第二期オバマ政権の米国は第一期とは違う。1月21日に行われた就任演説は大統領自らの信念を披歴したものだった。「我々は自由をみな同じように定義する必要も、同じ幸福への道をたどる必要もない」と述べ、史上初めて同性愛者の権利拡大に触れて、「リベラルな米国像」を打ち出したのである。選挙戦も同性愛者が走った。そして、この式典での詩の朗読もキューバ移民出身の同性愛者の男性詩人であった。
再選を気にする必要のない第二期5年の開幕である。オバマ大統領は、自らの原点であるリベラルな政策を進めようとしている。第二期政権人事は「純化人事」(春名幹男 早大・明大客員教授)となるだろう。自論を実現したいための人事である。第一期政権はリンカーン大統領の閣僚のように「ライバルのチーム」と呼ばれた。選挙戦を激しく戦ったクリントン国務長官、ブッシュ政権から引き継いだゲーツ国防長官ら好敵手を入閣させたのだ。第二期政権は対照的に「心配される類似性」(「ワシントン・ポスト」1月11日付)が特徴となるかもしれない。
オバマ大統領の原点は、内政におけるリベラルと外交における対話路線である。第二期政権の国家安全保障チーム(国務、国防、CIA長官)の陣容が明らかになった。「世界各地への軍事介入に対して懐疑的な見方で一致」(「インターナショナルヘラルドトリビューン」紙1月10日付)しており、「外国に米兵の足跡をあまり残さない」方針で一致しているという。
オバマ大統領は、ジョン・ケリー上院議員を国務長官に、チャック・ヘーゲル元上院議員(共和党)を国防長官に、そしてジョン・ブレナン大統領補佐官をCIA長官に指名した。1月29日に米国上院はジョン・ケリー氏の国務長官人事を承認したが、ヘーゲル、ブレナン両氏の起用については米議会でも批判があり難航するだろう。
今後米国は、孤立主義(モンロー主義)に傾斜していくのではとの懸念が付きまとう。要因は人事以外にもある。まず、政府の歳出削減は待ったなしなのだ。累積債務残高が法定上限(14兆2940億ドル)を2011年5月16日に超え、同年8月に財政管理法が成立。9000億ドル程度の財政削減実施を決定するとともに、1.5兆ドル程度の追加財政赤字削減の手法を2012年内に決定することになっていた。追加財政赤字をめぐる協議が合意に至らなければ、あらかじめ用意された1.2兆ドルの赤字削減策が自動的に発行されることとなる。削減手法決定期限を引き延ばしているが、いまだ合意に至っていない。強制的歳出削減の実施となれば、結果として世界との関わりも縮小する。
さらに、エネルギーの中東依存度を劇的に減らす「シュールガス革命」がある。米国ノースダコタ州ウェリントン市に全米、世界中から人と金が集まる様子は、かつての「ゴールドラッシュ」を彷彿とさせるという。シェールオイルガスというエネルギーが掘り出されているのだ。その埋蔵量はわかっているだけでも、現在の消費水準ならば100年分以上あるという。米国製造業の競争力を回復させるとともに、一方で中東への関与が減りつつある。その空白を中国とロシアが埋めようとしているのだ。
米国国家情報会議(NIC 大統領のための中長期的分析を行う機関)が昨年12月10日、「グローバル・トレンド2030」を公表し、話題となった。その内容は、米国が圧倒的な力を誇った時代が終わる一方で、中国も成長が穏やかになり世界に覇権国家はなくなる。そして日本は人口減が響き、衰退が続く、などの予測が記されている。
宮家邦彦(立命館大学客員教授、第一次安倍内閣で首相公邸連絡調整官を務めた)氏は日本にかかわる記述に、見過ごすことができない内容があると指摘する。それは東アジアの不安定性に言及した部分であり、「アジアでの通常でない形の第二次大戦後処理により、歴史問題に関する不満が深刻化しつつある」「米国が孤立主義や経済力衰退で同盟国への関与を弱めた場合は、核武装に踏み切る国が出る恐れがある」と記されているのだ。BBC(英国放送協会)の記者から「通常ではない形の戦後処理」に関連する質問をされたので、強く反論したという。(産経新聞1月10日付)
欧州の戦後処理は通常だが、東アジは通常ではないというのか。それは大きな間違い。独仏和解はソ連を念頭に置いた民主国家同士の智慧であるが、日中は相互に体制が異なる。独仏と同列に扱うのは間違っている。ドイツはホロコーストを謝罪したが、植民地や戦争にお詫びの気持ちを表明したのは日本だけ。フランスはアルジェリア植民地化を謝罪したのか、などなど。BBC記者は何も答えられなかったという。
第二期オバマ政権の対日外交はどうなるだろうか。ケリー国務長官は上院議員5回当選のベテランで外交委員長として中国などとの交渉経験も豊富な人物として有名だ。しかし、予想されるスタッフに日本専門家は見当たらない。第二期政権から在日米大使館勤務経験があるガイトナー財務長官は去り、イアン・キャンベル国務次官補も去るといわれている。
安倍晋三首相の所信表明演説(1月28日)の中に示された一つの覚悟がある。
「芦田元総理は、戦後の焼け野原の中で、『将来はどうなるだろうか』と思い悩む青年たちを諭してこう言いました。『どうなるだろうか』と他人に問いかけるのではなく、『我々自身の手によって運命を開拓するほかに道はない』」、と。
同盟関係の今後は、わが国自ら拓くのである。