄むようにキスの雨を降らせる。
俺は手によく馴染む彼女の乳房を刻むように揉み握った。
「んぁあっ……はぁああぁ……」
肉に赤みが刺すほどだが、淫蕩に狎れきった身体にはこれぐらいでないと効果がない。
「あふぅぅ…あふぁあぅ……」
虚脱しきった身体で、それでも沙織は健気に、貪欲に腰を浮かせ、舞わし、射精したばかりのペニスを悦ばせる。
俺は彼女の形のいい、まろみを帯びた尻を乱暴に鷲掴みにすると、引き摺るように肉棒に打ち付けた。
「ひゃあぁあぁうあ……あふっ…んほあぁ……」
パンパンパンと軽快に腰も使い、沙織の芯を砕いていく。
一杭するごとに、沙織の力が抜け、俺にかかる体重が増えていく。
その重さが心地良い。
「沙織……」
肩に小さな頭を倒れ込ませた沙織は、うなされ続けている。
「しゃぁい…んぁぉああ…彩……ふぁ…しゅきぃぃ……」
汗でグッショリ濡れた彼女の亜麻色の髪は、それでもいい匂いだ。
豊楽に顔を揺らす沙織によって、その匂いは俺の身体に混じって染み落ちるかも知れない。
「……愛している」
その囁きだけで、俺を包む膣襞はうねりを上げ、俺を困らせた。

「だから……沙織はこれが終わったら俺を忘れる」
俺は彼女にかける最後の命令を囁いた。
「ふぇ……」
「疲れて、眠って、目が醒めたら……片山彩の事は全部、忘れる」
恐ろしい者を見たかのように、沙織が俺を見上げ目を剥く。
「彩……何を……あんっ!」
それまでと同じように、俺は沙織を愛し続けた。
「待って…っ…んぁあ…彩……はふぃ…待ってぇ……」
混濁する頭でどうにか問題を留めなければならないと感じている沙織を無視し、俺は抽送を繰り返す。
色欲に溺れた女の身体は本人の意志に関係なく、それを歓喜として受け入れた。
「ああっんっ…んぐ…んふぅ、んふっ……ぁあっ…ん゛ぐぁ……」
乱れ咲く肉体をさらに内側から熔解させようと、俺は愛液と白濁が混じり跳ぶ蜜壺の裏を小突いた。
「ひゃぅ…っ…しょこっ…おちり……にょほお゛お゛っ…ふあぉ……」
「初めてじゃないだろ」
沙織の穴という穴は犯しつくしている。
「ほら、ここの後ろを引っかかれると……」
アナルに入れた中指を折り曲げ、腸襞を擦る。
「はひゅっ…ぬははぁぁ゛ぁ゛……だみゃになる……はあほぁあ……」
「ここが沙織の一番良いところだもんな」
それを裏側から刺激しつつ……
「ひゅほっ…ああぁ゛…ありゅ……ぐちゅぐちゅぅぅ……おちんちんぁ……」
肉棒の頭と首で表からも叩く。
「かはっ…はっ……はああか……おぶっ……いぐ…いぐっ……いぐぅうう……」
ツンと足の先を延ばし、沙織は歓楽にむせかえる。
それでも俺は挿入を止めない。
気の抜けた沙織の頭がバネ仕掛けの人形のように揺れるが、構わず剔る。
「おんっほお゛っお゛…うあ゛……ふおぁ゛…あんっ…おん゛っ……」
擦れた嬌声を上げて咽び泣く声に、彼女にまだ意識があると感じる。
いや、明瞭な意識は存在しているかは分からない。
「はひ゛ゅぅあ゛あ……っ…お゛っ…ぉっ゛……おおぉぉ……」
だが、『眠れば記憶を失う』という俺のかけた魔法に、沙織は逆らおうとしているのだ。
幾度となく至福と虚脱の波を繰り返そうと、それを抱いて夢寐に浸ることを望めない。
俺を愛している限りは。
「ぬう゛あっ…りゅ……ぽ…ひゅっ…ひゅっ……んぁあ…はあ…ぁ…」
俺の肩を沙織が掻いた。
あるいはそれは引っ掻く程、強く入れるつもりだったかも知れない。
か弱い抵抗が、俺の心をさざめかせる。
冷たい智慮が、情熱によって解されかかる。
「沙織、エロいな……ビラビラがチンポにくっついて出てきているぞ」
それでも俺は沙織を攻め続けた。
「ぬひゅっくりゅ……おぅっ…はあぁ…しゃぁいに……かりゃだ……んぐぁっ……かえりゃれたのぉ…ぉ゛……っ」
膣肉は吸盤のように吸い付いて離さず、粘膜は泉のように溢れ続けている。
入口から零れたピンク色のそれは、逃げる肉棒が再び潜り込むと安心して姿を隠した。
「むぉお゛ぉおォおおんぉ……あばぅぁっ…ぉお……はぁんっ……」
「ケツ穴までキュウキュウ締め付けてきてっ……この淫乱めっ!」
「はひゅぅっ……むぁ゛ぉろ……ぎょめんなじゃぁい……ごみゅんな…ぁああぁ……」
「学校の奴らが見たらどう思うんだろうなっ!」
みんなの憧れの沙織! 誰からも愛される沙織! 風を切って歩く沙織!
「んぐっ…ふあぁ……いいっ……そんにゃの…しゃあっ…どうじぇもいいのぉ……」
俺の卑しい沙織! 俺の雄を飲み込むだけの沙織! 俺に犯されて喜び泣く沙織!
「んぐ、むふぅ……彩…お゛ぁっ…彩だけで……らけがいりぇばぁ……」
背を丸め、柔らかい肉体を、八の字に歪んだ眉を押しつける沙織。
「ペットじぇもいいのぉっ…しぇい欲処理きゅでもいいの゛ぉっ…肉う゛ぇんふゅでもいいのぉ゛っ……」
身体が動かずとも、沙織は膣を動かそうと引き締まった臀部に力を込める。
「だから一緒にぃ…しょばにぃ……いざせでぇぇぇっ……」
熱い吐息混じりの哀願に、心が軋む。
沙織の潤んだ瞳はどうしようもなく扇情的なのに、その姿に俺の身体はいきり立つのに
心臓の一番奥の抜けない場所に小さな慚愧の棘が残っている。

「はっ…ひゅあぁ…にゃほっ…う゛あぁっ…あっ……」
その痛みを残したまま、粘つく音は部屋に響き続ける。
沙織の膣の中で俺の肉棒は跳ね続ける。
俺の下腹部は流れた液体で水溜まりができていた。
「沙織、沙織……」
哀願を逸らすように、俺は彼女の唇を貪った。
「んんちゅっ…んぱぁ゛……はむ゛ぁ…んっ…んっ……」
彼女の可愛らしい形の整った唇を割って、舌で口内を蹂躙する。
俺の舌と唾液以外に欲しいものは無いとでも言うように、沙織は口を窄め空気を追い出した。
生温く、粘つき、圧迫するこの感触は、陰茎が感じるそれとどちらが上だろうか。
「しゅごい…しゅごぃ……小突いてるぅ……んぐ…おちんちん…ちんぽっ……」
沙織は回復した体力を肉の味わいに使う。
本当は使ってはダメなのだ、疲れ果ててはいずれ倒れてしまう、そう頭の中で理解してても、止められないのだろう。
淫唇にねぶられた俺の肉棒は赫々と膨張し、膣に残る白い愛液を押し出していく。
射精感に堪えきれなくなり、意識を逸らそうと切なげに揺れる二つの果実を俺は掻き砕いた。
「むぁああんっ……にゃは、にゃははぁぁぁっ……あにゅにゃぁっ……」
かえって逆効果だったようで、刺激を受けた沙織の膣は俺をキュッと引き絞った。
「あ゛あ゛ぁ゛ぁっ…んぼっ…ろけちゃうぅうっ……はひっ…はひゅううぅぅっ!!」
背中から抜けるような感覚に襲われながら、俺は沙織に精を吐き出した。
俺の精を受け止めた沙織は恍惚の表情を浮かべ、この淫猥なる共演に一旦の幕が下りる。
普通ならば。
「あうっ…ほあぁっ…みゅりっ……まだっ…もう…出されながらっ……じゅかれて……子宮っ…子宮っ!」
正直俺も辛い。本来なら射精感に浸っていたい所だ。
だが、さらに乱れる沙織の姿が見られるなら、充分元が取れるとも思った。
「ぬほっ…にょほっ…あぐっ……子胤ぇえ……おじゅごまれるぅぅぅ……」
絶頂に痙攣する身体を無理矢理押さえて、さらに沙織に叩き込んでいく。
「なにょ…ぁあ゛っ…んぐ……ぬほっ……あん゛っ……んぅあ゛……」
沙織の秘所は彼女の悩乱などイザ知れず、ひたすら貪欲に射精を動かすように俺を急かしうごめく。
だから俺は彼女の身体に応えてやろうというのだ。
「沙織ィ、沙織ィッ!」
「彩…彩ぃ……」
肉欲より理性が勝り始めるころ、ただの反射運動で沙織が俺から離れようとした。
だが俺は許さない。
沙織が驚かないよう、しっかり背中を支えながら彼女を押し倒す。
シーツの海を泳ぐ彼女をシャチのようにベット際に追いつめる。
「むふぁ……」
先程は充分楽しめなかった乳房の量感と弾力をしかと味わいながら、沙織の片足を持ち上げた。
彼女を少し転がしながら、陸上で鍛えた肉に無駄のなくスラリと伸びた足を肩に担ぐ。
「はふっ……はあ……ひゅぅ……」
さすがに沙織も終わりの見えないまぐわいに意識が混濁し始めている。
乳房の先端の果実を弾いても反応が薄く、射精後の肉棒で彼女を掻き回しても電流を通したカエルのようにピクピク動くだけだ。
尤も、今の俺は能力でリミッターを外している状態だ。
沙織の秘苑を掻き回す息子も、すぐに元気を取り戻すだろう。
……明日が恐ろしいが。
(明日の事を考える者に今日の大事は成せないってな!)
やってることがセックスで無ければ格好のいい台詞だろう。
などとペニスを彼女の根本まで埋め、温かさに暫し酔いながら考える。
「んっ…んっ……」
惑溺する心に連動して、彼女の白房を揉みしだく手も、自然と撫でるような、愛でるような、優しさを帯びた愛撫になっていた。
ふいと悪戯心に人差し指に力を込めると、その形にこの美しい桃は歪む。
そして指先はスポンジのように包まれ、ゴム鞠のように押し返されようとする。
「ふぁ…ふぅ…」
ピアノの演奏家のように一本一本力を込めていって、最後には掌で押し伸ばすと甘ったるい沙織の喘ぎ声が洩れた。
その濡れた唇がどんな砂糖菓子よりも美味しそうで、口で転がそうと顔を近づける。

「……沙織、お前……」
沙織の唇はよくみると血が出ていた。
俺が傷つけたのではない。いや、俺が傷つけたのも同然か。
眠りに就くことを恐れた沙織が自分で唇を噛んだのだ。
「沙織……」
怪我をした子を舐める犬のように、傷口に舌を這わせる。
沙織の血ですら、今の俺には極上の美酒に思えた(お酒飲んだことないけど)
「あうっ……ふあぁ…じゅ……」
キスを繰り返しながら、また沙織の身体に男の味を染み込ませていく。
次第に深く紅潮する沙織の全てが可愛くて、俺は唇だけでなく頬にもおでこにも耳にもキスをした。
首筋には特に強く吸い付き、沙織が俺のモノであると刻んだ。
「はっ、はっ……きゃうぅんっ…ぁんぐ…ふぁあ……」
甲高くなっていく沙織の声に合わせ、弛緩していた肉穴は再び精を飲み込もうと俺を締め付け始める。
「うぁ゛…っ…っ゛…はきゅんっ……にゅぁ……ふぉ……」
騒がしさを取り戻し始めた秘襞が挿入の度に形を変える。
もう今日だけで何万遍も繰り返したというのに、沙織の愛肉はまだ緩むことを知らない。
肉壺を蹂躙する亀頭が裂け割り行き、広げた後に竿に合わせて吸い付くように絡み付く。
「ん゛…んぁ……ああう゛……かはっ……んぁっ…はぁ……」
大股開きでよく見える沙織の秘所は入口からして肉棒を咥え離すまいと脈動している。
俺は収縮する襞に負けまいと擦り潜り、沙織の背筋を貫くように勢いよく子宮口を叩く。
「ぬ゛ぅ…ぁふぃっ…ゆれりゅ……あちゃま……彩…ぐにゃって……熱い……」
うわごとを繰り返す沙織。
肉摩擦の刺激に真っ先に取り戻した感情は、官能。
「彩…彩……」
「ああ、沙織、沙織……」
制服姿の沙織、パジャマ姿の沙織、ドレス姿の沙織、私服の沙織、そして生まれたままの沙織!!
知っていく度に、惹かれていっていたんだ!
今更、今更、今更気付いた!!
「沙織ッ!!」
止めどなくなく溢れる恋慕が我慢を忘れさせた。
沙織の身体が跳ねる。
愛慕を乗せて精を彼女の中に打ち込んだ。

(長い夢だ……最後まで見せる気か。未練がましい……)

それからずっと愛し合い続けて、気がついたら沙織と抱き合って眠っていた。
「沙織……」
情事の匂いにむせかえりそうになる部屋で、愛しい人の寝顔を焼き付けた。
長い睫毛も、気の強さを感じさせる眉も、スラリと整った鼻も、少し小さめの潤いのある唇も。
梳かせばまったく毛がひかからない嫋やかな髪を、起こさないようにゆっくりと撫でた。
「痛……」
気怠さよりも痛みを感じたのは身体を強制的に酷使させたからだろう。
シーツを見れば血の痕がある。寝ながら吐血でもしたのか。
「ん……」
目を覚ませばもう俺の顔を覚えていない最愛の人に気付かれないよう、彼女の身体を拭き、シーツを取り替えた。
さすがにシーツ抜いたら起きるだろうと思ったが、よっぽど疲れているのか熟睡している。
それがなんだか間抜けというか可愛いというか……
「あ……」
なのに俺は涙を流していた。
「ゴメンな、ゴメンな、沙織……」
沙織の両親に命令をかけた。
『壊れろ』と命じたなら『戻れ』とか『治れ』とかで元通りになるんじゃないか……そういう淡い期待は叶わなかった。
出来る限りの処置をし、ドッと疲れた身体を引き摺って沙織の家を出た。
日が昇り始めた、寒いアスファルトの上を歩く影は俺しかいない。
振り返るまいと思ったのに、俺は沙織の部屋を見返してしまった。

「………」
想いの残滓を振り払うように、携帯電話の通話ボタンを押す。
「……叶鳴、頼みたいことがある」
『いつものように命令するのではなくて?』
「沙織を傷つけてしまった」
『今更でしょう』
「彼女の両親を壊してしまった……」
俺の告白に、叶鳴は暫し言葉を失っていた。
「沙織から俺の記憶を消した。フォローを頼む。恋人の事を覚えてないのは、不自然だろ?」
『記憶を消してどうするのです?』
「プラハに行く。……戻ってくるさ、必ず」
『勝手な人』
今度は俺が言葉を失う番だった。
『貴方を忘れることを沙織さんは望んだのでしょうか?』
ああ、まったくその通りだ。
沙織の記憶を消したのは俺の身勝手ささ。そうでもしなければ、俺は自分を許せなかったってのもある。
「……もしかして、沙織が俺のコト好きなのって結構、みんな知っていた事なのかな」
ホント、俺は大事な事を見落としてばっかりだ。
『ちょうど凜もここに居ます。何か言葉をかけてやってください』
「ああ…」

(それでも、最初から狂っていたとしても、狂った羅針盤で進むしかないんだ……)

それで俺は日本に全てを置いてきた。
また孤独になって、ボクは異国の地を踏みしめる。
ボクが生きて帰ったら……また出逢おう。
今度はボクが、沙織に好きになってもらえるよう……
頑張るから。



「……ッハ!」
太股に焼きごてを当てられたような痛みを感じ、ボクは目を覚ました。
「おはようございます、御主人さま」
暖炉の火が銀色の髪に反射してボクを照らした。
「……状況が、よく飲み込めないが」
痛みを感じる太股は、しかし適切な治療をされていた。
「私は前の御主人様の御命令に従い、蓄音機に残された命令が完遂されなかった場合
 秘密を知った者と、ここにある花畑を全て葬るという使命を果たす途中でした。
 そこで貴方様を新たなる御主人と認めました」
「待て、年齢が合わない。お前が柳征が存命の頃に生まれているとは思えない」
銀髪のメイドはリィルと同じか、あるいはそれよりも幼く見えた。
まあ大まかに俺と同年代といってもいいだろう。
「世代を重ねてきましたので。使命も、母より受け継ぎました。
 この龍咲館の防人は使命を完璧にこなせなくなる前に、適当なつがいを見繕い子を作ります。
 その子に己の全ての技術と使命を教え込むのです。私も母より戦う術や花について学びました」
「なるほど」
プラチナブロンドに藍色の目、もしかしたらこのメイドとリィルは異母姉妹なのかも知れない。
「ボクが新たな御主人になったからには、その使命は必要ない」
「わかりました」
「子を産むならボクの子にしろ」
「はい」
メイド服を脱ぎ始めるメイドを静止する。別に今じゃない!

「喉が渇いたな、その水をくれ。口移しでな」
「はい」
甘い水を飲み干しながら、大分まわるようになった頭で、彼女に尋ねた。
「花についてだが……いや、その前に名前を聞かせてくれ」
「ラーンという名を受け継いでおります」
「ラーン……名字は?」
「必要ありません」
「これから必要になるかも知れない。この館から取るか」
お命じのままに……とラーンは頭を下げた。
「花が栽培されている場所は四つだったな。ここと……日本以外の二つの場所は分かるか?」
「はい。グリーンランドの獅堂館、トルコの鳳凰寺となります」
ここから方向真逆じゃないか。面倒くせぇ……
「私のように二つの館にはブリジットとアウラという防人がいます」
「ラーンのように美人?」
「そこまでは……」
柳征の美的感覚と、遺伝子に期待したいところだ。
やる気、ちょっと出てきたかな。
「ラーン、ボクについてきて貰うぞ」
「お心のままに……」
新たなる下僕を従え、ボクは異邦の地を発つ。
ふらつきながら、バランスをとって
それでも進むしかできないのだから。




<幕>


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